セシルのぶち切れ日記。

大分日にちがあいてしまったかのように思える、が、そんなことは気にしない。
最近、リヒタルゼンの街中が騒がしい。時折降る雪を窓辺から眺めながら、外の喧騒へと耳を傾ける。
すると横にマーガレッタがやってきた。

「あら、セシルちゃん。何か面白いものでも見える?」

いつもの条件反射でとっさに身構えてマーガレッタと対峙する形をとる。
油断してたら後ろから抱きつかれて、あーんなとこやこーんなとこまで触られてしまうのだ。
しかし、今日はそうじゃなかった。
先ほどまで私が占領していた窓から身を乗り出し、はぁっとため息を吐き出していたのだった。

「ふふ、私っていつも貴女の事を弄んでるものね。警戒されてもしょうがないわ。」
「・・・どうしたの?マーガレッタ。何か悩み事?」

どうやら襲ってこないらしい。
なので、マーガレッタと肩を並べて、冬空を眺めることにした。

「この寒い冬空に向かって息を吐いても、私たちの息は白く濁ることはないでしょ?」
「そういえば、そうね。でも、それがお悩み?」
「あら、十分な悩みよ。こういう日常の他愛もない部分で私たちは、人間と違うのだと再認識させられてしまうもの。」

そのマーガレッタの言葉に驚いた。
私たちが今の姿になってからそんなことを考える暇などなかった。様々な戦いがあり、様々なことが起きたのだから。
そんな中で私は、人間と違うということなんて気にも留めなかった。今まで人間だったのに。
しかしマーガレッタのこの悩みは、今までごく当たり前だと思っていたことを全て、否定してしまったのだった。

「・・・ごめんなさい、湿っぽくしちゃったわね。」
「ん・・・、いいよ、別に。」

二人並んで、窓からリヒタルゼンの街を見下ろす。
遠くに見える住宅街、雪で遊ぶ子供たち。その全てが懐かしく思えた。
彼女との付き合いも長いが、こうしてしんみり語るなんて珍しいこともあるもんだなぁと思う。

「それにしても、リヒタルゼンの街中もずいぶんと賑やかになったわね。」
「・・・あ!そういえばもうちょいでクリスマスじゃん!」
「・・・今頃思い出したの?」
「む、悪かったわねっ。私は信心深いわけじゃないし、どっかの宗教の聖誕祭だか復活祭だかに興味ないんだからねっ!」
「ふふ、そうね。私たちには関係のないことだわ。でも、クリスマスパーティーは今年もあるわよ?」

クリスマスパーティー!
この単語はまさしくDead or Aliveな単語である。
例年研究所をあげて盛大なパーティをやるんだけど、盛大すぎて時折・・・いや、大抵凄まじい事になる。
三年前なんて特にひどかった。もう目も当てられたもんじゃない。
そのときはまだ研究所の存在が公にされていない頃で、冒険者たちが来ることも滅多になかったので結構ドでかくやったんだけど―

「メリー!クリスマース!」

チンッと各々のグラスを鳴らし、その中に入っている飲み物を飲み干す。
今日は待ちに待ったクリスマスイヴ。翌日の25日まで延々と飲んで食べて騒いでを繰り返すためだけの日。
この日ばかりは研究所の扉をぜーんぶ打ち付けて、外から開けられないようにしてやった。
普段は雑然としている所内も綺麗に飾り付けをして、1〜3Fまでの全部の階層でド派手なパーティーを繰り広げた。
まぁ私は大体3Fにいるんだけど、パーティだから結構入り乱れてギャーギャー騒いでる。
いっつもマスクを被っててどんな顔かもわからないリムーバーも、マスクを脱いでどこからか仕入れてきた余所行きの服を着ていたりする。
中身はとても若い女の子から歳を召したおじいさんまで様々だけど、日ごろ付き合いがないからこういう場はとても新鮮なのが嬉しい。
ジェミニはジェミニで途中でエスケープして二人でイチャイチャしてるらしいし、本当に好き勝手やってる。
2Fの片隅に座り、グラスの中のシャンパンをクイっと飲み干すと、計ったようにお代わりを持ったエレメスがやってきた。

「あれ、一人でござるか?セシル殿。」
「何言ってんのよ、周りにたくさんいるでしょ。」
「それはそうでござるが・・・話の輪に加わったらどうでござるか?」

私は少しイラッときたので、少々乱暴にグラスを受け取る。
そして受け取った中身を再び一気に飲み干した。

「結構、見てるだけで楽しいものなのよ。」
「少しわかる気がするでござるよww」
「ふーん?でもアンタ、さっきトリスが知らない男と一緒に下に降りていくのを見たけど・・・いいの?」
「よくはござらん!それだけは断固拒否、断然阻止でござる!」

そうしてぴゅーっと持ち前の早足でトリスの捜索へと向かった。トリスゥゥゥゥゥゥ!って恥ずかしい叫び声をあげながら。
そうやって厄介払いをした後、何かつまもうと腰を上げた。
テーブルのところまでやってきて、ちょうど残り一つになっていた七面鳥へと手を伸ばす。

「やっぱりクリスマスって言ったらこれよねー♪いっただきまー・・・。」

いざ食べようと口を開けた瞬間である、いつの間にか目の前にカトリーヌがいて、私とテーブルを交互に眺めていた。
そうして空のお皿と私の顔の間を三往復した後、私の顔をじぃーーーーっと見つめ始めた。
構わず食べようとすると―

「・・・あ・・・。」

食べるのをやめるとなぜかほっと胸を下ろして、再び私をジーーッと見てくる。
もう一度口へと運ぶ。

「・・・あ・・・。」

口から離す。
またジーーッと見つめてくる。
試しに七面鳥を右手から左手に投げて渡す。
すると七面鳥を追いかけるようにカトリーヌの顔も右から左へ。
左から右に渡すと、カトリーヌも左から右へ。

「・・・面白い・・・っ♪」

ひょいひょいひょい・・・
くりん、くりん、くりん・・・
5分ほどカトリーヌの反応を見て楽しんだ後、口に運んでかぶっと噛み付いてみると。

「・・・あっ・・・。」
「あれ、カトリーヌ、七面鳥ほしかったの〜?」

と、少し意地悪く言ってみた。すると・・・
なんとカトリーヌが身体をわなわなと震わせて、俯いちゃった!しかも手はしっかりとグーの構えだし!
これはヤバイ、これはクリスマスパーティがバイオレンスなマジックパーティーに様変わりしてしまう―!
どどどど、どうしようとあたふたしてると、ちょうどいいところにカヴァクがラウレルと一緒に談笑していたのを見つけた。

「ちょっと、カヴァクとラウレル!後をお願い!」

といって七面鳥をラウレルに渡す。いや、託す。これは私の手には重すぎた!
そのままそのテーブルを後にして、3Fに逃げ込んだ。
下からぎゃー!とかうわー!とか叫び声が聞こえたけど、聞かなかったことにした。うん。

3Fに上ってくると、2Fにいなかったメンツが全員勢ぞろいしていた。
なんかマーガレッタは酔った振りしてイレンドの服脱がして女装させてた。
そんな中、珍しく商人&剣士の兄妹が、4人揃って会話していた。
どうやら兄二人に程よくお酒が回って、話が盛り上がってるらしい。
面白そうなので混ざってみることにした。すると早速出来上がってる男二人が絡んできた。

「おー!セシルじゃねーか!」
「セシル、楽しんでいるか?このクリスマスパーティを!」
「結構楽しんでるわ。リムーバーの中身とかが新鮮で驚き。」
「そうよねぇ、リムーバーの中身なんて普段見ないもんねー。セシル姉ちゃんは、お酒飲んでるの?」

飲んでるわよと、グラスを逆さまにしてアルマイヤにアピールをする。
するとアルマイヤがちょいちょいと手招きをして、耳打ちをしてきた。

「ね、知ってる?セニアって結構酔い方がヤバイの。」
「えっ、マジ?どんな感じ?」
「・・・酔わせてみようか♪」
「えーっ!?ヤバイんじゃないのー!?」
「しーっ!声が大きいってば!大丈夫よ、あの子『超』がつくほどの下戸だから、ね♪」
「いや、『ね♪』じゃないでしょうよ・・・。」
「だーいじょぶ、シャンパングラス一杯で酔うから!結構面白いことになるわよー♪」

ダメだ、途中から会話が成り立っていなかった。
アルマイヤにも軽くアルコールが入ってると思っていいと思う。
そうして意気揚々とシャンパングラスにシャンパンを入れて、アルマイヤはセニアの元へと歩み寄っていった。
(以下、実況をお楽しみください。)

アルマイヤがセニアにグラスを渡す。
しかし、セニアはグラスに口をつけようとしない!
なんとアルマイヤは自ら口にして平気だというアピールだ!
しかしまだ口をつけない!これは鉄壁だ!あのロングスカートは伊達じゃない!
ここでなぁんと!アルマイヤ必殺の『まぁまぁ、くいっといっちゃいなさい、ただのサイダーよ♪』が発動したー!
おおっとセニア選手、口をつけてグラスの中の炭酸を飲み始めたー!
なななな、なんとー!セニア選手飲み干す前にダウーーンッッ!
アルマイヤ選手、してやったりという風に堂々と凱旋だー!!

「って、弱っっ!!」
「ほらー、セニアすっごい下戸でしょ?」
「ちょっと・・・セニア大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫・・・ほら、もう少しでゾンビのように起き上がるわ。」

すると本当にゾンビのようにゆらりと起き上がって・・・その顔を上げた。
その顔その姿、ま さ に 酒 乱 !

「うわ・・・めっちゃ目座ってる・・・。」
「これからが面白いわよー。今からセイレンに絡みに行くから♪」

すると回れ右して、本当にセイレンに絡みに行くセニア。
なんと豪快にセイレンの首根っこを掴み、襟を掴んでそのクビをがくがくと揺らし始めた。

「聞〜い〜て〜ま〜す〜か〜!?兄上ー!」
「セ、セニア!?」
「私は、私は!毎日こーんなにも修行をしているのに!何で転職できないのれすか!?!?」
「いや、そんなことを言われても・・・。」

なんとセニアがセイレンにマウントを取りつつ、本気で絡んでいた。
すると横からハワードが。

「はっはっは、セイレンはノビが好きだからな!剣士になっちゃったら興味がないんだろ!」
「・・・あーにーうーえー!!わらし(私)というものがありながらっ!純真無垢なのーびすに萌えるとはどういうことれすかっ!?!?!」

さらにがくがくとセイレンの首を激しく揺さぶるセニア。
セニア、いつの間に「萌える」だなんて言葉を仕入れてきたんだろ・・・。いや、それ以前にセイレン、口から泡吹いて白目向いてるし。
ヤバイ、これはヤバイ。
・・・この状況を引き起こした張本人はソファの上で寝息かいてるし!
唯一素面の私が止めるしかない、やるしか!そんなときだった。

「うふふふふ・・・隙ありぃぃぃぃ♪」
「って、マーガレッ・・・キャーッ!?」

なんとマーガレッタにマウントをとられてる私。あれ、何か凄いデジャヴ。

「セニアちゃん、つーかまーえた♪」
「・・・ハァィ、マーガレッタ。楽しんでる?」
「もう最高♪でもこれからもっと楽しくなる予定よ・・・♪」
「え、ちょ、い、イヤァァァァァ!?」

それから先は言うまでもなく。
セニアは終いにゃ剣振り回して暴れだすし、マーガレッタは・・・もう何も言いたくない。
このときのパーティーの終わりは、食べ物を山ほど抱えたカトリーヌが3Fに戻ってきたときに「・・・戦場?」と称したほどである。


「・・・思い出して損した・・・。」
「あらまぁ。きっと3年前のパーティーのことね♪」
「って、何で判るのよ、マーガレッタ。」
「一番楽しかったパーティーですもの、ね♪」
「『ね♪』じゃないでしょ!ひどい目にあったんだからっ!」

私が当り散らすとそれを受け流し、マーガレッタは再び外へと視線を戻した。
その長い髪を北風に揺らしながら静かに降る雪を見つめる。

「・・・そろそろ、閉めましょう?身体が冷えるわ。」
「そうね、そろそろ戻らないと、セイレンにどやされちゃう。」

パタン、と窓を閉める。楽しかった思い出はしばしのお預け。
もうちょっとだけ頑張ってみようかなと思って、一つ伸びをして気合を入れなおす。
すると。

「・・・セシルちゃん、寒ーい♪」
「って、油断した先にこれぇぇぇぇぇ!?」

・・・私の油断を引き出すためにあんな話をしたのだろうか。
そうだとしたら、マーガレッタはなんと策士なのだろうか。
まったく、敵わないなと思った。



   ∧ ∧
   ( ・ω・)     どうも、今回は短いスパンで書いてみました。
  _| ⊃/(___前回は重くなってしまったので、ライトに楽しめるものを書いてみました。
/ └-(____/もしかするとクリスマスにもう一度書くかもしれません。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 性格が違う!とかはご愛嬌で。気合があったら書きます。
            グリード!グリード!と叫んでも無駄ですよ!
            今回は置き逃げです。では ノシ
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