それは日常の1コマ…のはずだった。

「……………どうしよう……」

 友人である魔術師を目の前に、カヴァクはどうしたらいいものかと
立ちすくむしかなかった。




「姉貴姉貴ー!!!」
「うっさいわねぇ!何なのよもう……って…」

 今にも爆裂してしまいそうだったセシルだが、ふと声のしたほうに
振り返って時が止まった。
 カヴァクの手はしっかりとラウレルの手を握っていて、連れたって
やってきたというのは目に見えて明らかだった。
 しかしこの二人が仲が良く(それが友情なのかどうかは曖昧では
あるが)ふざけあってるのもよく見るし、手を繋いだからといって特
に何もおかしなところはないのだけれど。

「………ラウレル、どうしたの?」

 カヴァクの隣にいたラウレルは、普段手を繋ごうものなら真っ赤
になって怒ったり、繋いだところで「違うからな!違うからな!!」
と照れていたりするのだが。

「…………」
「…わかんねぇ…けど……」
「…というか、それラウレルよねぇ…?」
「……だと思う…んだけど……」

 今のラウレルはただ無言で、しかも隙あらばカヴァクに後ろから
抱きつくようにしているのだ。
 ……どう考えても異常だった。
 怪訝そうにセシルがラウレルを見つめると、まるでその視線から
逃れるようにカヴァクの後ろに隠れてしまった。

「……なに?呪いにでもかかったの?」
「…いや…たぶん、俺がプリンをあげたからだと思う」
「プリン?」

 そう、事の発端はカヴァクがラウレルにプリンをあげたことだった。
 部屋で休んでいたラウレルは、実はこっそり大好物なプリンをもら
い、珍しくお礼などを言いながら受け取った。
 …それからだ、食べ終えたラウレルが突然こちらに抱きついたり
近付いたりしてきたのは。
 だから流石におかしいと思い、落ち着け落ち着けと体を離したカ
ヴァクは…視線の先に、今にも泣きそうにしていたラウレルを見つ
け降参するしかなかったのだった。

「…後、もう一つの原因は…」
「ん?」
「…………スレの魔力」
「…95%ぐらいそれでしょ……」

 すりすりと頬を寄せるラウレルを見つめ、弓手二人は盛大な溜
息を吐いた。



「…で…治る方法は分からないわけだな、いつものごとく」
「いつものごとく」

 もうすっかりスレの魔力に慣れた住民といえど溜息はやはりつ
いてしまうらしい。
 事情を理解してもらうため三階に全員が集合した今の状態でも、
ラウレルはカヴァクの傍を離れようとしなかった。

「まぁスレの流れと今までの経験から……カヴァクがラウレルをテ
イムしてペット化したってところか。う…羨ましいぜ…俺もエレメス
をテイムできたら…!」
「ちょwwww拙者は絶対お断りでござるwwwwwあぁ、でも姫がテ
イムできたら…(LD!LA!HL!」

 いつも通り賑やかなメンツに、静かな一声を発したのはカトリー
ヌだった。

「…エレメス……うる、さい…」

 一瞬で場は静まった。
 というのもこういうことを制するのは大抵マガレかセイレンで、カ
トリーヌはただぼぅっと静観しているだけだからだ。
 それがエレメスをたしなめ、しかも不機嫌さを露にするほどだ。
 いつもはそのまま拉致逃亡するハワードとエレメスも、流石に自
分の席にちょこんと座りなおしてくれた。

「そうですわね…カトリ、弟が…こんな目にあったわけですものね…」

 もし自分の弟や妹、兄や姉がこんな目にあっていたら…と場は
またしても静まり返った。

「……プリン…私も、ほしかった……」



 結局皆で議論しあったものの解決法は見付からず、時間が経て
ば治るだろうということで落ち着いた。
 つまりは何も変わらなかったわけで、今もカヴァクにひっつくよう
にラウレルは傍にいる。

「…もー…何やってんだよラウレルー…」

 当然そうなった場合、困るのはカヴァクだった。
 ほぼ四六時中ラウレルに引っ付かれているのだ、気苦労なども
あるだろう。
 まして、一緒にいることなんて今まででもあったけれど、それは休
憩時間とかであり…。

「えぇい!戦闘中だってーの!!」
「カヴァク!余所見をするな!」
「だったらお前これ代われよー!!」

 そう、侵入者が目の前にいるにも関わらずラウレルはカヴァクに
引っ付くだけで何もしようとしないのだ。
 あれからプリンを何度か与えたためか、親密度もあがったらしい
(とはいえまだ喋るほどにはあがっていないけれど)。今では笑顔
で擦り寄ってきて…前のラウレルを知っている身としては正直キm

「カヴァク!!」

 そんなことを考えていたら、いつのまにか目の前に敵が迫ってき
ていた。
 しまった、敵がいたのに油断してしまっていた。

「うわっ!」

 相手も弓使いらしく、足を狙われた。畜生よく分かってやがる!
 直撃はなんとか逃れたものの…いったああああぁぁぁ!!!

「このやろっ……?!」
「うわぁっ!!!」

 悲鳴をあげたのは俺らじゃなくその弓使いだった。
 その弓手はいつのまにか地べたに血まみれで倒れている。
 一体誰が、と思う間もなく物凄い殺気を感じ取り背中がぞくりと震
えた。何を隠そう、それは自分の背中から感じ取ったのだから。

「…ラウ…レル……?」

 振り返った先には鬼神のごとく立ちふさがるラウレル。
 も、もしかして爆裂してねぇ…?つかむしろオーラ?いや、まさか
…MVP化してねぇか…?
 カトリさんから食べ物を奪い取ったかのような雰囲気だ…流石姉
弟、よく似ているらしい。
 って

「ラウレル!何でいきなりぶち切れてるんだよ!!」

 そうだ、ついさっきまでどれだけ侵入者がいようがお構い無しに
引っ付いてきていたのに、突然ぶち切れた上にMVP化してしまっている。
 慌てて止めようとしたが、こちらを見ることもなく残っていた侵入者
にむけてチートに近い威力&速度のSSを連射して沈めてしまった。
お、おそろしい…こいつあんまりからかうの止めよう…。
 思わず呆然としてしまっていると、侵入者を片付けたラウレルは
また俺の後ろにやってきてぎゅうっとしてきた。

「な、なんだってんだ……」
「いや、あんたそりゃ…分かるでしょ…」

 溜息をついて剣についた血を拭い取りながらトリスが声をかけてきた。
 分かるでしょって、何がだ?

「だーかーらー、ラウレルはあんたが傷付いて怪我したのが
腹立ったんでしょ。だからあんだけぶち切れた、違う?」

 そう言ったトリスの言葉に反応してか、ラウレルがぎゅうっと抱き付いてくる。
 これは、肯定ってことなんだろうな…。

「……ありがと」

 ぼそりと呟けば、滅多に見せない笑顔でぎゅーぎゅーしてきた。

(やっべ…いけない世界にいっちまいそう……)

 そんな内心を知ってか知らずか、ラウレルはくいくいっと裾を
引っ張ってこちらをじっと見上げてきた。

「……おなかすいた…」



 それから数日、スレの魔力が消えるまでペットラウレルを猫可愛がりするカヴァクが見れたとかなんとか。
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