「Trick or Treat?」
俺は耳を疑った。
世間はハロウィンを向かえ、プロンテラの街中では幽霊や悪魔の格好をした子供達が悪戯かお菓子をちょうだいとはしゃぎ回る姿が見られる。
だが、ここはプロンテラでも街中でもない。
リヒタルゼン生体研究所地下三階。
背後を振り返った、俺の目に入ったのは……
弓に番えた矢の切っ先を突きつけた、女スナイパー。
アイテムを回収する為、クローキングを解いて姿を現した油断を突かれた。
「Trick or Treat?」
彼女、セシル=ディモンの頭を飾るのはカボチャを模した被り物。
口元を僅かに歪め、笑みを浮かべそう告げる。
「hurry」
キリッと弓の弦が引き絞られ、耳障りな音が響く。
俺は両腕をあげて交戦する意思がない事を示し、腰にさげた袋の中を探る。
幸か不幸か、子供達にあげたキャンディが一包みだけ残っていた。
片腕をあげて頭の後ろで組んだまま、無造作にキャンディを取り出すと彼女に向けて投げてやる。
弓に番えた矢を外す刹那。
手甲と一体になった短剣カタールの切っ先を彼女の喉元に向ける。
「Make haste slowly」
勝利を確信した俺に怯えた様子も見せず、彼女は静かに微笑む。
そして……
「Trick or Treat?」
冷たい氷と風が嵐となって吹き荒れ俺の身を切り裂き文字通り氷漬けにした。
細身の身体を包むミンクのコート、華奢な指先を向けた魔女。
セシルと同じカボチャを模した被り物を被ったカトリーヌ=ケイロン。
無表情に彼女は床に落ちたキャンディの入った袋を手にとった。
キャンディを一個取り包み紙を開いてそれを口に頬張る。
カトリーヌはセシルに近づき顔を近づけ、自分の舌の上にのせたキャンディをセシルの舌へと口移しにするのであった。

――――fin

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送