「う、うぅ……」
体がやけに軽い。この格好で、みんなの前に出なければいけないというのか。
今セシルは、普段の服よりも胸や腰の色気を強調する、いわゆる"魅せる服"を着せられてしまっている。
余計に強調されてしまっている体のラインを見下ろす。足はスラリと長く、腰もどちらかと言えば優雅なラインを持っている。
しかし、女性ならばあって然るべき二つの丘が、彼女にはほぼ無い。
「はぁ……」
更衣室の中で、深くため息を吐く。
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事の発端は、二十分ほど前に遡る。
「カヴァク殿が面白い物を見つけてきたというので、借りてきたでござるよ」
エレメスが取り出した、手の平サイズの黒い直方体。
その正体を知っていた者はハワードくらいのものだったが、皆口をそろえて「面白そうだ」と言うので、
なんと罰ゲームつきのゲーム大会に発展したのだ。
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何故か用意されていた、胸の無い自分にもピッタリなジプシーの衣装。
袖が妙にヒラヒラしていて鬱陶しい。
何故敗北した? 理由は簡単。
たった一言、「UNO」と言いそびれただけ。
もう一度盛大なため息を吐き出すと、セシルは覚悟を決めた。
「……」
「な、何よ。皆して黙っちゃって」
真っ赤になってモジモジしながら出てきたセシルを迎えたのは、沈黙。
若干一名、鼻血を噴きながら穏やかでないオーラを放っているが、それ以外の面子の反応は芳しくない。
「いや、まあ、なんだ。まさか本当に着ちまうとは」
「ううむ。今までに見たことの無いタイプのジプシーでござる」
「なあ、あれって確か……」
「言うなハワード。命が惜しければ、な」
言ってしまえば、彼女はキレてしまうだろう。
常日頃から全身にその怒りを喰らっているセイレンの言葉には、それ相応の重みがあった。
「そ、そろそろ、元の服に着替えるわよ?」
「ダメでござる。罰ゲームは『今日一日』有効でござるよ」
「うっ……」
残酷な現実。あと半日は残っているこの日を、ずっとこの格好で過ごせというのか。
絶望しかけたセシルに、更なる試練が襲い掛かる。
「セーシールーちゃんっ♪」
「ひゃあっ!?」
スリスリとすべりの良い腰を伝って、二本の手が這い上がってくる。
背中には柔らかな感覚が押し付けられ、くすぐったい感覚は既に自分のそこに到達しかけていた。
「ま、マーガレッタ……っ」
「こんな可愛いセシルちゃん、お持ち帰りしてくれって言ってるような物ですわぁ……」
まずい。本気で鼻血ぶーだ。
セシルは、血の気が引いていくのを感じた。
「ちょ、ちょっと……ッ、か、カトリーヌ、助け……んッ」
暴走するマーガレッタに遊ばれつつも、必死でカトリーヌに助けを求める。
すまし顔でその淫らな行為を見つめていたカトリーヌは、小さく笑った。
「……罰ゲーム」
「ん……あふっ」
いきなりのマウスツーマウス。
セシルいじりになんとカトリーヌまで加わって、その場が騒然としはじめる。
「お、おい、これはっ……」
「う、うむ。悪くないでござる……」
実はこういったことに耐性のないセイレンがうろたえ、エレメスも流石に予想外だったのか、前傾姿勢で事の顛末を見守る体勢に入った。
だが、世の中そうは問屋が卸さない。
「というわけでだ。エレメス。俺達も飛び切り熱いことしようじゃないか」
「ちょっ、やめっ、なんで毎回……アッー!!」
もはやお約束である。
取り残されたセイレンはというと、目のやり場に困りながらもやはりその扇情的な行為から目が離せない。
そこへ、更なる刺客が襲い来る。
「兄上、そろそろ稽古のじか……ッ!!」
正しく圧巻。女性達の淫らな空間を食い入るように見つめる兄の背中は、彼女に大いなる落胆を与えたに違いない。
「あに……うえ……」
「あ、セニア……?」
恐ろしい同性愛の空間の中、兄と妹は非常に気まずい空気を共有した。
兄想いの健気な少女は、現実に打ちのめされ、涙を流す。
「兄上のバカっ!!」
「セニア!! お、俺は……」
感情を爆発させて走り去る妹の背中を見つめ、無力感に襲われる兄セイレン。
その背後で、女達の宴は続いた。
「あ、んっ……やぁ」
「んっ……ふっ」
「カトリーヌも可愛いわぁ。二人ともお持ち帰りしちゃう!」
その夜、疲れを知らない女性陣の宴は終わらなかった。
ヤケになって剣の素振りを繰り返す声と、アッー!!な声が夜通し聞こえていたのはまた別のお話。
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以下、おまけ
ソファーに座って、細い目でモニターを見ながらやや険しい顔をしているのはカヴァク。
その横で、ラウレルはヘッドフォンをつけていつものギ○ギリchopを再生している。
「時にラウレルよ」
「あ?」
大音量で再生していても外界の音が聞こえるのは、ある意味ラウレルの特技と言えるかもしれない。
呼ばれたことに気がつき、ヘッドフォンを外して隣にいるカヴァクに目をやった。
どうせまたいかがわしいことをしているに違いない。
「貧乳の姉が乱れている姿に、何故か物凄く興奮してしまう俺はもうダメなんだろうか」
「……知るか。っておいこら! なんでうちの姉ちゃんが!?」
モニターの中で繰り広げられるのは、思わず両手で顔を覆いたくなるほどの恥ずかしい惨劇。
露出の激しいジプシーの衣装に身を包んだセシルを相手取って、マーガレッタとカトリーヌの二人が同時多発エロを決行中。
「カトリーヌさんは上を、マーガレッタさんは下を担当しているようだ」
「冷静に解説してんなコラっ!! っていうかお前、あの服……!!」
「ああ、将来、ネタのために着ておこうと思ったのを誰か巨乳な相手に着せてみようと思ったんだがな……」
肝心なときに姉の(意図したものではないのだが)妨害が入った、ということらしい。
だが、予想外のいやらしさに、カヴァクは興奮を隠せなかった。
「……貧も、良いかもしれんな」
「姉ちゃん……くっ、俺、どうしたら……」
悟りを開いた者と、迷える者。
二人が毒とハンマーによってボコボコにされてしまうのは、ここから数十秒後の話である。
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