「・・・頭痛い」
「自業自得でござるよ」
冬になれば寒くなる。それはここ、生体研究所でも変わりは無い。
生体メンバーも各自で体調管理に気をつけていたが、唯一無頓着だった彼女―――セシルのみが見事に風邪をひいた。
「うぅ・・・」
普段ならば即座に矢が飛んでいるであろうエレメスの発言にも言い返す事なく沈んでいる辺りからも具合の悪さが覗える。
「風邪の時は栄養を取って安静にしてるのが一番ですわ」
「魔法も風邪には効果が無いしな」
マーガレッタとセイレンも口には出さないがエレメスと同意見だ。同時にセシルの事を心配しているのも、ではあるが。
「それでも何とかしてぇ・・・」
弱ってはいても彼女の我侭はそうは変わらないらしい。しかし風邪が相手では誰にもどうしようにも―――
「アマツに伝わる民間療法でよければ一つあるのでござるが」
民間療法・・・つまりは気休め程度ではあるが、なにやらエレメスには腹案があるようだ。
「この際何でも良いわよ・・・」
「うむぅ・・・」
珍しい事に、意見を出しておいてエレメスはあまり乗り気では無い様だが。
「ま、どんな事でもやらないよりはマシなんじゃないのか?」
「そうよぅ・・・」
セイレンの賛同も得たセシルにの言葉を受け、軽い嘆息をしてから語りだした。
「まず、ネギをでござるな」
「うん」
「ケツに刺す」
「・・・いや、そうゆうのはちょっと」
真顔でそんな事を言い出したエレメスに軽く引きながら返事をしかけた時、
「うふ」
「・・・マーガレッタ?」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
眼を輝かせながらマーガレッタが凄まじい笑みを浮かべた。
「エレメス、今回は5ポイントあげるわ」
「何のポイント!?と言うかなんでネギを持ってるの!?」
「どんな事でもやらないよりはマシですわよ」
先ほどまであれだけ弱っていたのが嘘のように逃げ回るセシルと、それを追いかけるマーガレッタ。そしてその様子を見ながら大きな溜息を吐きエレメスとセイレンはセシルの部屋を出た。
「ちょ、ちょっと二人ともなんで外に出るのよ!」
「二人ともセシルちゃんに気を使ってくれてるんでしょ」
「気を使うなら助けてぇぇぇぇぇ!!」



「・・・それで、本当に効くのか?あれ」
廊下に出た後、納得のいかない表情で聞くセイレンに対し
「さあな」
にべもなく即答する。
「さあなってお前・・・」
「適度な運動をして汗でもかけば治りもよくなるだろ」
時折セシルの叫びが聞こえるが、聞き流しつつ会話を続ける。それでも気にする素振りを見せるセイレンに軽く肩を竦めながら気休めを言う。
「ま、適当な所で止めるさ。あまりやりすぎると後が怖い」
「・・・確かに、それにああなったマーガレッタを止められるのはお前くらい「ネギはいやあああああああああああああ!!!!」
事情を知らない人間には何の事だかさっぱり解らないセシルの断末魔に遮られ――――
「帰って寝るか」
「そうでござるな」
――――人はそれを現実逃避と言う。






〜〜後日〜〜
「・・・頭痛い」
「看病してて風邪がうつるとか、ベタすぎてツッコム気も起きないでござるよ」
流石のセイレンも呆れたのか、今回は見舞いにも来ない。
尤も、看病しているエレメスですら軽い頭痛を覚えるのだが。
「こんな状況でも突っ込むだなんて元気ですわね・・・」
「・・・頬を染めるな」
頭を抱えながらどうしようかと思案していると
「マーガレッタも風邪ひいたんだってー?大変ねー」
すっかり元気になったセシルがドアを開けた。
「・・・あの、セシルちゃん。その矢筒に入ったネギは一体」
「とーーっても効果あるみたいよ、ネギって」
「で、でもエレメスが看病してくれているし」
「ふふ、どんな事でもやらないよりはマシよー?」
ベッドへと歩き寄りながら素晴らしい笑顔を見せるセシルに、更に酷い頭痛を覚えたエレメスは
「セシル殿」
「なによー」
目には目を 歯には歯を
「・・・程々にしとくでござるよ」
なんか色々と諦めた。
「ちょ、ちょっとエレメス!なんで出て行くのよ!!」
「きっと気を使ってくれてるのよ」
「ネ、ネギはいやあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
なんとなくどこかで聞いた覚えがあるやり取りを背に自室へと歩き出した彼は、数日後二人掛かりでネギを突き刺される事をまだ知らない。
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