「ついに・・・完成しましたわ」
暗がりの部屋の中でそのハイプリーストは薄ら笑いを浮かべた。



「ハワード」
「お、何だエレメス、俺に会いたくなって来たのか?」
そう言ってハワードがエレメスの肩を掴んだ。
「ちょwww触るなでござるwww」
ハワードの手を払ってエレメスは続ける。
「セシルを見なかったでござるか?」
「セシルかーそういや昨日から見てねーけど、あいつがどうかしたか?」
「今朝は弓の練習をするから付き合って欲しいと言われてたでござるよ」
「何だよ、練習なら俺と し よ う ぜ 」
「弓の練習をするでござるwwwお前は関係ないでござるwww」
危険な空気にエレメスがその場から逃げようとしていると、音もなくカトリーヌが現れた。
「・・・・・・セシルなら・・・さっき・・・花壇に・・・いた」
「そうでござったか、拙者ちょっと花壇を見てくるでござる」
エレメスはさっとクローキングして消えていった。
「なあ、何でセシル探しに行くのに一々クロキンすんだ?」
「・・・・・・きっと・・・癖・・・」



「ランランラ〜ン♪」
エレメスが花壇に来るとかわいらしい歌声が聞こえてきた。
「お花さん早く大きくなってね♪」
透き通った綺麗な声だった、だがその声の主を見た瞬間にエレメスは絶句した。
セシル=ディモン、まさしく彼女だった。
「ちょwwwセシルwww一体何をしてるでござるかwwwww」
「あ、エレメスさんおはようございますー、今お花さんたちに水をあげてたんです♪」
急に現れたエレメスに驚きつつも笑顔でセシルは答えた。
「え、エレメス・・・さん!?お花・・・さん!?」
あまりの事にさすがのエレメスも理解するのにしばらくかかった。
「せ、セシル・・・今朝は拙者と弓の稽古をするはずだったのでは・・・」
「え・・・わたし弓なんて・・・怖くてとてもお稽古なんて・・・」
「ちょwww何を言ってるでござるかセシルwww」
あの弓矢で誰かを追い掛け回す時に悪魔みたいな笑顔を見せていたセシルが・・・
「エレメスさんもお花さんにお水を一緒にあげましょ♪」
そう言ってエレメスはじょうろを手渡された。
「・・・」
笑顔で花に水をあげるセシルの透き通った笑い声と、無言で水をまくエレメスの乾いた笑い声が響いた。



「やばい・・・やばすぎる・・・これはやばい・・・」
生体研究所2Fの食堂でみんなが食事をしている中一人だけカヴァックは一口も食べずぶつぶつとつぶやいている。
「どうしたのだカヴァック、食欲がないのか?」
心配したセニアがカヴァックにたずねる。
それを見たラウレルが横から口を挟む。
「カヴァックのやつ、セシルさんのルドラの弓を壊しちまったんだよこりゃもう地獄決定だな」
他人事のようにラウレルは言った。
「あー、そりゃ地獄が待ってるわねーw」
楽しそうにヒュッケが身を乗り出してきている。
「ルドラの弓か、金額にするととんでもない額になるね」
アルマイアだけは冷静に具体的な損害額についてカヴァックに講釈していた。
「僕も一緒に謝りに行きますからカヴァック、せめて食事はとらないと体に悪いです」
心優しいイレンドはカヴァックを気遣い優しく語り掛けている。
「ふんふんふ〜ん♪」
一同が静まり返った。
今食堂に入ってきたのは話題のセシル=ディモンその人だった。
すぐにヒュッケ、アルマイア、ラウレルは被害を受けないうちに退散した。
残されたセニア、イレンド、カヴァックの間に重苦しい沈黙が流れた。
その沈黙を破ってカヴァックが口を開いた。
「姉貴・・・」
「あらなぁにカヴァック?」
「実はさ・・・姉貴のルドラの弓・・・壊したんだ・・・」
3人はこの後の地獄を覚悟した。
「カヴァック!」
名前が呼ばれた瞬間カヴァックは死を覚悟した。
「あなた怪我はなかった・・・?壊れた弓であなたが怪我をしたら大変」
あまりにも予想外な反応に3人は固まった。
「手、見せてごらんなさい」
カヴァックはぎこちなく自分の手をセシルに差し出した。
「あら手が少し傷ついてるじゃない、ちょっと待ってね今薬を塗ってあげる」
セシルはそう言うと優しく弟の手に塗り薬を塗ってあげた。
「あ、そろそろ買い物に行く時間だから行くね♪」
セシルが出て行った後、廊下にかわいらしい鼻歌が響いた。
「・・・カヴァック、あれはセシルさんなのか・・・?」
「間違い・・・ないよね・・・あれはセシルさんだよね・・・」
「・・・ああ、あれは姉貴だ」



「わー、これかわいいねぇ」
街のショウウィンドウにディスプレイされてるぬいぐるみの前に座ってセシルはじっと見ている。
「・・・・・・セシル・・・」
いつもならそんなもの目にも入らないで通り過ぎていくセシルだが今日は目を輝かせている。
「このクマさんかわいい〜♪」
カトリーヌはいつも通りの無表情な顔をしつつも、心の中で笑いと格闘していた。
(・・・笑っちゃだめ・・・・・・笑ったら・・・セシル・・・かわいそう・・・)
「ねーねー、二人ともかわいいねー」
不意に後ろから男が二人に声をかけてきた。
いつもなら「カトリーヌどいてなさい、こんなやつら一発で十分だわっ!」と喜んで弓を構えるセシルだが、今日は違っていた。
「あの・・・やめてください・・・」
男に肩に手をまわされたまま、セシルは俯いて小声で震えながら言った。
「・・・」
カトリーヌはその有り得ない光景を黙ってしばらく見つめた後、JTを詠唱してその男を黒焦げにした。
「カトリーヌさんありがとう・・・怖かった」
震えながら自分に感謝するセシルを見てカトリーヌは複雑な心境だった。



「どう考えてもおかしいでござるwww」
「だよな、ぜってーおかしいぜ」
「うむ、これは何かあるな」
「・・・・・・わたしも・・・そう思う・・・」
3F食堂に集まった4人はセシルの一連の行動についての疑問について話合っていた。
しばらくしてマーガレッタが食堂に入ってきた。
「あらあらあら、4人でどうしたんですの?楽しそうですわね♪」
「マーガレッタは知らないのか?セシルの今日の様子を」
「あらあら、セシルちゃんがどうかしましたの♪」
「うむ、実はな・・・」
とそこへスキップしながら笑顔のセシルが現れた。
「あ、みなさんお揃いでどうしたんですか〜♪」
「あらあらあら、セシルちゃん♪」
セシルに抱きつきながら笑顔で鼻血を流すマーガレッタ。
「おい・・・」
「ああ・・・」
「・・・ござる」
「・・・」
何となく今回の元凶がわかった4人は無言で目配せをした。



「マーガレッタ、これはどういうことなんだ」
「あらあらあら、これって何のことですの?」
「姫wwwセシルのことでござるよwww」
「セシルちゃんはとってもかわいいですわ♪」
「そうじゃねーだろー」
「あらじゃあ何ですの?」
「・・・・・・セシル・・・おかしい・・・マーガレッタが・・・何かした・・・」
「あらあら、わたくしが何かしたとでも?」
「マーガレッタ、もうばれているんだ正直に話した方がいいぞ」
「あら、わたくし何のことだからわかりませんわ♪」
「仕方ない・・・イレンド、入れ」
「はい・・・」
すごすごとイレンドが入ってきた。
「イレンド、さっきの話をもう一度してくれ」
「わかりました・・・」
姉から自分への突き刺さるような視線を思いっきり感じながらもイレンドは気丈に話した。
「姉さんは一週間くらい前からずっと部屋に引きこもって何かの霊薬を合成してました」
「ふむ、それで」
「どうやら昨日その霊薬が完成したらしくて完成したって喜んでました」
「なるほどな」
「僕はちょっと気になったので、姉さんがずっと読んでた秘薬の書を見たんです・・・」
「ふむ」
「それは込められた魔力によって性格が反転する霊薬でした・・・」
「ご苦労イレンド、というわけだマーガレッタ」
「イレンド、後でわたしの部屋にいらっしゃい♪」
マーガレッタは笑顔でイレンドにつぶやいた。
「まあちょっとした遊びのつもりで作ってみただけですわ」
「マーガレッタ、セシルを今すぐ元に戻せ」
「あらあら、せっかくあんなにもかわいいセシルちゃんですのにもったいないですわ」
「確かにwwwあのようなセシルも一興ではござるがwww」
「ユーピテルサンダー・・・ユーピテルサンダー・・・」
「ぎゃあああああwwwwwww」
JTの重ね撃ちをくらいエレメスは吹っ飛んだ。
「エレメース、大丈夫か!俺がちゃんと看病してやるぜー」
「ちょwww毎回このパターンいい加減にしてほしいでござるwwwww」
ハワードはエレメスを素早く抱きかかえ走り去った。
遠くで「アーッ!」という叫びがした。
「とにかくセシルを元に戻せマーガレッタ」
「そうせかさないでもどうせ霊薬の効果は明日になれば消えますわ」
「今日一日あのままか・・・」



翌日、朝起きるとセシルの怒声が響いた。
「カヴァックー!あんたわたしの大事な弓を・・・矢の的にしてやるわ・・・!!」
「ときに姉貴、落ち着け」
「カヴァーック!!!」
物が壊れる音とカヴァックの悲鳴だけが廊下にこだました。
「おはよー」
セシルが食堂に行くとあとの5人はすでに席についていた。
すると突然セイレンが近づいてきてセシルの肩に手をまわした。
「ちょっ、セイレン何して・・・」
「セシルー、どうだ俺と今から楽しいところいかねーか」
「あ、あんた何言って・・・」
「セイレン、その手を離せ」
「え、エレメス・・・?」
「なんだよエレメス、何か文句でもあるのかよー」
「セイレン、女の尻ばかり追いかけてないで己を磨け」
それはやけにノリの軽いセイレンといつものお茶らけた雰囲気が微塵もないエレメスだった。
「二人とも喧嘩しちゃダメよー」
「ちょ・・・カトリーヌ・・・?」
「どうしたの、セシル?」
「い、いや別に・・・」
「ほらほら、みんなもう食事できてるんだからさー食べようよ」
やたら明るくはっきりした口調で口数の多いカトリーヌ。
「マーガレッタお姉さまぁ」
野太い黄色い声が耳に突き刺さる。
見ればハワードがくねくねしながらマーガレッタに抱きついている。
一番見てはいけないものをセシルは見た気がした。
「あらあらあら、ハワードちゃんは仕方ない子ですわ♪」
しかしマーガレッタだけはいつも全く変わらない笑顔を浮かべていた。
こいつのしわざか・・・セシルは頭が痛くなった。
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