〜月夜の夢〜 作:マガエレ派



スキルの発動は完璧だ。もう昔とは違う

悲しむべきは限定条件である事、ある一定の状態でしか効果を成さない特化されたスキル
それゆえに、だからこそ、条件さえ満たせば向かう所敵無し
数秒に満たないその瞬間を見逃さず、即座に反応し技を叩き込む!
分類するとすれば、それはカウンター。相手に先手を打たせてこそ真の効果が発揮されるのだ
技が完成する前に割り込み、相手のスキルを破壊する
これまで幾度となく失敗してきたその技
もう間違える事は許されない、それだけの練習を積み、日々鍛錬を重ね
実際に今現在の成功率は80%を越えている。

決戦の時は今宵
果て無く天を突き抜ける空は黒に染まり、闇に浮かぶ雲は凍えるように白い
闇に浮かぶ雲を照らすは白き満月。透き通る輝きで闇夜を照らし、果て無き空に己の存在を縫い付ける
黒魔術を得意とする俺には絶好の夜といえよう。でも偶然だ、別に満月を狙ったわけではない。
事実に気づいた時は手遅れだった、既に運命の歯車は噛み合ってしまい
今となっては最強の黒魔法を持ってしても歯車の回転を止める事は出来無い。
止める事叶わぬのなら手遅れになる前に、まだ親友と呼んで貰えるうちに・・・

どれ程の時間が過ぎたのであろうか?半刻は過ぎたが1時間には満たぬ
薄暗い階段に小さな足跡を響かせ、一つの影が屋上に舞い降りる
歩む軌跡は優雅に曲線を描き、一歩踏み出す度、月夜に照らされた衣が風に舞う
無造作に髪をかきあげると同時に数滴の雫が宙に散った。月の光を反射したそれはまさに宝石の類
雫は瞬間の輝きを放ったのち、放物線を描きやがて闇に吸い込まれていった

「すまんラウレル待たせてしまったか?いや、久しぶりの女湯で勝手が分からなくてな。ちょっと時間がかかってしまった」

舞台は整った。今の関係から先に進む事を選んだのは誰だ?勇気を出せ、もう後戻りは出来ないはずだ

「な・・・なぁカヴァク。・・・お、俺・・・その・・・」


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今宵は決戦の時

これまで奥手だったラウレル君がついに勇気を振り絞ったのだ。

屋上に繋がる石畳で作られた暗い一本道、通路の入り口に事態に感づいたリームーバー達が集結しはじめる
どうやら立ち塞がる私ジェミニ-S58(♀)を前に作戦でも立てているのだろうか。
一度だけ月明かりの差し込む階段を確認する。今宵は満月、できる事なら私もあの場を見守りたかった
もう後ろは振り返らない。神聖な屋上を守る為、私はこの暗く冷たい石畳の地獄に身を置くと決めたのだから

この先は神聖なる告白の領域。貴様らのような下種が、しかも土足で立ち入る事を許される場ではない。
これでも私は恋愛を司る化身の片割れ。二人の邪魔をするというなら私が死力を尽くし相手をしましょう。
目の前に迫るは百鬼夜行の類か?「例外」を排除する為に起動したリムーバーの数は100を越えていた。
これを私1人で叩き潰さなければならないの?正常に呼吸ができない、目の前の現実に息が詰まる
男として登録されているカヴァク君に、例外が確認されたからといってもこの数はやりすぎじゃないのかしら?
消耗戦に持ち込まれたら勝算はあちらにある、今の私にできる事は時間を稼ぐ事。それも持って数分だろう
それでも戦わないわけには行かない。目を閉じれば今でも思い出すあの光景・・突如私達に起こった悲劇
そう、二度と私達のようなカップルを作り出さない為に、せめてあの二人には幸せになって欲しいから

「やけに硬いじゃないか?そんなガチガチになっていては勝てる戦も勝てないといぞ?」

誰も居なかったはずの背後から声がかかる。とても懐かしいあの人の声・・・振り向く必要は無い。

「うっ、五月蝿いわね!邪魔なリムーバー達をどう料理しようか考えてただけよっ!」
「ははは、しかし目の前の光景を見て逃げ出そうとは思わなかったのか?100は軽く越えているようだが?」
「失礼ねこれでも私って恋愛を司る化身なんですけど。あなたもそうじゃないの?」
「君のような性格で恋愛を語られても、後のカップル達は困惑すると思うぞ?」
「何よそれ恋人に向かって、ひどい扱いしてくれるじゃない」

今宵は魔性の白き満月。カヴァク君に例外を認められたから、私達にも例外が認められたのだろうか?
横には昔と同じ姿のまま。本来私と入れ替わりでしか表舞台に立つ事を許されない彼が、確かにそこに存在している
目の前と屋上での事など忘れ去り、時が時で場所が場所であったのなら、体ごと腕の中に飛び込んでしまいたい。

「再び君と踊れる日が来るとは。まるで夢のようだ」
「あなたと共に歩めるのなら、うん私は夢でもかまわない・・・」
「ラウレルとカヴァクの二人には感謝しなければならないな」

ええ気づいている。例外の存在、白い満月、告白の場、ラウレルの発する膨大な魔力。それらが複雑に絡み合い
同時に存在する事が許されない私達が、あの頃の姿のまま共に並ぶ事ができているという事。
後で、気まぐれな運命の神に感謝しましょう

「お嬢様?私と一緒に踊って頂けますか?」

石畳で作られた暗い舞踏会場。夢に憧れた白馬の王子が微笑みながら手を差し伸べてくる

「ええ喜んで」

私達の戦闘術は鏡合わせ。その背中を預ける相手が居てこそ本来の力を発揮する

「恋人達の神聖な空間を守る為・・・」
「あなたと共に踊る夢を一分でも、いえ一秒でも長く見ていたいから」

状況に焦ったリムーバー達が一斉に襲い掛かる!しかしリムーバー達の数など今の二人には関係無い。
ロウソクの消えた石畳の戦場に二つの影が舞う。今宵は満月。
月夜に照らされたシルエットが観客の居ない舞踏会場で踊るように絡み合っていた

「「恋人達の夢を守る為!!私(僕)は決して諦めないっ!!」」



(終)
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