俺は、今夢を見ている。
そう、これは過去の夢。
輝かしかった昔の俺の夢。
浮かんでは沈み、沈んでは浮かび上がる過去の映像。

『セイくんは、おっきくなったらなにになるの?』
『ぼく、リタちゃんをまもるかっこいいきしになる!そしてリタちゃんとけっこんするんだ!』

だから、これも自分の過去の一つ。
どんなに戻りたくても戻ることのできない輝いていた過去。

『セイ、どうしても行くのね?』
『…あぁ。俺は昔の夢を果たす為に騎士になる。』
『またそれ?昔の夢ってなによ!死ぬかもしれないのにそんなものに縋って…!』
『……。それでも、俺は果たさなければならない。リタ、必ず生きて帰ってくる。待っていてくれ。』

俺は一つ、また一つと浮かび上がる過去の映像を見る。
そこにあるものは確かに俺。
しかし、今の俺とは違ってしまった俺の欠片。

『リタ…君はいつの間に――』
『私だって貴方との約束…いえ、貴方の夢を忘れていた訳では無いわ。一緒に連れて行ってくれるわね?』
『しかし――』
『貴方は!…私と約束したわ。私を守ってくれるんでしょう?』
『……。分かった、行こうリタ。君は俺が守ってみせる。』

いつか見た夢。いつか叶えた夢。そして……――
いつのまにか、潰えた夢。
もう少しで昔の俺の最後の場面が浮かんでくる。
見たくない、と叫んだ所で何も変わらない。
これはそういう悪夢だ。

『リタ、良いのか?本当に。今のままでも充分ではないのか?』
『無駄よセイ。私は決めたの、今の私の力で足りないものも守るって。』
『……分かった。ならば俺も君と同じ道を歩もう。』
『ありがとう、セイ。生まれ変わっても、私はきっと貴方を見つけ出すわ。だから貴方も私を見つけてね?』
『あぁ。一度擬似的に死を体験し、生まれ変わることで更なる力を生み出す転生、だったか。』
『えぇそうね。そして一度死を体験することで転生前の記憶はほとんど失われる。』
『関係無いさ、リタ。俺はどんなことがあろうと君を忘れない。』

架空の時間が現実の俺が近づいてくる。
それは正に恐怖の瞬間。
骨の髄まで凍りつくほどの痛みを、指の先まで燃え尽きるほどの怒りを、脳の細部まで撫でられるような狂気を。
あぁ、映像が今の俺においつこうとしている。
それは恐怖の瞬間。
そして最後の映像が―――





「セイレンさん、どうかなさいましたの?セイレンさん」

突然、別の映像が割り込んだ。
遠くから女性の声が聞こえる。
これはどこの時間軸なんだろうか?俺の過去の映像にはどれも当てはまらない。

「起きなさい!」
「っ……!あれ?ここは…おねえちゃんだれ?」
「おね……(///)お寝ぼけセイレンさん、朝食の準備ができましたわ。そろそろ食卓へおいでください」

バタン、とドアが閉められる。
寝惚け眼で周囲を確認。少し荒っぽく閉じられたドアは少し建て付けが悪く、揺れてキィキィと音をならしている。
30秒ほどが経ったであろうか、今の自分の状況と先ほど発した言葉が脳に染み込んで来る。

「あぁー……やっちまったな、俺……」

難しい事は何も無い、夢を見ていた関係でマーガレッタにお姉ちゃんと言ってしまったのだ。
取り敢えず服を着て食卓へ行こう。と呟き、薄手のTシャツとジーンズを身に纏い部屋を出る。
食卓からは良い香りと、ござるwwwwとか貧乳っていうなー!とか聞こえてくるが今はスルーする。
いや、普段から係わり合いになって良い事なんて無いからスルーしているのだが。
そしていつもの席に着くと、真正面に来るのが今日の最大の敵となるマーガレッタなのだ。

「……えーっと。おはようマーガレッタ(にこやか)」
「あら、おはようございますわお寝ぼけさん。余り嘘らしい笑顔を浮かべるのは感心しませんですわよ?」

どうやら引き攣っていたらしい。
自分としてはセニアやイレンド辺りなら赤面しながら挨拶を返してくれる程度に良い笑顔のつもりなのだが。

「…あー、なんだ、その、あれだよな。今日は良い天気だ。」
「そうですわね、ここの研究所から空は見えませんが晴れなのかもしれませんわね。」

第二弾は完全完璧に滑ったらしい。何ていうかドツボ。
そうこうしてる間に食事が完成(皿に所々赤い何かが滲んでいたがいつものことなのでスルー)したらしい。
皆で一斉に号令をかける。
今日の当番は誰だっけ?と思ってぼーっとしてると正面から視線を感じて顔を向ける。

「…セイレンさん、貴方まだ寝惚けていらして?今日は貴方が号令ですわよ。」

周囲を見ると皆不振そうな顔でこちらを見ている。
普段自分でも自覚してるくらいには、自分は規則に厳しいのだ。
これは結構酷いかもしれない。

「す、スマン。ちょっと考え事をしていたんだ。では、いただきます!」
「セイレン殿、体調が悪いなら今日の見回りは拙者が致そうか?」
「い、いや本当に大丈夫なんだよ。ちょっと今朝うっかりマーガレッタ相手に失敗して……ぁ……」

口を滑らせた、と自覚するよりも早くセシルからのDSが飛んでくる。
全て当たらないが逃げ場が無くなる位置に正確に。

「……(ゅらり)あんた、マーガレッタに何したのよ?(にっこり)」
「あ、あの…な、何もしてませんョ?」

額に手をつき天を仰ぐマーガレッタと、好奇心に目を輝かせている他の姿が目の端に見えた。
…カトリーヌだけはひたすらに食べていたが。
そしてもう一人は

「ゃ……り……ったの……」
「な、なんでしょうかセシルさん」
「やっぱりあんたも巨乳好きだったのねー!」

この後必死に走りまわるセイレンをオーラ化したセシルが追い掛け回す、という珍しい構図が見られたらしい。

「全く…あの演技下手の鈍感大魔王さんは…」

この言葉が本人に聞こえることは無かったという。

「いってー…今日は災難だらけだな…」

自業自得、という言葉が自分で浮かんだが、そこは黙殺する。
でないとここまで運が悪いとやってられない気分になるからだ。
今日という火を一言で表すなら、現実は小説よりも奇なり。
セイレンという人物の人柄は表すなら”人に優しく自分に厳しく”だ。
その彼が廊下を走ってぶつかったアルマイアを押し倒すや、
侵入者が居ないかどうかの見回りの時間にぼーっとしながら歩いていてトリスと衝突したり、など。
普段なら間違いなくありえないようなミスを連発しているのだ。
…ちなみに前者はハワードに目撃され『妹は嫁にはやらん!』と叫ばれ一時研究所内は騒然となった。





「今日のセイレン殿は朝からおかしでござるwwww絶対何かあるでござるよwwww」
「俺もそう思うな…なぁマーガレッタ、朝食の時お前に対してどうとかいってたが何か心当りはないのか?」
「あると思えばありますわ。無いと思えば無いですわ。簡単に言うと答えたくありません。」
「…ねぇマーガレッタ。その反応って思いっきり心当りありますって言ってると思うんだけど…」
「……わたしも、しんぱい。わけ、はなして…?」

深い深い溜息を一つつき、周囲の面々を見渡す。
どうやら私も動揺しているらしいわね。普段ならこんなミスは犯さないのに。

「仕方ありませんわね。では…といいたいですが、セイレンさんにも許可を頂きに参りましょう?」

そう提案すると、皆一様に頷いてくれる。
確かに気にはなるが、セイレンの問題なので彼本人に許可をもらうという意見に同意してくれたらしい。

「それなら私たちもついていっていいですか?」

と、突然背後から声が聞こえた。
そこに立っていたのはアルマイアとトリス…セイレンからの被害を受けた二人だ。
いつもなら絶対にしないミスをしている彼を見て心配になったのだろう。
エレメスのように頼れるお兄さん的存在でもでなく、ハワードのようにカリスマがあるわけでもない彼だが、
細やかな気配りや、ちょっとした手芸や料理などに長けているので上層の一次職の子達に慕われている。
恋愛感情とは違う、尊敬や憧憬を向けられているのだ。

「分かりましたわ。では取り敢えず彼の元へ向かいましょう。今の時間なら恐らく中央階段の付近でしょう」





翻る白銀、迫り来る真鍮、その重い一撃を剣で受ける。
場所は中央階段、侵入者は五人。
そのどれもが刃物で武装していて、金品か命を狙いに来たのは間違いがない。
剣を振るう侵入者は、鍔迫り合いによる力比べに付き合う気は無いらしく、ゆらりゆらりと力を受け流されている。
自分の力を相手の力と比べ、その力量差を測れるほどの手練。
いつものセイレンならば、受け流されるよりも強い力で押し込み、この程度の相手ならすぐに撃退できるはずだった。
しかし、今日の彼は集中力を欠いていたため、侵入者の接近に気付けず相手の初撃をもらったしまったのだ。
もらったと言っても、普段より自分と同等か、それ以上に近い仲間と切磋琢磨している彼だ、そんなに深手ではない。
だが運が悪かったのか、日頃の行いが悪かったのか、初撃は見事に利き腕を傷つけた。
深くは無いが浅くは無い傷は、血と共に体力と気力を体外へ排出していく。
それでも普段の彼ならば余裕でいなせていたはずだった。
彼を囲んだ相手が一人であれば、だが。

「ッ…っふ!ボウリングバッシュ!!」

このまま持久戦に持ち込まれては不利と悟った彼は奥の手ともいえる最強スキルを叩き込む。
その瞬間に、こればかりはどうしようもない、そう運が悪いとしか言えない現象が彼を襲った。
剣を握っていた部分へ血が流れ込んだのだ。
血で滑った剣はカラン、と音を立てて床を転がっていく。

「へへ…おい、そこのロードナイトの兄ちゃんよぉ。今楽にしてやるからな?死んでだがなぁ、ぎゃははは!」

ぎり、と歯軋りをする。
いくら自業自得とはいえ、このような下衆に殺されることになろうとは…

「それじゃぁ、死ねよ。やりなお前ら。ソニックブロウでもじっくり叩き込んでやれ!」
「了解ボス。」
「サーイエッサー!」
「体は傷付けても良いが、装備は壊すなよ?良い値で売れるからな。ぎゃははははは!」

自分の不甲斐無さに怒りが浮かぶ。
今日見た夢が全ての原因だった。守りたかった人を守れなかった夢。
強くなって生まれ変われるという言葉を信じた俺は、裏切られ、人体実験の土台となった。
どこまで電流に耐えられるのか、どこまで力は引き出せるのかなどだ。
彼女は死に往く俺を見て、使ってはならない禁断の呪文を使ったのだ。

「セイレンさん、死なせはしませんわよ…!エレメス、ハワード、セシルは侵入者の排除を!」
「合点。我が友を傷つけた侘び、その命を冥府に送るだけではすませない」
「了解だ姫さん。お前ぇら生きて帰れると思うんじゃねぇぞ!」

遠い、遠い場所から今守りたいと思ってる人達の声が聞こえてくる。
あぁ、俺はまた守れないのか。と呟くが声は出ない。
もう意識さえも遠のいて来ているのが分かる。

「トリス、アルマイア、イレンドとセニアを呼んで来て。補助と血縁者の血液が必要だわ。」
「分かりました、マーガレッタさん。兄貴!そいつ私たちの分もぶちのめしといてよ!」
「アルマイアはセニアを呼んできて。私はイレンドを呼んでくるわ!」

セニア、という言葉を聞いて胸が痛くなる。
自分を師と慕ってくれている実の妹だ。
彼女に最後に謝れないのが、辛くてならない。
不甲斐無いお兄ちゃんでごめんな…

「姉さん!セイレンさんはどう…っ!ひ、酷い…」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん駄目!死なないでお願いっ!」
「落ち着きなさいセニア。私が居るのです、死なせはしませんわ。イレンド、あれをやります。」
「ね、姉さん!そんなことをしたら姉さんが!」
「イレンド。私は死にません。しかし、私がやらなかったらセイレンさんは死ぬんですのよ?」
「分かりました。姉さんがそこまでいうなら止めません。」

あぁ…リタ。
そんな顔で俺を見ないでくれ、俺は絶対に大丈夫だから…
だから、その呪文はやめるんだ、俺は大丈夫だから…

「我は天の御心、神の使者。名も無き命の精霊よ、今一度我が身を贄に彼の者を呼び戻したまえ。」
「レディムプティオ!!」

力が体に戻ってくるのが分かる。
どこからか、暖かい力の流れが戻ってくる。
体中から流れ出た血が逆にどこかから注入されていくような不思議な感覚。
この、感覚は…!

「やめろ、やめてくれリタ!」
「やっと、目が覚めたのね?セイ。貴方はいつまで経ってもお寝坊さんなんだから。」

そう、全てを思い出したのだ。
俺はレッケンベルで実験を受けた。
俺と彼女でグラストヘイムに行ったときに起きた奇跡、レディムプティオをもう一度繰り返させるための実験を。
そして研究者達は実験結果を手に入れたのだ。

「リタ、リタ!また、また俺は君を守れないのか!」
「落ち着いて、セイ。私は死にません…ちょっと疲れたから眠るだけ。折角思い出してくれたのにごめんね…」
「っく…あぁあ……ああああああああああああああああああああああ」
「よくやったな冒険者ども。これでレディムプティオの実験がまた進みそうだよ。」
「と言っても既に死体だろう研究主任?」
「ははは。違いない!」

俺と戦っていた冒険者は、エレメスとハワードにより返り討ちにあっていた。
その側に立つのは俺をここに連れ込んだ研究者。
リタにレディムプティオを使わせ、俺たち全員を実験の後にここへゴミ屑のように捨てた連中だ。

「おや、セイレン=ウィンザー。そんな反抗的な目をするでないよ。君らの腕に付いているそれを忘れたわけではなかろう?」
「罪囚の腕輪、ですか?主任は悪趣味ですねぇ。」
「まぁそういうんじゃない。どうせこいつらにはお似合いだろうはっはっは!」

その瞬間外せない腕輪から電流が流れる。
彼らの意思一つで俺たちを無力化させる力をもつものだ。
その腕輪は一人一人別々にカスタムされていて、それぞれ違う電流が流れるようになっている。
だが、今の俺は俺の力だけで立っているわけじゃない!

「遺言はそれだけか?屑ども」

腕輪で動きを無効化されていた周囲の面々が目を見張る。
俺の周囲を濃い、とても濃い精霊が駆け巡る。
全ての力を一振りに、全ての思いを一振りに、全ての怒りを一振りに。

「セイレン=ウィンザー、貴様私たちに歯向かおうというのか!」
「黙れ。取引だ、お前達に拒否権は無い。これいこう俺たちに干渉するな。」
「ふ、ふざけたことを言うな!主任もう一度電流を流せばい」

どさっ、という音が彼の言葉を中断させた。

「俺は言ったよな?拒否権は無い。答えはYesだけだ。まず腕輪を全員解除しろ。」

ぴ、という軽い電子音が皆の腕からなる。

「次に、俺たちに二度と干渉するな。これが守れるなら命は助けてやる。」

必死に頷く汚い男。
しかし、こいつを殺してしまっては次の男のかわりが必ず現れる。
腕を放す。
転がるように階段を登り、研究所から出て行く。

「リタ、リタ…すまない。すまない…!俺はまた君の事を…!」

マーガレッタの頭を自分の膝に乗せる。
熱い何かが自分の頬を伝って、彼女の頬に落ちていく。
目の前に居る彼女は、全く動かない。
呼吸をしているだけのただの人形のようだ。

「…呼吸をしてる?」
「セイレンさん…あの、うちの姉さん生きてますし今きっと起きてます(///)」
「あらイレンド、つまらない事をいわないでくださいな」
「…姉さん今のちょっと照れてたくせに。」
「後でお仕置きですわね。(にっこり)」
「口は災いの元でござるよwwwwwwww」
「………」
「しかし、セイレンがマーガレッタの事を、か。まー普通すぎるわな。」
「姫は拙者のでござるよwwwwwwww」
「あんたはさっき災いの元って言ったでしょ!(爆裂DSDSDSDS)」
「お兄ちゃん…」
「………………」
「でも何でマーガレッタさんなのにリタなんだろ。トリスわかる?」
「さぁ…なんでですか?マーガレッタさん」
「あらあら、私の名前のスペルがMargarethaだからですわ。rethaだからリタですの」
「なんだってえええええええええええええええええええ」

この後彼らの過去が根掘り葉掘り一時間以上質問されたのは言うまでもない。


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はい初作品です。
とりあえずごめんなさい。
文才ほしい(´・ω・`)


_・)最後まで読んでくれた人ほんとにさんくすー
_・)ノシ
|彡サッ
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