「うほっ、いいセイレン。や ら な い か。(よう、おはようさん)」
「断固断る。(ああ、おはよう。)」

今日は土曜日。土日の二人の朝は早い。毎度お馴染みの挨拶を交わし、軽く柔軟体操をした後ジョギングに移る。
こうやって毎週土日に、早朝ジョギングやろうと。提案し始めたのは、どちらからでいつからだったか。
もう二人とも思い出せないほど、長年続けている習慣だった。

プロンテラの町は、北にプロンテラ城を抱え、ぐるーっと城壁に四角く囲まれていた。
町の中心には大きな噴水がある広場があり、人々の憩いの場であり、道具屋、武器防具屋、鍛冶屋などの店もあって
非常に活気のある場所となっている。その広場の真ん中にある噴水を中心として。
城壁までの距離の半分を半径として、円、もしくは八角形を書くあたりにも城壁があった。

現在ある一番外の城壁に比べると、規模は小さい。おそらく最初のプロンテラの町は、そこまでの大きさだったのだろう。
人口が増え、その城壁の内側だけでは到底追いつかなくなり、外に民家が出来るようになって今のプロンテラに成長したと思われる。

その内側の城壁の外周りは、幅が広めの道路となっていて。
年に一度のプロンテラ大祭の時には、プロンテラ騎士団の大パレードが行われたりするのだった。
普段はこうして、朝早くジョギングなどをする人々の、いいコースとなっている。
すれ違う馴染みの顔ぶれと、おはようと挨拶を交わしつつ、走っていく。

「おお、そうだセイレン。」

そんないつものコースを軽く走りながら、ハワードがセイレンに声をかける。

「ん?なんだ?」

セイレンはちらっと顔をハワードに向け、答える。
その顔には、一滴の汗もにじんではいない。もちろんハワードもだった。

「毎年恒例の、アンドレの掃除にいってたろ?昨日まで。」

毎年この夏時期に、プロンテラ南方向にある蟻の巣ダンジョンのアンドレ達が大量発生するのだ。
農作物などに被害が出るため、プロンテラの剣士団と騎士団が、アンドレ退治の任務を受ける。

「ああ。」
「どうだった?」
「いつも通りだったぞ。二年前みたいにマヤパープルが出てくることも無かった。今回は、な。」

二年前は、マヤパープルが出てきて大変だったなぁーと。ぼんやりとセイレンは思い出す。

「今年は何回目なんだっけか?」
「今年はまだ一回目だな。」
「あと一回か、二回ってとこか。騎士団の出番はあったか?」
「いや、今回は無かったな。剣士団だけで片付いた。」
「苦戦してた感じか?」
「いや。平気だったな。だから・・・そうだなぁ。例年よりは今回は装備品修理依頼は少ないと思うぞ。」
「おっけーわかった。まぁまだアンドレ退治はあるだろうが、最初がそれなら今年は楽な方だな。」
「そうだな。だいたい一番最初が一番キツイからな。」

どうやらハワードは、今回のアンドレ退治での装備品の消耗度合いを知りたかったようだ。

ハワードは、ブラックスミスギルドに所属しており。ギルドの命によってプロンテラ騎士団へ配属されていた。
要するにプロンテラ騎士団専属修理士だ。ハワードの修理の腕前は、既に一流で。
プロンテラ騎士団で働くブラックスミス達の、リーダー的存在になっていた。

「いつもありがとう。感謝してるよハワード。」

急にセイレンは真顔でハワードに礼を言った。

「よせよw 修理が仕事なんだし、オレだけじゃねぇ。」

ハワードは、たまにこういう事をストレートに真顔でさらっと言ってくるセイレンが、なんとなく恥ずかしくも嫌いではなかった。

「そんなことは分かってるさ。ほかの人達にもお礼を言っておいてくれ。」
「あいかわらずだな、セイレン。御堅いヤツだなぁw OK、伝えとくわ。」
「頼んだぞw ・・・・・おっと、もう三周終わったな。」
「おお、もう終わったか。さて、と・・・。やるか?セイレン。」
「もちろん。準備体操をしっかりやったら、やるぞ。」

早朝のジョギングは、水曜と日曜以外。毎日やっている二人だが。
土日はプロの町も、朝が遅くなる。それ故に時間が大目に取れるから、土曜日だけ朝8時から毎週やっている事がある。
それは、プロンテラ北のカプラ営業所前からスタートして、カビトリーナ修道院入り口の門までの競争だった。

修道院までの道は、非常にややこしく。かつ森の中の為、一直線に修道院までは行けない。
それゆえに二人の競争は、崖を飛び降りようが、崖から反対の崖に飛び移ろうが、木を使って渡ろうがALLOKなルールだった。
障害物競走といおうか、サバイバルレースといおうか。サバイバルというのは大げさすぎるかもしれないから、障害物競走が妥当か。

毎週やってれば地形などは、いい加減覚えてしまうのだが。天候の条件や(雨など。)時期による植物の状態など。
いろんな条件が重なって、先週と同じように走れる場所というのは、実はほとんどなかった。
そう大きく毎週変化する訳ではないのだが。少しの変化でも、それに対応するためにスピードを落としたりする。
そういうちょっとの差が、競争となると決して軽くはない。
そして、そういう状況を見極め、自分に利する条件は最大限に生かし、自分に不利な条件をいかに乗り越えるか。
臨機応変な対応と判断力が求められるこの競争が、二人は非常に気に入っていた。

肩を回したりしながら、二人はプロンテラ北カプラ営業所前に移動する。
ここの営業所は、冒険者達の間で隠れファンがいる、カプラダブリューが仕事をしている。
さすがに土曜の、朝の時間ではまだ営業は始まってはいないのだが。ダブリューはすでに営業所に来ていた。

いつだったか。ダブリューがたまたま、いつもの営業開始準備の時間より早く来てみた時、セイレンとハワードが営業所前に来ていた。
何をしてるのか聞いて以来。毎週土曜はちょっと早めに来て、二人の競争開始の合図をするのが楽しみになった。

そんなダブリューに二人は、カビトリーナ修道院に咲く、いろんな花をお礼に持ち帰ることにしている。

「あーセイレンさーん!ハワードさんー!おはようございます〜!」
「お、ダブリューちゃんおはよう!今日もよろしく頼むぜ?」
「もうちょっと準備体操してから始めるから。それからダブリューちゃんよろしく。」
「はーい!」

カプラ営業所の前で二人は、準備運動を始めた。
そんな二人をダブリューは、にこにことファンが見たら悶えそうなかわいい笑顔で見ていた。

「先週は、どっちが勝ったんでしたっけ〜?」
「先週は、セイレンだな。しかし!今日はオレが勝つ!」
「そうはいかないな、ハワード。今日も勝って連勝とさせてもらうぞ。」

もはや毎週恒例の二人の勝利宣言だ。実際の所、通算成績はどうなのか。実は二人とも細かい数字は覚えてはいない。
だいたい6割弱セイレンが勝利していて、ハワードの勝率は4割強というところだ。

やはり常日頃から鎧などを身にまとっている騎士セイレンに分があった。しかし、ハワードは腕力においてはセイレンを凌ぐ。
鍛冶屋として、重い金槌を一日中振り回しているだけの事はあった。この障害物競争においては、腕力も重要な要素となる。

「よし、いくかハワード。」
「よっしゃぁ!やるぜ!ダブリューちゃん、よろしく!」
「はーい!それじゃあ位置に着いてください〜!」

二人が準備体操している間に、ダブリューは地面に一本、線を引いていた。スタートラインだ。

「位置について〜!」

二人がダブリューが引いてくれた線の位置に着き、体勢を取る。二人ともクラウチングスタートだ。

「よーい!」

二人とも、すっと腰を上げる。二人が交わした視線は火花が散るようだ。まさに真剣勝負。

「どん!」

「おっしゃああ!!」
「ハァッ!」

それぞれの気合の声と共に二人は飛び出して行った!













残ったダブリューは、というと。
二人の姿が見えなくなるまで、見送っていた。

(ほんと二人ともカッコイイなぁ〜。土曜日早朝の、あたしだけの特権だよね、これ♪
 セイレンさんは、すらっとしてていいお兄さんって感じだし。
 ハワードさんのワイルドさは、ちょっと反則よね〜♪)

ん〜と伸びをしながら立ち上がり、臨時で引いたスタートラインをほうきでサッサッと消した。
そして営業準備のためにトコトコと営業所に戻っていった。

(今日はどの花を摘んで来てくれるかなぁ〜?花瓶に新しいお水を用意しなくちゃね。)

ダブリューは、土曜の朝は必ずご機嫌なのだった。
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