「んっと」
セシルは大きなフライパンいっぱい作ったオムレツを皿に移していた。
カリカリベーコンやプチトマトとレタスなどの野菜を添えて出来上がり。

簡単に片づけをしてから冷蔵庫から自分用のミルクパックをだす。
そろそろみんながここに来るころだなと思いながらコップにミルクを注いでいると
「おぅ、セシル!おはようさん!!」
「おはよう……。」
「あ、ハワードとカトリ?おは・・・よ?」
研究所で唯一のカップルである二人が『女の子を抱えて』食堂に入ってきた。
ちなみに注いでいたミルクはかなりこぼれていた。



「いつのまに産まれた……というか妊娠してたんでござるか?」
「昨日一緒にお風呂入ったときはそんなことなかったわよね?」
エレメスとセシルがこぼれたミルクを拭きながら尋ねた。
「違うっての、これは俺とカトリの子じゃねえ。この子の歳を考えろ」
「……さっき、研究所の入り口で……拾った。」
ハワードは右手で女の子の頭をポンポンと撫でながら言い、
カトリーヌは皿にオムレツなどを乗せて女の子の前に置いて言った。
食べて良いよ、とカトリーヌが言うと女の子はゆっくりとオムレツを口に運んだ。
「んじゃ、捨て子ってこと?」
「そうであろうな……一階の配管からは貧民外に繋がっているでござる。」
正規の入り口ではないが、貧民街にはこの研究所への隠し通路のようなものがある。
それがエレメスの言っていた下水官の束である。
リヒタルゼンの人間か、もしくは外の人間がこの子を貧民外に捨て、
その配管からこの研究所にたどり着いたと考えれば不思議はない。
「まあ、それはいいんだが……どうするんだ?この子……」
「……育てる?」
「いた場所に戻す?」
カトリーヌとセシルがそれぞれ意見を出したがどちらも得策ではないことが、
二人ともわかっているため、二人そろってう〜んと首をかしげている。
「まあ、幸い夫婦はいるし養子扱いってのも悪くないけど……こんな場所じゃね〜?」
セシルの言うとおり子供を育てるにはここは危険すぎる。
日々冒険者が自分たちの平穏を脅かしにやってくるのだ。
ここを守り、自分を守り、仲間達を守るいまでさえかなり精一杯な状況だ。
この上でさらにこの子の面倒をみて、育てるとなるとかなり無謀だ。
一応いっておくとハワードとカトリーヌは『そういう関係』ではあるがまだ夫婦ではない。
「……でも、また捨てるなんて……かわいそう……」
そう言ってカトリーヌは女の子の頭をぎゅっと抱きしめる。
食べるのに夢中でそれまでの話を聞いてなかったのか、
女の子はなんだろう、どうしたのという顔でカトリーヌを見上げた。
普段の立ち振る舞いから想像はしにくいかもしれないが、
カトリーヌは結構(セイレンやマーガレッタとは違った意味で)子供好きだ。
買出しに行ったときに迷子を見つければ、時間が許す限り親が見つかるまで探しているし、
その子が空腹になると、自分のものでも平気でも惜しみなく差し出す。
あまり見ることはできないがカトリーヌはそういう女性だった。



「まあ、とりあえずは話し合いか?」
「そうでござるな……が、その前にその子を誰かの部屋にかくまわないといけないでござる。」
「は?なんでよ?」
「…そろそろ…セイレンとマガレが来る……?」
全員そろって青ざめる。
「と、とりあえずここから出て誰かの部屋に連れて行かなきゃ!!」
「お、おう!一応なにか隠せるようなものは……くそ、カート持ってくりゃよかった!!」
「拙者が抱きかかえてクロークで連れて行くのはどうでござろう!?」
「……たいむあっぷ……」
そういうカトリーヌの視線の先には
既に爆裂してロード内藤になったセイレンと、
目をキラキラ、手をワキワキさせているマーガレッタがいた。
「うぇwww幼女wwktkrwwwみwなwぎっwてwきwたwぜwwwwwww」
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁwwwwwぉおおおもちかえりぃいいい!!!」
「アイスウォール!!」
ふたりは叫び終わるとほぼ同時にル○ンダイブよろしくの勢いで駆け抜けかけたが
カトリーヌが普段滅多に使うことのない氷壁によって阻止された。
これで少しは時間稼ぎになるだろう、この隙にこの子をどこかに保護しなければ
一瞬の間に4人がそう考える。だがそれを実行に移すことは出来なかった。
「うはwww邪魔www2HQwww」
「あらあらあらあらあらあらあらあら」
明らかに最高騎士と最高司祭の力を思いっきり間違った方向へ使っている2人によって
カトリーヌが作り出した氷壁はあっさりと破壊された。
「ちょっと!?マガレって純支援でしょ?!なんでスタナー振り回してるのよ!?」
「というか問題はあの攻撃速度だろ!?あいつARかかってるんじゃないのか!?」
「ある意味正解でござる……今のあの二人の体は自動で狂気PとARの成分が」
「そんな説明はどうでもいいから……早くどうにかしないとこの子が……」
そう言ってカトリーヌが胸の中の少女を強く抱きしめようとした瞬間、
腕の中の少女が前方の暴走ペアに向かって走っていった。
そして
「お父さん!!お母さん!!」」
「「はっ!?」」
少女が叫んだとほぼ同時に二人は元に戻り、少女がマーガレッタの胸の中に飛び込んだ。
二人ともなぜ食堂が少し凍っているのか、なぜ足元に氷の破片が散らばっているのか、
なぜ前の仲間たちは自分を変な目で見ているのか、
そしてこれだけ、この疑問だけはは6人は声を揃えて言った
「「「「「「……お父さん?お母さん?」」」」」」
なぜこの少女はセイレンとマガレのことを『父』と『母』と呼ぶのか。
もしかすると自分たちはやばいものを拾ってきたのかもしれない。
ハワードとカトリーヌは混乱した頭の片隅でそんなことを考えていた。
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