「せいっ、せいっ、せいっ!」
一心不乱に剣を振る。
今日の訪問者、もとい侵入者は零。要するに実践も零。
相手が勝てる相手か勝てない相手かはともかくとして、本気でかかってくる相手が居るのは重要であるとセニアは思う。
共に戦うことによって皆との結束が深まるという実感も沸くし、自らの欠点も見えてくる。
無論負けることだってある。痛い思いをするのはいつもの事だし、酷い目にあいそうになる事だってある。
「せいっ、やあっ、たあっ!」
重い鎧を着たまま剣を振り回すのは体力的に辛い。
額やら頬やらに髪の毛が張り付き、気持ち悪い。
ゆっくりと滴り落ちた汗が、目に入りずきりとした痛みを訴えかける。
「つ……っ」
一瞬集中が途切れ、体のバランスが崩れて剣に振り回されるような形で地面へと倒れこむ。
慌てて起き上がろうとしたその時、頬に突然冷たい感触があたり、「ひゃぁ」とセニアは可愛らしく声を上げた。
「全く、ホント真面目ちゃんだね、セニアってば。私が後ろから眺めてるのずっと気づかないんだから」
「あ、えっと。ごめん」
ずっと見られていた。その事になんとなく恥ずかしさを覚え微かにセニアは顔を赤くする。
「別に謝らなくても良いわよん。私が勝手に見てただけなんだから。で、はい差し入れ。ちょっとは休憩しないと駄目よ?」
「ありがとうアルマイア。ありがたく頂くよ」
手渡された鉄の容器の様なものを見てセニアは軽く首をかしげる。
円筒型をしているそれは中に液体が入っている様でちゃぽちゃぽと音がするのだけれど、コップの様に一部が開いているという訳ではない様だった。
「なあアルマイア。これは?」
「ああ。なんだか新製品らしいわよ。良く分からないんだけどカヴァクが外から手に入れたとか」
「ふうん……どうやってあけるんだ?」
取り合えず振ってみるが中から液体が漏れ出るという様子は無い。つまりは完全密封状態。
「あ、それはね……」
ちょいちょい、とアルマイアが手招きをするのでセニアはそちらの方へと向かう。
「こうやってあけるのよ、ってきゃぁっ!?」
「ひゃあっ!?」
途端、中の液体が勢い良く飛び散り、二人の顔や服に降りかかる。
よくよく見てみると今アルマイアが開けた缶に書いてある名前は『ドッカンソーダ君δ』
注意書きに『取り扱い注意 超炭酸飲料 初心者絶対お断り 落としたら爆発すると思え』等等。
過激な描写で盛大に吹き上がる泡の様子が描かれていた。
「ちょ、ちょっと何よこれっ」
「ねえアルマイア。これって何なの?」
「私にも分からないよ、こんなの初めてなんだもん……うわ、べたべたするぅ」
嫌そうな顔で顔に付いた液体をアルマイアは拭い取る。
少しの間そうしていたアルマイアだったが、急に何かを思いついたのか途端に目を輝かせた。
「ねえセニア。せっかくだから一緒にお風呂はいろうよ。セニアってばいっつも一人で入りたがるんだから」
「え、それは」
「良いじゃないの。ねえ、駄目?」
くりくりとした大き目の瞳でしたから覗き上げる様にしてアルマイアがセニアの事を見つめる。
多分に漏れずセニアも可愛らしいものは好きだ。皆には内緒で家のベッドの下にはセシルから貰った犬や猫のぬいぐるみが置いてある。
そして同じ女の子であるセニアの目から見てもアルマイアは純粋に可愛いと思えてしまう子で、その子に自分がおねだりをされると何となく許したくなってしまう。
「一緒に入ろうよ。いいでしょ?」
「ちょ、ちょっと。引っ張らないでよ」
ぐいぐいとかなりの力で全身が引きずられてゆくのを感じながら、セニアは必死で何か抵抗の言葉を発せようとしたが結局何も思いつかない。
結局脱衣所までそのまま半ば引きずられるような状態のまま連れて来られてしまい、アルマイアが服を脱ぎ始めた辺りになって慌てて逃げ出そうとするがやはり再びがしりと腕を掴まれる。
「もう、なんで逃げるのよう。私と入るのそんなに嫌?」
「そうじゃなくて……いや、そうでもあるんだが」
「ねえ。それって私が原因ってこと?」
その言葉にセニアはぶんぶんと左右に頭を振った。
「それは違う。それに、私の裸なんて見ても面白いものじゃないだろう。生傷だらけで、筋肉質で」
「そんなものなのかな。私はそんな事全然気にもならないんだけど。それにセニアだって私の裸見た事あるでしょ?」
「まあそれは……」
ほら、とばかりにアルマイアが服をたくし上げて臍を、そしてお腹の辺りを見せる。
「見てよ、私だってちゃんと腹筋あるもん。セニアはそんな事をわざわざ覚えてた?」
「えっと、それは」
「これは私にとってはちょっとコンプレックスかなぁ。マーガレッタさんは見た目全く筋肉なんて無いのにあれだけ力あるんだからズルイよねぇ」
「確かに、ねえ」
下の階にいる筈のハイプリーストのマーガレッタ=ソリンの事を頭に思い浮かべ、うんうんとセニアは頷く。
百人に聞けばまず九十五人以上の人が美人だと即断するほどの容姿と雪の様に白い肌。
そして女性らしいふっくらとした体のラインにも関わらず信じられないほどの力を併せ持つパーフェクトビューティ。
自分達とは体のつくりが違うのではないかと思いたくなってしまうほどの圧倒的なクオリティ。
それを二人ともが思い浮かべたのかほぼ同時にため息をつき、顔を見合わせて苦笑する。
「これは遺伝だからなにもしてなくてもこうなっちゃうんだよね。それに傷はしょうがないじゃない。むしろ誇りに思えば良いのに」
「……誇りに?」
「そうよ。セニアは騎士になりたいんでしょ。だったら体に傷が付いていることぐらい不思議じゃないと私は思うんだけどな?」
「そんなもんなのかな」
「そうよ、だ・か・ら。早く鎧を脱いじゃいなさいっての!」
「ま、待って。自分で、自分で脱げるから!」
「うふふふふ、なんだかマーガレッタさんの気持ちが少し分かった気がするわ」
「私はセシルさんの気持ちが分かった気がするから、だからやめ―――」









かぽーん











〜〜〜〜〜〜〜〜〜  おまけ  〜〜〜〜〜〜〜〜〜













「うおっしゃあああああああっ!」
「おわっ、なんだいきなり叫び声をあげて」
「来た来た来たあっ、俺の作戦大・成・功。今からセニアとアルマが風呂入るみたいだぜ」
「風呂って……ちょっとまてお前。さっきじゃあさっき俺が設置したアレは」
「そうさカメラだ。いつもの時間だったら直前にジェミニ達のチェックが入るからカメラなんて設置出来ないが突発的な事故なら無問題。ありがたく頂戴させて頂くとしますか」
「まてまてまてっ、ばれたら只じゃすまないぞ!」
「ははっ、バレる訳なんて無いだろ。お前が痕跡を残すようなヘマをする訳なんて無いって信じてるからな!」
「そんな信頼なんていらねえよ! ってか今から行ってももう後の祭りじゃねえか。って、ちょ。アルマイアが服脱ぎ始めたぜ?」
「おおっ、おっしゃ記録、記録……って、あれ、装置は」
「………これか?」
「エレメス……さん」
「えっと、俺は利用された、だけで……」
「二人とも動くな。少し黙っていろ………ああ、ちゃんと捕らえておいたでござるよ姫wwwwww」
「ご苦労様。で、二人とも何をしているのかしら?」
「………(ガクガクガクガク)」
「………(ブルブルブルブル)」
「まあ男だから覗きたいって気持ちも分からなくは無いんだがなぁ。ってマーガレッタこっち睨むなよ。覗かれそうになったのは俺の妹だぜ?」
「それ以前に私の物ですわ」
「ちょっと待てや! セイレンも何とか言ってやれよ」
「………はっ、何だ。何か言ったか?」
「ってお前一体何を………。取り合えず1回死んで置くか?」
「我が道を阻むもの、全て、斬る!」
「うはwwwwwww一瞬で二人ともMVP化したでござるwwwwwww」
「さすがはアルマイアちゃんの半ヌードねぇ。で、その手は何かしら。エレメス?」
「今日は頑張ったでござる。だから何かご褒美が欲しいでござるよwwww」
「じゃあねぇ………レックスデヴィーナ」
「…(ちょ)……(何をするで)………(ござるかwwwww)」
「いってらっしゃ〜い」
「………(なぜ拙者を投げるでござるかwwwww)」

ガシャーン

「ちょ、なんか飛び込んできたんだけど!!!!」
「エレメス、さん?」
「……(誤解でござる)……(誤解でござるよwwww)」
「この、変態!!!!!」
「見損ないましたエレメスさん!!!!」
「……(だから)……(誤解で)……(ござるwwww)」
「避けるなあっ!」
「バッシュ! バッシュ! バッシュ! ああ、当たらないっ!」
「……(誤解で)……(ござると)……(何度言ったらwwww)」
「大丈夫、二人とも!」
「マーガレッタさん、ちょうど良いところに!」
「あの不埒な男に神の裁きを!」
「レックスエーテルナ、ホーリーライト!」
「………(さすがにそれは酷すぎでござるよ姫wwwwwww)」


ハワードとセイレンの戦いは三日三晩続き、その間マーガレッタは二人を独占してご満悦だったとか。
ちなみに、マーガレッタに半殺しの目にあった二人の行く末を知るものは居ない。

「………ここ、どこだよ」
「………知るか馬鹿! ネット、ネットはどこだ!!!!」
「少しは反省しろやボケ!!!!」








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