「あー、疲れた疲れた・・・」
いつもの巡回を終えて部屋に帰ると。

「お帰りなさい、あなた♪」
素肌にフリルのエプロンだけを身に着けた美少女が、お玉片手に俺を出迎えるという、ぶっちゃけありえない光景に出くわした。

だが・・・俺は既に、この程度の事はもはや露程にも感じず、眉毛一筋すら動かす事無く、冷静に対処する事ができる、
鋼の精神力を身につけていた・・・他ならぬ、こいつ自身のおかげでな!!

「カヴァク、手前ぇ・・・今度は一体何のつもりだ?」
そう何度もからかわれてたまるものか・・・俺は、極めてクールに切り替えし、相手の出方を窺った。

「ご飯にする?お風呂にする?・・・そ・れ・と・も・・・」

え?何?その先ってもしかして、やっぱりあれ?・・・なんですか!?その思わせぶりな態度はッッ!!
いやいや、それはやっぱりまずいだろ?・・・やめろ!くっつくな!!俺の胸でのの字を書くな!!
潤んだ目で見上げるな!首筋に息を吹きかけるな!!ちょwおまwwそれはまず・・・AAAAAAAAGHHHHHH!!!
俺は冷静ッ!!!姉貴のSGよりもクール!!耐えろ理性ッッ!!!ひっこめ煩悩ッッ!!静まれ高鳴る胸の鼓動っ!!
萌えちゃだめだ萌えちゃだめだ萌えちゃだめだ萌えちゃだめだ萌えちゃだめだ萌えちゃだめだ・・・・・・

クールな内心そのままの苦みばしった表情でハードボイルドに決めていると、カヴァクのツヤツヤした唇が、
次の言葉をゆっくりと俺の耳元にささやいた・・・ちょ、ちょっとまて!まだ心の準備がッッ!!?


「 エ ・ ベ ・ シ ・・・?」

「・・・えべし?」

「すみません・・・お邪魔してます・・・」
声のした方に視線を向けると、思わず思考が停止した。


洗い髪で赤面する栗毛チャンプ×バスタオル一丁=破壊力


・・・こいつはやべぇっっ!!どこに出しても危険な匂いがぷんぷんするぜぇっ!!?
環境のせいで萌えキャラにされたって?・・・違うねッ!こいつは生まれついての萌えキャラだッッ!!
ラウレルさんっ!悪い事は言わねぇ、道を踏み外したくなけりゃ、早い所この部屋から出ちまいなッッ!!

ドアを開けたら裸エプロンの男装美少女、ダイニングにはバスタオル一丁の湯上り美少年。

この時、極めて短く、的確なセンテンスが、俺の脳裏をよぎった・・・


それ、なんてエロゲ?


「・・・少し用事を思い立った、それでは」

脳内アドバイスの導きに従い、これ以上的確な表現は存在しないほど見事な言葉を残して踵を返した俺は、
即座にがっちりと羽交い絞めを極められてしまい、それ以上前に進む事ができなくなってしまった。

・・・前に進む事ができなくなったのは、羽交い絞めされてしまったからであって、決して他の要因が
あったわけでない事を明記しておく。特に、背中に当たっている柔らかい感触には、何の関係も認めないッ!!

こんな状況でも、俺の精神は極めて平静かつ冷静で、我ながら惚れ惚れするほどだ。
「あ、アの・・・カヴァクさンっ・・・背中に何かアタってるんデスけどっ!!」
声が裏がえっているって?はっはっはっ・・・そんなはずはないだろう。気のせいだ、力の限り否定する。

「・・・当ててるんだが?」
こいつ・・・やっぱり楽しんでやがるなッッ!?
・・・ここでまたぶち切れですよ。お前、女ちゃうんかと、恥じらいと言う物はないんかと小一時間・・・

「まあまてラウレル、落ち着いてエベシの話を聞いてやれ・・・その間に、お茶でも入れてきてやる」
「ちっ・・・わかったよ・・・」
しぶしぶながら、部屋にとどまる事を同意すると、カヴァクはようやく俺を開放し、
部屋にしつらえてある小さなキッチンへと姿を消した・・・ふぅ、やれやれだぜ・・・

もちろん、クールでハードボイルドな俺は、その後姿を目で追いかけるような事はしない。
・・・良かった、シースルーの上下が無いだけで、上も下もちゃんと着ている・・・本当に良かった・・・
はっ!?いや、これは偶然ちらっと見えてしまったのであって、決して見ようと思って見たわけでは!?


「あの・・・なんだかお邪魔だったみたいで、すみません・・・」
エベシ!お邪魔ってどういう意味だ手前ェェッッ!?むしろいてくれてありがとうだぜコラァッッ!!
その格好はともかく、今回ばかりは、奴と二人っきりでは危ない所だったんだよコラァァッッ!!?

「いや、別に邪魔では無いけどよ・・・その格好はいったい・・・」
俺の問いに、エベシは、はらはらと熱い涙をこぼした。

「姉さんが・・・」
OK、これ以上ないって位に把握した・・・だからその乙女チックな横座りで泣くのだけはやめてくれ、
色々危ないから・・・な?・・・ってか、なんで男なのに胸まで隠してんだ手前ぇわよぉぉぉッッ!!

「これは、こっちの方が体が冷えなくていいからって、カヴァクが・・・」
よし、あいつはいつか必ずシメる・・・いつか、必ずなっ!!
「ってか、そんなら適当に服あさって、勝手に着てれば良いじゃねーか・・・」
「いや、こういうのは、きちんと持ち主の同意を得てからじゃないと・・・やっぱりね」
まったく、真面目なやつだよなお前は・・・そのせいで、からかわれてるとも知らないで・・・主に俺が。
台所の方から、何か含み笑いのような物が響いてきたような気がするが、もちろん聞こえない振りをするぜ!

「まあいい・・・ほれ、とりあえず、これでも着とけ」
俺が部屋着にしている昔のローブを出してやると、エベシは嬉しそうにいそいそとひっかぶった。
お前・・・男の癖に、なんでそんなに動作の一つ一つに女らしさが・・・いや、エベシの為にも、ここで多くは語るまい。

「ああ、まともな服が着られるのって、なんて幸せな事なんだろうね・・・今回の件で改めて実感したよ」
いや、その感動は何かが間違えていると思うぞ、俺は。

「本当にありがとう、それじゃ、僕はこれで・・・」
俺はそそくさと出て行こうとするエベシを引き止めた、もちろん理由があっての事だ。

「おい、ちょっと待てよ、気になって仕方ないから、理由を話してくれねぇか?それもできるだけ長く、詳しく頼む」

「え?・・・でも・・・」
「ついでに、ゆっくりしていけよ・・・お前も、ほとぼり冷ましてから帰った方がいいだろ?」

エベシの部屋はマガレさんの部屋と近い。下手したらエベシの部屋でマガレさんが待ち伏せしている可能性もある。
服も着ないで逃げ出した直後だけに、ばったり顔を合わせたりしたら、やっぱり気まずいだろう。

・・・それに、今日の裸エプロンは破壊力抜群・・・あいつと二人っきりになるのは色々とまずい・・・
なるべく長くエベシを引き止めねば・・・俺の理性の危険がピンチだ!!

「そうですか、それじゃあお言葉に甘えて・・・」

思わずほっと息を吐く・・・同時に、再び台所の方から何か含み笑いのような物が聞こえた気がするが、
全力で気のせいだと思い込む事にするぜ!!・・・つーかカヴァク!手前ぇは含み笑い禁止ッッ!!

そんな事を一通りやっていると、カヴァクがお茶を持って台所から戻ってきた。
「ほれ、お茶」
「すみません、いただきます」
「おう・・・ついでにお前も何か着ておけ、エベシが困ってるだろうが」

赤くなって、必死でカヴァクから視線をそらすエベシの様子に、流石のカヴァクも折れた。
「ふむ、そうだな・・・じゃあ何か適当に貸してくれ」
よし、今日はあっさりと引き下がってくれたな・・・グッジョブ、エベシ!!お前がいて良かった、本当に良かった・・・

ついでに俺も部屋着に着替えて、ちゃぶ台囲んで、3人仲良くペアルック・・・いや、トリオルック?
いったい何をやってるんだろうな俺たちは、とか思いながら、エベシの説明を表向き真剣に聞く振りをする。
そして、どんなに些細な疑問点にも細かく質問をはさみ、可能な限り時間を引き伸ばす。

結果、必要以上に長く、詳細すぎて返って分かり辛くなったエベシの話を、簡単にまとめ直すとこうなる。

エベシin the風呂>強襲!マーガレッタ!!>脱出、残影の果てに>安息の地、俺の部屋>若奥様登場!!
・・・そして現在にいたる、と。

この、文字にすれば1行足らず、口に出せば5分もかからないような説明を、俺はなんとか、
エベシが紅茶を3杯飲み終えるまでの時間、およそ1時間半の長さにまで引き伸ばす事に成功した・・・
今は自分を誉めてやりたい気持ちでいっぱいです!・・・必死だな、俺!!

「・・・それで、扉をノックしたら、カヴァクさんがあの格好で・・・まさか、二人がそんなに深い関係だったなんて
知らなかったものだから・・・びっくりしちゃって・・・」

「いや、それはカヴァク一流のジョークってやつなんで、真に受けないでいただけると助かります、はい」
つーか、忘れろ。今すぐ、即刻、跡形も無く。そんな事実無根の出来事は。

「迷惑かけちゃって、本当にごめん・・・」
心の底から申し訳無さそうに頭を下げるエベシ・・・お前、何で女に生まれてこなかったんだ・・・色々ともったいないやつめ

「まあ、このくらい気にすんなって・・・」
こっちも色々助かったしな!・・・とは口が裂けても言わないが・・・

「やれやれ・・・マガレさんにも困った物だな」
「いや、お前が言うな・・・日夜あんな事やこんな事をしでかしておいて・・・」
「何のことだか、皆目見当もつかんな・・・HAHAHAHAHA」
なんて性質の悪い確信犯だろうかッッ!!問い詰めたい!!小一時間程問い詰めたーい!!!

だが、俺はクールな男・・・問い詰めたい気持ちを、ぐっと堪えて。質問の矛先をカヴァクに向ける。
「さて、これでエベシの理由はわかったとしてだ・・・お前は一体何しに来たんだ?」
・・・まあ、こいつの事だから、どうせまた妙なネタでも拾ってきたんだろうけどな。

案の定、カヴァクは、何かたくらんでいる時特有の、小憎らしいニヤリ笑いを浮かべた。
今度はいったい、何をたくらんでいやがるんだか・・・

「何、ちょっと珍しい物が手に入ったので、お前にも拝ませてやろうと思ってな」

「・・・珍しい物?」

「ああ、今持ってくる・・・せっかくだ、エベシも食っていくといい」
カヴァクは台所から、覆いのかかった大きな皿を二つ持ってくると、俺とエベシの前に一つずつ置く。

かなり大きな食い物らしいが・・・いったいこいつは何だ?
あのカヴァクが、しかも「珍しい」と称して持ってくるような代物だ・・・とにかく、普通の物ではない。

「うふっ♪・・・はい・・・あなたの大好きなプリンよっ♪」
カヴァクは、俺の不信なまなざしのお返しとばかりに、いらない小芝居を挟みつつ、一気に覆いを取り去った。

そこに現れた物は・・・


どぷりーん♪


・・・と、そびえ立つ、四つの山。

「こ、これは・・・!?」
思わず、息を飲む。
「グレート・・・こいつはグレートにヘビーだぜ・・・」

内心、噂に伝え聞く「これを食した者は思わず求婚せずにはいられない」という、伝説の天津料理
「ニック・ジャガー」と、「はい、あなた、あーん♪」の即死級コンボでなくて良かった・・・
と、心の底から思いつつ・・・こいつの痛さ、気まずさは、ある意味それを補って余りある・・・

俺たちが驚く様を見て、カヴァクは満足気に笑う。

「そう・・・「おっぱおプリン」だ・・・しかもサイズはDカップ相当・・・ラウレルと二つずつ
 食べるつもりだったが、なにせ量が量だ・・・人手が増えて返って良かったかもしれん」

おっぱおプリンとは・・・

一つ!ぷるぷると柔らかく!
一つ!全体の色はあくまでも白く、頭頂部は薄いピンク色!
一つ!形はおっぱおを基本とする!

つまり!読んで字の如く!長年にわたる、男の夢とロマンのぎっしり詰まったプリンの事である!!

「えっと・・・ラウレルはその・・・これが、大好き・・・なんですか?」
「ちっ違うっ!!違うぞ!?・・・俺が大好きなのは、あくまでも普通のプリンであって、
決して「このプリン」が大好きというわけでは・・・」

・・・エベシ!?見るな!?そんな目で俺を見るな!!・・・お前だって、ついさっきまでは、バスタオル一丁で
そこいらをうろついていたくせにッッ!!?

「・・・僕のは不可抗力ですから」
くっ、チャンプになってから、こいつも言うようになりやがったぜ!!

「もうっ♪あなたったら・・・本当は大好きなくせに、嘘ばっかり♪」
いや、そのいかにも、「若奥様♪」みたいな、「私だけはわかってるのよ☆」、みたいな演技いりませんから。マジで。

「やっぱり二人は・・・その、そう言う関係だったんですね・・・」
ついに疑問符が消えた!?・・・つーかエベシの中で確定事項にッッ!?

「モチロンソウヨ」
要らん事言うな!!
「エベシ!お前は誤解禁止ッッ!!・・・カヴァクも、誤解を招くような言動禁止ィィィッッ!!」


俺が必死に・・・いや、限りなくクールに誤解を訂正していると、カヴァクが珍しく不満気な表情を見せた。
「なんだよラウレル、こいつにはお前の好きなものがダブルでくっついているんだぞ?・・・もう少し喜んだらどうだ」
「お前なぁ・・・確かに嫌いではないが・・・実際に実物を前にすると、正直ちょっと微妙?」

とは言え、この色、質感はなかなか・・・うわー揺れてる揺れてる〜・・・すっげぇ!きゃっほう!!
・・・だからエベシ!そんな目で俺を見るな!!見ないでくれッ!!頼むからッッ!!

カヴァク・・・なんで機嫌が直ったのかは知らないが、お前は、人の顔を見て、にやにや笑うのも禁止ッッ!!

「ネットの評判では、味も中々いいらしいぞ」
「しかし、この形は・・・」

そびえ立ち、震える四つの山を前にして、思わず赤面してうつむいてしまうエベシ。
・・・カヴァクさん、これが恥じらいと言う物です。良く学んでおいて下さい。今のあなたに、一番不足しがちな栄養素ですよ?

「ふっ・・・私には不要な感情だな」
言い切った!言い切りましたYO!?この小娘はッッ!?

「まあまあ、食物に罪はござらんwww折角の心尽くし、些細な事は気にせず、頂いてみるでござるよwww」
危うくリアルファイトに発展しそうなギスギスした空気を、不意に割り込んだ間延びした声が、巧みに解きほぐす。
「うーん、そうですね・・・確かに、食べ物に罪はありませんし・・・」
「OK、それでは早速みんなで・・・ってエレメスさん!?」
「なぜここにっ!?」

忽然と姿をあらわしたエレメスさんは、各自の前に取り皿を置くと、何事もなかったかのように空いている席に着席した。
それが余りにも自然すぎて、いったい彼がいつここに入ってきたのか、誰も気付かなかったのだ。

「なに、プリンの数は4つ・・・3人で均等に分けるのは難しかろうと思い、拙者が急遽助太刀に・・・」
「いや、聞きたいのはそういう事じゃなくて・・・つーか、いったいいつから・・・」
問われたエレメスさんは、わざとらしい位真剣な思案顔で、自分の顎を撫でている。

「ふむ、あれは確か・・・偶然にも、風呂場から半裸のエベシ君が飛び出してきたのを見かけたあたりからでござるから・・・」
「つまり、最初からかよ!?」
「まあまあ、過ぎた事は良いではござらんかwww皆でおいしくプリンをいただくでござるよwww」
「・・・それもそうっすね」

この人が神出鬼没なのは今に始まった事ではないのだし、いちいち気にしていたら仕方ない。
警戒を怠って、サイトもルアフも焚かなかった、こちらの手落ちなのだ。

それに、これがもし戦闘中だったら・・・エレメスさんではなく、敵対する冒険者だったとしたら・・・
俺も、この部屋に居る皆も、おそらく命は無かっただろう・・・エレメスさんは、日夜その事を、身をもって、
我々に教えてくれているのだ・・・我々は、このありがたい教訓を胸に刻み、日々精進を積み重ねていかなければ・・・

「・・・というのは建前で、人数が増え、カヴァク君と二人っきりになる確率が減ったので、
 内心ちょっとほっとしているのでござろう?」

勝手に人の心を読まないで下さいッッ!!いえ、もちろんそんな事実はこれっぽっちもありませんが!!

「これは失礼仕ったwww」
俺にだけ聞こえるようにささやいたエレメスさんは、そ知らぬ顔で自分のお茶を煎れている。
まったく、相変わらず底の見えない人だ・・・心臓に悪い・・・


・・・それでは気を取り直して・・・


まあいい・・・そう言う事なら、これを食ったら全員揃って帰るだろう・・・ならば早い方がいい。
早速プリンの山にスプーンをつきたてようとすると、なぜかカヴァクに止められた。

「まて!・・・こいつを食べるには、踏まねばならぬ手順と言う物がある」
またおかしな事を言い出したな・・・だが、俺は大人だ、クール・ガイだ・・・さらっと流すぜ!

「手順、ですか?」
「そうだ・・・まずは手本を見せてやる・・・私のやる通りにやるといい」
「承知www」
「おう、なんでもいいから、さっさとやれや」


カヴァクが神妙な面持ちでプリンの前に座ると、室内は厳粛な空気で満たされた。
・・・いったい何が始まるんだ・・・軽く緊張してきたぜ・・・


手順1、正座。


手順2、礼拝。

ありがたやー、ありがたやー


手順3、スプーンでつつく

ぷるんぷるんぷるんぷるん・・・


おおー・・・どよどよどよどよ・・・


手順4、皿を持ってゆらす

たゆんたゆんたゆんたゆん・・・


おおー・・・どよどよどよどよ・・・


「・・・ってアホかっ!!?」ちょぷちょぷちょぷっ!!

「あうあうあうっ!?・・・何をする、かなり痛いぞ」

「何が必要な手順だっ!!真剣に見て損したわっ!!・・・エレメスさんも、真面目な顔で真似しないで下さいっっ!!」
「しかし、踏まねばならぬ手順との事でござるゆえwwwやらぬわけにはwww」
「だーっ!!!」

「まあ待てラウレル、手順はあと2つで終わりだ、もう少しだけがまんしてくれ」
「わかった・・・もういい、さっさと終わらせろ」


手順5、トッピング
「取り出だしたります、この蜂蜜と練乳、そして生クリームを、これ、このように・・・」

とろ〜り、まろ〜り・・・


・・・ゴクリ・・・

くっ・・・こいつっ!!!なんて事を考えるンだッッ!!?
こんな危険な有様をお茶の間にお届けしたら、その場の空気が急速に気まずくなる事請け合いだぜっ!!


と、その時・・・それまで沈黙を守っていたエベシが、突然勢い良くちゃぶ台を叩いて立ち上がる。
よし、いいぞエベシ!こいつらにモラルと言う物の何たるかを教えてやってくれ!!
エベシは何かを決意したような表情で、俺たちの顔を見回し・・・そして言った。 「えっと、僕・・・用事を思い出したので、これで帰りますね。色々とありがとうございました、それでは」
一息に言い終えたが早いか、ひきつったような笑顔の残像が、素晴らしい速さで扉に向かって伸びていく。

・・・残影ですとっ!?

「待てエベシ!!逃げるのかっ!?・・・逃げてもいいが、俺を置いていかないでくれ!!エベシィィィッッ!?」

「ごめんなさいっ!僕には・・・僕には、そんな邪教の儀式みたいな行為は、もう耐えられませーん!!」
かすかに聞こえた「へにゃー」という泣き声を最後に、エベシの姿は、あっという間に見えなくなった・・・

「邪教とは失礼な・・・これでも、ネットで調べた限りでは、かなり支持率の高いネタ(げふんげふん)
 ・・・もとい、作法だと言うのに・・・エベシには少しばかり刺激が強すぎたか・・・残念だ」

エベシ・・・頼むから、俺をこいつと一緒にするのだけは止めてくれ・・・本当の俺は、
もっと、クールで、ハードボイルドで、苦みばしったやつなんだ・・・それだけはわかってくれよな・・・


「ふむ、エベシ君が抜けてまた3人・・・4つのプリンを均等に分けるのは困難になりもうしたな・・・しからば!!」
振り向いた時には、既にエレメスさんの姿は床に吸い込まれるようにして見えなくなっていた。

「拙者は涙を飲んで辞退させていただく故www後は、お二人で仲良くプリンを分けると良いでござるwww」

逃がすか!!サイト!!サイト!!サイト!!サイト!!・・・どこにもいねぇ!?

「アディオス、アミーゴ・・・また会う日まで・・・でござるwww」
・・・外かっ!?
「据え膳食わぬは男の恥と申す・・・グッドラック・・・健闘を祈るでござるよ、ラウレル君www」
ちょwwwおまwww何言ってwwww・・・どういう意味デスかコラァァッッッ!!!?

あわてて廊下に飛び出した俺をあざ笑うかのように、くすくすエモが、ぐんぐん廊下を遠ざかっていった。
・・・おのれエレメス!計った喃!!計ってくれた喃!!


「やれやれ、結局二人っきりになってしまったか・・・」
・・・もはや何も言うまい・・・なんだかどっと疲れてきた。

「・・・もういい、次で最後なんだろ?・・・それ済ませて、さっさと食おうぜ」

「ああ、そうだな」


手順6、味も見ておこう。

「これが最後の手順だ・・・このプリンを食す時は、最初の一口目にスプーンを使ってはならない・・・」
「何っ!?お前・・・まさかっ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

「ふっ、そうだ・・・カンの良いお前には分かったようだな・・・」
「やめろっ!?その食べ方は・・・ビジュアル的に、教育上大変よろしくないッッ!!」

「ふっ・・・だが遅いっ!!・・・いただきまーす」

あーん・・・ぱくっ♪

「ぐふぅッッ!?」
ズッキュゥゥゥ〜ン!!!

「更にっ!!」

ぺちゃぺちゃ・・・ちゅぱっ・・・ちゅぱっ・・・ちゅぱぱぱぱっ・・・れろれろれろれろ・・・

UUUUGGYYYAAAAAAAAAAHHHHHHHAAAAAGGGGHHHHHH!!!

「これで手順は全て完了だ・・・もぐもぐ・・・うーんおいちいっ!!・・・おや、どうしたラウレル?」

「・・・なんでもねぇ、気にするな・・・だが、カヴァク・・・お前のその、妥協を許さない
気高い行動に、同じ星の住人として、心から敬意を表するッッ!!
・・・あとお前、馬鹿決定な、それも大馬鹿。馬鹿の総元締め!!この筋金入りの大馬鹿野郎めが!!」

「はっはっはっ、ちょっと誉めすぎだぞラウレル」
「ひとかけらも誉めてねぇッッ!!」

危ない所だった・・・だが、このラウレル=ヴィンダーには、一度見た技は二度と通用しない・・・
貴様の使ったネタは、既に1スレ前に我々が通過してきた道程だッッ!!!
今日ほど「座っていて良かった」と思った日はないとッッ!!心から思うぜッッ!!

「お前も食ってみろ、なかなかいけるぞ?」

「おう、せっかくだからな・・・」
紳士な俺は、もちろん口で直接食べたりはしない・・・してないって!?マジで!!

「ふっ・・・やはりお前も(ニップルニップル!)から食べるか・・・流石だな・・・」
「いや、そういう事は、思っても口に出すんじゃねぇ・・・あと、意味ありげにニヤニヤするのも止めろ。頼むから」

ラウレル一生の不覚ッッ!!・・・指摘されるのは分かり切っていたのに!!何で俺は
(にっぷるにっぷる!!)から食べてしまったんだ!!ああっ!!俺の馬鹿っ!!

だが・・・逆に考えるんだ・・・(ニップルニップル!)さえ無ければ、外見的には、
普通のプリンとなんら変わりは無い・・・最初に食べちゃって良かった、と考えるんだ!!
勝った!!もはや俺が負ける要素は何一つとして存在しないッッ!!わずかな差で俺の勝利だッ!!カヴァクッッ!!

これ以降!試練を乗り越えたこのラウレルに、精神的な動揺はいっさい無いと思っていただこう!!

「・・・ってか、見た目はアレだが、食ってみれば普通に美味いな、これ」
「ああ・・・見た目だけでなく、原材料も乳の品質にはずいぶんこだわっているらしい」
「うーむ、まだ見ぬ同じ星の住人に敬礼!・・・って感じだな・・・」
「ありがたやー、ありがたやー」
「いや、それはもういい」


勝利者の余裕からか、そこから先は、なんとなく寛いだ気分になった。

山盛りのプリンを食い散らかしながら、馬鹿な事を真面目な面で論じ合う。
しょうもないネタで死ぬほど笑う。難しいボケに即座につっこむ。

懐かしい空気、上手く説明できないが、なんだか、とにかく懐かしい空気だ。

そして、ふと気付く。

カヴァクは本当に、昔と・・・アーチャー時代と、何も変わっていなかったという事に。

変わったのは・・・俺の方だった。

露出の多い服に惑わされて、女だという事に惑わされて、「本当のカヴァク」を見る事を忘れていた。
俺は、こいつの親友だったのに。
こいつは・・・俺の親友だったのに。

思わず、スプーンを持つ手が止まる。
目の前に居るのは、俺の服を着て、嬉しそうにプリンを食ってる馬鹿一人。

「どうした・・・そろそろギブアップか?」
カヴァクが笑う・・・にやりと笑う・・・実に小憎らしい、あの独特の笑い方で。
プリンの山は、残り三分の二。

「へっ・・・俺を誰だと思ってんだ?・・アァン?」
俺も笑う・・・にやりと笑う・・・なるべく小憎らしく見えるように。
こっちの山も、残りは同じく三分の二。

「「筋金入りのおっぱい星人!」」

綺麗にハモって、二人揃って爆笑する。
こんなに楽しい気分は久しぶりだ。


だからこそ俺は、今のカヴァクに・・・今の俺の、正直な気持ちを伝えようと思った。
それは俺の心からの、偽らざる、本当の気持ち・・・そして、願いでもある。

俺が、ずっと前から・・・お前が女だってわかってから・・・ずっと、伝えたかった言葉・・・
今を逃したら、もう二度とまともに聞いてもらえないかもしれないから・・・

「なあ、カヴァク・・・これからも、ずっと・・・」

カヴァクの目が、いつに無く真剣な色を帯びて、俺の方を向いた。
俺もまた、カヴァクの目を見つめる。

こんな事、今更改めて口にするのは、正直照れくさいんだけどな・・・





「・・・部屋に居る時ぐらいは、ちゃんと服を着てろよ・・・な?・・・」






カヴァクは、俺の心からの願いに、爽やかな笑顔でこう答えた。


「・・・だが断わるッ!!」


ハハハ・・・こやつめ・・・


ここでまたぶち切れですよ。

「・・・ざけんなコラァ!!つーか服くらいちゃんと着て下さい!マジで!」
お前がちゃんと服を着てさえいれば、俺は穏やかで平穏な日々を送れるんですよコンチクショウッッ!!!

「いいじゃないか別に・・・そんな事言うと、即座に脱衣するぞ?この場で」
「やめて下さい、大体なんですか脱衣って・・・年頃の娘さんが、そんな、はしたない・・・」
「ブラもパンツも脱ぐ事だ、全部脱いだ状態を、全裸とも言うな」
「それで、あなたは脱衣する事に何のメリットがあるとお考えですか?」
「そうだな、他の奴ならいざ知らず、ラウレルは面白い反応をする」
「いや、俺のリアクションはそれほど面白いとは思えません。それにストリーキングは犯罪ですよね?」
「そうか?かなり面白いと思うが」
「いや、面白いとか、そういう問題じゃなくてですね・・・」
「見たくないなら、見なければいいだけの事だろう」
「ふざけないでください。その気は無くても、つい見てしまうのが悲しい男の性・・・って何を言わせるんですか!?」
「やーいすけべー、ラウレルのすけべー、むっつりすけべー」
「聞いてません。帰って下さい。」
「あれあれ?そんな事言っていいんですか?部屋中を練り歩きますよ。全裸で。」
「いいですよ。脱いで下さい。それで満足したら帰って下さい。残りのプリンを持って」
「そうか、それではお言葉に甘えて・・・」
「・・・まて、今日はMPが足りないんじゃないのか!?」
「ふっ・・・何のことだかさっぱりわからないな・・・」

くっそう謀られた!!・・・またしても謀られちゃいましたか、俺!?

「よし、家主の許しも出た事だ・・・ここは一つ、真・裸エプロンの威力でも試してみるとするか!」


ドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・


まずいっ!?カヴァクは自分の貞操の危機よりも、俺の反応を見て楽しむ事を優先するタイプッッ!!
「させるかぁッッ!!」

「ふっ・・・無駄だ・・・」
「なんだ!?・・・脱衣を止めさせたいのに、カヴァクに触れる事ができないっ!?・・・まさかっ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

「・・・見えたか?聞こえたか?・・・これが「魅惑のウィンク」の能力だ・・・」
「しまった!!・・・いつの間にっっ!!?」

「ラウレル・・・このスキルの有効時間・・・つまり、お前が私から視線をはずせるようになるまでおよそ10秒・・・
だが!!ここから全裸になるまでに、あと5秒とかからないぞっ!!フハハハハハハハハッッ!!!」

俺は、不自然に傾斜したポーズで勝ち誇るカヴァクの後ろに徒歩で回りこみ、容赦なく羽交い絞めを極めた。
「ほい、捕まえたっと」

「・・・あれ?」
あれ?・・・じゃねーよ・・・お前、頭脳が間抜けか?

「お前なぁ・・・あんだけ沢山しゃべってて、10秒過ぎてないわけが無いだろが」
「おかしいな・・・原典では確かに・・・」
原典・・・いったい何の事だ?・・・俺には、君が何を言っているのか、さっぱりわからないな・・・


「馬鹿やってないで、さっさとプリンの残りを片付けようぜ・・・」
とりあえず、危機は去ったので、俺はさっさとカヴァクを開放して、自分の席に戻る。
話ながらずいぶん食ったと思ったのだが、よくよく見れば、それでもまだ、互いにおよそ三分の一程度の量が残ってる・・・
そして、これを食べきっても、まだ、無傷のふた山が・・・

「すまん、こっちはそろそろ限界だ・・・流石にこれ以上は・・・」
「・・・ああ、俺も正直かなりきつい・・・どうするよ、これ?」
プリンを、そしてそびえ立つDカップ様を!!これほどまでに疎ましく思ったのは、生まれて初めてだ!

「このサイズは、観賞用にはもってこいだが・・・やはり、実際食べるには多すぎるな」
「いや、そこは注文する前に気付け・・・まあ、一人二個という気持ちは、わからないでもないが・・・」

大雑把に見積もっても、1個がおよそどんぶり一杯分。
プリンが好物の俺でも、そうそう食いきれる量ではない。

「持って帰って、万が一姉さんに見つかったら、間違いなくぶち切れるだろうし・・・どうしたものか」
・・・なるほど、わざわざこっちまで持ってきたのは、そういう理由もあったわけか。

「じゃ、後でうちの姉ちゃんに食ってもらうか」
現状では、こればおそらくベストな解決方法だろう・・・文字通り山のようなプリンだが
それでも姉ちゃんなら・・・姉ちゃんならなんとかしてくれる・・・まず間違いなく。

「カトリさんは、こういうネタには結構厳しいと思ったが・・・大丈夫なのか?」

そう、普段はなんだかぼーっとしてて、食う事しか考えていないように見える姉ちゃんだが、
あれでいて、意外とモラルや下ネタにはうるさく、かなり厳しい最低を下すのである。
カヴァクの心配ももっともだが、俺には己の身を犠牲にして会得した秘策がある・・・万に一つも危険はあるまい・・・

「ああ、(にっぷるにっぷる!)だけ取っちまえば、味も見た目も普通のプリンだしな・・・たぶん大丈夫だろ?」
「なるほど・・・流石だな、ラウレル」

とりあえず一段落という事で、二人揃ってスプーンを置き、長い長い息を吐く。

「食いかけのやつは仕方ねぇから、冷やしておいて、明日改めて食おうぜ・・・」
「・・・そうだな」

気が抜けたのか、スプーンを置いたとたん、急激に眠くなってきた。
なんだか酷く疲れた・・・プリン疲れか?・・・いや、そんな疲れ方は嫌過ぎるな・・・
時計を見れば、もうとっくにいつもの就寝時間を過ぎていた。
・・・こんなに遅くまで起きていたのは久しぶりだ・・・どうりで眠たいわけだ。

「んじゃま、話も決まった所で・・・俺はそろそろ寝るけどよ、お前どうする?」
だいぶ遅い時間だが、こいつにとってはまだまだ宵の口って所だろう。

「とりあえず、風呂にでも入ってくるかな・・・」
応えながら、カヴァクはぐーっと体を伸ばす・・・こいつもそうとうプリンが効いてるな・・・

「風呂か・・・めんどくせぇ、俺は起きてからにするわ・・・」
やべぇ、も、限界・・・自覚したら一気に眠気が・・・

「大分眠そうだな・・・片付けはこっちでやっておくから、気にせず休んだらどうだ?」
「悪ぃな・・・洗い物は、流しで水に漬けておいてもらえれば、後で俺がやっとくからよ・・・」
「何、持ってきたのはこっちだ、気にするな・・・それでは、お休みラウレル、いい夢を」
「おう、おやすみー」

かちゃかちゃと、食器の触れ合う音をBGM代わりに、ごろりとベッドに寝転んで。
かすむ視界で、ちょこまか動き回る後ろ頭をぼーっと眺める。
ああ、この感じ・・・懐かしいよなぁ・・・なんか、上手く言葉にはできねぇんだけど・・・

いつしか明かりが吹き消され、常夜灯だけが淡い光を投げかけてくる。
部屋を出るとき、あいつが何か言ったような気がしたが・・・なんだったんだろうな・・・

まあいい・・・ちょいと疲れたが・・・今日は、悪くない一日だった・・・

目を閉じた瞬間、暗闇の中に、すっと意識が吸い込まれていった。


・・・



翌朝、いつになくすっきりと気持ち良い目覚めを迎えた俺は、上機嫌でベッドから伸び上が
・・・ろうとしたわけだが・・・なんですか、この腹のあたりでもぞもぞしてる、暖かい物は・・・

( Д)        ゚  ゚

こ・・・この、非常にけしからん生足は何事ッッ!!?
恐る恐る布団をめくると、そこには・・・

「カヴァク!!・・・おまっ・・・何やってんだコラァッッ!!?」
「・・・OK、起きた、もう起きた、完璧だ・・・だから後5分だけ・・・むにゅむにゅ」
「これっぽっちも起きてねぇ!?」

甘かった・・・俺は、こいつがちゃんと帰るところまで見届けるべきだったのだ・・・
だって、風呂入るって言ってたし、そのまま帰ると思うじゃん!?普通!!

幸い、多少めくれ上がってはいるものの、服自体はちゃんと着ているので、俺の理性は大助かりだ・・・
まったく、人の気も知らねぇで、幸せそうな寝顔しやがって・・・

そういえば、昔は良く雑魚寝してたよな・・・互いの部屋をいったりきたりで。なんだか酷く懐かしい。
こいつがこんな風に寝てるのを見るのは、いったいどのくらいぶりだろう。

カヴァクはいつも、枕を抱え込んで、自分の膝を抱くような姿勢で、小さく丸まって眠る。
この格好も、寝起きの悪さも昔のままだ・・・変わったのは、やっぱり俺の方なのだろうか。

あーあ・・・こいつも、いつもこんな笑い方してれば、ちょっとは可愛気ってもんが・・・

いあいあ、萌えてないっスョ?・・・俺を萌えさせたら、そりゃあもう大したもんだ。

ため息をついて、はだけた布団をかけなおしてやってから、とりあえず朝茶を煎れに行く。
と、ベッドの脇で、何か柔らかい物を踏んづけた。 ・・・ほあっ!?ほぁぁああああぁぁッッ!!!???
なんでこんな所に奴の下着が畳んで置いてありますかッッ!!!?

ふと、俺の、寝起きでも明晰な灰色っぽい念2属性の脳に、閃きが走る。

なーに、簡単な推理ですよ・・・カヴァクは風呂に入った・・・そして、そのままこの部屋に泊まった・・・
そう、着替えを持っていない状態でね・・・あとは・・・お分かりですな、諸君?。

こいつ・・・まさかッッ!?

「うぅ〜・・・」
らめぇ!?カヴァク!!寝返りうっちゃらめぇッッ!!!???ストォップ!!ストォォォォォォップッッ!!!?

まずいっ!!・・・この状況は、ディモールト(非常に)まずいッッ!?

・・・さーて、ここで問題だ・・・俺は、このピンチをどうやって切り抜けるか・・・

1、頭脳明晰なラウレルは、突如最高にクールな対策を思いつく。
2、誰かがきて助けてくれる。
3、現実は非常である、またしても人の話を聞かない奴が現れて、盛大に勘違いをしたあげく、俺の静かな日常をかき乱す。

・・・俺が○をつけたいのは2だが、現実はそれほど甘くない・・・突然エベシが現れて、じゃじゃーん待ってましたとばかりに
助けてくれるってわけにはいかねぇぜ・・・ってか、俺の味方になりそうなの、エベシしかいねぇのかよ・・・orz

己の人望の無さに軽く凹んでいると、突如ドアがノックされた・・・

「おはよー、朝だよ〜」

・・・アルマイアッッ!!!?

答え3、答え3、答え3・・・・くそッッ!!!やっぱり自分でなんとかするしかないようだぜ!!!

声が聞こえた瞬間、俺は全力で奴の下着をちゃぶ台の下に蹴り込むと、返す刀で速やかにカヴァクに布団をかけ直し、
ソウルストライクの詠唱よりも早く(主観)開きかけのドアに飛びついた。

「やあ、おはようアルマ!気持ちのいい朝だね!僕はもう起きているから、起こさなくても大丈夫さ!
早く他の皆を起こしてあげなよ!それじゃ朝食の時にまた!チャオ!」

開けて、一息に言い捨てて、即閉める・・・ふぅ、危ない所だった・・・これでアルマも引き下が・・・

「ちょっとー、なによそれー・・・あんた何か隠してるでしょー?・・・開けなさいよこらーっ・・・」
不機嫌そうな声で、どんどんとドアを叩くアルマ・・・この完璧な偽装がばれたのは、一体何故なんだぜ!?

仕方が無い・・・ここはなんとしてもごまかそう・・・冷静に・・・冷静に・・・ゆっくりと
ドアを開ける・・・じと目で腕組という、これ以上ないほどに不信感を露にしたアルマがそこにいた。

「なんだいなんだいやぶから棒に!根拠もなく人を疑うなんて、まったく失敬だな君は!」
俺の演技は完璧だ・・・そして、この位置からなら、ベッドは死角になっていて見えないはず・・・
カヴァクは通常、あと一時間は起きてこない!!・・・とにかく部屋に、部屋に入れさえしなければっ・・・

さっ・・ささっさっさささっ・・・さっさっ・・・ささっ・・・
中に入ろうとするアルマを、さりげなく体でブロックする。

「怪しい・・・怪しすぎてびっくりするくらいに怪しい・・・」
「いや、ちょっと今、部屋がとっ散らかっちゃってるからNE☆!・・・HAHAHAHAHA・・・」
俺は、極めて自然な態度で、アルマの肩を掴み、強引に回れ右させると、外に向かって渾身の力をこめて押す。

「ちょ・・・なによー、押さないでよ、もう!!」
「ここにはっ!君のっ!気を引くようなっ!物はっ!何一つっ!存在っ!していないッッ!!
 さあ!!早く!!みなの!所!へっっ!!レッツラ!!ゴー!!!」

「むー・・・もう朝か・・・おはやうラウレル、アルマ」
ふらふらと、寝起き特有のゾンビのような足取りでやってきたそいつは、たったの一言で、
俺のこれまでの血と汗と涙のにじむような努力を、全て完膚なきまでに無へと帰した。

・・・つーか、なんで今日に限ってこんなにあっさり起きてくるんだ手前はぁぁぁッッ!!?
わざとか!!わざとなのか!!?わざとなんですねコンチクショウめがッッ!!!?

おや・・・アルマの様子が・・・
「ぺ・・・ペアルックでラブラブお泊り!?・・・きゃーっっ♪」
アルマイアは、上気した頬で、目を輝かせた!

・・・カヴァクに服を着せたのが、こんな所で裏目にーっっ!?

「いいかアルマ・・・これには深い理由があってだな・・・とにかく俺は、やましい事等は
何一つしていない。本当だ、神と姉貴とDMCに誓ってもいい・・・信じてもらえるな?」

「うん、信じるよ!・・・もちろん誰にも言わないし!・・・それより、邪魔しちゃってごめんね〜」

落ち着け・・・逆に考えるんだ・・・全裸よりはまし!・・・そう、全裸よりはましだと考えるんだ・・・
奴が履いてない何て事は・・・ぱっと見ではわかるはずも・・・

「あるぇー?・・・なあ、ラウレル〜、私の下着知らないか?・・・昨日この辺にまとめて置いたと思ったんだが〜・・・」
・・・お前はいったい、何度俺の前に立ちはだかるというのか!カヴァク=イカロス!!

俺はアルマを押して廊下に出ると、これ以上余計な事を言われないうちに、素早く扉を閉めた。

「ハハハハハ、寝ぼけてるせいか、どうにもおかしな事を言ったようだが、たぶん夢でも見たんだろうさ!
聞き苦しい点は、どうかさらっと流してくれたまえよアルマイア君・・・ハハハハハハハ・・・」

俺のターン!全力でごまかして、ターンエンド!!

「もう、やだなぁ・・・わかってるって〜♪・・・最初から正直に言ってくれれば良かったのに〜♪」
・・・アルマイアは、俺の肩をばしばし叩きながらワクテカしている!!正直かなり痛い!

ざわ・・・ざわ・・・

こいつ・・・信じていない・・・信じる気すらないっ・・・何一つッッ!・・・俺の言う事等はっ!!!
さらにそこにっ!・・・誤解を助長するような!・・・容赦の無い追い討ちっ!!・・・

エベシがあらわれた!!
「あっ・・・ラウレル、おはよう・・・昨日はその・・・邪魔しちゃって、本当にごめんね・・・」
エベシは、頬を赤らめながら、余計な事をほざいた!!

エレメスさんが現れた!!
「おはようラウレル君www・・・昨夜はお楽しみでござったなwww」
ほあぁぁぁっっ!!!?何意味有り気な事言ってくれちゃってんですかこの人ぁぁぁッッ!!?

・・・プッツゥゥゥンンッッ!!
切れた・・・俺の中で、大切な何かが・・・音を立てて・・・

「手前ぇら・・・これ以上、事態をややこしくするんじゃNEEEEEEEEEEEE!!!!」

・・・エベシは逃げ出した!
エレメスさんは、くすくすエモを出しながら、バックステップ連打で廊下の彼方へと消え去った!

「うわー、うわー、うわー・・・大丈夫!聞いてないよ!・・・何も聞いてなかったから〜♪」
アルマイアは、何やら乙女チックなポーズでワクテカツヤツヤしている!!

ぐにゃぁぁぁ〜・・・

絶望っっ!!・・・もはや挽回不可能ッッ!!・・・


「私は何も見なかった・・・何も聞かなかった・・・うん・・・トリスとセニアは、上手くごまかしておいてあげるから、 ゆっくりご飯食べにきなね・・・二・人・で♪・・・それじゃ!!そういう事で!!・・・・・・キャー♪」

「違う!断じて違う!!・・・違うって言ってんだろうがぁぁぁぁぁAAAAGHHHHHH!!!!!」

真っ赤な顔で、楽しそうな悲鳴を上げながら、あっという間に遠ざかるアルマ・・・
それを追いかける気力は、俺にはもう残されていなかった。


アルマが、セニアとトリスにしゃべらないで居てくれるなんてありえませんよ・・・
ファンタジーやメルヘンじゃないんですから・・・


また新しく、長い精神修養の日々が始まる・・・俺は泣いた。




「もういやっ!!こんな生活ッッ!!」


今日もまた、朝もはよから、ラウレルの悲痛な叫び(?)が響き渡る。


生体Dは、やっぱり今日も平和です。


・・・おしまい。

>>>おまけ

異形のプリンであった・・・山の如くそびえる、二つのプリン・・・だがその事に何の意味があっただろう。

カトリ「・・・ごちそうさま」
カヴァク「OK、2分17秒フラット」
エレメス「カトリ殿・・・御美事にございまするwww」

その日、平らげたプリンは2つ・・・いや、3つ・・・

ラウレル「姉ちゃん!また俺のプリン勝手に食いやがったな!?」

カトリ「・・・ラウレルが、自分で食べていいって言った・・・」
ラウレル「食っていいって言ったのは、でかいプリンの方だけだっ!!」
カトリ「・・・うるさい(FD)」
ラウレル「ひ、卑怯だぞ姉ちゃん!?(こきーん)」

カトリ「もの足りない・・・」

すたすたすたすた・・・


ざわッッ!!

リムーバA「か、カトリさんだ!食欲には定評のある、3Fのカトリさんだ!!」
リムーバB「気をつけろ!油断してると、あっという間に焼き芋を奪われるぞッッ!!」

おーかわり、おーかわり、おーかわり、おーかわり・・・


・・・たった一人の女ハイウィザードが、どんぶり二杯分ものプリンを、軽々と平らげる事ができるのか
それだけのプリンを平らげた上で、更に、焼き芋までも大量に食す事ができるのか・・・

できる、できるのだ。




>>>おまけ2・・・初期案、♀カヴァク視点の没稿。
書いてるうちに甘くなり過ぎ作者悶絶ギブアップ一部抜粋晒し上げ編。

しっとり甘め?。本編とだいぶ傾向が違うので、苦手な方はご注意下さい。


風呂から上がって、体を拭いていると、そういえば代えの下着を持ってきて無い事に気がついた。
アーチャー時代なら、泊まりになりそうな時には大体もって歩いていたのだが・・・
最近は、これほど遅くまで一緒に居る事は、めっきり少なくなってしまった。
・・・そんな事も忘れてた・・・ちょっとだけ苦笑する。

かといって、せっかく洗った体に、汚れた下着を身に着けるのも癪に障る。
これだけすそが長ければ、そうそうめくれあがったりはしないだろう。
幸い、この時間の廊下はほとんど人目も無いし、ラウレルに借りたローブだけ羽織って行く事にした。

見られても減る物ではない、とは思うが、やっぱりいつも身に着けている物が無いと言うのは、
どことなく心細いものだ。愛用の鞭を握る手も、常に無く強張ってしまっている気がする。

なんとなく、小走りになりながら廊下を急ぐ。歩きなれた廊下なのに、ラウレルの部屋のドアが
目に入ったときは、自分でもびっくりするくらいの、長いため息が口をついて出た。

やれやれ、今日はどうにも調子が狂いっぱなしだ・・・苦笑しながら扉を開く。

部屋に戻ると、ラウレルはもう眠っていた。
ぷー、ぷー。と、間の抜けたような寝息を立てるラウレルは、いつもとちょっと違って見える。
起きてる間は、小憎らしい理屈ばかり捏ねまわしている癖に、寝顔は本当に幼くて、無防備で。
それがなんだか、とてもおかしい。

「・・・やれやれ、起きてたら、一言挨拶して帰ろうと思ってたんだが・・・」
口に出して、しばし反応を窺う・・・どうやら本当に眠っているようだ。

ほっぺたをちょっとつっついてみる・・・反応なし。
前髪をひっぱってみる・・・うるさそうなしぐさで払われた。
みみたぶをひっぱってみる・・・叩かれた。けっこう痛い。
それならば、と、鼻をつまむ・・・おお、うなされてるうなされてる・・・
そのままちょっと様子を見て、起きるか、起きないか。くらいの所で、いきなりぱっと手を離す。

「うあ?・・・うぅん・・・うぇあうぇあ・・・んー・・・」ぷー、ぷー。ぷー、ぷー。

噴出しそうになるのを、かろうじて堪えた。

「ふふっ・・・起きないお前が悪いんだからな?」
まるで、自分に言い訳でもするかのように、口をついて出る言葉。

泊まっていくつもりは無かったが、こんな機会も、そうそうあるまい。

昔よくそうしていたように、そっと布団に潜り込む。
ラウレルの匂いが、体温が・・・普段よりも、ずっと近い。

懐かしい距離。

・・・その懐かしさが、なんだか酷く切ない。

規則正しい寝息のリズムが、波のようにうねり、体を包みこんでいく。
ゆるゆると、心地よい眠気が満ちていく。

目が覚めて、私がここに居る事を知ったら・・・きっとまた、なんのかんのと大騒ぎするに違いない。
・・・それが、目に浮かぶようで・・・今から、本当に楽しみだ。

「ふふっ・・・まったく・・・面白い奴だよ・・・お前は」

ぷー、ぷー。ぷー、ぷー。ぷー、ぷー。ぷ・・・

薄明かりの中、そっと影が寄り添って・・・規則正しい寝息のリズムが、ほんの一時だけ止まる。

懐かしい感触・・・胸の奥が、ほんの少しだけ波打つような。
寝床に小さく丸まって、触れた個所を、そっと指でなぞる。
ちりちりと、焦げ付くような罪悪感・・・それすらも甘く、ただ甘く。

ふいに、ことん、と、まぶたが落ちる。
閉じた視界に、ちょっと間抜けな、あの寝息。

ぷー、ぷー。ぷー、ぷー。ぷー、ぷー。ぷー、ぷー。

暗くて、何も見えなくて・・・本当に静かで・・・それが、妙に心地いい。

久しぶりに、いい夢が見られるような気がする。


「おやすみラウレル・・・また明日・・・」


>>>

・・・あとがきのようなもの。

直接的な描写が無ければ良いと思った。
食べ物なら、あの位やっても大丈夫だろうと思った。
今では反省している。


ぐだぐだ、長文、ネタまみれという三重苦にもかかわらず、
最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました。


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