薄暗い通路を足音も無く滑るように走る人影が一つ。
その顔には焦りが生じていた。
「まずいでござるな…。」
エレメスは一人呟いた。
今日の料理当番は自分だというのにまだ準備もできていない。
このままでは食事の時間に間に合わず、カトリーヌ殿に吹っ飛ばされてしまう。それだけは避けなければ。
先ほどのPTは、一人で相手をするには少々多すぎたようだ。
間引きながら戦わず仲間を呼んだほうが良かったのかもしれない。現に時間がかかりすぎてこの有様だ。

頭の中で簡単にできるメニューを考えつつ足を急がせていると、視界の端に赤い何かが映った。
侵入者だ。
この忙しい時に何故やってくるのかと小一時間石投げをしてやりたい気分だ。
幸いまだこちらに気づいていないようだ。はやいところ始末してしまおう。
背後から一撃、それで事は済む。
エレメスはクロークし侵入者との距離を縮める。
近づくにつれ相手の容姿がはっきりしてきた。
赤色のマント、肩口のパックンフラワー、すぐそばにカート、何故かコック帽をかぶっている。
(クリエイターでござるか。しかしこやつは一体何を…。)

その女は曲がり角から顔を出し、通路の様子を伺っているようだ。
しかし、妙なことに警戒しているでもなく、息を潜め奇襲を仕掛けようとしているわけでもなく、何やら騒いでいる。
「あんなに頬張って…。リスみたいでかわいいなぁ。」とか
「デザートも作っておいたほうが良かったかな?」とか
まるで猫を遠巻きに観察しているようなはしゃぎ様だ。
「ほらほらオーリィも見なさい。こんな貴重なシーン滅多に見られるもんじゃないわ。」
先ほどは気がつかなかったが、ホムンクルスがカートの中にいたようだ。
リーフタイプのホムンクルスで物憂げな表情を浮かべ、にんじんを食べていた。
鉱山ヘルメットをかぶっているのが印象に残る。
主人に頭をバシバシ殴られている。ヘルメットはそのためか。実に迷惑そうだ。

「動くな、ここで何をしている?」
エレメスはクロークしたまま背後をとると、カタールを首にあてた。
「あちゃ〜歓迎できないお客様がきちゃったな〜。」
「この場合、歓迎できない客は貴様だ。目的を言え。」
「それは秘密です。」
くすくす笑いながらそう答えた。オーリィと呼ばれたリーフも興味なさげにアロエの葉をはんでいる。
舌打ちをしながらエレメスはその女の視線を追った。
その先には、いろいろ突っ込みどころ満載なカトリーヌがいた。一言で済ませれば食事をしている。
(カトリーヌ殿…。怪しいとは思わないのでござるか?)
その辺のところはこの女を片付けてから事情を聞こう。
視線を侵入者に戻すと、相手は既にこちらに向き直りサーベルを抜刀していた。
「暗殺者が標的から意識を外すとは感心しませんね。」
そう言い放ち、袈裟掛けに斬りつけてくる。
サーベルを右のカタールで受け流しつつ、残るカタールで首筋を狙うが相手もそれを許さない。
盾でカタールを殴りつけてきた。
「それなりにやるようだが少々遅いな。」
侵入者はサーベルを腰だめに構え、猛烈な勢いで突進するがエレメスは軽くいなす。
背中ががら空きだ。まだ勢いも殺せていない。
すかさず追撃しようとするが、
「ホムンクルスバリアー!」
「ちょwwww」
あろうことか後ろを向いたままリーフをこちらに投げ放ってきた。
リーフは鉱山ヘルメットに手を添え、ライトのスイッチを入れる。
「うおっ!まぶしっ!!」
目が眩むが完全に視界が奪われたわけではない。リーフを叩き落とそうとするが、
「安息」
眼前に迫るリーフが消える。侵入者の姿もない。
「メマーナイト!」
死角に回り込み、間合いをつめていた侵入者がサーベルを振り下ろしてくる。
体を捩り、相手にカタールを突き出そうとするが間に合わない。
致命傷にはならないだろうが当たれば動きに支障が出てしまう。不利になるのは間違いなだろう。
衝撃に備える。

「セイフティウォール」
サーベルが障壁に阻まれ、辺りにお金が散らばる。侵入者が少し(´・ω・`)な表情を浮かべている。
「エレメス…。大丈夫?」
「カトリーヌ殿、助かったでござるよ。…そのタッパーはなんでござるかw」
「…内緒。」
カトリーヌはそれを隠してから侵入者に向き直り、詠唱を開始する。
「コールホムンクルス!オーリィ、緊急回避よ!はやく!」
相手も二人同時に相手をするのは無理だと判断したのだろう。
召還したリーフをカートに投げ込みつつ指示する。
だが、侵入者が走り出すよりも先にカトリーヌの詠唱が完成する。
「ユピテルサンダー」
侵入者めがけ、高密度に圧縮された雷球が撃ちだされる。
しかし、それはあたる直前で霧散してしまう。
「黄金蟲カード挿し盾…。」
見ると、走り去る侵入者が背負っている盾が淡い丹色の光を纏っている。あれが魔力を打ち消したのだろう。
二人で追走するが距離が一向につまらない。
それどころか侵入者はさらに加速し、距離が一気に開く。何かをこちらに投げ捨ててきた。
空のビンだ。
「速度変化ポーションでござるか。」
このままでは振り切られてしまう。
相手も逃げ切れると思ったのだろう。カートの上に飛び乗り、こちらを見ながら腰に手を当てて高笑いした。
「残念だったわね!!また今度相手してあげる!!」
『HAHAHAHAHAHAHA』という笑い声が似合いそうなポーズだ。
その間も凄まじい勢いでカートが疾走する。
「まずいでござるな。」
「大丈夫…。」
「カトリーヌ殿、何かいい案があるでござるか?」
「…あの先は階段。」
こちらに視線を向けている侵入者はそのことに気づかない。侵入者が視界から消える。
「わぁ〜」
聞こえたのは間の抜けた悲鳴とガラスの砕ける音、金属音、何かが散らばる音、そしてゴキンという痛そうな音だった。

階段の上から見下ろすとクリエイターが泣きながらポーションをカートに入れている。
とは言っても大半が割れてしまって、ガラス片が散乱しているわけだが。
カートも少々歪んでいる。自業自得とはいえ少しかわいそうだ。
全てを回収し終えたのかこちらを睨めつけ、
「覚えてなさいよエレメス・ガイル!」
そう叫び、蝶の羽を掲げ青い光に包まれて消えた。
「…よく分からん奴でござったな。…ん?」
エレメスが何かを見つけたようだ。
視線を追うと階段のすぐそばに何か落ちている。
「…料理本。」
回収し損ねたのだろうか。ぽつんと料理本が落ちている。
カトリーヌはうれしそうにそれを拾い上げた。顔が自然と綻ぶ。
「よかったでござるなw」
「うん。」
楽しみが増えた。晩御飯の後にしっかり内容を把握するとしよう。

「…エレメス。今日の晩御飯は何?」
その質問に一瞬身を振るわせるエレメス。
「ま、まだ準備ができていないでござるよw」
彼は少しこわばった声でそう返答した。
(…準備すらできていない?)
杖を握る力が強くなり、辺りの空気が放電し始める。
おっといけない。彼に罪はない。悪いのは侵入者だ。でも、ご飯が出来ていないのはいけないこと。そう、いけないこと。
「何でもするから待ってほしいでござるw」
「…本当に?」
「本当でござるよw」
「…じゃあ、この本に書いている材料を10セットずつ用意して…。」
材料を用意するのは時間がかかる。彼にも協力してもらわなければ。
「そんなにいっぱい無理でごz「…エレメスの手料理がもう食べれなくなるのは残念。とてもとても残念なこと。」
彼の言葉を遮り、杖を構える。
エレメスは華麗にバク宙、着地と同時に土下座した。
「分かったでござるカトリーヌ殿。だから構えを解いてほしいでござる。」
カトリーヌは満足そうに頷く。
「…ご飯作るの手伝う。」
「助かるでござるよw」
彼女は彼の手を引くと足早に食堂へ向かった。
晩御飯と料理本の内容、その両方に期待を膨らませながら。









|д゚)やっと終わりだよ!これ読んで楽しんでもらえたら幸いです!

|д゚)誤字脱字、日本語がおかしいのは華麗にスルーしてほしいな!

|д゚)以上、9-294でした!






|д゚)あと、縦読み仕込むの疲れたよ!分かった人だけキャキャウフフしてね!






おまけ

「ただいま〜。あ〜、もう最悪。」
クリエイターは戻るなり悪態をついた。
「マスター。他に言うべきことはないのですか?」
新聞から目を離さず、ハイプリーストが質問する。
「ん?何のこと?」
「また勝手にガードオブデフを持ち出したでしょう。あれはギルドの備品であり、資産なのですよ?」
「道具は使わないと存在自体、意味がなくなるわ。」
彼女は郵便受けから手紙を取り出し中身を確認。ニヤニヤしながら適当に返答する。
「貴方もギルドマスターなのですからギルドメンバーの手本になるような行動を…」
「料理本なくしちゃったのよね〜。また買っていいかな?」
「…経費は出しませんよ。」
彼女は後ろに回り込み、
「スティール!」
高速で懐から財布を抜き取る。
「ちょっと!何をするのですか!」
「クリップオブムーンライトを利用したスティール。」
扉に向かって走りながらそう答えた。
「そんなことは聞いていません!マスター、何処へ行くのですか!」
自らに速度上昇をかけ、追いすがる。
「生体研究所。」
彼女はいい笑顔で答えた。
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