「リース!」

 名前を呼ばれたので振り向くと、そこにはセシルが立っていた。手に弓を持って。

「どうしました?セシルさん?」

 リースの問いにセシルは噛み付くように言った。

「次は私と勝負しなさい!」

「…はい?…突然どうしたんですか?」

 リースの問いももっともだ。ついさっきハワードとの模擬線を終わらせたばかりなのだ。

「…あなたは危険だわ。」

 さっきまでの強い調子とは打って変わって、セシルの声は小さく、細くなった。

「あんたのその強さ。身近に置いておくには危険すぎる。…でも、一度認めておいていきなり追い出すのも嫌だし…」

 そこでセシルは一旦言葉を切った。大きく息を吸う。

「私と勝負しなさい!そして!私が勝ったらここから出て行きなさい!」

「お、おいおい。セシルそれは…」

「…ハワード」

 ハワードの制止はカトリ−ヌによって遮られた。ハワードは目を丸くする。

「おいおいカトリ。いいのかよ?あいつはカトリ、お前を好いてここに来たんだろう。お前だってそう嫌ってはいないだろう?」

 ハワードの言葉に、カトリーヌはゆっくり首を横に振った。

「…でも…セシルの、言いたいことも…分かる…」

「そりゃあ、それはそうだが…」

 確かにハワードも、セシルの言ったことは感じた事は事実だ。それほどに、リースの強さは異常だった。

「それに…今ここで止めたら…セシルはずっと…リースに気を許すことが…でき…ない、と思う」

「そうか…そうかもな。」

 そこで今まで黙っていたリースが声を上げた。

「分かりました。受けさせていただきます。…だけど」

「…何よ?」

 リースが語尾を濁らせたのを不審に思ったセシルが問いを返した。

「…もし。もし、僕が勝ったらどうなるんですか?」

 ある意味当たり前の問いなのだが、そんな事態は想定すらしていなかったのだろう、セシルは言葉に詰まった。

「…そ、その時は。その時は認めるわよ!あんたが居たいだけここにいればいいじゃない!」

「それじゃあ困るんですよ。」

 間髪入れずに放たれた言葉に、セシルは、否。その場にいる全員が驚いた。認められるのが困るというのはどういうことだろう。認めてもらえるならそれで一件落着ではないか、と。

「認めてもらうだけじゃ駄目なんです。『認めてもらう』のと『信じてもらう』のは、似てるけど違う。僕は皆さんに『信じて』もらいたいんです。」

 口調は静かだが、思いが詰まった言葉だった。その熱意に押され、ほんの数秒、沈黙が場を支配する。

 その空気を破ったのは、なんとも能天気な声音だった。

「あっはっはっは!『信じて欲しい』で、ござるか。久々に聞いた言葉でござるなぁ。いやはや、拙者には、リース殿の熱い思いは伝わったでござるよ。皆はどうでござるかな?」

 エレメスは首を回し、全員の顔を見た。

 セニア、イレンド、カヴァク、ラウレル、アルマイア、トリス、セイレン、マーガレッタ、ハワード、カトリーヌ。皆、返事は同じだった。小さく、首を縦に振る。

 そして、最後に。セシル。

「して、セシル殿はどうでござるかな?」

 軽い感じのニヤニヤ笑いを貼り付けながら、セシルに問うた。セシルは「ぐっ」っと呻き声をもらし、顔を真っ赤にしながら怒鳴った。

「わかったわよ!信じればいいんでしょう!?いいじゃない、信じてやろうじゃないの!私に勝ったらね!ほら始めるわよ早くこっちきなさい!」

 早口でまくしたてながらズンズンと広間の中央に歩いていく様子を横目に見ながら、リースはエレメスを見た。目が合う。相変わらずのニヤニヤ笑いを浮かべたエレメスに大きく頭を下げてから、リースは、セシルのいる、広間の中心に歩を進めた。
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