何時もと変らぬ食卓だった。
今日の料理当番はエレメス。
私たち6人の中でも一番料理の上手い彼が当番の日は、
食卓に向かうみんなの顔が違う。
カトリーヌなんて、お昼から夕飯の話をしていた。
私だって美味しいものは大好きだし、ご飯の時間は、
殊にエレメスが当番の日は楽しみにしている。
けれど、最近少し、それが憂鬱のタネにもなっていたりするのだった。
「うぉおお、やべぇ、エレメスこれなんだ?最高じゃねぇか!」
「それは車海老のフリットにラタトゥイユを添えたものでござるよ」
「うむ、さすがだな。今日のこれはイグニゼムも好きそうだ…ぜひ食べさせてやりたいが」
「そうでござるか、では余ったら見回りのときに持っていってあげるでござる」
「…おかわり…」
「カトリーヌ殿、もう14杯目でござるよ!セイレン殿、これは余りそうに無いでござるな」
「うふふ、このときだけはエレメスを見直しますわね」
「ちょwww姫wwwこのときだけって酷いでござるwww」
この声…!
毎回毎回、このローテーションが歯痒くてならない。
どうしてエレメスの次の日が私なのよ!
私の料理だってそうマズいものじゃないと思う。
それなのにこの反応は何?
明日の夕飯にも同じ反応があるっていうの?ありえない。
私はイライラしながらも、黙々と料理を口に運ぶ。
はぁ、ホント何なんだろう、この味の差は。
「ごちそうさま。私先に戻るから」
私はしっかりお皿を空にして、
怪訝そうな目を向ける5人をよそに、さっさと部屋に戻ってしまった。
これまでも内心穏やかではなかったのだけど、
今日になってついに、私は逃げ出すことになってしまった。
くだらない、別に料理なんて上手くなくったって…!
そう言い聞かせてみるものの、自分で自分は騙せない。
…あぁ…こんなんじゃかっこ悪いじゃない、もう…!
苛立ち紛れに、扉にクッションを投げつける。
扉にばふっと柔らかい音が…しなかった。
かわりに、
「ぶっ!セシル殿、いきなり酷いでござる!」
なんて声が聞こえてきたりする。
「きゃ!?ちょ、ちょっと、ノックくらいしたらどうなのよ!」
「最初からあいてたでござるよ、そうか、これは新手の罠でござるな?
 なにも拙者で実験しなくともいいではござらんか」
ええい、うるさい。今はあんたの顔なんて見たくないのよ!
「矢じゃないだけありがたいと思いなさい、とっとと出てってよ」
「どうかしたでござるか?食事時から調子が悪そうに見えたでござるが」
「どうもしないわよ!ええ、どうせあんたにはわかんない苦労よ!」
そうよ、私はあんたより美味しいご飯を作りたいの。
他の誰でもない、あんたよりね。
今時古いって言われるかもしれないけど…
…わかってたまるもんですか。
「弱ったでござるな…」
何よ、そんな顔しないで。
私が悪いみたいじゃない!
別にあんたを困らせたくてこうやってるわけじゃ…
「…ごめん」
「セシル殿、拙者でよければ聞くでござるよ」
「…座ったら?何時までそんなトコ突っ立ってるのよ」
くすりと笑うエレメスがなにやら憎らしい。
あーあ、やっぱ話すのやめようかしら、なんて思ってると、
「それで、何かあったでござるか?」
などと先を促されてしまった。
でも、なんて言おう?
「…別に…何でも…た、ただ、あんたのご飯美味しいなって思っただけよ!
 それだけ、うん、別に何でもないわ!あんた頼りないけどご飯だけはほんと、
 頼りになるわよね、明日の私のかわりにあんたやったら?きっとみんな、
 そっちのほうが喜ぶわよ、うん、それがいいわね!そうなさいよ!」
よくこれだけ言葉が出るものだと、我ながら呆れてくる。
こんな時に饒舌になるのって、誤魔化してるだけって相場が決まってるのに。
「そういうことでござったか」
ほら、こいつだってそれくらいわかるわよね。
「そう、そういうこと、じゃ、明日任せたから!」
「何をでござるか?」
ああ、もう、何でこんな所でカンがいいのよこいつは!
「何をじゃないわよ、明日の夕飯にきまってるじゃない!」
「拙者、肉じゃがが食べたいでござる」
わかってるんでしょ…?わかってるんならそう言いなさいよ!
「だったら作ればいいでしょ」
「セシル殿の肉じゃがが食べたいのでござるよ」
…卑怯者。
そういわれたら、私は何て言えばいいのよ。
手元にある二つ目のクッションを抱えるように抱いて、私は黙り込んでしまった。
「セシル殿は器用でござるゆえ、全然気にすることないでござるよ」
そう言われても、だからって私にあんたより美味しい料理は作れないじゃない。
ぎゅうとクッションに力を込める。
「セシル殿、何を考えていつも作ってるでござるか?」
「え?」
何といわれても…分量とかサイズとか?
「どういう意味?切るサイズ揃えたりとか…正確な調味料の分量だったり…」
「なるほど、それで安定した味になるわけでござる」
「そうよ、レシピどおり間違ってないはずなのに…どうして?」
「さあ、拙者は適当でござるゆえ…みんなの食べたい料理を考えるだけでござるよ」
食べたい料理といわれても、肉じゃが?
何が言いたいのかホントわかんない!
「料理は愛情でござるゆえwww姫に美味しく食べてもらえればレシピなんてどうでもいいでござるwww」
はぁ…結局あんたってやつは。
「ああ、そう、どうせ私は応用きかないわよ!」
「さて、拙者は戻るでござる、セシル殿は少し体調が優れないと伝えておくでござるよ」
「ま、待ちなさいよ!」
立って部屋を出ようとするエレメスに2発目のクッションを投げつける。
背中に投げたはずなのに、しっかりキャッチされてしまった。
「明日は肉じゃが楽しみにしてるでござるよ」
そう言い残してエレメスは部屋から出て行った。
ああもう、こんな日はさっさと寝るに限る。
ベッドにもぐりこんで乱暴に布団を被ると、私はそのまま眠っていた。

――――翌日―――――

夕食前に侵入者と戦った私たちは疲労困憊、
各自フザけあうこともなく自室に篭っていた。
それでも夕飯の担当はこなさなければならないだろう。
ああ、だるい、もうちょっと時間選んできてくれればいいのに。
さて、今日の夕飯は肉じゃがだっけ…材料は、うん、あるわね。
よし…レシピは…
肉じゃがのページを開けた本を、ぱたんと閉じた。
今日は結構汗をかいた。
エレメスのやつなんて、追い掛け回されて必死で逃げ回ってたし、
一番汗だくになってたっけ。
結局エレメスの逃げた先…ううん、誘導した先とに私とカトリーヌが待ち構えていて、
侵入者たちを一網打尽にした。
逃げる先に回りこんでいたセイレンとハワード、マーガレッタによって、
無事、迎撃は完了したわけなんだけど。
くすり、と思い出し笑いしてしまう。
それにしても、もうちょっとカッコいい逃げ方できなかったものかしら?
どっちにしても喉が渇いてるし…
じゃがいもは小さめ、少し水分を飛ばすのも抑えようかな。
疲れたしお砂糖も少し多いほうがいいか…。
さて、こんなものね。みんなを呼びに行かなくちゃ…
「お、できたでござるな」
ちょっと、何で居るのよ!?
「うわ、な、なに?部屋に居たんじゃなかったの!?」
「喉が渇いたんで水を飲みにきたでござるよ。おお、拙者のリクエストの肉じゃがでござるな!」
「別にっ、考えるのが面倒だっただけ…って何で食べてんのよ!?」
「セシル殿」
「な、何よ…?」
「最高でござる」
そういってニヤっと笑うエレメス。
何よ、その笑いは。
「いつもどおりなんだからっ…たまたま美味しく出来たかもしれないけどね!」
「…なるほど、たまたまでござるな」
「そ、そうよっ…あんたがのどかわいてようが疲れてようがカンケイないんだから」
「では、拙者みんなを呼んでくるゆえ、食卓の用意をお願いするでござるよ」
…言われなくてもやるわ、だからさっさと呼んで来てよね。
みてなさい、今日のご飯は絶対美味しいんだから!
「ありがと…でもいつか絶対、あんたより美味しいの作ってやるんだから…」
食器によそいながら、ぽつりと呟く。
「いやいや、楽しみにしてるでござるよ」
「…なんで居るの?」
「まだ水を飲んでないでござるよ」
「さ…」
「ちょwwwセシル殿wwwな、なんでござるか!?そのオーラはwww!?」
「さっさと行けぇえええ!!!」
エレメスが負傷したおかげで半時間ほど食事が遅れてしまったのは、
きっと私のせいじゃないと思う。

おしまい。
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