「季節の変わり目ですから、風邪を引かないようにしてくださいね」
夕食後、各々が部屋に戻る際にマーガレッタが放った言葉である。
季節の変わり目とはまことに厄介なものだと、冴える銀髪の騎士は切実に感じていた。
「急に冷えすぎだろ……」
昨日までは薄着一枚で眠っていた彼も、今日は長袖のシャツを上に重ねている。
暑い季節にもうんざりしていたが、急に気温が下がると寒く感じて不快だ。
人間のわがままだということは頭の隅で理解していたが、それでも不快なものは不快だった。
夜半過ぎ、喉の渇きを潤して台所から出ると、ばったりとある人物と会った。
ピンクの可愛い花柄の寝巻き姿。大きすぎて肩がはみ出そうな辺りが、年齢と比較すると危険ではあるものの、その体系は身長以外年齢に見合わない。
長い金髪の彼女は、セイレンもよく知る相手――普段から喧嘩の絶えない、ある意味厄介な相手――だった。
寝ぼけているのか、ふらふらとした頼りない足取りで歩いてくる。
「よう、貧乳。腹減りか? お前は胃袋の前にその薄っぺらい胸を大きくしたらどうだ?」
とりあえず日常化した嫌味たっぷりの挨拶をぶつけて、反撃に備えるべく姿勢を低くした。
いきなり矢が飛んでくる可能性も充分にありうる――というよりむしろ、矢が飛んでこないほうが珍しい――ので、
姿勢を低くして回避の体勢を取るのだ。
だが、その心配は杞憂に終わった。
矢は飛んでこない。それどころか、何が何でも繰り出される怒声すら一つも来ない。
ひとたび火がつくと手の付けられないほど大暴れする彼女が、ここまで静かなのは明らかに異常だった。
目もどこか虚ろで、こちらの嫌味にも全く反応がない。
「おーい、どうした? カトリじゃあるまいし、何か変なモン拾って食ったとか言うなよ……っておい!」
とりあえず再び嫌味をぶつけてみたところ、彼女は呆気なく倒れた。
気丈な娘は、普段の覇気を完全に失っていた。
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時刻は深夜。既に皆眠りに就いている。
こんな夜更けにマーガレッタを叩き起こすわけにもいかない。(起こしたら起こしたでとてもイケナイ方向に進みそうでもある)
以前、妹が風邪を引いたときに作ってやったのを思い出しながら、セイレンは何とかそれを完成させた。
「ん……」
「よ、起きたか貧乳」
ベッドの横のサイドテーブルにお盆ごと置いてやったのは、生卵をかけた水気の多いお粥。
相変わらずセシルは火照った顔のまま反応が鈍い。
ちょっかいが空振りすることに若干の寂しさを感じるセイレンを他所に、セシルはスプーンに手をつけた。
「あつっ……」
「おいおい、そりゃいきなり口の中に放り込みゃ熱いだろうよ」
慌てて麦茶を飲み干す風邪の少女を見て、思わず苦笑が漏れた。
こんなにドジで、危なげなヤツだったろうか。
か弱い吐息で必死にお粥を冷まして口に運ぶ姿は、微笑ましくさえあった。
「……か」
「あ?」
食器を片付け終えて戻ってくると、セシルが俯きながら小声で何か言っているが、うまく聞き取れない。
先ほどよりも表情はだいぶ落ち着いてきているが、火照って赤い顔は変わらなかった。
「ばか。うつったら、どうするのよ」
「バカは風邪引かないだろ?」
普段はそれこそマシンガンのように罵声の弾丸を浴びせあう仲である二人だったが、おとなしいセシルは珍しい以外の何者でもない。
言葉遣いこそ普段のそれに戻っているものの、口調がまるで違うセシルに、セイレンは人の二面性を見た。
妹や幼子を見て保護欲をかきたてられることは良くあることだったが、まさかセシルを相手にその感情が芽生えるとは思いもしなかった。
常ならば際限なくあふれ出てくる嫌味なワード満載の文章が、このときは欠片も思い浮かばなかった。
「ほれ、食うモン食ったんだから、さっさと寝て直せよ」
「うるさい。あんたも、うつらないうちにさっさと帰りなさいよ」
火照った顔でむくれながら抗議する姿は、覇気がまるで無い。
苦笑しながら部屋を出るセイレンの背中に、小さな声が投げつけられた。
「……ありがと」
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おかしい。ありえない。
きっと幻聴に違いない。
そう思いながらも、セイレンは少しばかり顔が熱くなるのを感じていた。
不意に、弱々しいセシルの顔と声が思い出される。
「風邪、うつっちまったかな」
誰に見られてるわけでもないのに、彼は恥ずかしさを適当な言葉で誤魔化した。
翌日、風邪とは別の理由で罵声合戦が起こらなかったのは、また別のお話。
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作者の頭に言い訳属性が付与されました。
以下7スレ970より抜粋
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Q:セイレンはノビとか幼女大好きなのに、お子様な体系のセシルが対象外なのはどうして?
A:これから成長するのを大事に育てたり見守るのが好きなのです
それに比べ、セシルって今後、身体的に成長する可能性が閉ざされt・・・
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ならば、セシルに対して保護欲をかきたたせてやろうじゃないか!
ついカッとなってやった。反省などしていない。
心理描写薄いけど、勘弁してくだちぃ……
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