何でも怪しげな研究によって、妙な生き物が徘徊しているらしいこの研究所。
そんな怪談話なんかに別段興味はないが、
ちょっとした事情で、ここの調査に私の命がかかっていたりする。
細かいことはクエストを参考にして貰えばわかるはず、って誰に言ってるんだろう私。
まあそれは置いといて、どうにかこうにか研究所に辿り着いたわけだ。
…下水管通らされたりとかいろいろと苦労したわ…!
大体最初から言いなさいよね、あの男!そんならそうでもうちょっと…
や、いいか。下水管突入の用意なんてしてたら調査どころじゃないしー…
命がかかってる以上、そんなことには目をつぶるべきだろう。
事実、下水管を抜けたらそこは研究所。
少々荒れてはいるものの、綺麗なままである。
「さて、妙な生き物ねぇ…出てきなさいな、出てこないといろいろ漁っちゃうわよ」
呟きながら、無数にある脇部屋を無視し、大きな通路を奥へ奥へと進む。
こう言った場所は、最深部に最も資料を残しているものだ。
大体、こんな小部屋いちいち探索してたら何日かかるかわかったものじゃない。
最深部に何かあることを祈るしかない。
うん、「何もありませんでしたー☆ミ」って言ってもきっと解毒剤はくれないだろうし。
ぶっちゃけちょっと必死である。
「いいからなんかでてきなさいよぉー!」
広い研究所に私の声が響いた。
そして、後から女の声も。
残響を聞きながら、はぁ、と溜息をついたところであった。
「お呼びか、侵入者」
「うわ、何よ、居るんならさっさと出てきなさいよね!?」
大げさに驚く振りを見せて、逆に余裕を表現する私。
ホントは逆なんだけど。まさか喋るヤツがでてくるなんて思ってもみなかったわよ!
そして振り向いた先に居るのは、女剣士だった。
「あら?何だ、人間じゃない。妙な気配はしてるけどー…あんた、相当人斬ってるわね」
アサシンのカンというヤツだ。
剣士のクセに人を斬るなどと、物騒な輩も居たものだ。
そういうのは私たちの専門分野でしょうに。
私は剣士に、やや挑発する視線を向ける。
「侵入者を排除するのが役目なのでな、済まないがここで死んでもらおう!」
「ちょっと、問答無用!?」
いきなり両手剣で私に斬りかかってくる剣士。
ちょっと、何コイツ!絶対頭の螺子dでるって!
意味のわからない事言ってるけど、多分私と同じ調査目的だろう。
ライバルを排除して自分が調査結果を手にするためだろうか?
でも残念、私はそんなバカじゃないのよね、これがっ!
とりあえず手堅く両手剣を躱すと、すっと姿を消す。
何の事は無い、壁沿いに気配を消して移動してるだけだったりするんだけどさ。
ちなみに昆虫やら悪魔には気配なんて高等技術を駆使することができないらしく、
簡単に見破られてしまうんだけど、どうもコイツ相手なら楽勝だ。
「あれ…?侵入者、どこへ行った!?」
などと、また螺子のdだようなことを言っている女剣士は華麗にスルーしておこう。
『じゃあねーっ…!』
声を出さないように剣士にそう言って、隠れたまま奥を目指す…
その前に。
あらぬ方向へ駆け出す剣士のスカートの裾を踏んであげる私。
うん、ちょっとした仕返しってヤツである。
びたーん!!
と派手な音を立ててひっくり返る剣士ちゃん。
「ぷっ!」
思わず吹き出してしまったが、セーフ、どうにも転んだショックで聞こえなかったらしい。
「〜…っー…!」
声にならない小さい声をあげる剣士ちゃんに、どこからか女商人が駆け寄ってきた。
「いたた…何でこんな所で転ばねばならんのだ!」
顔を真っ赤にしてそう言う剣士ちゃんに、女商人が言う。
「セニアがどじっ子だからじゃないの?」
「な、何を!侵入者を追おうとしてちょっと焦っただけだ!」
「はいはい、怪我はいいの?イレンド呼んでくるー?」
どうやら他にも仲間が居るようだ。
まったく、あんな螺子のdだ剣士によくもまあ仲間がいるものだ。
…ちょっと可愛かったけどさ。
まあ、そんなことはいいとして…ヒントがあるかもしれないし、ちょっと会話に耳を欹ててみようか。
「い、いや、大丈夫だ、それより侵入者が!アサシンだ。…見失ってしまった」
「どこにいったの?大丈夫ならあたし探してくるけどー…あ、ラウレル、ちょっとこっちこっちー!」
商人に呼ばれて、近くに居たらしい男マジシャンがこちらへ来る。
「んぁ?何か用か?俺今からカヴァクのとこ行くんだけど」
「あ、じゃあ丁度いいや、カヴァクも呼んでよ、侵入者みたいなのよねー」
「見たところ1人だったが、見失ってしまったのだ。アサシンが来ている」
「はぁ、めんどくせぇな、わかったわかった、適当にカヴァク拉致って探すぜ、そっちもたのむわ」
…っていうか…いっぱい居るじゃない、調査員サン。
そして侵入者って、どう考えても私よね?
なにこいつら、自分達のパーティだけでここを独占した気でいるのかしら?
正直かかわってもロクなことが無さそうだと判断した私は、さっさと奥へ進むことにした。



何事もなく、最深部への階段を降りきる。
そこは、先ほどとは比べるべくもなく、荒れていた。
いや違う、荒れてるというより、最初からそんなつくりなのだ。
研究ではない、もっと何かを隔離しているような…?
居るとすれば、ここだろうか…
慎重に周りを見回す。
…人が居る。
見たところあの装束は、アサシンクロス…腕の立つ者も来ているらしい。
これは、もうちょっと必死にならなきゃダメかしら?
気配を消したまま、観察するようにアサシンクロスの後姿を目で追う…
…まって。ちょっとまって。あれは…
あれは…エレメス=ガイル!?
私はすぐに気配を隠すのをやめ、後から声をかける。
「エレメス!」
ばっと振り向いたエレメスが、戦闘態勢を取る…が、私に気づいたようだ。
すぐにカタールをだらりと下ろした。
「なんだ、お主でござるか」
なんだじゃないわよ!あんた今まで一体何処に行ってたの!
いわゆる同期生として、過去何度も仕事を一緒にこなした。
それだけではなく、プライベートでも簡単な話相手にはなってくれていたエレメスが、
姿を消してもうどれくらい経ったろうか?
「久しぶりね…でも、随分そっけないじゃない」
ちょっと拗ねた表情を作ってみる。
「残念ながら昔話をする時間もあまりござらぬゆえ、許して欲しいでござるよ」
意に反してエレメスは、私とゆっくり再会を喜んでくれる気は無いようだ。
「何よ、バカ…私どれだけ心配したと思ってんのよ…」
やるせなさがこみあげてくる。
でも、それもそうか、1人でふらっと何処かへ消えたのはきっと、彼の意思なのだから。
俯き気味に目を伏せる。
そこに切迫したエレメスの声がかかった。
「後だ!」
「え、何!?」
すかさず体を反転させながら前に飛び、後方を確認する。
つい先ほどまで私の居た位置、床には矢が突き刺さっていた。
同時に、「あーっ、外したじゃない!」なんて元気のいい女の声がした。
「ちょっと、何これ?誰よ!」
声のほうを睨むと、すらりと細身の体をした金髪のスナイパーが姿をあらわす。
「エレメス、何で教えちゃうのよ!イイトコだったのに!」
なんだか怒っているが、怒りたいのは私のほうだ。
「貴女ねぇ!どういうつもり!?やりあいたいなら相手になr…」
言いかけたところで、後からエレメスに口を塞がれる。
「セシル殿、ちょっと諸事情があるゆえここは拙者に任せるでござるよ」
「はぁ?何よ諸事情って!ちょっと、何抱き寄せてんのよ!まさかその侵入者を…」
「そんなわけないでござろう、ああそうだセシル殿、さきほど姫がセシル殿の部屋へ
 遊びに行ってたでござるよ。あの調子じゃ勝手に入ってるでござるな」
「え、嘘っ!?こ、ここは任せるわエレメス!じゃあね!」
訳のわからないままバタバタとスナイパーはどこかへ走っていった。
判ることといえば、彼女とエレメスは知人の仲であるということ、
エレメスは相変わらず仲間の(恐らく)女プリーストを姫と呼んでいるということ、
そして、彼女の言うとおり、今の格好はどうみてもセクハラだと言う事くらいだ。
「ぷふぁ、もう、何?今のはっ、ちょっと説明してよ!」
腕を振り解いて、エレメスに向き直る。
「どうもこうもござらん、お主はさっさとココから立ち去るでござる」
口調はこのとおりだけど、目は真剣に私を睨んでいた。
ぞくり、と背筋が凍る気がする。
「どうして…?そんなに邪魔されたくない…?」
息を飲みながら、問い返す。
「拙者はお主にまだ死んで欲しくないでござるよ、ましてや自分の手にかけるなど考えたくもござらん」
何を言っているの?エレメスは…死ぬ?自分の手にかける?
ちょっと頭が混乱しはじめたかもしれない。
「まって、ちょっと…順序だてて説明お願い」
手を前にだして、待ったの意を示す。
「お主、何しにココへきたでござるか?」
エレメスが私にそう問う。どうやら今度はエレメスが困惑しているようだ。
「何って…妙な生き物が徘徊してるとか何とか…ウワサを確認にきたのよ」
「ああ、それ拙者たちでござるよ」
エレメスがしれっとそう言う。
「へ?」
我ながら、とぼけた声を出してしまった。
「先ほどのスナイパーも同じでござるな。ほんとセシル殿はお主にして扱いやs…いや、
 話しやすいでござる。何となく昔を思い出すでござるよ」
一瞬失礼なことが聞こえた気がするのだが、あえて無視しておこう。
きっとツッコミ待ちに違いないのだから。
「あなたたちが妙な生き物?」
「ツッコミなしでござるか」
やっぱりツッコミ待ちかいっ!
ああ、もう、無視無視!こういうときの貴方ってさ、
「何を誤魔化してるの?」
「…セシル殿ほど単純ではないでござるな」
「貴方いつか射抜かれるわよ」
「うむ…そろそろ危険でござるな。何気に地獄耳でござるゆえ、
これまで何人のスレ住民が犠牲になったか…」
「意味わかんないこと言ってないで、説明して」
エレメスのペースに乗せられてはならない。
私は話を無理に続けさせる。
「研究については何処まで知っているでござるか?」
「一通り…酷い話よね」
「そう思うのなら、拙者たちのことはそっとしておいてほしいでござるよ」
「…は?」
「拙者、結構ここの生活は気にいってるでござる。侵入者が来なければ、
もっと楽しいでござるが」
…混乱しつつ、線が繋がってきた。
もしかして、ホントにそういう…
「…研究の成果、ってわけ?」
「端的に言えば、そうでござるな」
空気が緊張する。
私はもっと、そう、ガーディアンのような…そういうものだとおもっていたのに。
「酷い…」
「そう酷い酷いいうものではないでござるよ、拙者の今の生活でござるゆえ」
「…そうね。悪かったわ…」
「仕方が無いでござるよ、こうなってしまった以上、拙者は今の生活を楽しむでござる」
どこか、遠い目をしてそう言った。
エレメス、貴方さ、やっぱり思い出したくないんじゃない?
私と話せば昔を思い出す、幾ら今の生活を楽しんでいたって…それは現実逃避でしょう。
でも、どうにもならない現実からは…逃避するしかないのかもしれない。
私は何も言えなくなる。
ただただ、状況を頭で整理しながら、かける言葉を選んでいた。
「さて、もういくでござるよ。わかっているでござろう?アサシンは仕事とあらば、
たとえ身内でも殺す。そして拙者たちの仕事は…」
「侵入者の排除、ね…」
エレメスは黙って頷いた。
「わかった、もう行くわ。ゆっくり出来なくて残念だけど」
「こちらこそ、からかって…もとい、かまってやれずに申し訳ないでござる」
ちょっと、貴方今ものっすごいからかったでしょ!?
ああ、だから訂正したのか、なるほど。
って、そう言う問題じゃないわよね!?
…そう、また、何か誤魔化してるだけなんだから。
「そのうち構ってもらいに来るから」
「それは…困るでござるな」
「バカね、そのうち、って言ったじゃない。丁度いい冒険の目標が出来たわ」
「そのうちでござるか…そういえば拙者には無限の時間があるでござるが…」
「あんまり私の歳が離れすぎないように祈ってなさい!」
「拙者には姫がいるでござる」
「どーだか、どうせ邪険にされてるくせに」
「き、聞き捨てならないでござる!そこになおれ!たたっきってやるでござる!」
「キャー!エレメスが怒った!逃げろーっ!」
私は入り口へ走り出す。
伝えるべきことは伝えた。
ゆっくり出来なかったのは残念だけど、もうこれ以上の会話は要らない。
「いいか、死ぬなよ!俺は死んでいる身だ、自分を優先しろ!」
背中から声がかかる。
バーカ、死んでる身なんでしょ?ボーレイの言う事なんて、聞いてやるもんですか!
正直私には荷が重いけど…やりがいのある目標じゃないの。
さてまずは、レッケンベル社の調査からはじめようか。
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