広間の中央に二人の男が立っていた。一人は、屈強そうな体躯を持つ男で、手には大きな斧を持っている。名をハワード=アルトアイゼン。
それに対峙しているのは、相手とは対極の、華奢な体の青年だった、上級職の証であるマントを肩にかけ、手には杖を持っている。その名をリース=シールという。
二人から離れた所には3階のメンバー以外にも、2階の面々もいた。皆、固唾を飲んで二人の動向を見つめている。
ハワードはリースとの距離を慎重に測っているようだった。ジリジリと間合いを詰め、

 「・・・いくぜ!」

弾かれたようにハワードが走った。ついさっきまでとは違い、一気に間合いを詰め、手に持った斧を上段から振りかぶる。

 「・・・煉獄より来たりて我を守れ。ファイアーウォール」

突如、ハワードの目の前に炎でできた壁が現れた。このまま突っ込めば黒こげになってしまう。しかし、勝負を決めようと大きく振りかぶった斧はすでに止めることはできなくなっていた。

 「くっ!」

ハワードは斧を振る腕に力を込め、より速く振り切った。斧の先端がファイアーウォールに当たり、しかしそこで斧は地面にぶつかった。
地面にめりこんだ斧で急ブレーキをかけ、そのまま、大きく後ろに飛んだ。なんとか直撃は免れることができた。だが。

 「・・・彼の地へ踏み込んだ者へ灼熱の罰を与えよ。ファイアーピラー」

足が着く予定の場所が不自然に赤く光っている!それに気づいたときにはもう遅かった。着地した瞬間、地面から勢いよく炎が上がった。

 「ぐあああああああああああああ!」

全身から煙を出しながら、ハワードはその場に膝を突いた。これ以上の戦闘は不可能だ。

 「そこまで!・・・マガレ、頼む。」

 「はいはい。もちろんですわ。」

 二人から少し離れた場所にいた男、セイレンが声を上げた。それに応じて、セイレンよりさらに二人から離れた場所にいたマーガレッタがハワードの元へ向かう。
それに対してハワードと相対していた青年、リースの方には、それ以外のほぼ全員が集まっていた。

 「すごい!すごいですよリースさん!あのハワードさんに勝っちゃうなんて!」

 興奮からか、頬を紅潮させながら、アコライト姿の少年、イレンドが声を上げた。

 「本当です。特にあの最後のファイアーピラー。未来が見えているかのような正確さでした。」

 イレンドに相槌を打つように感想を述べたのは、剣士姿の少女、セニアだった。

 「だな。姉ちゃんの魔法の威力もスゲエと思うが、リースの魔法の使い方もスゲエ。魔法はただ当てるだけじゃねえって思い知らされるぜ。」

 「だね〜。ただただ撃ちまくるだけの誰かさんとは、全く違う戦い方だよね〜。」

 「うるせえっ!ただただ撃ちまくる戦い方で悪かったな!?」

 「そうだな、ラウレルの戦い方はマジシャンというよりアーチャーに近い。ということで俺と一緒の職だ。よかったな、ラウレル。」

 「勝手に人の職変えんじゃねええええええええ!!!」

 マジシャンの服に身を包んだ少年、ラウレルの言葉に、シーフ姿の少女、トリスが茶々を入れ、それにアーチャーの服を着た少年、カヴァクが相槌を打つ。
ラウレルが、カヴァクとトリスをソウルストライクを連射しながら追いかけるのを尻目に、今まで散々持ち上げられていたリースが口を開いた。
 「今回はちょっと運がよかっただけだよ。あのファイアーピラーも、ほとんどカンで置いたようなものだしね。そこに偶然、ハワードさんが踏み込んだ、それだけだよ。事実、あそこでハワードさんがファイアーピラーを踏まなかったら、確実に僕が負けていただろうね。」




 はしゃぐ2階の面々からは少し離れた場所、ハワードが治療を受けている場所に3階の面々は集まっていた。

 「大丈夫か?ハワード?」

 「ああ、見た目ほどひどい怪我じゃねえ。」

 「そうか。それはよかった。」

 マーガレッタのヒールを受けているハワードにセイレンは言葉をかけた。思いのほか元気な声が返ってきて、セイレンは胸をなでおろした。傍目にはかなりの重傷に見えたからだ。

 「・・・それにしても・・・やっぱりあいつ、やるわね。」

 いままで黙って治療を見ていたセシルが、後ろ側、リースを見ながら口を開いた。その口調には警戒心が露になっている。

 「そうだな。想像以上だ。まさかあれほどとは。」

 セイレンも、セシルほどではないにせよ警戒心を滲ませた声音で頷いた。

 「そうですわね。まさかハワードが負けるとは、私も思いませんでしたわ。」

 マーガレッタもセシルの言葉に賛同した。3階に来るくらいだから、それなりの実力をもっていることは明白だったが、まさかここまでとは。今まで幾度か敗北を喫したことはある。だがそれも、相性の悪い敵だったり、こちらが負傷しているときに襲われた時しかない。ベスト・コンディションに近い状態であったであろうハワードがこうもあっさり負けるということは、彼以外の全員もありえるのだ。
 彼、リースに敗北することが。
 だが、マーガレッタは「でも」と続けた。

 「彼は私達に牙を剥くことはないと思いますわ。」

 「・・・なんでそんなことわかるのよ。」

 唇を尖らせながら聞くセシルにエレメスも同意した。

 「そうでござるな。しかして姫、その心は?」

 エレメスの問いに、マーガレッタは笑顔で答えた。

 「女のカン、ですわ♪」

 一瞬の間の後、エレメスが破顔した。

 「・・・はっはっは!それはセシル殿には一生わからぬ代物でござごぼぁ!」

 「うるさい!」

 エレメスの鳩尾に力一杯肘を叩き込んでから、セシルはマーガレッタ達に背を向けた。

 「どうする気ですの?」

 マーガレッタの問いに、セシルは吼えるように答えた。

 「決まってるじゃない!あいつの化けの皮をはいでやるのよ!」
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