「本当によろしいのですね?」
「…お願い」
「わかりました。それでは…
 魔法のエスウで☆ロリロリショタショタ〜♪」



「いつもながら良く食べるでござるな…カトリーヌ殿」

 向かいに座った魔導師を見つめて、少し呆れた風に美形の暗殺者は呻いた。
 当の本人は食べることに夢中で、あまり彼の方を気にしてはいないようだが、

「んく…。たくさん食べるのは…美味しいから…」

 一応は返事をして、目の前に広げられた皿を次々と空にしていく。
 暗殺者風の男――エレメス=ガイルは困ったように眉毛を八の字にして、
彼女に諭す様に囁いた。

「よいでござるか、カトリ殿。食事というものは食材と、調理する人が必要なのでござる」

 ふんふんと上の空で頷きながら食べ続けるカトリーヌ。

「暗殺者である拙者が言うのも何でござるが、我々は他の生命を殺して食べているのでござる。
 植物とて例外ではござらん。動かないとはいえ、彼らもまた生きているのでござる。
 即ち―――」
「また料理というものは、料理人がいて初めて成立するものなのでござる。
 厳しい修行と豊富な知識によって裏打ちされなければ、美味しい料理を作ることなどはとてもとても。
 独特の文化を持つアマツや龍乃城等では幼い頃から料理人の修行をする者も多く――」
「つまり料理というのはそれだけ奥深いものなのでござる。
 沢山食べるのも良いでござるが、少しは作る人の都合も考えるのが――」
「そういえば料理の方法を歌詞にした歌があったでござるな。
 確か題は…ちょっと思い出せないでござるが、行進曲だったような…こんな歌でござる――」

 最近カトリーヌの前では何かと饒舌になるエレメスは、恐らく本人も意識していないだろうが
料理、食事に対して妙な拘りを持っているようである。 
食べることが大好きなカトリーヌに対して、自分に共通する何かを感じ取っているのかもしれない。
 そうこうしている間にも、並べられた料理は綺麗に片付けられ、カトリーヌは満足そうに息をついた。

「デザートのバケツプリン…まだかな」
「拙者の言うことを聞いているでござるかぁぁぁぁぁっ!」





「ん…ぅぅん…」

 月明かりに照らされた窓辺のベッドの中で、いつもと違う寝苦しさを覚えてセシルは寝返りを打った。
うっすらと瞼を開けると、目の前にはどアップのカトリーヌの顔が。

「うぉぁっ!…何!?カトリ?どうしたのよ一体…って、何か縮んでない!?」

 いつものバストやふとももを強調する衣服を身に着けてはいるものの、
全体的に…いや、かなりサイズが小さくなっている。
良く見るとベッドに乗っかって、自分の顔を覗き込んでいるのだ。
無論、その比率は変わらないために、抜群のプロポーションであることに変わりは無いのだが。

「じゃーん、今日はセシルにお料理を教えてあげます」

 無表情のままで両手を広げ、周囲にぐるぐると人魂を回しながらカトリーヌが嬉しそうに?答える。

「いや、なんでこんなお日様も昇ってないような明け方に、しかも小さくなって、
 しかもなんで私がカトリと一緒に、しかもなんで…なんで!?私までちっさくなってるの!?」

 セシル自身も、現在凝視しているカトリーヌと同じぐらいに縮小されてしまっている。
寝苦しかったのは縮んだせいで掛け布団が相対的に重くなったからだろう。無論それだけが原因ではないだろうが…

「…小さくないと冒険にならないから」

「冒険?料理じゃないの?ってあああぁ引っ張らないで!着替えるから!ひっぱらないでぇぇぇ!」

「…早く準備するの…」

 カトリーヌは強引にセシルをベッドから引き摺り下ろし、いつもの服装に着替えさせると
用意していたフリフリのエプロンをつけさせた。

「うぅ…カトリがまた変だよぅ…助けてマーガレッタ…いや、やっぱり助けないで…」
「いーざすーすーめーやーきっちーん」

 着替え終わったミニマムなセシルを、これまたミニマムなカトリーヌが引きずって廊下を歩く。
無表情のまま、意味不明な歌を歌いながら行進するその様子は、さながら冥界へと誘う死神の如く。
ずるずると涙目のセシルを食堂の厨房まで連れてきてしまった。
 背が低くなっている為、扉のドアノブが随分と高いところにあるように見える。
背伸びをしてギリギリ指先が届く位置にあるそれを、カトリーヌは一生懸命つま先立ちして回そうとするが
指先しか届かないのでどうしても不可能だということが傍目にも分かる。
 たっぷり3分間は頑張っていたカトリーヌだったが、ついに諦めてセシルを振り返った。

「…せしるん…肩車。」

 深い深い溜息をついて、セシルはカトリーヌの股に首を突っ込んだ。
すべすべむちむちとした柔らかい内腿に、若干の嫉妬を覚えながらセシルは一人ごちた。

「私の方が軽いんだから普通はカトリが下なんじゃないの?」
「…隊長に口答えするな…返事はサーだ…わかったかせしるん」
「はいはいサーサー、かとりん隊長」
「…サーは一回でよろしい…」
「…サー。」

 呟いただけだが当然カトリーヌには聞こえていたようで、どこかで聞いたようなフレーズを返してくる。
 結局、厨房の扉には鍵がかかっていたようで、ドアノブを回しても開ける事は出来なかった。
となると強硬派二人の――今回は主にカトリーヌの――やるべき行動は一つ。

「あかないとびらにー…ゆぴてる☆さんだぁ♪」

 未明に似つかわしくない轟音を立てて木製の扉が吹き飛ぶ。
粉微塵になってしまって修復のしようが無さそうだが、
恐らく後でハワード辺りが修理することになるのだろう。
 ともあれ、二人は照明の落ちた厨房内へともぐりこむ事に成功した。
真っ暗なタイル張りの厨房内を、カトリーヌの人魂がうすぼんやりと照らし出している。
不気味なことこの上ないが、電源がブレーカーごと落とされているのでどうしようもない。
カトリーヌがまたここで雷撃を電灯にぶつけようとしたが、流石にこればかりはどうしようもないので
セシルが必死に説得して思いとどまらせたのだった。

「…せしるん、まずはじゃがいも…」

 眠そうな無表情のままカトリーヌはうろうろと厨房内を徘徊する。
周囲を回るサイトがそのたびにふらふら、ふらふらとゆらめき、そこかしこに吊ってある機材を照らして
影が亡霊のように見えてしまう。
知らない人が見たら、カトリーヌそのものが亡霊に見えるだろうが…。

「じゃがいもならそっちの倉庫じゃない?生鮮じゃない他の野菜とかも多分そこじゃないかな」
「じゃがいも…たまねぎ…みじん切りだ…包丁…」

 相変わらずぶつぶつと呟きは止まらない。

「大体カトリ、何作るのよ?じゃがいもとタマネギってことはカレー?」

 奥の倉庫から両手一杯にじゃがいもとタマネギを抱えて出てきたカトリーヌは、
セシルの問いに答えないでそのまま冷蔵庫を漁りだした。

「ミンチ…ミンチ…」

 カトリーヌの独り言にピンときたセシルは手近な棚からパン粉を取り出して近くの調理台に乗せる。
背が届かないので、結局そのまま自分も台の上に乗ってしまう事にした。
 恐らくカトリーヌはコロッケを作るつもりなのだ。
コロッケの作り方ならばセシルも知っている。敢えて教えてもらわなくても作れるのだ。
ただ、何故か以前作ってみんなに食べさせたときは、エレメスが口から火を噴いて走り回っていたが。
ちょっとだけ胡椒の量が多かったかなーと作っている時は思ったけれど、
自分が食べたときには問題なかったので、恐らくエレメスが大袈裟なだけなのだろうと思っていた。

「せしるんは…もうちょっと分量を考えないと…」

 いつの間にか大量の芋を、これまたどでかい寸胴鍋に放り込んでぐつぐつと煮ているカトリーヌが言った。

「だって、面倒じゃない。食べられれば別になんだっていいでしょ」

 手際良くタマネギを刻みながらセシルはぶーたれる。
元々手先が器用なので、小さくなった手でも軽々と包丁を扱っている。

「違うの…!料理は心…心なのよ…!」
「ガスが出ないからファイアウォールでお手軽高火力、
 製氷機がカラッポだったからフロストダイバーでカンタン製氷、
 高電圧によるプラズマ調理までしてるアンタが言うと白々しく聞こえるわ」

 ともあれ。
 味付けをカトリーヌが担当すれば、他に何一つ料理において劣ったところの無い彼女には失敗の要素など皆無と言ってもいいのだろう。
見る間に視界を覆いつくさんばかりの大量のコロッケが山となったのだった。





「おや、今日は朝からコロッケか。随分ヘビーだなオイ」

 顔を洗って拭いた後の手拭いを額に捻り鉢巻して、朝からオッサン臭いこのホワイトスミス。

「今朝はカトリーヌが作ったのか。って…セシルもか?大丈夫なんだろうな、と、いや失敬」

 何故か半眼で腰の弓に手を伸ばしたセシル――既に大きさは元に戻っている――の視線に射られ、
セイレンは爽やかに、落ち着いた物腰で席についた。

「コロッケでござるか。拙者の話をきちんと聞いていてくれたのでござるな、カトリ殿」

 にっこりと微笑むエレメスに、カトリーヌは「ぶい」とVサインを返す。

 かくして、憮然とした面持ちのセシルを除いて、和やかな朝食が始まった。
一人2つずつ盛られた狐色の俵と、良く冷えたキャベツの千切りを話題にして。







「姉さん、朝ですよ。アールグレイを淹れたので早く起きてください」
「うー…私低血圧なのよ…もっとやさしくして、イレンド」




「ああああああ!姉貴!俺が毎朝楽しみにしている"生卵20個一気飲み"用の卵食いやがったなぁぁぁ!」
「なんだ、ラウレル。卵ぐらいいいじゃないか。そんな事よりもう一戦どうだ?」
「カヴァークッ!なんでお前が俺のベッドの中にいるぅぅぅぅぅ!」



 特に普段と変わること無く、彼らの日常は過ぎていくのだった。







――おしまい
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