寝起きは悪くないほうだ。
 これも夜間も含む交代制の警備やら不測の事態への緊急対応やら何やらに向いた騎士タ
イプの特性なのかどうか――寝が浅いわけでもないものの、ふと呼ばれる声や軽く肩を叩
かれただけの些細な刺激でも、案外あっさりと意識が覚醒する。
 目を開くと、まず自分の手が見えた。
 起き抜けとはいえ、目が覚めてすぐ意識がはっきりしているタイプのセイレン=ウィン
ザーは、異常をすぐに察知する。
 右向きに身体を横たえて眠っていたため、目の前にあるのは左手。
 その自分の手が、妙に小さく見えたのだ。
 節だった大人の男の手、ではなくて、もっと小さなこどものような。

「・・・・・・?」

 しかもその手が、握り締められている。
 誰かの右手が、重ねられている。
 白く細い指、綺麗な桜色の爪、細い手首。
 嫌な予感がして少し視線をずらしたセイレンは、その手の向こう側に可愛らしい唇を見
つけて、心臓の高鳴りにあわせるように反射の勢いで飛び起きた。

「――・・・ッな、・・・・・・!?」

 思わず声を上げそうになって。
 しかしその声を聞いて、さらに心臓が爆発しそうな音を立てた。
 一瞬前に鼓動を揺さぶった原因が、二度目の衝撃によって頭の中から吹き飛ぶ。
 咄嗟に右手で咽喉を押さえたセイレンは、一度唇を引き結んだ。

「・・・・・・・・・・・・っ・・・」

 嫌な音を立てる心臓が脈打つ速度を、指先で感じながら。

「――――・・・・・・なに・・・?」

 覚悟を決めて発した声。
 それは普段聞き慣れている、自分のものとは全く異なっていた。
 一言で言えば、妙に高い。
 まるで、変声期にかかる頃の少年のような――

「う、んぅ・・・・・・っ」

 小さな呻き声と、布団の動く感触と。
 そして声の異常に気を取られて振り払うことも忘れていた左手を、ぎゅうっと握り締め
る温もりに、セイレンは状況を思い出して我に返った。
 やわらかい手が包む左手を見下ろし。
 その持ち主へと視線を向けて。

「・・・・・・っ、・・・・・・セニア?」

 そう呼ぶことを躊躇ったのは、その女性が少女ではなかったから。
 長く艶やかな夜色の髪をシーツに散らし、むずがるように身を捩った相手。
 確かに髪の色も顔立ちも見慣れた妹のものと同じだが、しかし明らかにその身体は幼い
少女のものではなかった。
 色艶を帯びた輪郭、整った鼻梁に長い睫毛。
 白いうなじから肩へ、細い首筋から膨らんだ胸元へ、しっとりとなめらかな曲線を描く
身体のラインは、セイレンの知るセニアのものというよりも、マーガレッタやカトリーヌ
のそれに通じる成長した女性の――

「ッうわぁぁぁぁああああああああっ!!?」

 そこまでだった。
 彼女のはだけきった胸元は、たっぷりとした谷間が――というよりも、もう少し視線を
下にずらせばきっとイケナイものが丸見えで。
 女性という生き物にほぼ免疫らしい免疫のないセイレンは、すべて見てしまうよりも先
に目を逸らし、悲鳴をあげて後ろへ飛び退いていた。

 ガン!!

 と派手な音を立てて、背中よりも先に後頭部が壁に激突する。

「んっ――ふ・・・・・・なぁに、いまの・・・・・・?」

 流石にすぐ隣で悲鳴と打撃音がしては、目を覚まさないわけがない。
 むにむにと目を擦りながら、問題の女性が身体を捩って仰向けになる。
 さらり、と胸元にこぼれる長い髪。
 重そうな胸にのるそれをくすぐったそうに払いのけて身体を起こした彼女は、すぐ真横
で頭を抱えて蹲っているセイレンを見つけて、眠気が飛び去ったようだった。
 声から寝ぼけ感が吹き飛んで、変わりに焦りが混じる。
 女性が飛び起きる気配がした。
 そして、自分の前に座ったことを、差した影で知る。

「ど、どうしたのセイレン!? どこか痛いの、大丈夫!?」

 頭を押さえている自分の手の上から髪を撫で回されて、そのあたたかさやわらかさに動
悸が早まって仕方ない。
 正座の体勢から身体を半分に折りたたんでベッドに伏せているセイレンが少しだけシー
ツから顔を上げて見ると、目の前には男にとって毒にしかならない豊満な胸の谷間と、そ
の奥にはみずみずしい太腿――そして、白い下着。

「っ・・・・・・な・・・・・・」
「え?」

 思わず漏れた声に、女性が聞き返すが。
 もうそんなもの、耳に入っていなかった。

 明らかに実年齢の半分は幼くなっている自分。
 明らかに実年齢の二倍は成長してしまった妹。
 それが何故か同じ寝台で眠っていて、しかもセニアらしき女性はあられもない下着姿で
いて、おまけに色々と、その、丸見え寸前の格好でいて。

 絶対に顔は真っ赤。
 心臓の音は全力で走りつづけた後よりも速い。
 頭の中なんてもう、何が何だかわからないくらいに混乱していて。

 とどのつまり、

「何なんだこれは――――――――――!!!??」

 形振り構わず叫ばずにはいられなかった。










(続きは省略されました。以下を読むにはry
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