――――ああ……これは悪い夢なんだろうか。

 そんなことを。
 裸体のまま真っ白な肌がけに包まり、私――ヒュッケバイン=トリスは考えた。

 

 ……なぁんて、書くと小説的。

 実際、私は生体研究所で死体を元にして作られたクローンなわけで。
 オリジナルであるヒュッケバイン=トリスがどうなっているか、なんてさだかじゃない。
 大方、閉鎖された地下4Fの培養カプセルの中に閉じ込められてるんじゃないかと思う。
 研究所が閉鎖されても、電力や水が尽きないのは、そんな感じで秘密裏に何か事情があるせいだろう。

 「私」という固体も傷つき倒れれば、新たな「私」が作られて。
 いままで存在していた「私」の記憶や技術を持って、また「私」として生きていく。
 外見も職業もかわることはない。
 そして、傷つき倒れても悲しむ者はいない。

 だって……そんな「私」は一種のモンスターなのだから。

 

 他の仲間はどうかはしらないけれど、私自身はそんな風に斜めに考え、せめて長生きできるようにと侵入者の排除なんかもしていたのだけど……。
 この状況はどう言えばいいんだろう。

 私はいつものように包まって寝ていたのだけど。
 すらりと伸びた手足や、細い腰は私の自慢。そして傍目から見ても大きめの胸も。
 それが、何故か成長して更に大きくなっていたり、全体的に女性らしくなっているのは百歩譲ってよしとしよう。

 問題はだ。

 隣に誰かが明らかに寝ている。
 シーツに包まっているから、誰かはわからない。
 規則正しくその包まった物が上下に動くから間違いなく生きている者。

 そして、この部屋は私の部屋……?
 ……の割には、どことなくエレメス兄貴の部屋に近い気がしないでもない。

 ああ、兄貴とはいっても便宜上そう呼んでいるわけで、実際に兄妹のわけでも義理でもそう言う繋がりがあるわけでもない。
 他の仲間たちも、一応兄や姉と呼んではいるけれど、私と同じように便宜上そう呼んでいるだけだ。
 ここが閉鎖されるまでは、それが事実だと認識して……いやプログラミングされていたせいだ。

 まあ、そんなことは取りあえずどこかに置いておくとして。

 部屋にとっちらかっているものも問題。
 まず目に入ったのは、女物のアサクロの装束と鞘に入った短剣。床に無造作に投げてある。
 そして、男物のハイプリーストの法衣とソードメイス。これは、椅子に丁寧に掛けてある。

 それから判断するに、このシーツに包まった物体は恐らくこのハイプリーストの法衣の持ち主だろう。

 私は、無言でベッドから降りると、短剣を拾い上げた。
 そのまま、鞘から抜き去り、用心深く構えながら……シーツの物体に近づいて……

「……ん……トリス、起きたの……?」

 聞きなれた声……
 ……って言うか、1トーンから2トーンくらい低いんですが。

「え、え……ええええええっっっっ?!」
「なんだよー。起きたんなら、僕も起こしてくれればいいのに」

 目をこすりながら起き上がってきたヤツは、サラサラの栗毛が特徴的なあいつ。
 そう、イレンド=エベシ。
 ただし外見はどう見ても以前の年齢+10歳以上。
 その上、細いくせに鍛えられた裸体がきれいだ。
 ……あの、イレンドなはずなのに思わず見とれそうになる自分が嫌だ。

 まさに、悪夢としか言い様がない。

「……え……ぁ……ぇぇぇぇぇえええ?!」

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

「あはは、トリスったら……剣は侵入者だけに向けときなよ」
「用心には越したことはないから、いいことだと俺は思うけどな」

 勝手なことを言ってる二人は、ホワイトスミスのアルマイア(胸の大きさは負けているけれどプロポーションなら私の方が上っ)と、ハイウィザードのラウレル。
 そう……まさかとは思ったけれどやっぱり他の仲間も二次職になっていた。
 スナイパーのカヴァクは厨房で、ロードナイトのセニアと一緒に食事の用意をしている。

 私は、エベシに連れられて食堂に来ていた。
 もちろん、裸で来るわけにも行かないから、仕方なくアサクロの装束を着ている。
 テーブルに座っている面々も見慣れてるけど、それぞれ知ってる年齢よりも10歳以上歳を取っている。

 とにかく、何でこんなことになったのか。
 私からすれば全く持ってわからない。

「……まあ、この朝食食べたらトリスはいつものように2Fの巡回お願い。弟たちが心配だから」

 セニアが、きれいに焼けたオムレツとサラダ、トーストを私の前に並べてくれる。
 ……あの万年料理下手で、ただスープを温めなおすだけでも焦げ付かせたりとんでもないモノに変えるセニアがである。

「これ、セニアが作ったの……?」
「え? いつもセニアが作ってるじゃない? 美味しいよ?」

 見た目はまともだけれど食べるのを躊躇していると、イレンドが自分の分を普通に食べながら不思議そうに自分を見つめる。

「大丈夫? なんか、調子悪そうね。巡回変わろうか?」

 セニアも心配そうに私を覗き込んでくる。

「あ……大丈夫。なんか調子悪いみたいなのは正しいけれど」

 とりあえず。
 食事を流し込むようにして片付けると、私は食堂を後にした。

 

 

―――――――――To be NEXT

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