かつてレッケンベルの定休日だった名残か、火曜日の研究所は管理されていない今も自動で
その扉を厚く閉ざしている。
生体研究所に住まう人々の貴重な平穏な昼間。

「ん・・・・・・」
アルマイアは摩擦で熱くなった棒から滴り落ちる白い液体を、指ですくい、薄い桜色した唇を
開き、舌で舐め取る。
「熱っ・・・・・・」
火傷するというような熱さではないものの、その苦味もあって顔をしかめるのであった。
「うぅ・・・・・・苦い・・・・・・」
いつになってもこの苦さになれず、けほけほと少し咳き込んでしまう。

食堂のテーブルにこれでもかと敷き詰められた、実験器具と侵入者が落としていった白ポーション。
中には飲みかけのものもある。
乳鉢には磨り潰した白ハーブ、その傍らにはカートがあり、そのカートの中には、栽培してる
白ハーブの植木鉢がいくつか置かれている。
アルマイアが座っている椅子の隣の椅子には、籠に山盛りにされている大量の白ハーブがある。
こちらは業者から仕入れたものだ。
栽培は手探りで行っているため、一般的な白ハーブとの質の違いを確かめるため、見て、匂いを
嗅いで、磨り潰して味を確かめるのだ。

乳鉢から白ハーブの残骸をグラスに入れ、お湯を少し入れてかき混ぜる。そして、侵入者の
落とした白ポーションと舐め比べる。
「ん〜・・・・・・少し薄いかな?」
本来、白ハーブ1枚で1つの白ポーションが作れると聞いている。
しかし、アルマイアや、アルベルタの商人ギルドの一部の人など、熟練した商人の中には、
錬金術師ほどの腕前ではないが、白ポーションを作れる者たちもいるのだ。
しかし彼らの腕前は、錬金術師の倍の材料を使ってやっとできる程度のものなのだ。
「うーん・・・・・・1枚でどうやったらこの量でこの味になるんだろう・・・・・・?」
ぎし、と背もたれに体を預け、少し思索にふけってしまう。

「アルマ」
つかつかとカヴァクが入ってきて、乳鉢にこびりついた白ハーブのかすを指で舐め取る。
「なに?」
「これは本物の白ハーブじゃない。俺が本物の白ハーブを食わせてやろう」
「パス」
「何故だ」
「やたら滅多に使う薬でいちいち最高級品使ってたら、予算がいくらあっても足りないでしょうが」
しばしの沈黙の後。
「おお!」
確かにその通りだ、と言わんばかりに相槌をする少年。
スパァン!と景気よくアルマイアはその後頭部にハリセンを打ち付ける。

「で、本当の用はなんなのよ?」
「そうカリカリするな。折角の可愛い顔なんだから、眉間に皺を寄せるな」
「まぁ・・・・・・可愛いだなんて・・・・・・」
と頬を手で隠し、ふるふると首を振る。
「なわけあるか!」
もう一度スパァンと、景気よくカヴァクの後頭部をハリセンで打ち付ける。
本当に可愛いのに、とぶつぶついじけて呟いていたりする。

「うちのブチキレ姉貴のことなんだが」
「うん?」
「あの幼児体型は何とかならんか?」
「・・・・・・なぜ私に聞く?」
「トリスに相談できると思うか?」
「・・・・・・確かに」
トリスなら確かにそういうことならひたすら面白がるであろう事は、容易に想像がつくからだ。
セニアは論外である。かといって3階の女性に聞けばセシルのためにならない。というか害になる。

「といってもねぇ・・・・・・正直どうにもならないわよ?」
「そうなのか?」
「遺伝などによる体質、適切な食事、ホルモンのバランス、適度な運動、色々あるけど・・・・・・」
「確かにすぐにどうこうなるというものではないな。薬とかでそんなのはないのか?」
「あったら私が使ってるわよ」
もっともな答えを返すアルマイア。
「素でそれなら大したものだ」
真顔でさらっと言ってくるのがこの男なのだ。

「で、なんで突然そんな相談するわけ?」
うむ、と一度頷いてから、カヴァクは遠い目をして語った。
「たまたまそういう画像を開いているときに、うちの姉ちゃんがたまたま部屋に入るたびに部屋を
散らかされたらたまらん」
「・・・・・・なるほど」
つまり今は半壊状態なのか、と内心涙してしまう。

「根本的な解決にならないんだけど・・・・・・」
「何かあるのか?」
「幻覚効果があるキノコとかいれた興奮剤とかどうかな?」
「どういう意味だ?」
「いやー、幻覚効果で一時的にでも自分のスタイルが良く見えるようになればなーと」
「興奮剤は何故入れる?」
アルマイアはあさっての方を向いて、
「普通の幻覚効果だけじゃ何見るか知れたものじゃないから、興奮剤入れてすこしピンクな方向に
いけば、自分のスタイル過大評価するんじゃないかなーとか思ってみたりなんかして・・・・・・」
「よしそれだ、それでいこう」

いいのか?と自分の提案なのにあっさり承諾するカヴァクを見て、アルマイアは逆に狼狽する。
とはいえ、他にいい方法も無かったので調合のレシピを調べ、材料を注文する。

数日後、注文の品が届き、調合してみた。
アルマイアは何が起こるかわからないので、食堂ではなく自分の部屋で1人試してみることにした。
「はぁ・・・・・・これ凄い・・・・・・」
作成した本人だから、ある程度の効果が出てもそれほど驚かない。しかし、自分の理想とする
トリスの体型に見え、かつ体が疼いて仕方が無いのだった。

「・・・・・・はい、これ完成品」
「さんきゅ」
カヴァクは目の前の少女が、なぜこんなに頬を染め、いつもの柑橘系の香りに女の蟲惑的な香りが
混じっているのか、また時々体に力をいれ、何かを我慢しているかわからなかった。
「大丈夫か?」
発情した猫みたいだぞ、という台詞は流石に飲み込んだが、興奮剤とはこうなるのかと勝手に
納得した。
虚ろな目は幻覚なのだろう、きっと、と無理矢理自分を納得させる。
薬についての品質には一切触れない。他にセシルを抑える手段が無いのだから。

結論から言えば成功したともいえるし、失敗したとも言える。
セシル本人は効果時間の間、とても満足していた。自分がとても女性らしい体型になったと
喜んでいたのだから―――それが例えぬか喜びであっても。
失敗とは、他の3階住人5人にとってであった。
「セシル・・・・・・そこまで・・・・・・」
「・・・・・・壊れちゃった?」
「不憫な・・・・・・」
「これは正気になったときが怖いでござるな」
「無いものをあると誤認するのは・・・・・・残酷なものだ・・・・・・」
セシルに対してのあまりの不遇さに皆揃って涙したとか・・・・・・


アルマ分投下
ケミ目指すアルマを書いてたらいつの間にか変な話に・・・・・・
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