「ん……」
イレンド=エベシは珍しく早く起きてしまった。
かすかに頭が重く、体もだるい。
(珍しいこともあるもんだな……)
体調ではなく、早起きしたことに対して悲しい感想を述べる。
彼にとっては早くても、世間的にはそれほど普通よりわずかに遅めである。

ハッと息を呑むと傍らに視線を移す。
掛け布団からかすかに黒髪がはみ出ている。
イレンド自身の髪の色は明るい金髪である。
(えーと……)
パニックになりかけるが、そこは姉の教育の賜物、完全とは言わないまでも数瞬で落ち着きを
取り戻す。
ベッドの隅、枕の横を見ると、衣服と下着が綺麗にたたまれて置かれている。
(アルマ……?)
そんなはずはない。アルマイアの髪はイレンドと似た金髪のはずだった。しかしアルマイアの
ような衣服をたたむイメージを持つ女性は、この研究所にはいない。
少なくともそう思っていた。

いくばくかの現実逃避をすると、幾分思考がまとまってくる。
(トリスか)
そこまではいいが、問題は彼女の状態である。
イレンドの胸に顔を押し付け、彼のパジャマ越しに腹に柔らかい感触。イレンドの足に
絡みついた彼女の両足。太腿に感じる付け根の感触から、また衣服のたたまれたさまから
彼女が全裸でイレンドに抱きついているとわかる。

ごくり、と唾を飲み込む。
その容姿から少女と間違えられるが、彼自身はれっきとした男である。
ストイックな性格ではあるが、この状況で動揺しない男は3階のホワイトスミスのような
人だけだろう。
それでも彼は彼女に手を出そうとは思わなかった。
ここら辺が姉にからかわれる原因だとは、本人は気がついていない。
それでも確認のために(必要ないのだが)、深呼吸してトリスの背中側の布団を捲ってみる。
真っ白い背中に綺麗な曲線を描いた尻があらわになる。
予想していたはずだが、動揺を抑えきれず赤面するイレンド。

「えっち……」
いつの間に起きていたのか、抱きつきながらも上目遣いでイレンドのほうを向きトリスが
呟く。その美貌は真っ赤に染まり、その色は耳まで続いている。
「あ・いやその」
「見物料はいただくわよ……?」
といって強く抱きしめてくる彼女。

始まりは昨日。
ハワードが個人的に仕入れている酒を、食料の搬入に向かった2階男子3人が見つけたのが
はじまりだった。
ハワードはその場で気前よく、彼らに酒を分けてくれたのだ。
夕飯のときに皆で飲もうと相談したのだが、生真面目なセニアは断り、アルマイアは食事
だけにして部屋に戻ってしまった。
トリス曰く、アルマイアは疲れていたらしい。

結局イレンド・ラウレル・カヴァク、そしてトリスの4人で夜中まで飲んでいたのだった。
イレンドは蒸留酒を水や果実の汁で割って飲んでいたが、他3人は時々しか割らず、ほとんど
そのまま飲んでいた。
ほろ酔い気分で部屋に戻ったのはいいが、トリスもついてきていたらしい。もしくは忍び
こんだのか、あるいは酔って部屋を間違ったのか。
イレンド自身は全く手を出していない自信があるのだが、トリスの照れた態度を見ていると
その自信が揺らぐのを感じていた。

カチャリ。

時計を見やると、アルマイアが起こしにくる時間である。アルマイアは毎朝起こしにくるため、
全室のマスターキーを持っている。
アルマイアと目が合った。非常に気まずい。
彼に抱きつく布団に包まったトリス。誰がどう見てもそういう関係に見える。
「イレンド……あなたって人は……」
「い、いや、違うんだアルマ!これは昨日……」
「昨日の夜からずっと一緒なの」
きちんと説明しようとしているイレンドの言葉にかぶせて、間違ってはいないが誤解を招く
説明をするトリス。
「イレンドも男の子だったのねぇ……」
アルマイアが感心したように呟く。
「それどういう意味!?ていうかそんな感想要らないから!いやいや、今回は男らしいこと
してないから!」
「ううん、昨日は思ったより強かったわ。意外とタフなのね」
慌てるイレンドと、酒のことだろうが誤解の油に火を注ぐトリス。

「ちょ、ちょっとトリス!」
「なぁに、イレンド?」
「わぁ・・・・・・凄い」
慌てて嗜めようとするイレンドに、甘えた声でより強く抱きしめてくるトリス。
目を覆うように、でも指の間からそれを見る真っ赤になったアルマイア。

「と、そろそろ朝食だから、イレンドお願いね?」
といつもの笑顔で頼んでくるアルマイアに、イレンドはその切り替えのよさに複雑な男心を
自覚しつつ、頷く。
「トリスもそのくらいにして、シャワーでも浴びたら?お酒臭いよ?」
「あ、うん。ありがとアルマ」
いつものアルマイアとトリスに困惑するイレンド。
「え・・・・・・?」
「ふふ・・・・・・ごめんねイレンド。ちょっとした悪戯なの」
「あら、でもあたしの体も見たし役得じゃないの?」
「い、悪戯?」

簡単なことだったのだ。最初からアルマイアとトリスはイレンドの困惑が見たくてこんな
手の込んだ割りのあわない悪戯を仕組んでいたのだった。
アルマイアは以前からトリスの裸を2階男子がどう思うか知りたかったし、トリス自身も
興味があった。酒の話があった時点で2人で相談してみたのだ。
まさか試す機会が到来するとは2人ともこのときまで思いもよらなかったのだが。
だからアルマイアは2人のその姿に嫌悪感を出さず、トリスは甘えまくっていたのだ。
「はぁ・・・・・・なるほどね。でも僕がトリスに何かするとは思わなかったの?」
「少しはね。でも手を出すにしてもイレンドなら本気で想ってくれそうだから」
内心、イレンドなら襲うことは無いと確信していたが、彼のプライドのために黙っておく。

「正直あたしはある程度覚悟してたよ?じゃなければこんなことしないし。されても仕方
ないとおもってたし。あ、でも誤解しないでね?イレンド以外にはこんなことしないから」
アルマイア自身、敵わないなぁと痛感する綺麗な笑みを浮かべるトリス。
「そ、それって・・・・・・?」
トリスは彼を受け入れていたのだ。ただ、その受け入れ方は恋愛のものとは違うのでは
あるが。
トリスのお目当ては兄であって、イレンドではないことは誰もが知っている。
エレメスがトリスを妹としてみているように、トリスはイレンドを仲のいい弟のように
思っていたのだ。

真っ赤になるイレンドに満足げな笑みを浮かべると、彼女は言った。
「でも安心したわ。あたしの魅力はイレンドには伝わるんだって」
「そうね。でもトリスは魅力的よ?他の誰よりもね」
「うん、トリスはとても魅力にあふれてると思うよ?すごくどきどきした、いや今も
してるかな」
アルマイアは親友としてトリスを絶賛したが、イレンドに絶賛されると少し複雑な感情が
沸いてきたりする。それは親友を盗られたくないからか、女のプライドでの対抗意識か、
それとも・・・・・・

「ごめんね、騙したりして。そしてありがとう、大切にしてくれて」
布団から這い出て、イレンドの後ろから首に手を回して抱きつき、うなじに口づけする
トリス。
「わぁっ・・・・・・!?」
「じゃ、シャワーかりるわね?」
タオルを体に巻いてバスルームに入るトリス。

呆然としたイレンドと、思ったよりイレンドに好意的なトリスをみて、アルマイアは
苦笑いを浮かべてしまう。
「イレンド」
「なに、アルマ?」
「・・・・・・トリスのこと好きになりそう?」
我ながら不自然な間だったかな、とアルマイアは思う。
「どうかな。とても魅力的だとは感じるし、これから好きになるかもしれない。頑張れば
トリスも僕のことを好きになってくれるかもしれない。でも今はわからないよ」
そうね、とアルマイアは答えて部屋を出て行こうと扉を開ける背中に
「アルマもとても魅力的だよ。トリスに負けないくらい」
「とってつけたようなフォローね。でもありがとう。わたしも頑張るね」
自分でもぎこちないと感じる笑顔を浮かべて礼を言う。

「・・・・・・今回のネタ、マーガレッタさんに持ちかけたら高く売れるかな?」


イレンドネタです。
アルマ分少なめ。トリス分多め。
共謀することが多いイメージですが、アルマとトリスの悪戯は質が違うと思う中の人。
アルマのはからかい成分が多く、やや腹黒面あり。
トリスのは子供の悪戯の発展版で、陽性。
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