「なんというお名前でしょうか?」
『名乗る程の者じゃありませんよ。はいw』
赤い防護服に身を包んだリムーバは赤い服の聖職者にそう言う
日々冒険者を血に染める人とは思えない綺麗な笑顔な人だと思う。

「とても、とても興味がありましたのにフラレちゃいましたか。残念ですわw」
『茶化さないで下さい。じゃあ、作業に戻ります』
作業と言ってもただの掃除だが。
たまにはこっちも掃除してくれとエレメスさんから頼まれたのだが、正直困ってる。
3Fの人達は雲の上の人なんだ。ほんとに。
一部の3F出張経験リムーバ以外、面識もほとんどない。
あると言えば・・・
「姫に手を出したら許さぬ。断んじて許せん。万死に値する・・・」
いきなり耳元でボソっと言われた。マジでびびった。カタールは止めて。
この暗殺者さんだけは面識があるか。だからカタールが刺さってるんですって。
暗殺者の知り合いが居る清掃員は世界広くとも俺くらい・・・いや、2F勤務したことある清掃員は皆知り合いか。俺のこと暗殺しようとしてるけど。
「あらあら御免なさい、粗大ゴミくらいこちらで処分しますわ」
「姫!このような下賎なやk・・・LAはやめっ!ミギャー!!!」
『南無』
「なむ・・・あり・・・」
「それでは、ごきげんよう」
やはり笑顔の素晴らしい御方だと思う。2人とも。
なんでエレメスさんはぶっとばされてあんな素敵な笑顔ができるんだろう?不思議だ。

そういえば他のリムーバはどうしてるんだろう。
ジェミニさんは
♂「生きて帰って来いよ!俺からはそれしか言えん」
♀「もう死んでるけどね」
とか言ってた。まぁ・・・二行目に同意。
時々、悲鳴が聞こえる。半分エレメスさんっぽい声だけど。
そういう俺もスキッド踏んで後頭部打ち付けた。ついてないな。
「3Fは恐いところです。掃除してたら身包み剥されました。焼き芋残して返されました。もうお嫁に(ry」「・・・・・・おいしい・・・・・」
「いあやぁぁぁぁぁあ!俺!男なのに!男なのに!ハワードさんもうやめてやめてやm・・・もうお嫁に(ry」「たまには中の人もいいもんだな」
「壁拭いてたら反対側は修練中だったらしくBBが貫通してきました。すごく・・・痛い」「まじすまん」
「3Fは地獄でざるwwwwwwところで姫。これから小洒落たデートなんk(ガッ」「あらあら、まぁまぁ」「LAはやめて下さい」
本当に3Fは地獄だと思います。そしてエレメスさんはタフだ。

3割程・・・片付いたか。一休憩挟む。
ジェミニさんの監視がない分たらたら掃除できるのもいいもんかな。
「休憩中?お茶でもどうかしら」
『気持ちだけ、受け取っておきます』
「あらそう」
流石に、この顔は見せない方がいいと思うから。
俺はセイレンさんやエレメスさんのような美形じゃない。
マーガレッタさんやカトリーヌさんのような知的さは一切ない。
ハワードさんやセシルさんのような豪傑な血の気余りまくr
矢が刺さっても平気なリムーバなんだ。ちょっと痛てぇ。
「気にしなくても結構なのに」
『はい?』
「私は気にしませんわよ。あなたがどのようなお顔であろうとも」
『はぁ・・・』
勘違いされてる?
「それと、生前、何してた方であろうとも」
・・・勘違いは俺か。

静かすぎる。静かのは嫌いじゃない。重いのは嫌い。
『知ってたんですか?』
「なんとなく、ですわ」
俺は、生前、研究員だった。
死して尚、こうしてリムーバとしてここにいる。
恨まれているかもいれない。復讐は簡単にできるだろう。今のこの人達ならば。
『聞いてもいいでしょうか?』
「ええ」
『私達を恨んでますか?』
「いいえ」
『どうしてでしょう?私達はあなた達に・・・』
「こうして楽しい日々が送れてます」
『はぁ・・・』
「私は、感謝しています。いつもありがとう、と」
『頭を下げるのはやめて下さい』
本当に心が痛む。こんな質問をした自分をぶん殴ってやりたくなった。
「一時は恨みもしましたわよw」
『はぁ・・・』
言葉がない。いっその事、ここで復元不可能になるまでLAラリアットかまされる方がマシな気分。
「でも今は、あなたもここの一員なんです。私達の、家族ですわ」
やっぱり、この人は、聖職者なんだなって思った。

「私からも、聞いていいかしら?」
『答えられるモノならなんだって構いません』
「あなたの名前を教えてくれませんか?」
理由は知っている。知っているが、答えていいのか躊躇している。
「リムーバさん・・・・じゃ、余所余所しいでしょう?」
『はい?』
「あなただけの、あなた本人の、あなたの大切なお父様とお母様が名付けた、あなたの名前が知りたい」
知っているんだ。この人が、毎日祈りを捧げていることは。
3Fの皆、2Fの皆、一人一人名前を挙げて、今日一日の無事を祈っていることを。
過去、名乗ったリムーバの名も一人残らず覚え、毎日欠かさず祈りをあげていることも。
本人は人知れず、そっと祈りを捧げているつもりらしいけど、某暗殺者さんがバラしてた。今度思いっきりぶっ飛ばしていいと思うよ。ガチで。
・・・本当に、優しい人だと思う。
『私はただのリムーバです。名乗る程の者じゃありませんよw』
ガスマスクの中、精一杯の心からの笑顔で答える。
「そうですか。残念ですわ」
この人は、聖女のような人だと思う。
数秒後、背後にいたエレメスさんが空中を回転しながら飛んでいった気もしたが見なかったことにしよう。
思ったより豪腕でも聖女は聖女だ。

俺なんかに祈らないでいい。
どうせ俺はリムーバなんだ。
死ぬことはない。いや、もう死んでるんだ。
そんな奴に祈りを捧げる必要はない。
俺はただのリムーバでいい。
忘れられていい。俺は忘れないから。
マーガレッタ=ソリンという聖職者が居たことは。
何回死んでも、その笑顔は忘れない。
何回殺されても、その言葉は忘れない。
何回再生しても、その存在は忘れない。

赤い服を着た聖職者は笑顔を絶やさず、その場を去った。
『さぁ、掃除を再開するか』
ちょっとだけ身体が軽くなったような気がした。
先程、打ち付けた&矢で貫通した頭の傷がなくなってたの気付いたのは自室に帰った後だった。
『お礼・・・今度会えたら言っておかなきゃな』


後日2F勤務の日、エレメスさんに虐められた。俺は不死だがVD効くんだよ。
『ついでにチクっとかねば・・・』
3F勤務が待ち遠しく感じた。次は年末の大掃除かな。


終わり
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