「始め!」
セニアの右手が振り下ろされた瞬間、真っ先に動いたのはエベシ。
光の壁が、私を包み込む。
「ニューマ!速度増加!ブレッシング!」
同時に眼前に叩き込まれた矢を光の壁が弾き飛ばす。
一直線に私は「敵」に向かって駆け出す。魔法も弓も私には鬼門だ。
一気に叩く。
「ソウルストライク!!」
無数の太古の精霊が襲い掛かる。

回避、不能・・・

ガードしながら、再び距離を測る。近づけなければ話にならない。
「エベシ。引き付ける。後、お願い」
「了解しました」
目でタイミングを取り、再び私は間合いを詰める。
「無駄無駄無駄ぁ!SS、SS、SS、SS!!!!」
「矢打ちっ!」

必死にガードを固めつつ、一歩づつ歩を進める。あと一歩・・・

攻撃が私に集中した瞬間に、背後からドンッと衝撃音が起こる。
モンクの歩法。残影。
いきなり現れたエベシがラウレルのわき腹に右拳を叩き込む。
重い一撃。いや、三撃。流れるように打ち込まれる拳に耐え切れずラウレルは膝を付く。

バックステップで一気にカヴァクの背後を取る!つま先に力を込めた瞬間。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

私の覚えているのは、カヴァクのヒステリックな声が聞こえたその瞬間までだった・・・

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「お疲れ〜。ほい、麦茶。」
笑顔でコップを差し出すアルマ。
訓練室の壁際で、アルマは再び戦闘に目を向ける。
今は、カヴァク&セニア組VSエベシ&ラウレル組の戦闘が行われているようだ。

このところ、侵入者のレベルも上がってきている為、定期的に私たちは模擬戦を行うことにした。
連携強化。個人技術の向上。そして・・・
「自分の弱点ねぇ・・・。わかってるってば」
そっとため息をつく。独り言のつもりだったが、アルマには聞こえてしまったようだ。

「相性も悪い相手二人だったしね。今回はしょうがないかな?」
アルマは自分のポーチからごそごそと怪しげなビンを取り出す。
「おいで。ジオ花子」
床にその奇妙な液体を振りまくと突如、ジオグラファーが出現する。
ほわん・・・ほわん・・・
暖かな光が私の傷を塞いでいく。
「どう?かわいいでしょ」
かわいいかどうかはさておき、ニコニコとうれしそうにアルマはその花を撫でながら続ける。
「私も戦闘力って意味ではさ、行き詰って着ちゃった気がするんだよね〜」
アルマは再び戦闘に目を向けた。
「エベシは確実にレベルアップしてるね。転職し終わったカヴァクも格段に強くなった。」
「そうね」
「ラウレルは転職したけど、SSごり押しは昔のまんま。バリエーション少しが足りないかな」
「そうね」
「セニアも強くなってると思うけど、『お兄様』がお手本の間は伸び悩みかな。あ、これ内緒ね」
「そう・・・ね・・・」
ちょっと意地の悪い笑顔で、的確に分析しているアルマを見ると、私からも彼女の成長が見えてくる。
商人の観察眼というよりは、化学者のような冷静な分析だ。

部屋の中央からまぶしい閃光が走り、激しい衝撃波が壁を震わす。
「グランドクロス!!」

「はい!そこまで!!」
アルマの宣言と同時に、気絶したラウレルにジオ花子がヒールを飛ばし始めた。
「ふーん、ちょっとセニアの評価も変えなきゃだめかな?」
「そう・・・だね・・・」
私だけが、取り残されてる。
沈んだ気持ちを、表情に出さないように、私は明るい声を無理に絞り出す。
「さてと。評論会やろう!みんな、おつかれさま!」


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一人、誰もいなくなった訓練室で私は考える。
より早く、より確実に・・・。敵を倒す。

木製の短剣をダミー人形に打ち付ける。当る瞬間に、持ち手を逆手に返す。
肩、肘、手首を連動させて初撃と変わらない威力を保つ。
ダブルアタック。何度も練習してきた技。
すばやく3歩下がる、一瞬で180度体の方向を入れ替えてそのままバックステップ。
一気に人形の背後に回りこみ、毒を塗った短剣を正確に叩き込む。
インベナム。

一撃の威力が・・・足りない・・・。

集中。
ダミー人形を睨みつけ、頭の中にある人物を描く。
危険な殺気を全身から放ちながら、短剣の軌道をイメージ。
8つの光の軌道を正確に、早く、トレースしていく。
「ソニック・・・ブロー!!!」

切り刻まれた人形を前に、思わずため息をつく。
「無理でござるよ」
気配すらない場所から、不意に声が掛かる。
「拙者でも、短剣ではその速度には達しない。そこまで見えていただけでも、驚きでござる」
「兄貴・・?いつから?」
珍しく、真正面から真剣な目を向けてくる兄貴。
「頑張っても、短剣では無理でござるよ」
もう一度兄貴は、ゆっくりと繰り返した。
「で、でもさっ。いくら避けても避けきれない!近づけても倒しきれないっ!」
「トリス・・・。」
私の肩にそっと手を乗せながら、淡々と兄貴は話続ける。
「トリス。人には向き不向きがあるでござる。拙者が魔法攻撃をしないように。カトリ殿が
 接近戦をしないように。トリスにもきっと、自分にあった方法が見つかるでござるよ」
「でもさっ。ラウレルの魔法は近づくことも出来ない!カヴァクの弓矢も避けられなかった。
 模擬戦じゃなかったら、あれが模擬戦じゃなかったら!このままじゃ私だけみんなの足手まといでっ!!」

ふっと、兄貴の気配が消える。正面にいた兄貴の声が、突如背後から聞こえる。
「前に見せた移動術・・・。あれは結構良い感じだったでござるなぁ・・・。」
ぽりぽりと、頬をかきながら、少し目をそらしながら、兄貴はつぶやく。
「それと、・・・ソニックブローはカタールの技でござるが・・・剣技なら・・・どうでござろうなぁ・・・」

「独り言でござるよ」
それっきり、兄貴の気配は完全に消え去った。
「ありがと・・・。おにいちゃん・・・」

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翌週の訓練の日。
珍しくトリスが相手を指名した。
「私の相手は、ラウレル。あんただからねっ!」
「OK!」

「じゃ、いくよ〜。始めっ」
私から見ても先週の訓練のあと、どん底まで沈んでいたトリスの表情は夕食後にはすっかり晴れていた。
いつものように、救護用に愛しのジオ花子を召還しながら部屋の中央で向き合う二人を見つめる。


『お兄様』がお手本の間は伸び悩みかな。

先週私がトリスに言った言葉。
言い換えれば、『おにいちゃん』がお手本のままなら、伸び悩むんだよ。トリス。


開始と同時に、トリスは距離を置く。ラウレルの魔法攻撃の間合いよりもさらに遠く。
「逃げてちゃ勝てないぜ!」
間合いを取りつつ、ラウレルは詠唱を始める。
「さぁさぁ、沈め沈め沈めぇぇぇぇぇぇ!ソウルストライk」

「ハイディング!」
トリスの姿が消える。すかさず呪文を詠唱しながら、ラウレルはトリス隠れた地点へと進む。
「ハイドしたって意味ねぇって言ってんだよっ!!!へブンズドライブ!」

「そうでもないんだよね・・・」
返事はラウレルの耳元から聞こえる。トリスが現れたのはラウレルの背後だった。
「甘いのは、あ・ん・た。これなーんだ?」
「あ゙ぁ゙、てめぇ俺の杖返せ!!!」
からーん、と私の前に、ラウレルのスタッフオブウィングが投げ捨てられる。
「アルマ、それ売って山分けだ」
「OK、親友。まかせといて。」
「まてぇぇぇ!オマエラァ」

すっかり、トリスのペースだ。そう、その明るさも、突飛な発想もあんたの武器なんだよ。

逆上したラウレルは再びヘブンズドライブの詠唱に入るが、いつもよりも詠唱が遅い。
バックステップで一気に懐に侵入したトリスの短剣が凶悪な殺気を放つ。
「ふむ。完成したかな・・・。」
それまで黙っていた聖騎士がつぶやいた瞬間。

ボ ー リ ン グ バ ッ シ ュ !!

どかーんと盛大に壁にめり込んだラウレル。ポカーンと眺める2F一同。
「兄上の技・・・?」
「武器まで盗まれちゃなぁ・・・矢打ちもできねぇ。」
「はい!それまで! ・・・ってか、生きてる?ラウレル?」
慌ててラウレルの駆け寄るエベシの横を素通りして、トリスがこちらに駆け寄る。
両手を広げて、笑顔で迎えるエレメスさんの横もさらに素通りして・・・
「・・・あれ?でござるTT」
「ありがとうございます!セイレンさん!!」
「よく、習得できたものだ。騎士の立場では微妙な気分だな・・・」
がっくりとうなだれながら、退室していくガイルさんをよそに、うれしそうにセイレンさんと語るトリス。

うん、頑張ったね。トリス。あと、ガイルさんなむ。

次の対戦が始まった時、トリスが不意に入り口に向かって小さく呟いたのが、聞こえてしまった。
「ありがとね。おにいちゃん」

出て行ったはずのガイルさんの気配が一瞬だけ背後に感じたような?
まったく、このひねくれ兄妹は・・・・


おしまい
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