初めに記そう。
 勇気なきものはこれを棄てよ。神を信じし者は塵芥の類とともに火にくべよ。
 好奇心により暴き立てるものは自戒せよ。人を愛しものは目を背けよ。

 されど、されどてそれでもこれを読みし者よ。
 以降に記されし記録、あるいは非常に非現実的な印象を我々に投げかけるこの文はすべて事実にもとるものだ。
 この内容を信じる信じないはそちらの勝手。だけども、どうかこれだけは信じて欲しい。
 我々は……。

 我々は、我々は決して――こんなものを、望んでなどいなかったのだ……ッ。



* アウトサイダー *



「――ぃ、おい、どうした!?」

 耳元で怒鳴り散らされたその声に、俺ははっと我を取り戻す。どうにも物事には一つにしか集中できない俺は、よくこういった興味深い道具とかを拾ったときに、ついつい眺め見入ったまま自分の世界にもぐりこんでしまう。
 そのことを理解してるこいつは、さながら俺をこの世に呼び戻す交霊術師か。
 俺は軽く苦笑しながら振り返る。そこには先ほどの声の主が、不満そうに俺をにらみ返してきた。
 柄の悪い男だ。手癖も性格も外見も、オマケに口もとことん悪い。だけど性根はいいやつで、俺にとってはかけがえのない相棒の一人。
 そしてそいつは、俺の様子を鼻で小馬鹿にしながら話しかけてきた。

「なンだよ、何その白けきった顔はヨォ」
「いや……なんでもないよ」
「ハンッ! なんでもないっつーんなら、何を熱心に眺めていたのでしょうかネェあんたは。ったく、それ、そんなに気になるのカァ?」

 そう言いながらも、そいつはいつの間にか俺の手から掏り取ったその書類をペラリペラリと捲っていた。
 流石は盗賊、手癖の悪さは人一倍。あとはもう少しだけ落ち着きがあればいいのにと、常々俺は思うけど口にはしない。なんたらとはさみは使いよう、だ。
 そうこうしている間にも、流し読みされていく書類。そして読み進めていくにつれて眉間にしわが寄る我が相方。嫌な兆候だ。

「ンあ? なんだこりゃ? ワッケわかんネー戯言ばっかのたくってるンだな。信じる信じない?
 ココでおきたことは人の尊厳を汚物とも思わない忌まわしき所業だ?
 ハッ、笑わせてくれるぜ。何処のどいつ様かぁ知らねーけどよ、これ書いたオメーが仕出かした不始末だろってーのに言い訳だなんて笑わせラァ。
 そもそも――そもそもだな、コイツ書いた奴が作った実験体なんざァそこら中にうろついてるっつーの! 信じるも信じないもあるかってーんだよ!」

 そう、まさしくその通り。
 この書類は、先ほど俺たちが倒した人型の化け物たちが手にしていたものだ。少しばかり返り血やらで汚れてはいるものの、元が特殊な紙かインクだったかで読み解くには困らない。
 そしてそれに書いてあることは――彼の弁を借りるならば、本当にくだらないこと。
 俺たちが倒した化け物たちの、その研究記録だ。
 ここにいる――このレッケンベル社にある研究所の化け物たちは、同社によって意図的に作り出された忌まわしい化け物だ。そして研究者たちは自分の研究のために嬉々として実験を繰り返すものと、嫌々ながらも逆らえずに従うものに二分化されていたようだ。
 なぜ、そんなことが解るのか? 簡単なことだ。そこらじゅうに散乱してる紙を拾えば、大抵は神に対する懺悔後悔の類が自分の研究結果に酔いしれている報告が書いてあるからだ。
 たとえば、こんな具合にだ。

 ――ああ、家族に会いたい。俺はもうココから抜け出したい。
 ――実験動物の状態は良好。だがいつ発狂するかは不明のため速攻に新薬製作の余地あり。
 ――これはもはや、歴史からは抹消せざるをえない忌まわしき研究だ。
 ――ああ、神様、神様ァァァァ! 
 ――素体『卓越者』の設定を限りなく幽体化に成功。同処置を『魔術師』にも実行予定。
 ――外部との連絡ができない。どうか誰か、この紙を拾ったからには助けてほしい。
 ――あ……ありのまま今起こったことを書くぜ。気づいたらハワードに掘られていた。新境地とか新ジャンル「デレアッー!」とかじゃない、新しい萌えの文化を味わったぜ、うほっ。

 ……一部何か違うVipperが混じった気がしないでもないが、大体はこんな感じだ。
 俺たちは幾度となくこの手の書類を集めている。忌々しいことに、俺たちのクライアントはあのレッケンベル社に事実を突きつけるためにこういったものを集めている。
 俺たちは依頼主に従うことしかできない、汚れ役の一人。
 はあっ……。憂鬱だ。化け物とはいえ、人型の、それも元人間を殺していくのは流石に気が咎める。嫌な話だ。
 そうこうしているうちに、先ほど倒した剣士型の化け物に死出の歌を捧げていた修道女が、祈りを止めて立ち上がる姿が見えた。
 神に仕える彼女にしてみれば、いわばこの犠牲者たちは迷える子羊にでも見えるのだろう。毎度毎度敵を倒しきっては囁く様に歌を紡ぐ。正直そんなことをしてる余裕はないと思うのだが、文句を言ったが最後俺への支援がなくなりそうなのでお口にチャック。

「もう、いーのかよ?」

 柄の悪い相方が打って変わってやさしそうな声をすれば、彼女はこくんと可愛らしく頷く。ちぇっ、見せ付けてるんじゃねーよ。

「なァ、もうそろそろ十分な量が集まったとは思わねーか? ココに来て大分探し回ったケドよ、これ以上すっげぇ証拠とかでてこねーと予想すんだけど」

 ノロケから打って変わって不機嫌な声。だけど俺は気にしない。大人だから。
 変わりに俺は、ふっと思案するようなポーズをとる。だがあらかた脳内では結論をだしている。
 後悔、疑念、恍惚、狂気。それら一つ一つが濃厚なソースになるまで煮詰められたこの書類の数々。これを突き出されて文句を言う人ではないだろう。それは俺たちのクライアントだってこれだけの資料があれば満足してくれるはずだ。
 むしろこれ以上ココに留まっているほうが危険だ。最悪、生きて帰ることが適わないかもしれない。命あってナンボの人生、ココで引き返すが安全だ。

「そうだな、残念だけどこれ以上の探索は無意味だろう。逆に集中力がなくなって危険になるかもしれない。というわけで、転送魔法をお願いできるかな?」 「は、はい! わかりましたっ!」

 ごそごそ、ごそごそ。彼女が手に提げたかばんをまさぐるのを見つつ、俺はこの後控えている大統領との問答を――

「あ……」
「ん、どうした?」

 振り返る俺、ヤな予感。俺の第六感は外れたためしがない。
 そしてこの日もだ。

「えーと……あの、ですね? ……そのー、ブルージェムストーン、忘れちゃってポータルが……あはっ、あはははは……あはっ☆ミ」

 その瞬間、見事なまでに男二人のハモリ声が響き渡った。

『な、なんだってぇーッ!!?』




 むすっとしている俺、彼女をなだめる相方、ぐずる彼女。三者三様の有様で、俺たちはこの研究所を進む。
 帰り道は覚えていない。そもそも、そこの修道女のポータル――場所と場所をつないで一瞬で他の地に移動する魔法――を当てにしていたので、ろくに記憶にとどめていない。
 あー……最悪。けれども早めに気づいたのは不幸中の幸い。これが完全に疲弊しきってた時だと、確実に俺たちは死んでいたことだろう。化け物コワス、テラツヨス。万全じゃないと勝てやしない。

「だからね、もう……怒らないから泣き止みなって」
「……ごめんね、ごめんねぇ……」

 ハァ、本来なら前衛はそこの逆毛ローグなのに、なだめすかすことに必死で俺が前にでてるよ。俺、魔法使いだから打たれ弱いのになぁ。
 やれやれ、死んだら恨むからな……と、あれ?
 視界に映ったものに気をつられてつい立ち止まった俺に、後ろの二人が体当たり。その二人はなにやら俺に文句か何かを言ってるようだが俺の耳には入らない。
 なぜならば、俺の思考は目前の光景にとらわれているからだ。
 狭い通路の先の小部屋では、アコライト型の化け物がシーフ型の化け物の治療をしている姿が見えた。それだけを見ればほのぼのするような光景。

「アァ? ありゃあたしかアベシだか何だかいうアコモブとヒュッケだな。あれがどうかしたのか?」

 うるさい、俺の視点はそれじゃない。俺は黙ってソレを指差す。
 メタリンだ。
 そのメタリンはぴょん、ぴょんと跳ねて一つの方向に向かっている。それだけなら普通だが、向かう先とその量が問題だ。十数匹にも及ぶメタリンの群れが、部屋の隅へと向かっている。
 臭う、どうにも臭う。
 俺たちは顔を見合わせた。にやりとほくそ笑む顔、おどおどしつつもしっかりと頷く顔。オーケィ、腹はくくったな。
 じゃあまずは、邪魔なあの化け物二匹を殺してから向かうとするかァ!



 化け物を倒しメタリンの群れを追いかけた俺たちは、メタリンたちが壁を支えに縦一列に並んでいる姿をみて度肝を抜かれた。
 だがよくよく観察してみれば、ああなるほどと行動が読めた。その壁の上には巧妙に隠されたスイッチが見える。おそらくは一番上に飛び乗ったメタリンが頭突きするなりして押すことにより反応する仕掛けなのだろう。
 ならばと俺が振り返れば、相方はヘッと下品に笑いながらも手にした弓に矢を番えて壁へ向けた。
 手先が器用なコイツにとっては、あの程度の的など容易く命中させることができるだろう。わざわざメタリン縦一列が時間をかけてソレを押すのを、まんじりとせずに待ち続ける必要もない。
 ヒュッ!
 風邪を切り裂く音がかすかにすれば、お見事目標を打ち据え、次いで壁全体から異音が聞こえた。
 見ればメタリンが一匹二匹と山を崩し、やがて壁の下側に現れた隙間にその身を滑り込ませていた。

「お宝発見、な予感だな」

 相方はそう呟くと、その細身ながらも鍛え抜かれた体を隙間に滑り込ませる。俺や奴の彼女の安全を確保するための、先行役といったところか。ふん、気が利くな。
 だけどもこの隙間がいつまで開いてるのかは解らない。なので俺たちは顔を見合わせ頷くとその身を屈めて入り込んだ。うっ……薄暗いな。

「サイトッ!」
「るあふー」

 魔術によって作り出された炎と聖光が、あたりをぼうっと照らしだす。見れば人の気配こそしないものの、埃などがつまっていないのが不自然だ。もっとも、このメタリンの群れの進軍によって、奥に集め押しやられているからだろう。
 やがて、目が薄暗さに慣れていくにつれ、この場所の異常さが目に付いた。
 飾り気のない壁一面に貼り付けられた紙には、摩訶不思議な記号と計算式の羅列。足元に転がっている瓶には、ミイラのように干乾びた肉のようなもの。
 そして、長く長く続く不気味な通路。

「へ……、地獄の一丁目へご招待ってか? なーんとも、怪しい場所だな」
「そう、だな。少なくとも奥に何かがあることには違いない。このメタリンの群れにでもついていけばいいか」

 軽口にしれっと答えて、俺たちは進んだ。
 前に立つのは相方、そのすぐ後ろにいるのは奴の彼女、そして少し離れた左後方に控えるのは俺。前方に何があるか解らないので、俺たちは自然と必勝の立ち位置に並ぶ。
 そのままの状態で歩き続けること五分かそこら、曲がり角の先に薄らぼんやりとした光が見えることに気がついた。

「ゴール……お宝のおでましってか?」

 わざと茶化すような口調、だけども油断はしない。もしこの先に居るのが人型化け物の群れだった場合、一目散にもと来た道を引き返して脱出しなければいけない。
 そうとも、慎重に、慎重をかさねて、だ。

「ココで待機してな。俺が見てくっからヨ。ハイディングしてれば大抵の奴にはばれねーし、逃げ足も俺が一番速いからな」
「ああ、任せた」

 生粋の暗殺者ほどでないにしても、あいつが学んだ隠密の技は巧みだ。熱源視覚をもつ生き物でもない限りは、そう見破られるものではない。もしかしたら盗蟲の一匹二匹くらいは潜んでいるかもしれないが、その程度の生き物ならあいつ一人で対処でき――

「いつまで、そこで立ちすくんでいるのかの?」

 声が、聞こえた。若々しくもしわがれたような、そんな奇妙な声が。

「何、とって食いはせんよ。ここを見つけ出した始めての客人やて、歓迎はせんが拒絶もせんよ」

 その声は、俺たちが向かおうとしている先からしたものだ。妙に落ち着いた学者然とした声。
 俺の、嫌いな声だ。

「……アンタ、ここの研究者か?」

 気づけば、俺の口は勝手に言葉を紡いでいた。ソレに対する反応は、ひひひっと不気味に笑う様子と、扉のきしむ音。つまりは、入れって事か。
 ああ、行ってやろうじゃないか。ついでに、お前自身をひっ捕まえてクライアントの目前に叩きつけてやるよ。
 嘘かまことか判別しづらい書類なんかよりも、よほどに説得力のある証拠だろう。
 だから俺は、なんら躊躇もせずに歩き出し、僅かに隙間を空ける扉を蹴りつけ開け放った。
 そこは広い部屋だった。
 同時に狭い部屋だった。
 所狭しと置かれたデスクによく解らない溶液の詰まったガラスケース。散乱した書物に用途不明の機械の数々。そこはまるで、玩具箱でもひっくり返したかのような有様だ。
 元は広大なスペースがあっただろうに、ろくに片付けられないがために次第に狭くなった、ろくでもない部屋だ。

「ようこそ、この秘密の研究室へ」

 そしてそのろくでもない部屋には、一人の男が一人椅子に座っている。

「私はこの第七号研究室の室長さ。お主たちは……ああ、言わずともわかるて、どうせまたここの研究に気がついた誰かしらが送り込んだ冒険者の類だろうて。ふふ……運がいいなあ冒険者諸君、もしも三階に向かっていれば、お主らはあっさりと屠られていようて」
「うるさいだまれ、俺が聞きたいのはそんなモンじゃない。ここは何だ? お前はここで何をしている?」

 俺の問いにせっかちじゃな、などと文句を付けながらも男はあたりをごそごそと探っていた。やがて目当ての物を見つけたのか、男はニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべて俺に振り返った。
「お主ら、ここでであった試験体をどうおもうかえ? なかなかに手強かったろう?
 ここはの、ああいった試験体を観察し、検証し、更なる改良を考案するための場所のひとつさ。
 ほれ、そこに居るメタリン。それはの、ここで遠隔操作をして試験体の様子を探るための手段の一つというわけさ。試験体の様子を見、そしてさらに欠落した肉片などを拾い集めて肉体サンプルを回収するための機材でもある。

 ひっひ、もうかれこれ三十年かの。思えば長い長い監視生活じゃな……」

 遠い目をしてメタリンを眺めるその男は、しかし狂気に彩られた科学者の瞳だ。
 こいつは、今までの行為をなんら後悔などしていない、糞下らない輩だ。
 その証拠に、ほら、顔全体を綻ばせて不気味に笑い声を上げるじゃないか!
 俺はもう、質問を止めることにした。
 振り返ればそこには、渋面を浮かべる相方の顔と、憤怒の念に駆られる彼女の姿がある。
 気持ちはわかるよお嬢さん。だけどもこいつは絶対に良心のかけらもない人でなしだ。口で言っても聞きやしない、傷を付けてもへともしない。倫理や神の教えなんて、もっての外だ。
 だったら、やるべきことは一つ。
 コイツを、ここから連れ出してやるッ!

「オイよォ、糞ッたれの狂科学者! オメーはやりすぎなんだヨ。わりぃ事は言わねーから黙って俺らについて来いや。てめえの性根、俺様が叩きのめしてやっからな!」

 痺れを切らしたのか、相方が吼える。躊躇もせずに一息で駆け寄った後は、手首をつかみ足を払い、腕を背中に引き寄せ関節を極めた。
 だが男は、フヘッと下品にただ笑う。
 そして同時に、雑音まじりの数多の声が当たり一面から聞こえ出す。

『それは許されない』
『室長を連れ出されることは認められない』
『我らのメンテナンスには必要不可欠なる人体。君たちの行動は我らの生命維持活動に支障を出す』
『不許可』
『否』
『認められない、認められない、認められない』
『行動せよ、行動せよ、行動せよ』
「な、なんだってぇンだよこれは!」

 取り乱して錯乱し始める相方に隙があったのは仕方がない。だけどもそれは仕方がないだろう。誰もが予想できない事なのだから。
 取り押さえられていた科学者が突然と暴れだし、次の瞬間ボキリという鈍い音を立てて相方を俺めがけて弾き飛ばしたのだ。  その距離、おおよそ5メートル半。その距離をたった一瞬で飛んだ相方の身を交わす余裕などあるものか。二人激突した衝撃できりもみ回転しながらも、さらに数メートルほど床を滑り、メタリンの群れに激突したところでやっと止まった。
 糞ッ、無茶苦茶に痛い。冗談じゃねえぞこれは。
 苦痛に挫けそうになりながらも、俺は相方を押しのけて立ち上がろうとする。だがその瞬間に、俺はとんでもないことに気がついた。
 相方は、まだ奴の手をつかんだままだ。
 ――その腕は、半ばのところで千切れていた。
 傷跡からは、人の血とは思えない赤錆びた色の体液が流れている。
 顔を上げれば、ああ、そこには奴がいた。

「君ももう察したようだの。そうとも、儂も長年の研究に耐え抜くがために自ら実験体と同じ措置を行った。だがどうにも適正がなかったようでな、長命措置と怪力は手に入れたが、体の耐久度は大して上がりはせんかったよ」
『そのため、我々は彼一人を残して肉体を棄てることにした』
『適正なくば最悪の場合自壊する。研究を続けるのにはそれは不都合だ』
『だから我々は脳のみを残して、この機械の中に閉じこもることにした』
「そして儂は、自らが手足となって彼らとこの研究を続けているのじゃよ」

 狂っている。狂っている。狂っていやがる、最低最悪なほどに!
 畜生、自分の体にまで手を出す外道だなんて予想してなかった!
 こうなったらコイツを叩きのめして、その後ここの機械をブチ壊して逃げ出すか――

「きゃっ!」
「!? どうした……ッ!?」
 彼女があげた悲鳴で振り向けば、ああ、赤い衣装に身を包んだ男女一組の集団が、俺たちの前に迫っていた。
 この場所を守る守衛か。そりゃあそうか、何の備えもなしに俺たちを通すわけもない。こういった手合いがいても不自然じゃあない。
 万事休す、か。
 絶望の色が俺には見える。敵の数は四組に加えて科学者の合計九体。対して俺たちは三人。
 糞ッ! どうする。どうすればいい!

「……やれ、ジェミニ」

 その瞬間、おそらく俺は人として最低のことをした。
 立ち上がって獲物を構える相方と、それに寄り添う彼女を敵めがけて突き飛ばした。
 流石の不意打ちに対応できなかった二人は、信じられないといった顔で俺を見る。
 ――知ったことか。
 敵が飴細工にたかる蟻の集団のように襲い掛かる姿を視界の端で見つつ、俺は手にしたアイテムを握りつぶす。
 ハエの羽、簡易転送道具。
 次の瞬間、俺は何処とも知れぬ場所へと飛んでいた。
 最後に見た彼らの表情は――俺は、知らない。



「はぁ……はぁ……」

 何処とも知れぬ場所、安心すらできない場所。俺はこの研究所を走り逃げる。
 気がつけばあの化け物どもが追いかけてきそうで。気がつけば生贄にした相方たちが俺を報復しに来そうで。
 俺は恐怖に駆られる子羊だ。
 あれから数時間、俺はメタリンにすら怯え逃げ惑っている。安息など、ここにはない。ここにあるのはただただ地獄のような光景だ。
 右を見れば、実験体たちがいる。
 左を見れば、あのジェミニとかいう二人組が居る。
 逃げ場を、出口を、外の世界を探しても探しても探しても探しても探しても探しても探しても探しても!
 俺には、出口が見当たらない……ッ!
 まるで、あの二人を見捨てた罪であるかのように。
 だがどうやら、神様は俺に微笑みかけてくれたらしい。
 ハエの羽を使い切り、魔法力を搾り取ってまで生成した炎の壁で研究体をやり過ごした俺は、ようやく出口らしきものを見つけ出す事に成功したのだ!

「は……はははっ……あははははははは! やった、やったぞおおぉぉぉぉぉ」

 生への喜び、感涙、絶望からの脱却、希望の光。
 ああ、俺は生きている。
 俺は助かるんだッ!
 そうして最後の一歩を踏み出した瞬間。







「――あ、あれ……?」

 その最後の一歩は、ぐらりと傾いで。

「どう、して……」

 どさりと、何かが倒れる音。冷たい床、温かい何か。

「う……がぁっ!」

 口からあふれ出すそれは錆びの味。一面の赤い、赤い液体。

「――ッ! ……ッ………………ッ…………」

 声にならない声、いまさら気づく痛み。苦痛、苦痛、苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛ッ!
 かすむ目で見上げればそこには……。

「……諦めよ。某には憐憫も良心もない。そのようなものは生前の時にすら、とうに投げ捨てたものだ。――眠れ、人間。ここでおきたことは悪夢だと信じて、天国に帰れ」

 暗……殺……者……。

「……こちらエレメス。侵入者を排除。……ああ、そうだ。お前が逃した生き残りだ。……何度も言わせるな、俺は暗殺者だ。獲物は決して逃さない。たとえ命令を出したのがお前のような外道だとしても、某には関係のない話だ……ボルゼブ……ッ!」

 は……ははっ…………。
 ば……か…………め……。
 俺が……行くのは…………仲間を見捨てた、俺が行くのは…………。


 ――じ、ごく……だぜ?



―――――――――――――――――――――――――――――――
作者お詫び。

萌えってなんですか?orz
Dopたちほとんど出てないって何でですか?(DSDSDS
冒険者視点過ぎるって何でですか(アッー!
可愛いのはメタリンだけですか?(・ω・)リーン?
の、脳みそ缶詰ェェェー!![゚д゚]
最後にガイル大佐がいるのは場所が2Fだったから。ゴザルじゃないのは仕様Def。

研究者がリムーバタソだと、乱獲したくなるなぁ(-x-)zzZ


お口直しSSもよろしくネ☆彡(。・x・)ノッ

by CrItlh
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