「まて、その左手はなんだ?」
「うっ……」

 秋の夜長に行われる連日のゲーム大会。3Fの兄姉には秘密で行われる弟妹達のささやかな不良行為――エレメスから3F全員に筒抜けだが――は、ラウレルの連続最下位記録12日間の記録更新まであと一局、と言う所で転機を迎える。

 今夜の勝負内容は麻雀。ルールが判らないセニアとエベシは観戦モードに入り、トリス、アルマ、カヴァク、ラウレルの4人で半荘10回の合計で競われている。現在10回目の南4局、いわゆるオーラスのオーラスである。得点状況は圧倒的にトリスの一人勝ち、続いてアルマとカヴァクが僅差、ラウレルが圧倒的にビリであった。あったが…。

「おっとアルマも動くなよ? お前らコンビ打ちの可能性もあるからな」
「くっ… まさか見抜かれるとはね…」

 諦めたように、掴まれた左手を広げるトリス。その左手の中には真っ白な牌が二枚。手札を倒せば同じく真っ白な牌が一枚に、赤く「中」と書かれた牌が三枚、さらに緑色で洛陽語が一文字書かれたのが二枚。成功すれば小三元確定、狙えば役満大三元確定のイカサマ技が炸裂していた。

「山はアルマからだ。おそらく残りもそこだな」
「お前ら… 案の定か」
「流石はアーチャー、梟の目は伊達ではないって事ね… 油断したわ」
「ラウレルが暴れてそっちに気を取られてたわ…」
「OK,今回は俺たちの勝ち。実行犯のトリスが最下位、共犯のアルマは三位だな」
「まぁいいわよ、で、どうするの罰ゲームは?」

 例によって最下位は一位に、三位は二位に罰ゲームを決定されるルールである。このまま順位が繰り上がれば一位はカヴァク、二位はラウレルなので、三位のアルマはまだ精神的に楽である。カヴァクに比べれば、ラウレルも罰ゲームはプライドがあるのかおとなしいだろう…。そういう目論見である。ちらりとトリスを見れば、ちょっと口元が引きつっている。…カヴァクの事だから、こちらの予想を越えるマニアックな物が出てくるのは確実だろう。あぁ南無、でも私は助けられないの。なぜなら自分の身が可愛いからっ! なんて事を思ってしまうのは神に誓って秘密。

「安心しろ、俺だってなにも脱げと言う訳じゃない。ただ、今からほんの数時間――そう、数時間耐えてもらう」
「耐える? 何か耐久性の罰ゲームなの?」
「おぅよ。先日、ネットで面白いものを発見してな…。ラウレル、お前の方も問題ないな?」
「今日はお前に助けられたしな。任せる」

 にやりと笑うカヴァクに親指を立てるラウレル。…あんたらもコンビ打ちしてたんじゃないの? と思わせる連携。カヴァクの意味不明な趣味に付き合わされるのは正直嫌だが、まぁ数時間耐えればよいのであれば…。

 案外楽なんじゃない? と楽観しているトリスの前に、布の塊がどさりと置かれた。

「…まさか」
「おうよ! 今から24時間、お前ら二人にはコスプレをしてもらう!」


 こんにちは、アルマイアです。

 私は現在、なぜだかノービスの服を着ています。…これを選んだラウレルのセンスは本当にクールでクレバーでサイケデリックな魔術師なのか、とっても疑問です。

 どっから仕入れてきたのか知らないけど、しっかりサイズ合ってるし、おまけに武器も店売りナイフとコットンシャツのみという気合の入れようです。

 えー、これから24時間ノビであり続けなくてはならないと言うことで、商人のスキルは封印されてしまいました。その代わり、昔お世話になった死んだふりで前衛さんを詐欺っぽく持久戦で殺してます。…と言うか、こちらから手を出さない限りみんな私を無視してます。目が合っても微笑まれるだけで、さっきもプリにタマとったらぁぁぁっ! っと突撃したら、/e6エモ出されてお菓子貰いました。なにやら萌え産業の偉大さを思い知ります。

 ああ、そこの騎士さんわざわざお茶までありがとうございます。え、記念撮影ですか? 構いませんよ、ではこちらにどうぞ――はい、ちーずっ――いえ、お駄賃だなんて申し訳ないです。先ほどもお菓子を頂きましたし、いえいえ、友達と食べても食べ切れませんから…。え、友達も一緒に? いえ、友達はまだ忙しいみたいですので…。

 あらWizさん、お弁当分けていただけるなんてとんでもないです。嬉しいのですけど、お気持ちだけ頂いておきますね。いえいえ、それでは皆さんで一緒に写真撮影しましょう。え、隣にですか? はい、どうぞ。って皆さんなんでそんなににらみ合いを?

 怨念出しててもノビだからOKなのでしょうか。気づけばこれから初めて3Fに挑むと言う一団さんと、30分程お茶会となってしまいました。強面のお兄さんばかりで、ちょっとお兄ちゃんの守備範囲からは外れています。女性がいないのは珍しいかな? まぁ別れる時に、こっそりとプリさんの青石を拝借しておいたので、お兄ちゃんでも苦労せずに倒せると思います。

 さて、そろそろ夕食の準備ですし、厨房に行かないと… あら、あれはセイレンさんとお兄ちゃん…。

……

あ。セイレンさんが壊れた。

「wっうはwwwwノビタソwwwwハケンwwwwwww」
「…まて、アルマなんて格好してるんだ!」
「えーと、これは果てしなく、とてつもない事情がありまして…」
「wwっうぇっうぇwwっうぇwwwwwみwwなwwぎwwっwwてwwきwwたwwwww」
「落ち着けセイレン、あれはアルマだおいコラなんでそこで爆裂オーラ2HQにバーサークまで!?」
「wwwwwwwwwwwwwwwwwww(←バーサーク中なので喋れない」

 うわーー、なんだか空間歪んでる? あのままだとたぶん私やばいかなー? セニアが泣いちゃうかもしれないね… ってやばい!? 私いろいろとやばい!? こんな所でセイレンさんにアレとかコレとか(あは〜ん)とか(いや〜ん)されちゃう!?

 ゆらり

 い、いやぁぁっ!? こっちこないで!? なんだかつかまったら二度と心から笑えなくなりそうな予感がバリバリにきてるっ!? その爽やか過ぎるアメリカナイズな笑顔がとてつもなく怖いですぅっっ!?

「wWwwwwWwwWWwwWwwWWWWwwWWwwWw」
「頼むから日本語でおk …くそっ、アルマ乗れ!」
「…モールス信号? 兄貴お願い!」
「WWwwWwWWWwwwWwwWWw」
「カートブースターON! いくぜマキシマイズパワー!!」

 兄貴のカートに飛び乗るやいなやカートが変形、側面から姿勢制御用の翼に根元からトケットブースター、おまけになぜか強制減速用のドラッグシュートユニットに電波かく乱用のチャフ、熱源探知回避用のフレアまで!? …兄貴、だれと戦争するのよ?

「WWwwWWwwwwWWwWwwWwWwww」
「アルマは渡すかぁぁぁぁっ!!」

 なんだか視界がぶれるって言うか、首が折れそうな加速と共に走り出す兄貴、カートしがみ付くのも精一杯な私が振り返ると、数セル後ろに…

「いやぁぁぁ!? きてる、セイレンさんがきてるぅぅぅっっ!!??」
「wwwWwwWWWwwwWWwwWW」
「走りながら変なポージングしないでぇぇぇ!?」


 リヒタルゼンの最先端科学技術に生身で併走できる男、セイレン・ウィンザー。妹の貞操を守るべく3Fを爆走する兄貴が、疲労で見逃したクレイモアトラップを巻き込むまで、あと5分。


 トリス編に続く!(かもしれない)
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