「あれ・・・・・・?」
アルマイアはふらりとよろけ、尻餅をついた。
「オイ、大丈夫かよ?尻でも重くなったか?」
ラウレルがちゃかすが、心配をしているのが照れくさいだけだということはカヴァクには
わかる。わかるのだが。

「・・・・・・ラウレル?」
「んだよ?あ・・・・・・やめて・・・・・・すいません」
トリスの睨みにムッとしたのか切れかかるが、トリスが取り出した3階への連絡帳―――
普段は雑記帳だったりするのだが―――に今のやり取りをメモしだすと、ラウレルは途端に
低姿勢になる。女性陣の伝達事項のやりとりはトリスとカトリーヌで行われている。
「ラウレル・・・・・・なんでそこまでカトリーヌさんを恐れるんだ?おとなしい人じゃないか」
カヴァクの疑問は至極当然だった。カヴァクの姉ほど恐ろしくは無い、そう思うからだ。
「惚れた弱みじゃないのかな?」
「うるせぇ。姉貴に玩具にされまくるてめぇに言われたかねー」

このシスコンどもが、とトリスは感じるが彼女自身もブラコン気味なので口には出さない。
それでも禁断の愛まっしぐらの某剣士娘よりいいではないか、と思う。
「で、どう、セニア?アルマの様子は」
「うん、ちょっと疲れてるみたい。ぐっすり眠れば大丈夫だと思うよ」
「なるほど・・・・・・最近それほど忙しいわけじゃないから、家事の方の疲れがたまったのかな」
「え?」
セニアには不思議な感想を聞かされたような気がした。最近侵入者の数は減ってない。むしろ
微増しているんじゃないかと思っていたからだ。
トリスがサボるような子じゃないとセニアは熟知している。実際、男子たちに目配せすると
セニアと同じ感想のようだ。

「それはトリスの技量が目覚しく上がっているからだな」
「あ・・・・・・お兄様」
ぽん、とセニアの頭に手を乗せてエプロン姿のセイレンが語りかけてくる。
「トリスの・・・・・・?そういえば前と動きが違ってきてるような?」
「ああ。俺のような直線の速さではない。エレメスのようなキレのある速さとも違う。そう、
何か幻惑するかのような・・・・・・うまく言えないがそちらに傾いているな。わかるかセニア?」
ふるふる、とセニアは否定する。しかしトリスとの手合わせでは以前よりやりにくいと感じ
ているのは確かだった。兄がトリスへの高い評価をくだしているのに、心にしこりのような
嫉妬を感じる。

「すまない、アルマイア。俺が手伝うつもりがかえって負担をかけていたかも知れん。数日
休んでくれないだろうか?今のトリスなら俺とエレメスが下に来ていれば2階を数日守るのは
できると思う」
「いいんですか?でもみんなは大変なんじゃ?」
「大丈夫だよアルマ。アルマの料理が食べられないのは残念だけど、僕らに任せてゆっくり
休んで」
イレンドに感謝の言葉をかけると、カヴァクが続けて言葉をかけてくる。
「その代わり、復帰したらきっちり動いてもらう。だから役目のことは忘れてゆっくりして
ほしい」
「ま、そういうこったな。体力ねぇなぁとは思うが、俺らもそんなあるわけじゃねぇから
お前が戻ってきたら少しは手抜かせてもらうわ」
「うん、ありがとうカヴァク、ラウレル」
素直に礼を述べるアルマイアだが、カヴァクとラウレルはその間羽目を外して遊べるとか
不届きなことを考えていたりするのは秘密である。
アルマイアが口出しするような少女じゃないことは承知しているが、男には男の事情という
ものがあって知られたくなかったりもする。

「というわけでお休み貰ってきちゃった」
ノックの後さっさと入ってくる妹に、ハワードは歓迎して出迎えた。
「おう、よくきたな。ゆっくりしていきな」
着替えの入った鞄を部屋の隅において、ベッドに腰掛ける。
「兄さん、ありがとうね」
「可愛い妹の願いを断る兄貴はいねーよ」
男色の癖して妹には滅法甘いハワードであった。もっともしっかりもののアルマイアは滅多に
頼らないので、少し寂しく感じているくらいである。

コンコン
「どうぞ?」
がちゃりとドアが開くと、高位魔道士が顔をのぞかせた。
「・・・・・・アルマ、いる?」
「カトリさん!どうしてここにいるのがわかったんですか?」
「・・・・・・セイレンに聞いた。アルマに会いたくて」
きゃっきゃっと2人で抱き合うのを見て、唖然としていたハワードが声をかける。
「お前ら・・・・・・仲良かったのか?」
「・・・・・・うん。アルマは大事なお友達」
「仲いいのよ〜」
いつの間に、とハワードが困惑するのも無理は無い。
3階にいるだけあって、ハワードはカトリーヌの表情をよく知っていた。いや知っているつもり
だった。
だがここにいるのは、相変わらず口数は少ないが、それでもいつもより多く話し、頬を紅潮
させて綺麗な笑みを浮かべるまるで別人であった。

「へぇ。カトリがこんなに可愛く笑うなんてな」
「兄さん、それ褒めてるつもりなんだろうけど、微妙に失礼よ?」
「・・・・・・失礼」
「こりゃすまん。いや、あまりのギャップに驚いているんだ」
今のカトリーヌはセシルを前にしたマーガレッタのようなのだから、ハワードの感想も当然と
言えた。違うのは相手であるアルマイアも似たような状態ということだ、セシルのように邪険に
はしたりしない。

(・・・・・・何時間いるつもりだろう)
実際には20分程度しかたっていないのだが、女同士の会話に花を咲かせている2人を目の前に
すると、男1人のハワードは居心地が悪くて仕方ない。
妹の嬉しそうな表情を見られるのは幸せなのだが。
アルマイアとカトリーヌはベッドに腰掛け、おしゃべりしたり、時にはじゃれあったりで
自分とエレメスみたいだな、と勝手な感想を持ってたりする。そんなハワードは部屋の反対側の
ソファに腰掛けてぼーっと見ていたりする。

「あれ、カトリ?珍しいわね。ハワードの部屋にいるなんて」
カトリーヌの声が廊下に届いていたのか、ノックもなしにハワードの部屋に顔をのぞかせる
セシル。
「ノックくらいしやがれ」
「あ、ごめん。つい珍しくて」
流石にマナーが悪いと思ったのか、珍しく素直に謝るセシル。

(・・・・・・で、なんで増えてるんだ)
さらにトリスも含めて女4人で楽しそうに話している。セシルもカトリーヌの明るさに驚いた
ようだが、慣れるといつも以上に楽しそうに会話に加わっている。
「・・・・・・でね、ラウレルったら面白いんですよ〜!カトリさんの話したら急に大人しくなって・・・・・・」
「・・・・・・昨日のセシル、肉焦がしてぶちきれた挙句にフライパン壊してた・・・・・・」
「いや!?あれは!!・・・・・・そ、そう、ちょっとした手違いなのよ!」
何がそんなに面白いのか、とハワードは思うのだが現実に、お互いの階の情報交換じみた笑い話で
異様に盛り上がっている。

(・・・・・・おいおい、勘弁してくれよ)
女4人だけならまだいい。しかしハワードが男色だと知られていて危険が無いと思われていても、
カトリーヌはマントを脱いで、高位魔道士の露出の多い服をさらけだし、アルマイアとトリスは
服の紐などを緩めて楽にしているし、セシルは服を変えたりはしていないが壁に背を持たれかけ、
軽く足を広げた体育すわりをしている。その体の向きはハワードの真正面である。
ハワードは確かに男色ではあるが、女に全く興味が無いわけでもない。こんな状態ではさすがに
照れてしまうのだ。

「・・・・・・というわけでここで寝たい」
話が一段落したあと、カトリーヌがハワードに向けて言ったのだが、セシルやトリスも一緒らしい。
「おいおい、狭いんじゃないのか?」
正面突破は無理と見て、変化球でやんわりと断ろうとする。ハワードは久しぶりにアルマイアと
一緒に寝たかったのだ。
「・・・・・・大丈夫。みんなで寄り添って寝る」

アルマイアはパジャマに着替え、セシルは一度部屋に戻って部屋着になってから再来し、トリスと
カトリーヌは一糸纏わぬ姿で布団をかぶって4人で仲良く並んで寝ている。
「・・・・・・寂しいぜ」
かたやハワードは1人でソファに毛布を包まって寝ているのであった。

一方そのころ。
2階ではイレンドが止めるのも聞かず、セニアが料理をつくったおかげで全員寝込んでいたり
して、ラウレルとカヴァクの男の事情が訪れることは無かった。

さらにもう一方。
セイレンもセニアの料理を食べた後、意識が朦朧としつつ部屋に何とかたどり着いたがやはり
寝込み、1人何を逃れてエレメスは冷蔵庫を漁ったとか。
ちなみに女4人の楽しい会話に参加できなかったマーガレッタはぶち切れて、寝込んでいた
セイレンに愚痴と癇癪のコンボを叩き込んだとか。

翌朝。
「兄さん・・・・・・?何で泣きながら寝ているの・・・・・・?」
自覚の全く無い妹だったり。


アルマ分投下です。
前回のアルマの疲れは悪戯の演技だけではなかったという話。
いじめるつもりは無いのですが、どうもセニアは天然という作者脳内のせいでこんな役回り。
マーガレッタはライナース嬢の話でもそうなのですが、どうもお笑い担当に・・・・・・
しかしハワード報われなさ過ぎ・・・・・・
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