ビクッ。
セシルが突然青ざめ、へたり込んで自身を両手で抱いて震えだす。
「ど、どうしたセシル!?」
食堂で冷蔵庫をあさりながら立ち話していたセイレンが、心配そうに駆け寄る。
「・・・来る」
「来るって・・・まさか!」

3階に現れる極めたものの気配、真紅の法衣を身に纏ったハイプリーストがゆっくりと
足を進める。
「そこまでだ。我が友のため、ここを通すことは許さん」
既に抜刀したセイレンが高らかに宣言する。
「いくら貴女がマーガレッタの恩人であろうと、だ。ライナース殿」
ライナースと呼ばれた高位神官は、ふ、と怪しく微笑むと、
「あなたに私が切れるかしら?セイレンさん」
構わず歩み続ける。
「仕方ない・・・手荒な真似はしたくなかったが・・・いくぞ!」
渾身の気合を込め、両手剣を振りかぶる上位騎士。しかし。
「な・・・そ、それは!?」
ライナースが取り出した一枚の紙。ただそれだけで盛大な音を立てセイレンは剣を
床に落としてしまう。
「通してもらうわね」
その紙をセイレンに手渡し、悠然と通り過ぎるライナース。

さてその紙とは・・・
「こ、これがあのリヒタルゼン中央幼稚園大運動会の招待状つきパンフレット・・・」
とても喜んでいるようだ。
セイレン=ウィンザー陥落。

2番手はカトリーヌ=ケイロン。だが。
「はい、カトリちゃんお土産よ。今日も可愛いわね」
無言で受け取り、ライナースをあっさりと通すカトリーヌ。
「・・・それ何でござるか?」
姿を隠していたエレメスが、カトリーヌの前に現れ、その紙について尋ねる。
「・・・ここら一帯にチェーン展開してる焼肉屋の食べ放題割引招待券」
「・・・なるほど」
ちなみにエレメスは、ライナースを傷つけることはマーガレッタの逆鱗に触れると
わかっているので抵抗すらしない。
「ハワード殿に期待するしかないでござるな」
「・・・無理。ハワードは彼女の味方」
「それはまた何故でござるか?」
「・・・この前、ライナースがハワードを一晩中ホストクラブに・・・連れていってた」
「・・・納得したでござる」

「セシルちゃん?会いたかったわ・・・」
歓喜の表情で詰め寄るライナース。
壁を背にして下がれないのにへたり込みながら、必死で後ろに下がろうとしている
セシルが哀れである。
「そんなに大股広げちゃって・・・歓迎してくれてるのかしら?」
慌ててセシルは足を閉じるが、恐怖でへたり込んで後ろに重心を落としていたためとはいえ、
尻餅で足を広げた状態は確かに女の子としてははしたない。
「い・・・いやぁ・・・みんなの裏切り者ぉ」
泣きそうになって仲間を非難するのも無理はない。
かなり短気なものの、セシルは一般的な恋愛感を持っている。
普通に素敵な男性と恋をして、幸せな家庭をと思っていたりするのだ。
たまたま周囲に恋愛対象がいないだけで、普通に恋に憧れる女の子なのだ。

「そこまでですわ、お姉様」
杖をビシッと構えたマーガレッタが食堂の入り口に立っていた。
「セシルには手を出させませんわ」
「マガレ・・・」
思わぬ助けに感動しているセシルであるが、普段の加害者が誰であるかということを
忘れているようだ。

ふ、と一息つくとライナースは凛とした表情で向き直った。
「ソリン。私が何故ここにきているかお忘れのようね」
ハッと息を呑むマーガレッタに、さらに言葉を投げかける。
「私は貴女を連れ戻しに来ているのよ。貴女は私と帰るのです。何ならこの子も一緒に」
「駄目です!わたくしはもう聖堂へは戻れません・・・わかってくださいまし・・・」

しばらく2人は見詰め合った後、ライナースは諦めたように言葉をつむぎだす。
「わかりました。貴女はここによほどの思い入れがあるのですね。私はプロンテラに帰ると
いたしましょう。でも時々は遊びに来てもいいわよね?」
「え、ええ!勿論ですお姉様!」
「それでは、皆様、ソリンと仲良くしてあげてくださいね?意外と寂しがり屋なんですよ?」
マーガレッタが振り向くと、食堂の外、廊下に4人の仲間が居た。
「お・・・お姉様・・・そんな・・・もう」
寂しがり屋ということをばらされて、真っ赤になり俯くマーガレッタ。
そんなマーガレッタが珍しいのか、3階住人の目は彼女に注目してしまう。
その耳に転移の光柱の音が聞こえる。
「それでは皆様ご機嫌よう。また会う日までどうかご壮健で」
「はい、また。お姉様もお元気で!」

そして光の柱が消えた。
「いっちゃったな。いいのかマガレ?」
「言わないで、セイレン。これでいいのですわ」
「姫がここを選んでくれてよかったでござる!拙者のためにだなんて感激でござる!」
「馬鹿いわないでくださいます?わたくしはセシルを可愛がりたいだけです!」
おどけながらそう言うと、神妙な顔をしたハワードがぽつりと呟く。
「・・・そのセシルってどこいったんだ?」
「・・・え?」
マーガレッタが振り向いた食堂には誰もおらず、呆然とする。
「・・・マガレ。セシルはプロンテラに飛ばされたみたい」
静かな声でカトリが呟く。マーガレッタに注意を向けさせたのはそのためだったらしい。
「あ・・・あの人はぁぁぁぁ!?」
マーガレッタの地が出た絶叫が生体研究所に響き渡ったのであった。

「うぅ・・・ひっく・・・おうちに帰りたいよぅ・・・よごされちゃったよぉ・・・」
プロンテラ大聖堂の一室で、傍らに眠るライナースを横目に、幼児退行しつつ1人むせび泣く
セシルであった。


セシルの受難です。
折角出したおいしめなキャラだと思ったので再登場させてみました。
マガレ目的と見せかけて、実はどう転んでもいいような作戦と(苦笑)
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