大浴場というのは気持ちのいいものである。開放的な気分でのんびりとあったまることができ、一日の疲れを癒してくれる。
だがそんな気持ちのいいひと時も、セシル=ディモンにとっては憂鬱なものだった。
もちろん風呂が嫌いなわけではない。身体は清潔に保ちたいし、疲れたときにはこのまま寝てしまいたいくらいに気持ちがいい。
だがそれもすべて、一人で入るときにしか得られない安息だった。

「セシル…お風呂に行こう…?」
カトリーヌはハイウィザードだ。普段は外套に隠れてはいるが、そのプロポーションはかなりのもの。
「セシル、一緒にお風呂に入りませんか?」
ハイプリーストのマーガレッタは一片の贅肉すらついていないような身体付きなのに、とてもやわらかい。そして胸と腰はしっかりと出ている。それが悔しい。
なぜ自分だけ、こうも魅力がないのか…
そのコンプレックスを、風呂場ではまざまざと見せ付けられる。現実逃避だろうとなんだろうと、この二人とお風呂に入るのは御免蒙りたかった。

「…やだ。二人で入ってくればいいじゃない」
つい、そんなことを言ってしまう。言えば自分がみじめになるだけだということに、言葉にしてからしか気付けない。
「セシル…?…具合、悪いの…?」
「…悪くない。けど…」
カトリーヌが心配そうに聞いてくるのを見るとさらに良心がとがめる。自分の感情がただの嫉妬なのはわかっている。けれど口に出してしまった以上、後には引けない…
「ほらほら、問答無用ですわ?早く用意しないと着替え無しで連れて行きますわよ?」
一発で悩みが吹き飛んだ。セシルの後ろに回りこんで羽交い絞めにしたマーガレッタの声は、良くも悪くも力があった。
「あーもう!わかったわよ、今用意するから先に行ってて! …それとマーガレッタ、その、胸が当たってる上にあたしの胸を揉もうとしない!」
「残念ですわ…でも楽しみは後に取っておくものですものね。お風呂場ではお覚悟召されませ?」
「いいから…セシルは早く用意。マーガレッタはセシルを放して…用意ができない」
カトリーヌの声が、ちょっとだけ楽しそうだった。

脱衣所で服を脱いで、風呂場へと入る。身体を洗って、髪を洗って…
「ねえセシル。あなたブラジャーはどうしてるの?」
きっかけはマーガレッタの一言だった。
「あなたも胸がないって言われてるからむきになっていないかしら?気をつけないと垂れてくるのは早いわよ?」
気にしていることを、まったくの毒無しで言われてしまう。言われたことにも、言われた内容にも心が痛む。
「…いい。どうせ垂れるほどないもん。ブラジャーなんて必要ないよ」
「あらあら、何を言ってるのかしらこの小娘は」
いじけるセシルを後ろから抱擁するマーガレッタ。口調はともかく、微笑みだけはまさに聖母のよう。
「…今はそうでも、そのうち大きくなるから…」
カトリーヌのフォローも入る。だがセシルには湯船の中で楽しそうにこっちをみているカトリーヌの表情が、どうにも悪巧みをしているようにしか見えずに…
「揉まれれば大きくなる、とこないだカトリーヌが読んでいた本に書いてありましたわね」
「マーガレッタ、…「好きな人に」が抜けてる…」
嫌な予感がする。こういうときのこの二人はろくな事をしない。セシルは経験的にそう思った。
「エレメス、この子の胸を優しく揉んであげて?」
「えっ!?」
ここは女風呂だ。いやエレメス=ガイルの力をもってすれば侵入するくらい何の苦もなく出来るだろうが…
「揉むほど無いでござるよ」
果たして声がした。少なからずデリカシーにかける、常に余裕を持った男の声。
「セシル殿、某は今脱衣所に居り申す。もしセシル殿が某に好意を寄せてくれるなら、某もそれに応えたいでござるよ」
マーガレッタに抱かれながら項垂れるセシル。
エレメスの言葉が先ほどの「好きな人に」に掛かっているくらいのことは流石にわからないでもないが…
「…エレメス、へんなとこで律儀…」
「でも脱衣所に侵入している時点で、変態の誹りは免れませんわ」
「姫、来いと言っておきながらそれはあんまりでは御座らんか!?」

「エレメス、入ってきていいよ?」
セシルの後ろでマーガレッタが少し驚いたように身をすくめた。
「はて、入ってよいといわれても、このまま戸を開けて入っていくのも間抜けでござるな」
「一緒にお風呂に入ればいいじゃない。裸になってくればいいでしょ?」
湯に使っていたカトリーヌも驚いて思わずセシルを凝視する。
「ふむ…姫、カトリーヌ殿、某もご一緒してよろしかろうか?」
「私は、…かまわないけど」
「…だめーっ!絶対だめっ!セシルは私のものなんですからねっ!?ござるになんてあげませんわ!」
突然叫びだしたマーガレッタに、女二人は顔を見合わせた。
「大体ござる、あなたなんでこんなところにいるのです!?やはりござるは変態なのですね!?」
「ひ、姫、それはいくらなんでも酷う御座らんか!?」
「問答無用です!レックスディビーナ!レックスエーテルナ!ホーリーライト!」
「…むがーっ!むがーっ!」
「…エレメス、可哀想…」



後日、ぶち切れたマーガレッタに重傷を負わされたエレメスの居室にて。
「…べ、別にあんたがどうなろうと知ったことじゃないけど、あんたがなんであんなこと言ったのか!とか!…その、気になったから…」
少し語気が強まったセシルを微笑ましげに見ながら、エレメスは言う。
「セシル殿、脱衣所にて某が言ったことには嘘はござらんよ。もし…セシル殿さえよろしければ、某と一緒に居て欲しい」
「…ありがとエレメス…あたしでもいいのかな?」
「某が好きなのは間違いなくセシル殿でござるよ。姫はそういう対象ではござらんし。…まぁ、」
一度言葉を切ったエレメスに、きょとんとセシルが聞き返す。
「まぁ、何?」
「胸はそのうち揉ませていただくことにするでござるよ」

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