「アルマ… これは?」
「それがねー、この前プロンテラで買出ししてたら、引退露店発見しちゃってねー」
「引退露店にしては、ずいぶん数が…」
「ギルドメンバー全員で引退して、冒険先で知り合った村に住み着くんだって。
 で、衣装とかも丸ごと安く買い取らせてもらっちゃった♪」
「カート、なんだかミシミシ音立ててるよ…?」
「まぁちょうどいいし、みんなで着てみない? 外に出なければ問題ないし!」

 …というわけで、私の目の前にも武具一式が並べられましたとさ。


――セニア、一日聖騎士体験――


 おのおの部屋に戻り、着替え終わったら食堂に集合、と言う事で自室に戻った私の目の前に、白銀の鎧一式が並んでいる。
 胸の紋章はプロンテラ神殿の略印。プリーストが金属鎧をつけることはないので、これはクルセイダーのものであろうが…。

「さ、流石に重鎧一式は重い…」

 青い鎧下からチェインメイル(鎖帷子)を羽織り、そこから儀礼用では無いとは言え、装飾の施された板金鎧を装備する。
 儀礼用になると総重量60kg近くにもなり、一人では装備する事もままならないクルセイダーの重鎧だが、
 幸いにもこれは野外用の実践向けに簡略化されたものであり、重量は40kgほどで一人でも装着できる。
 40kgと言うと、一般人には重く感じるように聞こえるが、
 実際には重量が体中に分散しているので、慣れれば戦闘にも支障なく動く事が可能である、

「さすがに剣士の鎧とは違って頑丈だ…。守りの要とは頷ける」

 軽く体をひねって動きに支障が無い事を確認、鎧の上からマントを羽織って着替えは完了。
 姿見を覗けば、そこにはどこを見ても聖騎士な私がいた。

 問題は、もともとの持ち主のスタイルが良かったのか、私ではやや大きいサイズであった事と、
 胸甲にタオルを詰め込まなければならなかったことか。


「おまたせ… みんな早いな」

 流石に鎧を着込む私より遅いのはいなかったらしく、台所には既に6人の人影があった。

「…エレメスさん、こう言う時は早いですね」
「妹達の晴れ姿を拝めるとあれば、参加しないわけには行かないでござるよw」

 そういうエレメスさんはいつものアサシンクロスではなく、デニムに鋲付きレザージャケット、
 それ以外にもごてごてと金属アクセサリーをつけたローグの服装だ。
 気合の入った事に顔にペイントすらいれており、いつものとは違う凄みが出ている。
 …その髪の長さで擬似モヒカンはどうかと思います。

「セニアうわ、セニア似合うねーー! かっこいい!!」
「ありがとう。アルマも… …ぅ…… 似合うな本当に」

 アルケミストの服に着替えたアルマから賛辞を貰うが…
 正直、アルマのスタイルでアルケミストは目の毒だ。
 三階のカトリーヌさんよりも高い露出度が、大きく突き出した胸をこれでもかと強調している。
 下も屈めばすぐに下着が見えそうなほどに短く、柔らかそうな足が無防備に晒されている。
 腰に挿した何本ものフラスコと試験管はいかにもアルケミストだが、手に持っているのはなぜかファー付き扇子。

「うむうむ、眼福眼福。アルマ殿の魅力が最大限に引き出されているでござるなwww」
「そう言うのは顔を見ていってくださいねエレメスさん?」
「ラウレル… 俺は今、女神を見つけてしまったかもしれん」
「わかったから引っ付くななんでテメェはダンサーなんだ!!」

 恍惚とした表情でラウレルに張り付いているカヴァクは、先日以来、女性である事を隠さなくなった。
 今回もバードではなくダンサーの衣装であり、余分な脂肪がそぎ落とされた肢体を余す事無くラウレルにくっつけている。
 …見せ付けているではない上に、視線はアルマの胸に注がれたまま動いていないのはどうかと思う。
 私と同じぐらいの胸を申し訳程度に覆う胸当てのみならず、下もほとんど裸同然なあの服は、私には到底着ることができない…。

「しかし既に妹に負けているとは、セシル殿もつくづく不幸ww…いやはやw」
「エレメスさん絶望してねーで助けろっ!!??」
「そう言うなよラウレルお前もかっこいいぞ? 流石同士だ惚れそうだぜ!」
「ハワードさんかマーガレッタさんみたいな事言うなっ!!」

 張り付いてくるカヴァクを振りほどこうと必至だが、所詮は魔術師、
 まったく振りほどけないラウレルはセージの服装になっている。
 全身を包むほどのマントではなく、魔術師に比べれば格段に活動的な衣装となって、
 ラウレルのアクティブな空気が一段と大きくなったような気がする。
 落ち着けカヴァクは遊んでいるだけだとぶつぶつ唱えながら、なぜか前傾姿勢から体勢が変わらない。
 …不自然な姿勢だが何故?

「ハワードと一緒にするのは失礼よラウレル。
 それともマーガレッタさんみたいに女同士がいいの?」
「まだそっちの方が俺的には心休まる!!」
「OK,同士の望みを叶えるべくトリス、共に愛し合おう」
「ちょwwwwウチの妹はノーマルでござるwwwwwよなwww?wwww」

 兄と同じくレザージャケットにデニムパンツのトリス。
 ため息の出る均整の取れたスタイルは、
 ホットパンツの下に網タイツという組み合わせでも、下品さはかけらも感じさせない。
 これ悪女といったオーラにあわせたのか、ポニーテールを解いてやや癖をつけた髪形が、
 くせっ毛の激しいエレメスさんと並ぶとなるほど兄妹だと納得させてくれる。
 …ノーブラ?

「一応ブラはつけてるわよ」
「心の中の疑問に答えなくてもいいからっ!」
「…時に、そちらの麗しきご婦人はどちら様でござる?ww」
「エレメスさん、わかって言ってますか?」

 誰もがあえてつつかない領域に飛び込む男、エレメス=ガイルに、
 でっかい青筋を浮かべてエペシが答える。
 …なぜか女プリーストの服を着て。

「何故だろうな? 流れで行くとモンクなはずなんだが」
「おかしいな、モンクの服も合ったんだけど?」
「その答えは簡単でござるwww マーガレッタ殿が意気揚々とお持ち帰りにwww」

 ガックリとひざを突いてさめざめと泣き崩れるプリースト一名。
 男なのに脛毛が一本も無いのとか、スリットの奥のあるはずのスパッツが見えないとか、
 いろいろな意味で倒錯的な姿にちょっと私もクラリと来る。
 その姿勢はお尻が強調されるのだが、あえてそれは指摘しないでおこう…。

「さて、まだ衣装はあるわよー」
「ちょwwwwどれだけ買ってきたでござるかアルマ殿wwww」
「はい、カヴァクは今度は男ハンターね、これはBSだから私で、エペシは女性用だけどモンクの胴着ね」
「また女性用…」
「あと、トリスは残念だけどアサシンじゃなくてアサシンクロス。エレメスさんとお揃いね」
「では、拙者も普段の服に戻るでござるwww」
「セニアはこれ! スーパーノービス!」

 ふむ、なら私は騎士か… ってスーパーノービス!?

「ちょっとまて!? そこは騎士じゃないの!?」
「ごめんねなぜか騎士の装備は無くてねー。諦めてこの初心者用胸当てを装備しなさい!」
「こ、ここにきてノービス… 初心者用胸当て…」
「胸の部分がスカスカだな、セニアだと」
「うはwwwwそれは禁句でござるよラウレル殿wwwww」
「ごめん、スパノビ用は大人サイズでさらに胸部分が大きいの… 1ドットだけね」
「…」

 世界がゴゴゴと音を立てているのが判る。
 ふむラウレルはいい度胸だ魔術師をやるには1にも2にもクソ度胸だと言う事か。
 いや、私は怒っていない。
 断じて怒っていないぞ?

ただ

「wwwっうはwwwwwオーラキタコレwwwww」
「げぇっ!? オーラ!?」
「セニア落ち着いて、ラウレルも冗談だからっ!!」
「大丈夫だ私は落ち着いているし怒ってもいない」

 そろそろBOSS時間だなーと思っただけだとも!
 決してノービス時代に胸当てがぶかぶかで大変だったとか、
 詰め込んだポリンは涼しくて夏場は気持ちよかったとか、
 そんな事は思っていないとも!!


 ……その後、生体研究所二階において、オーラを吹いたノービスが数時間にわたり確認されたと言う。



――おまけ――

「む、ノビたんの気配が!」
「気のせいでしょ。ノービスがこんなところにまでくる訳無いじゃない」
「ふむ… そうだな… たまには初級狩場でノビたんを眺めながら一日過ごしたいものだ」

 こう言う時に限って、三階の内藤は物分りが良かったと言う。

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