いつもより、ほんの少しだけ早く風呂に入った日。
私は初めて、その歌声を耳にした。
この時間だと、火を落とすのが早い女湯の方は、湯が冷めてしまっているので、男湯の方へ回る。
大体決まった時間に入浴を終える女性陣に対して、男性陣はそれこそ思いつきのように、気まぐれな時間に入ったりするので、
かなり遅くまで釜の火が入りっぱなしになっているのだ。
まあ、私がいつも入っているような時間になると、流石に男湯の火も落とされている事が多いのだが・・・
それでも、女湯の湯よりは、まだまだだいぶ暖かい。
温めの湯に手足を伸ばして、のんびりと長く身を浸すのが好きな私には、程よく温まったお湯は、返って好都合でもあった。
普段なら、こんなに遅い時間になってから風呂に入るのは、私くらいの物だ。
だから私は、物怖じせずに、「男湯」と大書きされた脱衣所の扉をがらりと開いた。
と、入ってすぐ、壁際の籠が一つ、使用されているのが目についた・・・珍しい事に、まだ誰か入っていたらしい。
仕方ない、もう少しだけ時間を置いてから来るか・・・そう思った、まさにその時だ。
浴室の方から、「その歌」が、聞えてきたのは。
それを耳にした者なら、誰でも足を止めて聞きほれてしまいそうな・・・そんな、透き通るような声。
歌うのは、切なくも、美しいアリア。
親しき友との離別、やがてくる己の死・・・そして、生命の喜びを歌った、あるオペラの中の一節・・・
必要な音域もかなり広く、技巧的にも相当な熟練を要する・・・かなりの難曲だ。
しかし、風呂の中の歌い手は、その事実をまるで感じさせないくらい、情感を込めて、見事に歌いこなしている。
これは、いったい何者だ?・・・声量の豊かなアルト。そして、少なくとも、今までに聞いた事のない声・・・
だが、侵入者が、こんなにのんびりと、風呂に入っているとも思えない。
・・・正体を確かめる必要があるな。
せめてこの曲は最後まで聞いていたい・・・そんな思いを振り切って。
足音を忍ばせ、着替えの入った籠へ近づく。
中に入っていたのは、ざっくりしたローブと、男物の下着類・・・そして・・・
そこにあった物が指先に触れた時・・・私は、思わず我が目を疑った。
思わず、浴室の方に目を向ける。
クライマックス・・・朗々と、高らかに歌い上げる、生命への賛美・・・思わず、ため息が漏れるほどの・・・
こいつが・・・まさか、こんな綺麗な声の持ち主だったなんて・・・
意外・・・確かに、意外ではあったが・・・もう、危険はどこにも無いと、はっきりわかった。
安心した所で、脱衣所の壁に寄りかかって、この素晴らしい一時に、頭からどっぷりと浸りこむ。
良い音楽に触れている満足感が、体中にじわじわと広がり、なんとも心地よい気分になる。
そして、とうとう最後の一小節・・・最後の音、その余韻が、浴室の壁に反響しながら、ゆっくりと消えていく。
その響きが、すっかり消えてしまうまで待って。
私は、ゆっくりとと浴室の戸を開き、"謎の歌い手"に、惜しみない拍手を贈った。
「ッッ!?」
背中を向けて、湯船の端に腰掛けていた彼は、思いがけない拍手の音に、飛び上がらんばかりに驚くと、慌てたように、
ものすごい勢いでこちらに向かって振り向いた。
「すまん、盗み聞きするつもりはなかったんだが・・・あまりにも見事な歌だったので、ついつい聞きほれてしまってな」
私が、笑いながら謝罪を口にすると、彼は湯船の淵に腰掛けたまま、憮然とした表情で、私を思い切り睨みつけた。
「・・・手前ぇ・・・聞いてたのか・・・」
「ああ、大体の所は、な・・・本当に良い歌だった・・・でも、お前が、こんな堅苦しい曲を知っていたとは・・・
それに、素晴らしい声をしているんだな・・・正直驚いたよ」
「う、うるせぇ・・・忘れろ・・・」
私が素直な感想を伝えると、謎の歌い手・・・魔術師ラウレル=ヴィンダーは、ぷいっと壁の方に顔を向け、
がしがしと自分の頭をかきむしって、湯船にざぶんと飛び込んでしまった。
・・・湯気でよく見えないが、もしかしたら、耳まで真っ赤になっているのかもしれない。
思ったよりもシャイなやつだ・・・別に、隠す事でもなかろうに・・・あの声は、胸を張って自慢したって良い位だ。
「あ〜・・・俺とした事が、油断しちまったぜ・・・」
程なく、湯船から顔を出したラウレルは、ため息をつきながら立ち上がり、ぺたぺたと脱衣所まで歩いてきた。
「なんだ、もうあがるのか?・・・アンコールは無しというわけか・・・そいつはかなり残念だ」
すれ違いざまに声をかける・・・本当に、心から残念だと思ったのだが・・・ラウレルはそうは取らなかったらしい。
「忘れろって言ってんだろ!?・・・俺は歌なんか歌ってないし、お前も何も聞いてない!!・・・いいな!?」
からかわれたとでも思ったのか、私に向かってびしびし指を突きつけながら、ぷりぷり起こって怒鳴り散らす。
そしてそのまま、おざなりに体を拭き、さっさと着替えを済ませると、私の方を軽く睨んでから、足早に立ち去ってしまった。
誉めてやったというのに、ずいぶんなご挨拶だな?・・・しかも、レディの前だというのに、無防備に腰のビッグ・マグナムを
ぶらぶらさせおって・・・もろに見てしまったではないか・・・まったく、失礼なヤツだ。
ああ、いや・・・なんというかその・・・それほどじっくり観察したというわけではなくてだな・・・いきなりだったので、
ぴっくりして・・・目を逸らす余裕が無かったというか・・・どうなってるのかな〜?とかって、ちょっとだけ興味が
無いわけでもなかったと言うか・・・つい好奇心が抑えきれなかったと言うか・・・不可抗力ってやつで・・・ね?
あー・・・えっと、そう!ノーコメント!ノーコメントだ!!・・・そのあたりの事については、ラウレルの名誉のためにも、
これ以上の発言は控えさせていただく!!・・・私が恥ずかしいからじゃないぞ?ラウレルの名誉のためだ、全面的に!!
つまりだ!要するに、悪いのはラウレルの方って事なんで!!・・・そこんとこ、間違えないようにヨロシク!!
あーもう!!ラウレルは悪いやつだなほんとにまったく!!
・・・さあーて!!納得した所で、さっさとお風呂に入らなきゃ!うん、そうだね、そうしよう!!
私は、変に火照ってくる頬をぺちぺちと叩いて冷ましながら、手近な籠に手を伸ばした。
・・・閑話休題。
のんびり頭と体を洗い終えた後、温い湯にゆったりと浸かりながら、つい先程の、驚くべき出来事について思いを馳せる。
・・・そう、あの「象さん」は、世間的に見て、果たして大きいのか小さいのか・・・形や色は、あれが普通なのか・・・
いや!?そっちじゃなくてさ!?歌!!もちろん歌の方ですよ!?・・・そうですよね!!とっても綺麗な歌でしたからっっ!?
あーっっ!!もうっっ!!・・・象さん退散っっ!!・・・さっさと帰れ!!アフリカにでもインドでもっっ!!
・・・まったく、今日はちょっとお湯が熱過ぎるんじゃないのかなぁ!?あーもう、ラウレルのばかっつらーッッ!!
※アホ乙女がじたばたと身悶える、見苦しい場面が続いております。大変恐縮ですが、しばらくそのままでお待ちください。
・・・閑話休題2nd。
言葉にするのは難しいけど・・・敢えて例えるならば、そう・・・魂が、惹かれて行くような・・・そんな歌だった。
すっかり温くなったお湯に、ゆるゆると体を伸ばして浸りながら・・・「あの歌の歌詞!!」「あの歌の一節!!」
そして「あの歌声!!」そう、「美しい歌声ッッ!!」を思い出してみる・・・他の物の事なんかは、全く、ぜんぜん、
これぽっちも考えていません・・・本当ですよ?
(こほん)・・・えーっとそうそう・・・魂が、惹かれて行くような・・・そんな、歌だった・・・(遠い目)
普段のラウレルからは、とても想像できない・・・喜びも、悲しみも・・・全てを柔らかく包み込むような、あの声・・・
思い出しながら、うっとりと目を閉じて・・・思わずため息が漏れた。
歌も素晴らしかったが、あの曲には、確か踊りもついていたはず・・・どんな踊りなのか、そこまでは私にはわからないけれど。
でも、あの歌に・・・あの声に合わせて踊ったら、きっと気持ち良いに違いない。
踊るのは昔から好きだった・・・もっとも、先程のラウレルの歌と比べたら、悲しくなるほどお粗末な腕前なので、とても、
胸を張って、誰かの前で披露できるような代物ではないのだが・・・それでも、毎日こっそりと、練習だけは積んでいる。
・・・気がつくと、湯の中で揺れるつま先が、自然にリズムを取っていた。
深夜の浴室・・・幸いにも、人目は無い。
「・・・よし、やってみるか!」
ちょっと思い立って、勢い良く湯船から上がる。
チュチュの代わりに、長めのタオルを巻きつけて。
ラウレルが歌ったあの歌を、丹念に頭から思い出してみる。
思い出しながら、浴室内の、おけや椅子を、端っこにまとめて寄せて行く。
広さは十分あるとはいえ、唯でさえ滑りやすい浴室内・・・障害物があっては、流石にちょっと危険すぎる。
もともと、散らかっていたわけではないので、片付け自体はすぐに終わった。
出来上がった「舞台」の中央に立ち、今度は体全体で、軽くリズムを取ってみる。
口ずさむ、二回目のリフレイン・・・そこで、右足が、すっと自然に前へ出た。
誰もいない浴室、立ち込める湯気の中・・・腰に長めのタオルを巻いた、ちょっとマヌケな格好で、切ない切ない「パ」を踊る。
私の頭の中で、ラウレルが歌う・・・その声に合わせて・・・種々様々の情感が、次々と体に満ちて、溢れ出す。
惜別のグリッサード。悲しみのアティチュード・・・そして、喜びのピルエット。
何も、考える必要など無かった・・・次のステップは、歌が教えてくれていた。
最初の不安が、まるで嘘のように。自分でも驚くほど、高く高く足が上がる。
手に、足に、全身に・・・踊る喜びが満ち満ちて、それでも足らずにほとばしる!
今ほど、手元にトゥシューズが無いのを悔やんだ事は無い。
ああ・・・フィナーレが近い・・・なんという事だ!!・・・もっと踊っていたいのに、いつまでも踊っていたいのに・・・
歌は少しずつ、でも確実に・・・止められない終わりへと、突き進んでいく。
・・・そして遂に、その瞬間はやってきた。
物語全てを包み込む、儚くも美しいアラベスク・・・そこから、一気に足を踏み変えて、回る、跳ねる、舞い踊る!!
その勢いを保ったまま、思い切り良く踏み切って、跳ぶ!!跳ぶ!!飛ぶ!!
・・・歌の高まりと共に、風を切って、高く高く・・・
この足が、次に地面についた時・・・それがこの物語の終わり。
ああ、終わる!!終わってしまうっっ!!・・・この素晴らしい物語は、遂に終わってしまうのだ!!
なんとも言えない恍惚感と寂寥感が、やんわりと全身を包み込んで行く。
この歌の終局にふさわしい・・・優美なきらめきを放つその場所が、ついに、ついに見えてきた・・・
さあ、いよいよだ・・・フィナーレッッ!!!!
・・・と、そこではたと気がついた。
照明を照り返して揺れる優美なきらめき・・・この光景・・・この場所は・・・
どう見ても湯船です。本当にありがとうございました。
「うぉぶあっ!?がぼがぼがぼがぼ・・・」
私は、これ以上は無いと思える程の美しい放物線を描きながら。勢い良く、心地よいぬるま湯の中へと突っ込んでいった。
「たぱーん。」という愉快な音とともに、盛大な湯柱をぶち立てて。
・・・なお、慌てたあまり空中でバランスを崩し、顔面からのダイブとなった事を、心より恥じる。
あいたたたたた・・・鼻打った・・・・・・良かった・・・誰も見てなくて・・・
よろよろと湯船の中で身を起こし、自分の体の隅々まで、順番に確認していく。
幸い、どこにも怪我はしていないようだ・・・良かった・・・理由があれでは、エベシにヒールを頼むのも恥ずかし過ぎる・・・
そう・・・自分でも、恥ずかしいとは思うのだが・・・
落っこちた湯船のど真ん中に座り込んだまま・・・そのままの姿勢で、ばったりと、後ろ向きに倒れこむ。
すっかり温くなったお湯が、今度は優しく私の体を受け止めてくれた。
湯船の中をぷかぷかと、くらげのように漂いながら・・・たった今、自分が踊った、即興のダンスについて考える。
・・・あんな風に、もう一度・・・今度は、ちゃんとした舞台で・・・生の歌声に合わせて踊れたら・・・
そう思っただけで・・・胸がどんどん高鳴って行くのを感じる。
湯の中に仰向けに浮かんだままで、天井に向かって、ぐっと掌を突き上げる。
一度だけ・・・たった一度だけでもいいから・・・あの歌に合わせて・・・
「・・・ダメ元で、ラウレルに頼んでみようかな・・・」
ぽつりと漏れたつぶやきは、とても良い思いつきのように思えた。
翌日。
朝食の時間、私はラウレルを捕まえて、とにかく昨日の歌について、聞いてみる事にした。
「おはよう、ラウレル・・・昨日風呂で歌っていた歌についてなんだが・・・」
すると、もう間も無くに朝食だと言うのに、いきなり腕を掴まれて、人気のない廊下に連れ去られてしまった。
「・・・歌が、どうしたって?」
「ああ、昨日お前が歌っていた、美しいアリアについてなんだが・・・」
私が単刀直入に用件を口にすると、突然、私の言葉を遮るようにして、ラウレルが素っ頓狂な声を上げた。
「ハハハ、いやだなぁカヴァク君!!デスメタルでハードロックな俺様が、そんな歌を歌うわけがないじゃないですか!!
時間も遅かったし、きっと寝ぼけてグッドなドリームでも見たんデスよ!たぶん!いや絶対にそうだ!!間違いないッッ!!
・・・だから、忘れろ!!今すぐ!!即座に!!完膚なきまでに!!・・・そんな事実無根の出来事はッッ!!!?」
なんてわかり易いやつだ・・・あの歌を聞かれた事が、そんなに恥ずかしいのか?・・・正直、理解に苦しむのだが・・・
「しかし、昨日確かに・・・」
「歌ってねぇッって言ってんだろうがコラァァァッッ!!!???」
てんぱったラウレルの回りの空間から、次々と太古の霊が染み出してくる。
「OKラウレル、時に落ち着け・・・ソウルストライクは勘弁してくれ、当たりでもしたら流石に痛いぞ?」
両手を広げて、「降参」の意を表明すると、ラウレルは私に向かって勢い良く人差し指を突きつけた。
「これ以降、この件に関しては質問禁止ッッ!!あと、誰かに言うのも禁止ッッ!!・・・いいなッッ!!?」
「・・・いいだろう」
しぶしぶながら、私が同意してみせると、ラウレルは、鼻息も荒く、自分の席へと戻っていった。
死人に口無し、とばかりに、文字通りの口封じをされてしまっては、みもふたも無い・・・
それに、私は彼を怒らせたいわけではない・・・気持ち良く歌ってもらいたいだけなのだ・・・
さてさて、いったいどうしたものか・・・
楽しい朝食の時間。
少し離れた席に座ったラウレルは、こちらを横目でちらちらと窺いながら、仏頂面で、パンにコーンバターを塗りたくっている。
やれやれ、ずいぶんと「信頼された」ものだ・・・
隣のトリスが、向かいのアルマが・・・それぞれ、ラウレルにわからないようにこっそりと、「なんかやったの?」
と異口同音に問い掛けてくる。
問いかけてきたりはしない物の、「あの」セニアとエベシでさえ、なんだか様子がおかしい・・・と、感づいてはいるようだ。
まったく・・・せっかくこっちが黙っていてやっていると言うのに、自分で疑念のタネを撒いてしまってどうする気だ・・・
「さあ、どうだろうな・・・さっぱりわからん」
私は、皆に対して、軽く肩をすくめて見せた。
隣と向かい側から聞える「なによそれー」という講義の声は、知らぬ、存ぜぬの一点張りでごまかす事にする。
さっきの様子からしたら、誰かに事情を話したのがばれれば、即座に報復のSSが飛んでくるだろうしな・・・まず間違いなく。
・・・ここは正攻法で行くしかない、か・・・
ラウレルの方に目を向けると、偶然にも視線が合った。
とりあえず、にっこりと微笑んでみる・・・なんだよ、そんなに睨まなくたっていいじゃないか。
ラウレルは、二枚目のパンに取り掛かった・・・もうこっちを見ようともしない・・・取り付く島もなさそうだ。
仕方が無いので、こちらも自分の食事に専念するとしよう・・・注がれる好奇の視線を黙殺しつつ、
そ知らぬ顔で、暖かなスープを流し込む。
やれやれ・・・なんだってこんな事に、こんなにも、一生懸命になっているんだかな、私は。
我ながら、自分でも良くわからない。
仏頂面のラウレルと、なんとも不思議そうに、キョロキョロと行き交う8個の瞳。
普段よりも、やけに静かな食堂の様子に、私は思わず苦笑した。
・・・そしてこれが「閑話休題3(スリー)」だ・・・時間がかかってすまない、この展開には、まだ慣れていないんだ・・・
数日にわたる地道な調査活動によって、ラウレルが、私と同じく、夜遅く一人で風呂に入る事が多い事を突き止めた。
ならば事は簡単だ・・・ラウレルが一人で風呂に入るのを確認してから、脱衣所に忍び込み、ヤツの気が緩むのを待つ・・・
そして、ヤツが歌い始めたとたん、偶然を装って声をかける・・・それも、日を変えて、何度も何度も繰り返し・・・
そうこうするうちに、いつしかヤツも、私の前で歌う事に慣れて行くという寸法だ・・・要は持久戦という事になるな。
多少手間はかかるが、現時点では、これがもっとも成功率の高い作戦だ・・・まあ、「ネットの住人の分析力を信用すれば」、
という、おまけつきの話ではあるが・・・自分では他に良い案も浮かばなかった事だし、やるだけやってみるとしよう。
先程、ラウレルが着替えを持って部屋を出たのは確認した・・・カムフラージュ用に、こちらの入浴装備も用意してある。
完璧だ・・・もはや万に一つも失敗する事は無い。
あー、でも・・・また象さんが出てきちゃったりすると、ちょっとだけ困るなぁ・・・
・・・いやいや、ディス○バリー・チャンネルの話ですよ?・・・私はあの番組が大好きで・・・本当ですよ?
平和な象さんの水浴びを邪魔してしまう事に、ちょっとだけ尻込みしそうになる・・・優しいなあ私って!!
そんな自分を叱咤激励するためにも、私は潜入調査のプロにあやかって、現在の状況を口に出し、気合を入れ直す事にした。
「こちらカヴァーク、たった今、観測ポイントに到達した・・・これよりミッションを開始する」
すると、元ねたが悪かったせいか、ありえない事が起こってしまった。
「・・・こちら本部、了解した・・・検討を祈る・・・それで、一体何をおっぱじめるつもりだお前は?」
た・・・タイムパラドックスだ!?
慌てて振り向くと、そこには予想通り、不信感を露にしたラウレル=ヴィンダー「大佐」が、腕組みをしながら立っていた。
何故だ!?・・・確かに私より先に、風呂場に向かったのを見たのに・・・通路は一本道で、途中にはトイレぐらいしか・・・
・・・OK把握、間違いなくそれだ・・・やっちまったよ・・・なんてべたなミスを・・・orz
がっくりと打ちひしがれる私に、ラウレルは容赦なく質問を浴びせてくる。
「俺は、「何をするつもりなのか」と聞いてるんだが?」
もちろん私は、かねてから用意していたテンプレ解答で切り抜ける事にした。
「ははは、嫌だなラウレル君、ここはお風呂なんだから、もちろん入浴をエンジョイしにきたにきまっているじゃあないですか」
だが、私の完璧な答えを信用した様子も無く、ラウレルはにやりと笑みを浮かべて見せた・・・
「おいおい、隠さなくてもいいだろ?・・・男同士なんだ、遠慮は要らないんだぜ?」
は?・・・男同士・・・?・・・隠さなくてもいい・・・?いったい何を言って・・・!?
・・・こいつッッ!!・・・もしかして・・・今までずっと気付いて無かったのかッッ!!
失礼な!!なんて失礼なやつだ!!・・・道理でやけに「むぼぅび」だったわけですよ!?
いや、確かに私も、男物ばっかり着てるけどさぁ・・・普通はわかるっしょ?・・・この匂い立つような色気とかでさッッ!?
それとも何か!!バレリーナ体型は男並に胸が無いと!!つまりはそういう風に言っているわけなんですかこのヤロウッッ!?
ガッデムラウレル!!この平原胸は弓手の誇りだっ!!偉いんだぞ!!姉さんだってぺったんこだ!!ばかにすんなッッ!?
アーチャー・ネバーダイ!!バレリーナ・ネバークライだッッ!!ふざけんなこのアフリカ象コンチクショウめッッ!!(つДT)
激しい怒りと羞恥心で、頭にカッと血が上る・・・だが、ラウレルはそれを、違う風に解釈したようだった・・・
「照れるな照れるな・・・観測ポイントとか言ってたって事は、どうせ覗きでもしようってんだろ?・・・俺も乗るぜ!!」
「・・・は?」
あまりにも予想外の事を立て続けに言われたので、またしても、ラウレルが何を言っているのか理解するまでに、
少々時間がかかってしまった。
「いやー、無口でキザでイヤミなだけのヤツかと思ってたら、お前も案外むっつりだったのな・・・エベシが相手じゃ
こういう話もできねぇし、エレメスさんだと生々しすぎてきついしよ・・・やっぱり、健全な男は、こうじゃないとな!!」
うっわー、ラウレルってば、なんだかすっごくうれしそー・・・っていうか、無口でキザでイヤミって何さ・・・orz
「ふむ、私はそんな風に見られてたのか・・・ちょっとショックだな」
「だってよ、お前、自分の事「私」なんて言ってるし、女共とは割と仲良くしてるくせに、あんましゃべんねーしさぁ・・・」
いや、あの・・・そこに、「無口な女の子」っていう選択肢はなかったのでしょうか?・・・これっぽっちも?ぜんぜん?
無いよね〜・・・今もわかってないし?・・・そっかそっか・・・仕方ないよね・・・ははははは・・・はは、は・・・はぁ。
余りのショックに打ちひしがれる私を、ぶっちぎりで置き去りにして、ラウレルは妙に上機嫌だ。
「まあいいや、何する気なのか知らねえけど、細かい話は中でしようぜ・・・んじゃ、お先〜」
言うなり、ぽいぽいと服を脱ぎ捨てて、さっさと浴室の方へと行ってしまった。
中でって・・・中で?・・・え?・・・ええっ!?・・・ゑゑゑゑぇぇぇッッッ!!!???
たちまち、浴室の中から、ざばざば・・・かぽーんと、のどかな音が響いてくる。
私ののどはカラカラに渇き切り、心臓がぶっ壊れるんじゃないかというくらいに脈拍が速くなってきた。
やばいっすよ・・・このままだと、もしかして私死んじゃったりするんじゃない・・・?
どうする・・・どうしよう!?・・・どうすればっっ!!
「どうしたー?はやくこいよー」
シンクロニティで四段活用ッッ!?・・・って、なんで驚いてるんだろう私・・・落ち着けー、落ち着けー・・・
「ちょ、ちょっと待て・・・心の準備が」
返事だけして深呼吸・・・困った時は深呼吸・・・落ち着けー、落ち着けー、落ち着けー・・・
いっそ「私は女だ」って、正直に言ってみるか・・・いや、でもそうすると、何を覗くつもりだったのかって思われるだろうし、
何よりも、「口で言わなきゃわかってもらえない」と、自分で認めてしまうようで、なんだかやけにしゃくに障る・・・
プライドと羞恥心の間で頭を抱えて悩んでいると、浴室の方から、ひときわ大きな水音が聞えてきた。
思わずびくっとして飛び上がる。
「うぃ〜・・・」
うわ、ラウレルおっさんくさ・・・もう体を洗い終わったのか・・・
〜〜〜〜♪
あれ?・・・この前とは違う曲・・・鼻歌だけど、なんだかやけに楽しそうな・・・?
・・・この前は、「歌を聞かれた」ってだけで、ものすごい剣幕だったのに・・・
もしかして、さっきので警戒心が無くなった?・・・男同士だと思ったから・・・?
もしかして・・・もっと仲良くなったら・・・歌ぐらい、楽勝で歌ってもらえる・・・かも?
もしかして、もしかしたら、もしかして・・・たくさんの「もしかして」が、頭の中でぐるぐる回る。
そうだ・・・私の目的は、ラウレルの歌・・・あの声を・・・もっと近くで・・・
「うおーい、なにもたもたやってんだ・・・あがっちまうぞ〜?
あーっ!!もうっっ!!
「・・・わかったよ!!入れば良いんだろ入ればッッ!!」
ええい!!女は度胸ッッ!!乙女なら、やってやれだッッ!!
私は、意を決して、シャツのすそに手をかけた。
・・・その日の事は、緊張していたせいか、ほとんど覚えてはいない。
ラウレルが後になって、「なあ・・・あの作戦は、やっぱちょっと無理なんじゃねえの?」と、引きつった顔で
言っていたので、そうとうむちゃくちゃな事を口走っていたらしい・・・いったい何言ったんだろ・・・怖いなぁ・・・
まあそれはいい、問題は・・・いや、その事自体は、結果を見れば、「良かった」とも思うのだが・・・
腰にタオルを巻いただけの姿で、一緒に入浴したにもかかわらず・・・女だとは、これっぽっちもばれなかった事の方・・・
正直、めっちゃ悔しい・・・言うなれば、屈辱の極みッッ!!・・・泣きてぇ・・・orz
おのれラウレル・・・乙女の小さな胸・・・うるせぇなッッ!!?誰が大平原の小さな胸だコラァッッ!!?
・・・もとい!!、乙女の繊細なハートを傷つけたこの恨み・・・いつかはらさでおくべきかッッ!!!(血涙)
乙女心という、多大な犠牲(?)を代償にしたおかげか、それからと言うもの、私とラウレルの距離は、
いっきにぐぐっと近くなった。
一度経験してしまうと、二度目からはそれほど抵抗も無く・・・いや、そういう意味じゃなくて、
単に、一緒に風呂に入ったりってだけですが・・・やましい事は何にもないです・・・ほんとですよ?
・・・いえ、何の事だかさっぱりわかりませんが、一応念のためという事で・・・
っていうか・・・互いの部屋にも頻繁に出入りし、時には何日も泊まったり、毎日のように一緒に風呂に入ったり、
一緒に馬鹿をやったりしたにもかかわらず!!それでもラウレルは、私が女だと言う事には、全く気付いたりしなかった!!
気付く気配すらなかったさ・・・それこそ完膚なきまでに!!
私の胸は、それほどまでに平らかね?・・・鈍感すぎるにも程があると思いますよ?ラウレル君よぅ・・・HAHAHAHAHAHA>(TワT)
まあ、多少思う所は有った物の・・・そうこうしているうち、いつしか私も、そんな状況が心地よいと思えるようになってきた。
ラウレルが語る、男の本音をぶっちゃけた丸出しトークには、感心する事、学ぶ事もなかなかに多かったし、
それよりも何よりも・・・遠慮なく互いの言いたい事をぶつけあうだけでも、毎日が本当に面白かった。
そこで、ある日、思い立って、一人称を、「私」から「俺」に変えてみた。
ただそれだけの事で、男としての扱い、男としての生活に、日々急速に慣れていく。
すると、不思議なくらい、胸の事が気にならなくなっていった。
今ではもう、『貧乳は恥・・・そう思っていた時期が、私にもありました・・・』くらいのもんですよ、ハハーン♪
・・・負け惜しみじゃないYO!?ほんとだよっ!!・・・うるせぇ!!しまいにゃ揉みしだくぞDカップどもめがッッ!!(TДT )
失礼・・・少々取り乱してしまったようだ・・・いいよねDカップ!!僕は大好きさ!!・・・HAHAHAHAHA・・・
ええっと何の話だったっけ・・・そうそう・・・そうして私が、男としての扱いに、すっかり慣れた頃。
冒険者達との戦いは、日々続いていたが・・・それでも・・・穏やかな日々が続いていた・・・そんなある日。
「二次転職をするとしたら、何になりたいか?」という他愛も無い問いに、エベシがぽつりと口にした、言葉。
「僕は、モンクになりたい・・・そして、誰よりも強くなる・・・皆を守れるくらいに強く・・・強くなるんだ、絶対に」
そうして、ぐっと握った拳を見つめるエベシの横顔は、驚くほどに強くて、真剣で・・・別人みたいに凛々しくて・・・
・・・普段はほにゃほにゃと、そこいらの女の子なんかより、ずっと可愛らしい顔で笑ったり・・・トリスの悪戯で
情けない悲鳴をあげたり・・・マガレさんに、無理やり女装させられたりしているくせに・・・
その横顔に「やっぱりこいつも、男の子だったんだな」・・・なんて・・・ちょっとどきどきしたりした。
「じゃあ俺は、教授になって、お前の手助けをしてやるよ!」
ラウレルが屈託無く笑う・・・本当に嬉しそうに、楽しそうに・・・
お前はどうするんだ?と、話を振られて考える。
いや、答えなんか、考えるまでもないじゃないか・・・
・・・そうだな・・・私は、もちろん・・・
「・・・それじゃあ俺は、サービスフォーユーで支援する」
そう口にして、悪戯っぽくにやりと笑う。
「おうよ!俺達マジ最強ッッ!!」
ラウレルは、機嫌よく笑いながら、私とエベシの肩を抱きよせ、天高く拳を振り上げた。
・・・やっぱりぜんぜん気付かんか・・・ハハハ・・・こやつめ・・・
いつか、私が女だって気付いたら、絶対にいじめまくってやる・・・オボエテヤガレコンチクショウメ・・・orz
「・・・ありがとう、二人とも・・・」
エベシが、ちょっと涙ぐむ・・・まったく・・・このエベシでさえ、当に気付いていると言うのにな・・・
鈍感すぎる相棒に・・・その嬉しそうな笑顔に・・・思わず苦笑してしまう。
今夜こそ、この失礼な相棒に、「歌ってほしい」と、頼んでみようか?
それとも・・・転職した後のお楽しみに、取っておくべきなのだろうか・・・?
まあいい、まだまだ時間はたっぷりある・・・ゆっくり考えてみるとしよう・・・
いつか、その時がきたら聞いてみたい・・・なんであの時、あんな歌を歌っていたのか・・・どこであの歌を知ったのか・・・
他にも沢山・・・聞きたい事は、まだまだいくらでも残っている。
まあいい・・・まあいいさ・・・いつか白状させてやる・・・いつか・・・きっと・・・
そんな、他愛もない事を考えながら。
力強く肩を抱く手の暖かさに・・・こんなのも、まあ、良いかな?・・・と。
本当に素直に、そう思った。
・・・
巡回終わって、夜もふけて・・・
「ふんふんふーん♪・・・ん?・・・何だよ・・・何、人の顔見てにやにやしてんだ?・・・気持ち悪ぃな・・・」
「いや・・・なんでもない、気にするな」
湯船の中のラウレルは、今日も鼻歌しか歌わない。
私はそれが、楽しいのか・・・それとも、残念なのか・・・最近では、自分でも良くわからなくなってきた。
・・・それにしても・・・ほんと、いつになったら気づいてもらえるのかねぇ・・・
私のため息と、ラウレルの楽しげな鼻歌は、立ち込めるミルク色の湯気の中に、仲良く揃って、ふわふわと吸い込まれていった。
>>>おまけ・・・あるマジシャンの手記。
エレメス「む・・・誰かの忘れ物でござるか?・・・ノートのようでござるが・・・どこかに名前は・・・」
ぺらっ・・・
May (´∀`), 20××
夜、食堂にいたカヴァクとエベシ、たまたま来ていたエレメスさんとポーカーをやった。
カヴァクの奴、やたらついてやがったがきっといかさまにちがいねェ。
俺たちをばかにしやがって。ふざけんな。
May (ΦДΦ ), 20××
今日、3Fのお偉方から姉ちゃんの食事の世話を頼まれた・・・どうにも財政難らしい。
腹が減ったら、皮をひんむいたゴジラでも構わず食っちまうような姉ちゃんだ。・・・姉ちゃん、マジで自重しろ。頼むから。
ハンバーグがいいってんで、安売りで買ってきた大量の牛肉を練ってたら、姉ちゃんは、俺のプリンをもぎ取ったり、
肉の焼ける端からばかばかと、俺の分まで平らげてから「ご飯まだ?」とかぬかしやがる。とりあえず、一升飯を炊いた。
追加でおかずも作ったが、結局、俺の分は塩ご飯オンリーになった・・・ふざけんな・・・orz
May (゚д゚ ), 20××
今朝5時頃、山ごもりみてえな旅支度をしたカヴァクに突然たたき起こされて、転職試験に行ってくると告げられた。
なんでも、かなり遠い所までいってこないとダメらしい。
ったく・・・カヴァクのやつときたら、夜も寝ないでインターネットばかりやってるからこんな時間になるんだ・・・
変な時間に起こされたせいで、俺まで目がさえて眠れねぇ・・・ふざけんな。
May (´・ω・`),20××
昨日からあのいまいましいカヴァクが出かけたままなんで、どうにも戦闘で調子が狂って、妙にキツイ。
いらいらするんで、腹いせに姉ちゃんのおやつを食ってやった。いい気味だ。
・・・と思う間もなく、ものすごい勢いでSG>JTコンボがどこからとも無く飛んできた。ふざけんな。
May (`・ω・´), 20××
あまりに背中が冷たいんでエベシに診てもらったら、まだ背中にでっけえ氷塊がくっついていた。ネエチャンコワイネエチャンコワイ・・・
それから、臨時収入があったそうで、もう俺は姉ちゃんの飯を作らなくていいと、ハワードさんが言いにきてくれた。
おかげで今夜は腹いっぱいよく食えそうだぜ。
・・・部屋に戻ると、俺の買い置きのプリンが、ものの見事に全部無くなっていた。昨日の報復か?・・・ふざけんな。
May Σ(゚Д゚;), 20××
朝起きたら、プリンだけでなく、部屋中の食料が無くなっていやがった。姉ちゃんマジで勘弁してください・・・orz
やっと帰ってきたカヴァクがやけにセクシーなんで、限りなくクールに良く見たら、クラウンにしては布地が全然たりねえ。
まさか、女だったなんて・・・なんでだれも教えてくれなかったんだ・・・まさか、気付いてなかったの、俺だけ・・・?
カヴァクめ・・・ジプシーになってから、やけにぽんぽん脱ぐようになりやがって・・・新手の嫌がらせか?。
誰か他の奴に、こんな場面を見つかったら大変だ。ふざけんな。
May (´Д`;), 20××
昨日、マガレさんの部屋から逃げ出そとしたエベシが、女装してた、て はなしだ。
夜、カヴァク脱ぐ あついやばい。
胸のつめ物 してきし たら ブラがぽろり落ちやがた。
いったいおれ どうな て
May (゚∀゚), 20××
やと むね なれた も とてもやヴぁい
今日 ふろはいったの、ぶら じるで くる
May ( д ) ゚ ゚, 20××
みるな たえろ カヴァクー きた
そこで なんで えべし
つらかっ です。
_| ̄|○
ぬぐなwww
おまwww
・・・手記はここまでで途切れている・・・
がたん・・・
エレメス「はっ!?」
ラウレル「人の日記を・・・勝手に読んでんじゃNEEEEEEEE!!!!!?」(SSSSSSSSSSSS・・・)
エレメス「ちょwww拙者は拾っただけでござ・・・あqwせdrftgyふじこlp;」
・・・げーむ、おーばー?
生体研究所は、今日も平和っぽいですね・・・お終い。
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