彼女、セシル=ディモンは悩んでいた。
無いのだ。と言っても生理ではなくて、財布の中身でもない。
胸である。いや彼女とて仮にも人の身、胸部が無いと言う意味ではない。
年頃の女性体としての性的魅力、言うなれば乳房が無い。
乳ならばある。ただ乳房と呼ぶにはあまりにも平坦な自分の胸を、考えるだけで寂しくなる。
ただ胸が無いだけなら、男の趣味はそれぞれであろうし、特に問題とすることでもないのだろう。
だが、彼女の弟は輪をかけた巨乳好きだった。あたりかまわずおっぱいおっぱいと連呼されると呆れるよりも腹が立つ。どう考えても自分へのあてつけではないか。弟を魅了したいとは思わないが、見返してやりたいとは常々思っていた。
既に手は尽くした。詰め物、牛乳、薬、果ては怪しい動きの体操。揉めば大きくなると言われれば素直に揉み、自慰を覚えた。揉まれれば大きくなると言われたときは躊躇したが、自分で揉んでも変わらないなら効果は無いだろうと諦めた。

自分の部屋で一人嘆息する。
静かにしていると、もともと聴力のよい彼女の耳には二階の喧騒が聞こえてくる。
「どうだラウレル!この巨乳!この色!形!」
「ああ素晴らしいぜカヴァク!この世にはこんな楽園があるんだな!」
…頭痛がする。耳栓が必要だ。今すぐ。この世からすべての音が無くなればいい。
「しかしカヴァク、何をどうしたらこんなに大きくなるんだ?うちの姉貴でもこんなに無いぞ?」
嗚呼、カトリーヌを超える巨乳と。そんなものはこの世に存在しない。してはならない。そんなものを見たら間違いなく殺す。射抜く。その上で胸を抉り取って勝利の雄叫びをあげてやる。
「やはり使い込んだのではないだろうか。性的に興奮したほうが大きくなるに違いない。」
「うちの姉貴の胸だってかなりあるが、揉まれてるところなんて見たことねぇよ。」
当たり前だ。何を考えているかよくわからないカトリーヌでも、弟に見られて興奮するような趣味は無いだろう。
だが自分の弟は今聞き捨てならないことを言った。もしもこの胸が大きくなるなら魂や誇りなど悪魔に押し付けて圧死させてやる。決定だ。
「うちの姉さんも恥ずかしがってないで彼氏の一人や二人や二百人ほど作ればいいのに。」
「二百人は多いだろ!まぁセシルさんは…いや、なにも言わねぇ。俺はまだ命が惜しい。」
今の言葉でもう一つ決定した。あの二人は一回殺す。いや一回では足りない。一度に最低でも三回は殺してやる。
「おっとラウレル、そろそろこんな時間だ。そろそろ寝ないと明日がきついな」
「そうだな、もう皆寝静まってるし…巨乳は逃げない。また明日な」

最後の二人が寝てしまったら、もうこの研究所内は自分一人しか起きてはいないだろう。もしかしたらエレメスは起きているかもしれないが、こっそりと食堂に行くくらいばれやしない。
何が性的に興奮したほうが、だ。それで胸が大きくなるならいくらでもしてやろうではないか。誰かに見られたとて気にするものか。
既に彼女の理性などどこかに吹き飛んでいた。食堂の明かりをつけ、冷蔵庫へと怒気を孕んだ歩調で向かう。探すのは野菜室だ。以前に胡瓜がいいと本で読んだことがある。
今まで試すつもりなど無かったが、やってやろうではないか。指の先での感覚しか知らない自分に、どれほどの快楽を与えてくれるのか。もし大したことが無かったらそのときは貪り食ってやる。
悲壮、いや悲愴な決意を平らな胸に秘め、彼女は目当ての胡瓜を一本探し当てた。
大きさ、色、つやといい、実に見事な胡瓜だ。そして棘に触るとちくりと指に痛みがはしる。生のまま齧ればさぞや美味いだろう。

そして彼女は誰もいない食堂で独り、服を脱いだ。
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