「う・・・あぁ・・・んっ・・・」
圧迫感による寝苦しさと、体から後頭部に走る弱い電流めいた軽い気持ちよさを感じ、
アルマイアは目を覚ました。

「ふぅ・・・夢?」
額に浮かぶ寝汗を手の甲で拭うと、胸辺りを覆う掛け布団が妙に盛り上がってるのに
気づいた。
「・・・?」
めくってみるとそこには・・・白金色をした長髪の人がアルマイアの胸に顔を埋めて
眠っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
声にならない悲鳴を約5秒ほど上げると、少し落ち着いてくる。
布団を全部めくってみると、全裸の女性がアルマイアに絡みついていたのだ。
今更ながら、その女性の豊かな胸の感触が下腹辺りに感じ取れる。

布団をめくられて肌寒く感じたのか、女性は目を覚まし、顔を上げ、アルマイアの方を
向く。
「・・・おはよう。アルマイア」
「・・・おはようございます。カトリーヌさん」
いつものテンションの低い声に、やっと状況を受け入れたアルマイアも挨拶を返す。

始まりは昨日の夜。
コンコン。
就寝時間少し前に、ドアをノックする音がした。
「はぁい、どなた?」
トリスかな、とも思った物の、トリスならばもっと盛大なノックをするはずだ。
がちゃ、とドアを開けると3階の大魔道士カトリーヌ=ケイロンが立っていた。
「いらっしゃい。どうしたんですか?」
普段接点がない2人なので、来訪の理由が全くわからない。
とりあえず、とお茶を入れますからと中に招き、ベッドを椅子代わりに座ってもらう。

「・・・セイレンが今日料理当番だった。前よりずっと美味しくなってた」
ぽつぽつと話したところによると、セイレンの料理の上達振りに驚いたカトリーヌは
理由を尋ねると、召使いの時にアルマイアに習ってるんだ、と答えたらしい。
生体研究所1の自称食通なカトリーヌは居ても立ってもいられず、ついにアルマイア
本人の料理が食べたくなったらしい。
しかし、時間が時間で次の日の朝食からどうか、との提案にカトリーヌは快く応じた、
というより感謝の笑顔(弟であるラウレルですら滅多に見ることのできない)を
アルマイアに向けたのだった。
(うっわぁ・・・すっごく綺麗な笑顔・・・)
アルマイアは真っ赤になりつつも、明日からご一緒ですね、と結論付けて眠ったの
だった。

カトリーヌ=ケイロンの美貌とは、セニアのような可愛らしい人形のような美しさや、
トリスのようなモデルのような美しさや、アルマイアのような太陽のような美しさ
とは違い、やや冷たく映るものの、名匠が渾身の力を込めて生み出した彫刻のような
美しさであった。
そのような人が、今アルマイアのバスルームで体を洗い、個室の狭い浴槽の中で
アルマイアと体を寄せ合い一緒に入っていたりする。
アルマイア毎朝恒例の朝風呂である。
後衛職であるカトリーヌは、筋肉が少なく、体を寄せ合って入っていると柔らかくて
なんだか変な気持ちになってくるアルマイアだった。

バスルームから出て、一緒に洗面台の鏡の前に立つと、2人はまるで姉妹のように見えた。
髪の色も近く、体型も似ていて、しかもお互い警戒感がまるでない。性格はまるで
違うのだけれど。
ただ、雪のように白い肌は羨ましい、と彼女を見て溜息をつくアルマイアであった。

いつものように厨房に立ち、それをつまみ食いしないように、と念を押して調理を
カトリーヌに見学させていた。
カトリーヌ自身も一般的な腕前を持っていたが、参考になることが多いのか熱心に
アルマイアの手元を覗き込んで、アルマイアの言葉に耳を傾けるのだった。

アルマイアがカトリーヌを快く招き入れたのは、アルマイアの優しさとカトリーヌの
人受けのよさだけではない。
この時間のために、というのが一番の目的だったりもする。
「さて、みんなを起こしにいきましょうか?」
とにっこり笑うのであった。

「おはよう、イレンド、今日もよろしくね♪」
「お、おはようアルマイア・・・」
いつものごとく最高の笑顔で起こして、いつものごとく照れるイレンド。
そしてそのイレンドの表情が固まる。
「え・・・?なんでカトリーヌさんがここに?」
イレンドの腰の上という際どい位置にちょこんと座っていたりするのだから、男性の
生理現象を思えば、イレンドがひたすら慌てたのは言うまでもない。
「・・・イレンド、朝から元気」
「お、お婿にいけな〜い!!」
「お嫁にでも行くつもり?」

「・・・セニア・・・可愛い」
意外とというか当然というか、相当な可愛いもの好きらしいカトリーヌは、寝ている
セニアに向かって抱きついてみた。
「・・・んぅ・・・お兄様?」
「セニア・・・なんて夢見てんのよ・・・ってカトリーヌさん!?」
顔を綻ばせてセニアのいろんなところに顔を当てても、気持ちよさそうに転げまわる
カトリーヌ。
「ひゃぁ・・・うぅ・・・ひぃん!・・・ア、アルマァ・・・きゃぁん!?」
カトリーヌの名誉のためにきちんと説明するが、カトリーヌはぬいぐるみや人形を
可愛がってるのと同じ行為をしてるだけであって、マーガレッタ嬢のように女の子
スキーなわけではない。
嫌いでもないのは間違いないが。
着衣が乱れ、いたるところにキスマークをつけられてしまったセニア。
「うぅ・・・お嫁にいけない・・・」
「どっかの誰かと同じようなことを・・・どのみちセイレンさんとは結婚無理だし」
「ふぇぇ・・・酷いよアルマァ・・・」
これだからセニアは可愛いのだ。

トリスは寝起きがいいのと、全裸寝同士気が合ったのか普通にカトリーヌと仲良く
談笑してしまった。
それでも、
「・・・トリスすごく綺麗な体」
ああ、この人でもそう思うのか、しかしセニアのようなことは無いのがちょっと
つまらなかったりとアルマイアは思う。

カヴァクはいつもながら朝遅かったらしく、熟睡していた。
なれないカトリーヌは2度ほど床に散らばった物体に躓きそうになったが、慣れると
なんてことないようだ。
いつものようにカヴァクを揺すって起こすアルマイア。
しかし、今日はいつもと違った。

グイッ

カヴァクに引っ張られてカヴァクの上に重なってしまい、抱きしめられた。
だが、抱きしめられたのはいつものアルマイアではなく、カトリーヌ。
時が非常に重く感じられた。これがラグというやつだろうかと考えたとき。
「ん・・・?アルマイアの感触と違う?」
先に目を覚ましたのはカヴァクであった。
しかし目の前に居るのは美貌の女魔道士。
「え・・・?」
カヴァクの全身から滝のような冷や汗が出る。
カヴァクは自分の腕が何をしているか認識する。
彼の腕はカトリーヌの腰に手を回し、もう片方はカトリーヌの後頭部を抱いていた。
「す、すいません、すいません!」
必死に謝るカヴァクだが、いつもの謝り方と違うのでアルマイアはちょっと引きつっている。
「ねえ、カヴァク?さっきの『アルマイアの感触と違う』って何かしら?」
その意味に気づいたさっきまで無関心だったカトリーヌは、アルマイアにわざと抱きついて
居るのではないかという疑いに怒りを示し、カヴァクに氷と雷の魔法を容赦なく降り注ぐ。
黒焦げになったカヴァクに、朝食の時間だとだけ告げるとさっさと出て行くのだった。

「ふっふっふ、本日のメインイベント、ラウレルの部屋でございますっ」
おどけてアルマイアはラウレルの部屋に侵入する。
「ラウレル、起きて〜いい加減カトリーヌさん呼ぶよ〜」
「・・・ぅう・・・うるせぇ・・・いつもいつも騙しやがってぇ・・・俺は寝る」
いつもの騙しの効力が薄れていたのか、切れ気味に布団の中に潜り込む。
何度か繰り返したものの、返事は布団の中から突き出される拳や蹴りなので、傍らの
女性に目配せするアルマイア。
「・・・いい加減にしなさい、ラウレル」
部屋を響かせる騒音を差し引いたとしても、カトリーヌの声は低く小さかった。
しかし、ラウレルは布団をかぶったまま、まるで陸にあげられた魚のようにビクビクッと
体を飛び跳ねさせる。
「ねねねねねねーちゃん!?」
「・・・そう。だからさっさと起きなさい。アルマを困らせちゃ・・・だめ」
最後の「だめ」にだけやたらドスを効かせた口調にすると、ラウレルは飛び起き、ベッドの
上で正座になり、アルマイアが唖然とするほど礼儀正しく朝の挨拶をした。
「・・・よろしい。朝食の時間だからさっさと来なさい」
「は、はひ・・・」

楽しい朝食を終え、仲良くなったからとカトリーヌに言われ、
「・・・わたしのことはカトリ、でいい」
「はいっ!これからもよろしくお願いします、カトリさん!」

というやり取りをしたということである。


いつものアルマ分補給。
アルマ引き立て役?
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