生体名作童話 『シンデレラ』



よいこのみんな、おやすみの時間だよ。
カヴァクおねえさんがご本を読んであげるね。

「って、なんでカヴァクが私の部屋にいるわけ?」

やあ、アルマ。聞いてくれよ。ラウレルったら非道いんだ。
ちょっとふざけて、からかっただけなのにすぐ無詠唱でソウルストライクしてくるんだよ。

「で、私の部屋に逃げてきた……と」

ああ、そうなんだ。
でも、ほとぼりを冷ましたら、またラウレルをからかおうと思っている。

「カヴァクも、よく飽きないね〜」

ふふ。愚問だな。
ラウレルを弄り倒すことに関してこのカヴァクに、飽きるという文字は辞書に存在せんのだ。ふははは。

「かなり性質の悪い愉快犯よね、カヴァクってさあ」

ありがとう。そいつは芸人にとって最上級の褒め言葉だ。
やはりアルマは褒め上手だな。ラウレルなんか、一度も褒めちゃくれないよ。
ネタ振りの回数は、奴が一番多いのにどうしてなんだろうね?

「……そういうことは服を着てから言ったほうがいいよ」


■■■


昔々、ある王国にマーガレッタという名の女の子が住んでおりました。
女の子、と呼ぶにはいささか年齢を重ねすぎているのですが、それを指摘すると

「レックスエーテルナ! ホーリィライ――」

……オーケイ。ときに落ち着いてください。
まずは話し合いましょう。ぷりーず! どんとしゅーとみーぷりーず!!

「うふふ。分かっていただければ、それでよろしいのですのよ?」

ね、年齢のことはさておき、マーガレッタはご家族と一緒に幸せに暮らしておりました。
ですが、ある年のこと、マーガレッタを可愛がっていた母親が流行り病で喉を掻き毟って亡くなってしまいました。

「うはwww寂しいでゴザルよwww」

悲しみが深かったせいでしょう。落ち込んだ父親は、優しくしてくれたスナックみどりの雇われママのトリスと結婚してしまいました。
気が弱っているときは人肌が恋しくなるのは男性の性なので、父親を責めることはできません。
マーガレッタも、その辺りは心得ているので反対はしませんでした。
むしろ、トリスのように綺麗な女性なら大歓迎です。
しかもトリスにはイレンドとセニアという、これまた美人の娘がいるのです。
可愛い女の子に弱いマーガレッタは父親の再婚をホイホイ了承してしまうのでした。

「うふ。トリスお義母さまに、イレンドお姉さまに、セニアお姉さま……うふ。うふふふふふ」
「あ、あたし、寒気が……」
「僕も……」
「わ、私も……」

美女に囲まれて幸せな毎日を過ごすマーガレッタでしたが、不幸とは突如としてやってくるもの。

「や ら な い か」
「アッーって、拙者の出番これだけでゴザルか!?」
「その分、俺と最後までしっぽり出来るじゃないか。な?」
「全力で御免被るでゴザルぅぅぅぅ!」

父親が、BAR竹子の従業員にストーカーされた挙句、路地裏で刺されて死んでしまったのです。

「ああ、お父様……なんで、なんで死んでしまったの……う、うう……ううう……うふふふふふふふふ!」

……これ幸いとばかりに、マーガレッタは本性を現しました。


「トリスお義母さま……」
「ひっ!? ま、マーガレッタ……さん? こ、こんな夜更けに何の用?」
「お義母さま……私、お父様を亡くして、すごく寂しいのです。一緒に寝てもよろしいですか?」
「断るっ! 全身全霊で断るっ!! あんたと同衾するなら、MVPになったウチのアニキとガチで殴りあう方がマシだよ!」
「なんてお優しいお義母さま。ああ、実の母上のように押し倒し――じゃなくて、お慕いいたしますわ」
「ちょっ、ちょっと待って! 人の話を聞いてるのマーガレッタさんっ!?」
「あは。お義母さまったら、とてもいい香りがしますわ〜」
「ひぃぃぃ! や、やめっ! あっ、や、あああっ!!」


(椿の花が、ポトリと落ちる画像をお楽しみください)


「うふふ。イレンドお姉さま……うふ」
「むー! むー!(じたばた)」
「お姉さまったら、イケないお方ですのね。こんな……縛られて悦ぶご趣味がおありなんて……」
「むー!(ふるふる)」
「イケないお姉さまを元の道に戻すため、ここは姉想いの私が頑張りませんと」
「むーー!(ぶんぶん)」
「さ、お姉さま。お仕置きの時間ですよー」
「むぐーーーーーーー!!」


(蜘蛛の巣に絡まった哀れな蝶が、女郎蜘蛛に食われる光景をお楽しみください)


「はぁ……はぁ……ここまで逃げれば……」
「うふ。うふふふふふ……どこに行かれるのですか〜?」
「うわぁあっ! 先回りされていたのかっ!?」
「あらあら。セニアお姉さま、どうして私に剣をお向けになるのです?」
「よ、寄るな! 私は、トリスやイレンドのようにはいかないっ! されてたまるか!!」
「セニアお姉様ったら怯えちゃって……可愛いですわ」
「お、おお、怯えてなど――」
「声が震えてますわよ? うふふふふ」
「くっ!」
「怖がらなくていいんですのよ? 怖いことなんて、これっぽっちもありませんから」
「や、やめろっ! 来るな。嫌だ。嫌だ嫌だ助けてたすけてあにうえぇぇぇぇぇぇっ!!」


(逃げると必ず待ち伏せされて殺されるホラー映画の常識をご堪能ください)


「うふ。ご馳走様でした〜」

と、マーガレッタがこの世の春を満喫する一方、トリスらにしてみれば何時襲われるか分からない恐怖の日々でありました。
このままでは身体がもちません。
しかしマーガレッタに実力で敵わないのは、既に実証済みです。
生命の危機を感じた三人は、マーガレッタからの魔の手から逃れるべく、大脱走を企てました。
とは言え、何の理由も無しに出かければマーガレッタに感づかれます。そこで三人は一計を案じました。

「マーガレッタさん、ちょっといいかしら?」
「あら。お義母さまからお声をかけてくださるなんて珍しい。御用は何ですの?」
「え、ええと……こ、今夜はお城で舞踏会があるの。そ、それで私たち三人は出かけてくるから留守番しててっ!」
「それなら私も――」
「え、ダメッ! ダメダメダメッ! 今夜は一次職だけの舞踏会なの! だから、ダメなのッ!」
「はぁ……それなら仕方ありませんわね。お土産、お待ちしてますわね」

どうにか丸め込むことが出来たトリスたちは、大急ぎで国外脱出(BGM:大脱走マーチ)を敢行したのでした。
一方、そうとは知らずに一人で寂しく留守番しているマーガレッタは、窓から見えるお城を眺めながらため息をつきました。

「ドキッ☆一次職だらけの舞踏会、かぁ……私も行きたかったなぁ……うふ」

脳内鯖で様々な一次職の少女たちと戯れたマーガレッタは、暇つぶし代わりに死んだ父親の部屋の掃除を始めました。
父親が死んでから誰も入ることのなかった部屋は埃まみれです。
ふと、テーブルの上にマーガレッタ好みの小さな女性像が置いてあるのを見つけ、マーガレッタはそれを手に取りました。
自分に勝るとも劣らないプロポーション。釣鐘を思わせるような胸と、細く切れ上がった腰のくびれ。
若いカモシカのような太ももに、餌をねだる子犬のような愛らしい顔つきの見事な女性像でした。
残念なのは、埃で薄汚れていたということです。

「あらあら。可哀想に……私が拭いて差し上げますわ」

汚れた像をマーガレッタは、丁寧に、丹念に、愛撫するように布で擦りました。
するとどうでしょう。突然、女性像が持つ杖の先から白い煙が噴き出したのです。

「……呼ばれて飛び出てぱぱらぱー」

煙の中から現れましたのは、なんと女性像そっくりの魔法使いでした。

「……像の中に閉じ込められてた。お礼に……何か、願い叶えてあげる」
「まぁ。でしたら、お城の舞踏会に行きたいですわ」
「……お安い御用。ねぎしおとんこつせあぶらぎっとぎとー」

なんだか美味しそうな呪文を唱えながら魔法使いは杖を振るいました。
杖から出た星くずがマーガレッタに降り注ぐと、彼女のピンクのハイプリ服は白くて清楚なアコライトの服に変わりました。
ただ、サイズが微妙に合っていないのか、妙に胸とか腰とかがぱっつんぱっつんでしたが。

「ありがとう。親切な魔法使いさん。これでお城の舞踏会に行けますわっ!」
「……良かった。でも、気をつけて……12時過ぎると……魔法切れるから……」
「うふ。私の手管があれば12時まで待つ必要はございませんわ」

魔法使いに礼を言って、マーガレッタは真っ直ぐにお城へと向かいました。
ところがマーガレッタが到着すると、お城の門は硬く閉ざされたままでした。

「あらあら。おかしいですわね」

それもそのはず、舞踏会というのはトリスたちが逃げるための口実なのですから、やっているはずもありません。
途方にくれたマーガレッタでしたが、やはりそこはハイプリースト。
聖書の一節を思い出して、貝のように閉じた門を見上げました。

「主は仰られておりますわ。困難な道ほど、その先に裸の姉ちゃんがいるもんだと」

……それは一体どこの邪教の教義ですか。
まさに廃プリースト・マーガレッタ=ソリン。ピンク色の聖職者です。

「レックスエーテルナ! ホーリィライト!」

得意の魔法コンボで門を打ち破ったマーガレッタは、謁見の間へと一直線に乗り込みました。
驚いたのは王様のセシルです。むちむちぷりんのアコライトが門を破壊し殴りこんできたのですから。
慌てふためくセシルの前に進み出たマーガレッタは一礼して跪きました。

「な、なに!? なんなの!?」
「ごきげんよう、国王陛下。仕立て屋でございますわ」
「……あれ? このお話って『シンデレラ』じゃなかったっけ?」
「いいえ。今から『裸の王様』に変わったんですのよ? うふふふふふっ!」
「ちょ、ちょっとストップ! ストーップ! いややめてマガレ――アッー!」


こうして、一夜にしてこの国は、マーガレッタに乗っ取られてしまいました。
その後、国中の美女を集めた後宮が建設され怠惰な文化を花開かせていくのですが、それはまた別のお話。


教訓。
子供のしつけは、しっかりと。

■■■

――おまけ――


「……おなかすいた」
「ひぃぃぃぃ! ま、魔女だ! 魔女が来たぁぁぁっ!」
「……いただきます」
「やめろっ! やめてくれ! それを喰われたら商売上がったりだぁぁぁっ!」
「……おかわり……ほしい」
「ああっ!? 吾作どんの店がやられた! こ、こっちにくるぞ!」
「お魚……おいしい……」
「う、うそだ! あんな馬鹿でかいマグロが一瞬で食われただとをっ!?」
「次……お肉と……お野菜……」
「やめてけれっ! ウチの花子は乳牛だでよ! 肉牛じゃな――ああ、花子! 花子ぉぉぉぉぉっ!!」
「全滅だ……オラの畑の、丹精こめて作ったトウモロコシが……根っこも残ってねぇだ……」
「……デザート……デザート」
「おおおおおお俺様のおっぱおプリンがー!! 練乳クリームがー!!」
「……うまうま」
「誰だ……三百年前に封じられた食欲の魔女を解放したのは、一体誰だああああっ!」


こうして、この国は経済と政治の両方から傾き、他国の侵略を許してしまうのも時間の問題だったとさ。
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