カヴァクは何度目かわからぬ溜息をついていた。
「ラウレル・・・」
名前を口にするだけでも、ぽっと体の奥に熱が灯る。
最初は、すぐにぶち切れる変な奴だと思っていた。
仲良くなって、一緒に馬鹿やるようになって、親友だと思って・・・恋心に気づいたのはいつだったろうか。
女物の服が嫌いだから男装していたのを今更に悔やむ。
しかし他の少女に対するラウレルの態度を見ていると、男装していたからこそ今のような近しい関係になれたのも事実。
「むー」
唸りながら自分の胸をなで回す。
姉と同じく起伏に乏しいそこは、弓手としては都合がいいが、巨乳好きのラウレルにアピールするにはあまりにも無力に思われた。
姉用と偽ってアルマイアから購入したクリームも薬も、まったく効いていなくて泣きたくなる。
「人に揉んでもらうと大きくなるって言うけど・・・」
2Fの面子はなんとなく恥ずかしくて却下。
では3F?
姉は・・・なんだか2人して悲しくなりそうなのでパス。
マーガレッタ・・・喜々としてやってくれそうだけど、そのまま行ってはいけない世界に強制連行されそうなので却下。
カトリーヌ・・・頼めばやってくれるかもだけど、ラウレルの姉にしてもらうのはちょっと抵抗がある。
セイレン・・・論外。きっとお説教されてしまう。
エレメス・・・悪くないかも?でも、暗殺者のテクでやられたら溺れてしまうかもしれないし、最後までねだってしまうかもしれない。それは嫌だ。
指を折りながら考えて、最後の1人で頷いた。
「うん、ハワードさんならいいかも。口が固そうだし、ガチホモだから私の貞操も安全だ」
そうと決まれば善は急げ。
カヴァクは勢いよく自室を飛び出して行った。

「さぁ、エレメス!今夜も燃えようぜ(はぁと)」
「いやでござる、いい加減腰が壊れるでござる!!」
ハワードの自室ではHFでピヨらせて連れ込んだエレメスとのいつもの掛け合いが繰り広げられていた。
そこに、こんこんこんこんこここんこん♪とやけにリズミカルなノックの音が響く。
「む、誰だ?」
ハワードの気が逸れた隙を逃さずクローキングするエレメス。
ハワードは、舌打ちしつつもサイトクリップをしっかり握って応対に出た。
「あの、夜分にすみません。ちょっといいですか?」
てっきりマーガレッタあたりと思っていたハワードは、カヴァクを見て驚いて尋ねた。
「こんな遅くにどうした?弓に不具合でも出たか?」
「いえ・・・あの、相談したいことがあって・・・お部屋にお邪魔してはいけませんか?」
ハワードはしばし沈黙した。
部屋にはエレメスがいる。
正直、お楽しみタイムの邪魔をされたくはない。
勿論カヴァクみたいな青い果実も悪くはないが、針鼠ならぬ矢鼠にされるのはさすがに遠慮したい。
だが、ハワードは目の前のやけに思い詰めた表情の人間を無碍に追い返すほど無情な男ではなかった。
「ま、いいぜ。入りな」
エレメスが抜け出さぬよう、カヴァクが入れるぎりぎりの隙間を開け、部屋に招き入れる。

「で、相談ってのはなんだ?」
ソファを勧め、コーヒーの準備をしながら尋ねたハワードだったが
「あの、その・・・わ、私の胸を揉んでくださいっ」
という言葉に思わずヤカンをひっくりかえした。
「あちちちちちち!」
「うわ、大丈夫ですか?」
「あー、まぁなんとか。おっと、こっち来るなよ。火傷しちまうぞ」
職業柄熱いのには耐性があるハワードである。
ざっと水で流してしまえばうっすら赤くなる程度ですむ。
「で、だ。お前さん、さっきなんて言った?」
ソファにちんまりと座ったカヴァクは真っ赤になってうつむきながら、先程の言葉を繰り返した。
「理由を聞いてもいいよな?俺がどんな男か知ってて言うんだろうな?」
『カヴァクに手を出すようなら殺すぞ?』
ひんやりと暗殺者モードな囁きを聞きながら、ハワードは膝をついてカヴァクと目を合わせた。
「知ってるから、頼むんです」
カヴァクは立ち上がり、おもむろに上着を脱ぎ出した。
「おい!?」
ハワードが焦りを滲ませた声で制止しようと立ち上がる。
足の裏には冷たい刃の感触。
「だって、私は女だから・・・」
煌々とした明かりの下かすかながら確かにその存在を主張する膨らみを認めたハワードの顎がかっくんと落ちた。

「つまり、だ。お前さんは乳を大きくするために揉んでもらいたい。で、女には興味の無い俺に白羽の矢を立てた、と」
理由を聞き終えたハワードは、こめかみを押さえて溜息をついた。
真剣に頭痛がする。
「しかしな、お前さんの容姿なら、多少胸無くても十分魅力的だと思うぞ?」
お兄さんモードに入ったハワードが諄々と諭すが、カヴァクは激しく首を振った。
「だめなんだ!こんな乳じゃ・・・っ」
「なるほど、意中の相手はラウレル殿でござるかww」
「そう、あの巨乳スキーをオトスには・・・って、エレメスさん!?」
カヴァクは突然背後から聞こえた声に飛び上がって驚いた。
そして、最初ハワードが部屋に入れるのを渋った理由を理解する。
「あ、ごめんなさい。私、お邪魔しちゃったんですね」
しゅん、とうなだれるカヴァクの頭を、エレメスは優しく撫でてやった。
「いやいや、助かったでござるwカヴァク殿は恩人でござるwww・・・が」
すっとエレメスの指がカヴァクの首筋をなぞった。
ただそれだけなのに、ぞくぞくっと背筋を奇妙な感覚が走り抜け、エレメスを候補から外した己の判断が正しいことを悟るカヴァク。
「いくらホモとはいえ、意中の人がいるのに他の男に大事な部分を弄らせるのはやめた方がいい・・・後悔するのはお前だ」
いつものおちゃらけた口調でなく、真剣な口調。
「でも!ラウレルに振り向いてもらうためにはっ」
「男を落としたいのなら、なにも外見だけで勝負することはあるまい」
ぎゅっと握った拳をエレメスが撫でた。
「お前は弓手・・・この器用な手を生かせばいい」
「手・・・」
「男の悦ばせ方なら、いくらでも教えてやるぞ?」
振り向いたカヴァクの目に映るのは、蠱惑の笑みを浮かべた暗殺者。
思わず「お願いします」と言いかけたカヴァクの口を大きくごつい掌が塞いだ。
「やめんか、ど阿呆」
「阿呆とは心外な物言いだな。ここまでして落としたがっているのだ。手助けして何が悪い」
「お前の手練なんぞ仕込んだ日にゃ『どこで覚えてきたんだ』って相手が疑心暗鬼に陥るだろーが」
「ふ、暗殺者の技を甘く見るなよ。生娘の恥じらいを演じつつ溺れさせるくらい造作もない。・・・ところで、そろそろ離してやらんとカヴァクが窒息するぞ」
「(もがもがもが)」
「おっとっと。悪い悪い」
ハワードは、ソファにへたり込んで深呼吸を繰り返すカヴァクの前に再び膝をついた。
「なぁ、カヴァク。お前さんはラウレルと寝たいだけか?」
ふるふると首を振るカヴァク。
「そうだよな。パートナーとして、末長く傍らにいたいよな」
こくこく。
「それならさ、ありのままの自分でどーんとぶつかってみた方がいいぞ?無理しても続かないだろ?」
「ありのままの自分・・・」
カヴァクは何度かこの言葉を繰り返しつぶやいて顔を上げた。
「そうですね、うじうじと小細工するより、真っ正面からぶつかる方が後悔しないですみそうです」
カヴァクがにっこりとふっ切った笑顔を見せると
「その意気だ」
ハワードは莞爾と笑ってカヴァクの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「うむ、いい笑顔でござるな」
おちゃらけモードに戻ったエレメスもにこにこと笑っている。
「じゃぁ、私は帰りますね。夜分遅くにすみませんでした」
きっちり頭を下げてドアに向かったカヴァクだが、ふと振り返った。
目の前にはこの隙に脱出しようとさりげなく移動しかけているエレメス。
チャージアロー!!
さしもの暗殺者も、至近距離からの完全な不意打ちを躱しきれずにハワードの胸に吹っ飛ばされる。
そして、もちろんがっちりしっかりホールドされてしまった。
「ちょwwカヴァク殿、ひどいでござるよwww」
「ささやかなお礼です。ハワードさん、ありがとうございました!!」
「おぉ、頑張れよ!」
お互いにぐっとサムズアップして笑みを交わし、足取りも軽やかにカヴァクは帰っていった。

翌日、カヴァクの性別を明かされたラウレルがしばし挙動不審に陥って事情を知る者たちをひやひやさせたが、やがてふてくされたような表情で、それでもカヴァクと手をつないで歩いている有様が目撃された。
その時のカヴァクの幸せそうな笑顔は、生体研究所に住まう者たちの中で長く語り種になったという。





おまけ

「さぁ!暗殺者の技とやらをじっくりたっぷり披露してもらおうじゃないか!!(wktk)」
「・・・仕方がないな。後悔するなよ?(ま、せっかくだからたっぷり精気をいただくか)」
「む?なんだその妖気・・・?」
「たっぷり楽しませてやるさ・・・安心しろ、命までは取らん」
「待て、ちょっと待て、話し合おう」
「望んだのは貴様だ。たまには襲われてみろ」

・・・翌日、げっそりとやつれたハワードと、つやつや上機嫌なエレメスがおりましたとさ。

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