ゴクリと、息を呑んだ。
 数千人規模という受験者が、いくつもの教室で思い思いに勉強に耽っている。
 これだけ人がいて、物音がしないということにまず驚かされた。

 栗毛頭のアコライト イレンド=エベシは、仲間とともにこの生体学園に入学するべく、学科試験を受けに来たのである。
 受験番号が離れ離れになっているため、どうやら仲間は別の教室にいるらしい。
 冷静に参考書を読み返していると、開始時間になったようだ。

 真っ赤な服を着て、何故かガスマスクをした試験官が問題用紙と解答用紙を配っていく。
(先生方は皆ああいう服なんだろうか)
 確か、以前見学に来たときはもう少しまともな姿の教師がいたはずだ。
 迷っていても仕方がないので、エベシは問題に目を通した。

 一時限目 現代文

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 次の文章を読んで、その後に書かれている各問いに答えてください。


「あっ、んっ……」

 鼻にかかった声が、私の欲望を刺激する。
 目の前のスナイパーは、もう服の上から触られただけで反応してしまうようだ。
 脇の下から手を回し、膨らみ始めた二つの果実にそっと触れる。

「ちょ、や、やめっ……」
「ふふ、素直じゃないんだから」

 触れるだけで彼女の体はビクリと跳ね、身をよじって逃れようとする。
 そんな反応が可愛くて、私は平らな胸を揉む手に力を入れた。

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(か、官能小説だー!!)

 しかも、女同士。
 耳を澄ませば、受験教室の中からも押し殺すような悩ましげな声があちこちから聞こえてくる。
 思春期の少年少女になんてものを読ませるんだと思いながら、エベシは問題作成者を一発で見抜いた。

(姉さん、保健室の先生がどうして入試問題作ってるんですか)

 試験終了後、トイレが満員になったのはまた別のお話。

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 二時限目 数学

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 以下の関数について極値と変曲点を求め、グラフをかくでござる。

 (1) f(x)=....

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(ご、ござる……?)

 問題文の語尾に謎の文字が付与されている。
 そういえば姉から、そんな同僚がいるという話を聞いたことがあった。

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 三時限目 理科

(まずは物理……っと)

 二枚配られた冊子の一枚目が物理、二枚目が化学。
 エベシはとりあえず、一枚目から手をつけることにした。

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 傾きθ[rad]、高さh[m]の清潔な斜面の上に質量m[kg]のにくまんが静止しており
 そのにくまんに、斜面に平行な力を加えて斜面に沿って運び上げて食べたい。
 にくまんと斜面の間の静止摩擦係数はμであり、動摩擦係数はμ'である。
 重力加速度の大きさをg[m/s^2]として以下の問いに答えよ。

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(に、にくまん!?)

 おかしい。この学園の試験はどこかズレている。
 流石、頭のネジが丸ごとアビスレイクに放り込まれてしまったような姉が保健室の先生をしているだけのことはある。

(と、とりあえず次は化学だ)

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 図1のような装置を用いて、冷えたコーンスープ1000[ml]をガスバーナーで温める実験を行い、食した。
 これに関する以下の問いに答えよ。

 問1 最もおいしく食すための適正温度と温める時間を答えよ。
 問2 最もおいしく食すために用いるスプーンの原材料を答えよ。
 問3 温めることによって大気中に発散した余剰なスープの味まで無駄なくいただく方法を20字程度で述べよ。

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(コーンスープを一リットルですかっ!!)

 余りにも化学からズレすぎた内容に、エベシの突っ込みの論点も大きくズレてきた。
 ちなみにこの試験の間、数多くの腹の虫が泣いたのはまた別のお話。

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 四時限目 社会

(今度は王国史と世界史だけだから、あんまり変な問題は出ない……よね?)

 エベシの願いは、最初のうちは叶ったと言えるかもしれない。
 しかし、最後の一問を残して状況は急変した。

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 ノービスについて、以下の問いに答えよ。

 問1 『ノービス愛好会』を創立した人物の名前を答えよ。
 問2 ノービスの外見的特長について、詳しく説明せよ。
 問3 ノービスの魅力について、100字以上200字以内で述べよ。

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(え、え、え??)

 もはや王国史、世界史などとは何も関係のない問題である。

 問題用紙の隅っこに、健気に頑張るノービスの絵が描いてあったのはまた別のお話。

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 五時限目 ルーン語

 昔から使われてきた文字、ルーン語についての試験である。
 文法が現在使われている言語と著しく異なっているため、習得はきわめて難しい。

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 問1 以下の内容をルーン語で書け。

 1:女の魅力は胸だけじゃない。
 2:しかし、ある程度の大きさはほしい。

 問2 胸の大きくなる方法について、100語程度で書け。

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(……。えっと……)

 もはや、何も突っ込めない。

 こうして、戸惑いの中、入学試験は終了した。

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