生体研究所の2F、北東に位置する暗い場所
囚人用の狭い個室に汚いベット
それが数少ない安らげる場所
いつもいつも掃除じゃ疲れるんだ。たまにはこうやってサボって気抜かないとな。
そう、いつものようにこっそりこの人気ない暗がりに来たが、今日はついてない。先客が居たようだ。

「・・・・・・・・・・・・・誰?」
ポニーテールがふわっと動く。愛用の短剣を握り締めた少女が居た。
「・・・・・・・・・・・なんだ、リムーバかぁ・・・」
何を期待してたのか?俺が来ちゃいかんのか?そういう気分。
「こんなとこ掃除しても仕方ないでしょ?持ち場帰りなさいよ」
いや、掃除しにきたんじゃない。サボりにきたの。
「何首振って。もしかしてサボり?」
まさにそれです。勘がいいね。
「まぁ、あんたなら喋らないしいっか」
何が?
「ねぇ、愚痴っていい?」
悩みがあったんですか。とてもそうは思えなかったのに。って失礼かな。どうぞ愚痴って下さい。
「私さー、たぶんみんなの足手まといだよね」
いや、そんなことないと思うよ。むっちゃ足速いし。
「私の取柄って逃げ足の速さと手癖の悪さくらいしかないや」
よくわからないけど、二個も取柄あるならいいじゃないか。俺は・・・死なないくらい?
「兄貴がさ、『自分の長所を生かし、他人の短所を埋める。兵法の基本』とか言ってたんだ」
よくとろけた脳みそじゃイマイチ理解できないから頭振っておこう。
「私の長所ってきっと誰の為にもならないと思うんだ」
いつの間にか狭く暗い部屋の隅で小さくなってる俺。何やってんだ。
「ごめんね、忘れていいから」
笑顔なのに、嬉しそうじゃない。なんか嫌だった。
一生懸命首を横に振り、元気な振りをする少女の頭を撫でてみた。
「ありがとう」

その時、遠くから聞こえた金属と金属がぶつかる音
「何!?また戦闘?」
ここのところ争いが絶えない。またも無礼な来訪者がやってきた様子。
「みんな・・・急がなきゃ!」
少女は幸運を呼ぶと言う短剣を握り締め立ち去った。
俺は。
行くだけ邪魔になるだけなんだよな。
『私さー、たぶんみんなの足手まといだよね』
そう言いながら、戦場にいる仲間の元に走る子を見て、ここに居ていいのか?
俺も。
鈍重な足で戦場に向うことにした。
たとえ足手まといであろうが。

そこに着くのは意外と早かった。
盗族の少女と大柄の騎士が戦っていた。
手数では上を行くものの、やはり無理がある。
更に状況が悪いみたいだ。騎士の後ろには聖職者らしき姿も見える。
「はぁはぁ・・・・」
息が荒くなってるのが遠くから見てもわかる。
小さな短剣では一撃の威力が足りなかった。剣士の子や魔術士の子との連携があって、あの連撃が生きるのだろう。
俺はどうするべきか。
助けを呼びに行くか?きっと持たない。
ならば。
一つ、思い出す言葉。
『自分の長所を生かし、他人の短所を埋める。兵法の基本』

「止めだっ!」
騎士の放つ強力な一撃。俺も使う。バッシュだ。
当たれば終わりだ。常人ならば。
「!!」
「何っ?」
「リムーバ!?」
俺は咄嗟に前に出た。騎士も、聖職者も、そして疲労で今にも倒れそうな盗族の少女も外野に気がつかなかったのか表情が固まってた。
それが俺の最期に見た景色。

思いきり振り下ろされた刃が脳天から腰のあたりまで食い込んでるようだ。
でもいいんだ。これが俺なりのやり方。
倒す力もない、掻き回わすスピードも、神の加護も魔術の知識もない。
だけどな、俺は不死なんだ。だからリムーバと呼ばれている。
たとえバラバラにされようとも数日経てば元の身体になる。それが俺の唯一の武器。
彼女は・・・足が速い。ならば、この一瞬の間があれば十分すぎるだろう。
片手でこの身体に食い込んでる刃を掴む。握力がなくなっているかもしれない。そんなの関係ない。手にその刃を食い込ませても逃がしはしない。
追わすんじゃない。逃がさないんだ。
俺は信じてるから。
もう片手で正面を指差す。恐らく、そこに居るはずだから。
倒すべき騎士が。
そして逃げるなんて絶対しないだろう気の強い彼女が。
「シーフが来る!」
聖職者が叫び、共に祈りを捧げる。キリエエレイソン。
この見えない盾は小さな短剣じゃ打ち破れない。


わかってないなぁ・・・この子は・・・手癖が悪いんだ。


その場にいた皆が気付いてなかった。
なぜ、俺が手ぶらなのか。愛用の鉈は?もう、盗まれて、手元にはないんだ。
小さな身体で大きく振りかぶる、その少女の両手には俺の鉈が握り締められていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
もう見えない。視力はとうに失った。端から触覚なんて持ってない。
見えないし、感じない。
でも聞こえた。彼女の精一杯の声が。
君は、足手まといなんかじゃ、ない。すごく、強いよ。俺が、保障する。
ヒュッケバイン=トリス。君は本当に強いよ。
『いけ・・・』
彼女は思いきり、俺の鉈を振り切った。大きな金属音が響いた。
その後の記憶はない。


生体研究所の2F、北東に位置する暗い場所
囚人用の狭い個室に汚いベット
それが数少ない安らげる場所
いつもいつも掃除じゃ疲れるんだ。サボったっていいだろう。
ここなら人なんて来ないだろう・・・いや、先客が居たようだ。

「ういっす」
怪我した少女が居た。
首をかしげる俺。再生前の記憶はあまり残らないんだよ。頭壊されると特に。
「これ、ありがとう」
一本の鉈。そういえば、侵入者撃退用・・・といっても撃退できてないんだが。
・・・侵入者撃退用の鉈を紛失してたんだ。
いつの間にやらこの子に盗まれてたらしい。
「けっこうイイ声してるよね。兄貴とは違う感じ」
首をかしげる俺。
「私、もう平気。自分の居場所見つけてみせるよ」
首をかしげる俺。
「リムーバのおかげ、かな」
なにやったんだ、過去の俺。
「私、もっと強くなってみせるから。あんたと肩並べれるくらいにねっ」
あれ?死んでたから再生前も弱かったはずなのにな・・・
ガスマスク越し、頬に何かが当たった。
「ま、お礼にゃ十分って?サボりは程々にねっ」
例えるなら小悪魔みたいに笑う少女は、軽い足取りで去っていった。


ガスマスク・・・外しとけばよかったなぁ・・・とか、不死の化け物が大層なこと思いながら持ち場に帰って行く。


おわり


追記
カッコイイリムーバさん書きの人と時期被ってるんで恐縮だったりもする。
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