ケットをしっかり掛けて眠っていたはずだったが、寒気を感じて目が覚めた。
剥いじゃったのかな…
頭だけ起こしてベッドの上の自分を見れば、身体全体をケットで包み込んでいる。
それでも。
「さむ…」
空調が壊れたのだろうか。
このまま浅い睡眠を繰り返していては、逆に疲れが溜まりそうだ。
誰も起きてないだろうな…
ケットを身体に巻きつけた、カトリーヌはそっと部屋を出た。


調子が悪い、とマーガレッタに指摘され、男性陣3人は睡眠も取らずに換気ダクトを点検し。
幸い、故障箇所はすぐに発見できたのでそのまま修理と相成った。
お店を広げた状態、というのはこのことだろう。使った道具、外した金網、パイプなどが
彼らの周囲に無造作に置かれていた。
「後始末くらい任せてくれ。2人は休んだ方が良い」
修理は手先の器用なエレメスと、道具の扱いに掛けてはエキスパートのハワード両名によって行われており、
セイレンはそれを見守るだけしか出来なかった。
「人には向き不向きがござるよ」
「そうさ。気にすることはないさ」
それくらいしか出来ないからな。
自嘲気味に笑ったセイレンに、声を掛け、2人はそれぞれ自室に引き上げていった。
遠ざかる背を見送って、セイレンは軽く首を廻し、気合を入れる。
「さっさと片すか!」
整頓はエレメスとハワードにとっての修理と同様、慣れていて且つ手早かった。


どこに行く訳とも決めず、カトリーヌは照明の落とされた廊下を歩いていた。
足元を仄かに照らす淡いグリーンのそれだけが頼り。
「…?」
足元に長く影が伸びている。座り込んだ何かが落としているようだった。
近寄ってみれば、そこには騎士が居た―壁に上半身を預け、片ひざを立て反対の足を投げ出して、
一生懸命小さくなっていた。
「…セイレン…?」
カトリーヌの呼びかけに応えはない。ただ、規則正しい寝息が聞こえるのみ。
寒くないのだろうか。
起こさないようにそっと隣に並ぶと―眠っているというのに!―胸の位置で組まれた腕に触れてみる。
暖かかった。そういえば、男性は総じて女性より体温が高いんだっけ…。
けれどもこのままでは体調を崩しかねない。
自分の体温が移ってやんわりと暖かいケットを、セイレンに被せた。
と、窮屈な格好だったのか。カトリーヌの前で意識の無いセイレンの四肢がすっと伸ばされていく、それが。
なんとなく微笑ましくて、悔しくて。
上掛け、どこから調達しよう。無意識に両腕を擦りながら、思いついて新しいの上掛けを探すのを辞める。
カトリーヌは彼女が掛けてやったケットとセイレンとの間に自分を滑り込ませた。
「…あったかい…」
目を閉じれば、小波が押し寄せるように深い眠りへと落ちていった。


セイレンは目覚めと同時に固まった。―いったいどうして、カトリーヌを背後から包み込んで眠っているのか。
だが身体に掛けられているケットは身に覚えが無い。その上漂うこの香り、持ち主は明白。
カトリーヌがここへ来た理由なんて解らないけれど。起き切れない脳が、暖かさに思考活動を放棄する。
こんなのも、いいか。
小さく寝息をたてる魔法使いを改めて両腕に抱き、もう一度やって来た眠気に身を任せた。

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