拝啓
寒さも深まってきた今日この頃。いるのかどうか分からないお父様、天国に逝っちゃったかもしれないお母様。いかがお過ごしでしょうか。
わたくしことヒュッケバイン=トリスは今人生最大のピンチに陥ってます。
や、ピンチってのは言葉の綾……というか命の危険だとかそういうピンチではないのです。
じゃあ何がピンチなのかというと、その、まぁ、なんというか。
目が覚めたら見知った男の子がアタシの部屋でコーヒー飲んでました。
……しかも半裸で。
…………ついでにアタシは素っ裸でシーツにくるまっており。
「あ、おはよう。トリス」
と爽やか〜に朝の挨拶をかましてくれたのはご存知女の子より女の子らしいイレンド=エベシ。
……なんだけど、妙に声が低い。いや、それ以上に顔立ちが違ってる。女顔だけれど精悍っていうか、美青年。しかもアタシより細いんじゃないって思ってた身体も、少なく見積もって二回りは大きくなってる。
「え? あれ? なんで?」
ハイ、ワタシ混乱シテマス。
だってそうじゃない? 朝起きたら見るからにゴニョゴニョした後みたいなシチュエーションなのよ? ……って違う。それ以前になんでコイツはアタシが知ってるコイツより10歳は大人になってるワケ?
「まだ寝ぼけてるの? ホントにトリスは朝に弱いよね」
しょうがないなぁって感じですごく優しくクスッと笑って、カップ片手にアタシの隣に腰を下ろしたりしやがるんですよ、この男は。
まあ、アンタを基準にすれば誰だって朝に弱いんですけどね?
アタシの朝起きは二階のメンバーの中ではちょうど真ん中ぐらい。朝の稽古で早起きなのがセニア、礼拝や朝食作りで忙しいコイツがダントツで朝に強い。アタシやアルマは12人の中の平均。そしてぶっちぎりで朝起きてこないのがラウレルとカヴァク。二人でナニをしてるのやら。
……ちなみにコイツは二階のメンバーの中で一番料理が上手かったりする。もっとがんばりましょう、特にセニア。や、アタシは心に棚なんて持ってないですよ? ホントに。
とか脈絡もないこと考えてたらコイツはあろうことかアタシの髪を梳いてきたのです。そりゃあもう恋人の髪を触るように。で、今になってアタシは髪を下ろしてたってことに気づく。
なんか……否定する要素を見つけ出したいのに探せば探すほどそれっぽい証拠が出てくる出てくる。
「イレンド……アンタなんでアタシの部屋にいるわけ?」
一縷の望みを賭けて当人に質問してみる。ここで『べ、別に何も疚しいことはしていませんよ!? トリスが昨日調子悪そうだったから……それで……』って言ってくれたらなあ。
けど、現実は厳しくて。吹きすさぶ風は冷たくて。
「…………ふぅん。そんなこと言うんだ。トリスは」
あ、ヤバ。
今なんか踏んだ。めっさヤバイもの踏んだ。
「へぇ。へ〜〜え。……それに今、何? イレンド? ふぅ〜〜ん
えーーっと、その、あーー。なんだかアタシ、とってもぴんちんぐ?
ニゲロニゲロイマスグニゲロ。オンナノカンガツゲテイル。ニゲロニゲロイマスグニゲロ。
しかしその直感は間に合わず。
「これはオシオキだね」
「……何よ、それ」
「あれ? 僕の口から言っちゃっていいの? 昨日の夜あんなに『許して』って言ってたのに、本当に?」
ちょ、死刑宣告キター!?
昨日の夜って昨日の夜って昨日の夜って……ハハハ、ハハ、……ハ、ハ、ハ。
だけどアタシは気づけなかったのです。過去の惨状を告げる死刑宣告は、これから始まる未来の死刑宣告でもあったということに。
「……ねえ、一つ聞いていい?」
「何?」
「なんで手錠なんて取り出してるの?」
「手を動かせなくするためだよ」
「…………ねえ、もう一つ聞いていい?」
「何?」
「なんで足枷なんて取り出してるの?」
「足を動かせなくするためだよ」
「……………………ねえ、最後に一つ、聞いていい?」
「何?」
「それ、誰に使うつもり?」
「そんなの、決まってるじゃない?」
ああ、お父様、お母様。アタシは今日、初めて。
天使のような悪魔の笑顔を垣間見ることができました。
ちょっ、まっ、顔、ちかっ……んむっ……んっ、んっ、な、なんでコイツ、こんな自信たっぷ……手、動かなっ、暴れてるのにびくともしなく、あ、あ、あ”、あ”、くぁwせdrftgyふじこlp
アッー!!
――しばらくお待ちください――
頭、重い……。
体、だるい……。
「それじゃ僕は礼拝と朝食を作りに行くから、トリスもあんまり遅くならないうちに来なきゃだめだよ」
なんか……遠くで聞こえる……。
そういえば、コイツ……上手すぎで、タフすぎ……。
世界が桃色に染まる中、アタシの意識は闇に吸い込まれていったのです……。
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