マーガレッタの部屋にあるベッドに横たわり、今は静かに寝息を立てているセシルを
カトリーヌ=ケイロンは、いつもの無表情に少しだけ、でも彼女にとって精一杯の不安顔を浮かべて
側のスツールに座っているマーガレッタに話しかけた。

「セシル…傷だらけにやられて…どうしたの…?どうして…?」

 マーガレッタの治療によって彼女の傷は殆ど完全に塞がれてはいるが、
先程ここに運ばれてきた時には、誰が見ても満身創痍の状態だった。

「グリムね。暗殺者の使う技術で、隠形したままの状態で攻撃できるの。
 ほら、エレメスが時々使ってるじゃない?あのタケノコみたいな技」

 顎に人差し指を当て、こくんっと小首をかしげながらカトリーヌは問い返す。

「でも…エレメスは普通に姿を現したまま使ってるわ…」

「ああ見えて、アイツは暗殺者の中でも熟練者だからね。一般、と言っちゃおかしいけれど、
 大半の暗殺者は隠れた状態でしか使えないはずよ」

「隠れた…状態だけ…」

 何やら考え事でもしているのか、カトリーヌはふらふらと部屋を出て行ってしまう。
一抹の不安を覚えながらも、マーガレッタはいつもの事だと思い直し、セシルの寝顔を鑑賞してしまうのであった。




 やられた傷も完全に快復し、セシルが何時も通り巡回をしている時。

「じゃーん、じゃーん、じゃーん、げぇっ、かとりーぬがきたぞーにげろー」

 前方からカトリーヌが何やらぶつぶつと呟きながら近づいてくる。
何時もの無表情に、索敵用のヒトダマを回しながら。

「な…何?カトリーヌ、どうしたの?」

 いつもと若干?違う様子に戸惑いながらセシルは疑問を口にした。

「じゃーん、新生かとりーぬ様の誕生でございます。今日からセシルはわたしがまもりまーす」

 相変わらず表情を変えずに、口調もそのままに、ただセリフだけが妙にハイテンションに。

「え…いや、どうして?ってかいつもよりそれ多く回してない?」

「いつもよりおおくまわしておりまーす、ぐるぐるまわりまーす」

 普段と明らかに違う様子に、背筋に冷たいものを感じてぶんぶんと両手を振る。

「いやっ!いいから!私は自分の身ぐらい自分で守れるから!カトリは自分の持ち場に戻って!」

「せしせしるんるんせしるんるん、ぐりむがてんてきせしるんるん
 せしせしるんるんせしるんるん、まないたかわいいせしるんるん」

 普段なら自分が怒り出すはずの単語が含まれているにも関わらず、セシルは恐怖で立ちすくんでしまい、
口をぱくぱくと動かして、何か言おうとする、が、先程の自分の言葉が伝わっていないことに驚愕し、
その事実と、目の前の現実に打ちのめされるという、正に恐怖のスパイラルに陥ってしまった。

「さいとーさいとーぐりむぴくは、まほうしょうじょかとりんが、まがれにかわっておしおきよっ」

 うろうろと自分の周囲を回りだす。さながら何かの宗教儀式のように。


 と、何かに反応したかのようにカトリーヌが突然動きを止める。

「かんじる…かんじるわ…ちかくにかくれているのね、でてきなさい!」

 と、先程よりも動く速度を速めてセシルの周囲をぐるぐると回りだす。
心なしかサイトの炎も速く回転しているように見える…。



(セシル殿はああ見えても女性、拙者は心を悪魔にしてでも女性を守らねばならぬでござる)

 先日、セシルが自分と同職にやられたと聞いて、恐らくグリムトゥースだろうと当りをつけた。
グリムはハイディング状態からしか使えない為、どうしても防御におろそかになってしまうのが弱点だ。

(拙者が身に付けた、このクリップオブ(ry いやいや、悪魔化の能力とクローキングをもってすれば
 ハイド状態の侵入者共をいち早く見つけ出し、必殺の技で仕留める事ができるであろう。
 さすれば先日のようなセシル殿の痛々しい姿を見なくても済む。ここで恩を売っておけば…いやそうではなく
 女性は拙者が守らねばいかぬのでござるよ、ニンニン)

 多少の下心を秘めつつ、エレメス=ガイルはセシルの持ち場へと隠形しつつ移動をしていた。



「ぴーぴーぴー、かとりんせんさーはんのうちゅう。ちかくにいるぞ、でてこいわるものめ」

 徐々に旋廻速度を上げつつ、人差し指を立てて両耳の脇につけて、相変わらずヒトダマを回しながら
彼女は動き回り…そして突然動きを止めた。

(ん?あれはカトリーヌ殿ではござらんか。何をしているのでござろう?)

 エレメスは迂闊だった。カトリーヌが何時もと違う事に、サイトがいつもより多く回っていることに、
全く警戒していなかったのだから。

「そこかっ!ぐりむぴくめ!このまほうしょうじょ☆かとりんがせいばいしてくれるわっ!」

 突然、彼女はエレメスの方に向き直ると、猛牛も真っ青なスピードで走り出した。

(お、おや?カトリーヌ殿、何か様子が…あんまり近寄られるとクロークが解けてしまうでござるよw)

 エレメスにぶつからんばかりの勢いで――実際に少しぶつかってエレメスが吹き飛ばされていたようだが)
――サイトで彼を発見すると、おもむろに早口で詠唱?を開始する。

「まじかる☆かとりんのふろすとだいばぁ〜☆彡」

 氷の蔦がエレメスを氷漬けにする。

「かとりんかとりんかとりんりん♪ アナタのはぁとにゆぴてる☆さんだぁ♪」

 超高熱のプラズマ球がカトリーヌの眼前に生まれ、周囲の空気を震わせてばちばちと放電する。

「わるいこにはっおしおきよぉ☆ミ」

「ちょっ!まっ!それエレメs」

 セシルの制止も空しく、虚空より出現した周囲を無差別に破壊するほどの雷光球が、射出される。
研究所内全ての大気を焼き尽くすかの如く、表面温度が数万ケルビンにも及ぶプラズマが無慈悲にも
哀れな犠牲者へと収束する。

「何故でござるかぁぁぁぁぁっ!あんまりでござるぅぅぅぅぅ!」

 断末魔の叫びが尾を引きながら、広い研究所を破壊しながらエレメスは吹き飛んでいった。

「てへっ♪やりすぎちゃったりなんかして♪」

 そのまま、セシルは気を失った。



 余談ではあるが、その後マーガレッタにこっぴどく叱られたカトリーヌは、翌日には元に戻っていたという。

 めでたしめでたし




――――おしまい
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