「すまない!本当に申し訳ないっ」
3階筆頭、誇りある栄光の上位騎士であるセイレン=ウィンザーは、その誇りをかなぐり
捨て、ひたすら平身低頭で謝罪を続けていた。

対するはジト目でみるアルマイアと、呆れ顔のトリス、おろおろしてアルマイアの機嫌を
直そうとするセニアだった。
「いかなる罰も受けるつもりでいるっ!許されるとも思ってはいない!何でも言ってくれ!」
「お、お兄様・・・なにもそこまで・・・」
「セニア!あんたはあれでいいかもしれないけど、アルマは本当に危機一髪だったのよ!?」
「・・・じゃあこうしましょう」
全員の視線がアルマイアに向かい、それにびっくりして赤面したアルマイアは咳払いをして、

「今日から一週間、2階で私たちの全仕事を手伝ってください」

一瞬きょとんとしたアルマイア以外の全員。
我を取り戻したのが一番早かったのはトリスだった。
「ちょ、ちょっとアルマ!こんなの身近にいたら今度何かあったら守りきれないよ!?」
「ト、トリス・・・人の家族捕まえて『こんなの』ってちょっと傷つくなぁ〜・・・」
「まあまあ・・・トリスちょっとこっち来て?」
と怪しげな密談を始めるアルマイアとトリス。
「な、なんなのよ?」
「ねね、トリス。セイレンさんのアレって、要はノービスの禁断症状だよね?」
「うーん、お兄ちゃんに聞いたところによるとそうらしいんだけど・・・何せ普通じゃ
ないからあくまで推測だろうしねぇ・・・」
「でさ、いつも真っ先に狙われるのがセニアと私。セニアは普段からのセイレンさんの
シスコンぶりだからまだわかるんだけど、なんでいつも私が狙われるのかなって」
「そ、そりゃ、アルマが綺麗系じゃなくて可愛い系だからじゃ?」
「う・・・そう来たか・・・いや、比較的ノービスの雰囲気に近いからかなーって
思ったんだけど」
ある意味憧れの対象であるトリスに、『可愛い』と言われて真っ赤になるアルマイア。
「ははーん、つまりわざと身近に置いておくことで暴発を未然に防ごうということ?」
「そうそう!さっすがトリス、察しがいいじゃない♪」
「ありがと。でもやっぱり危険すぎない?いくらうちのお兄ちゃんが2階に来てくれても」
「危なくなったらセニア突き出すから。その間にセシルさんのところに逃げてかくまって
もらうから」
「ん。そういうことなら協力するわ。くれぐれも気をつけてね?一応守るつもりでいるけど」
「ありがとう、トリス!大好きよ!」

アルマイアとトリスのちょっとしたじゃれあいをみて、羨ましそうにしてるセイレン。
あまり反省してるとは言い難い。

そんなわけでセイレン=ウィンザーは1週間2階召使いとなりましたとさ。

お風呂掃除お願いね、とアルマイアに頼まれ、今セイレンは私服にエプロンをつけて、
デッキブラシで大浴場の床を磨いていた。
「む。こんなものかな・・・綺麗になった!」
しばし満足していると、にわかに外が騒がしい。
「むむ!敵襲か!」
デッキブラシ片手に侵入者の気配がする場所にダッシュで向かうセイレン。
前方にはイレンドとラウレルが侵入者3人と交戦している光景が見えた。やや押されている。
セイレンはダッシュの勢いを殺さず、体を捻り、その全ての運動エネルギーを滑らかに
右腕に伝え、そして全力で投擲をする。
「スピアブウゥゥゥメラン!!」

いち早く助勢に気がついたのはイレンドだった。
(助かった・・・え?)
無理もない。高速で飛来する何かが一瞬目の前を横切り、ありえない速度のまま侵入者に
激突し、大ダメージを与えたらしいその飛来物は中に跳ね、それをキャッチしたのは・・・
エプロン姿に身を包んだデッキブラシを構える最強のロードナイト、セイレン=ウィンザー
その人であった。
呆然としつつもラウレルも今の光景の分析を始める。
(え、ええと・・・つまりデッキブラシを無茶な力で投げて侵入者1人を昏倒させた、と?)
(よ、よく折れませんでしたね・・・あのデッキブラシ)
「2人とも無事か!?」
イレンドとラウレルが返事をするより早く、セイレンは神速の動きで踏み込み、
「ボオォォウリィングバァァァァッシュ!!」
デッキブラシで残る2人を薙ぎ払うセイレン。
「な、なんで家事手伝いがこんな攻撃を!?」
慌てる侵入者たちはあまりの光景とダメージに、蜘蛛の子を散らすように退散していく。
「あ、どうもありがとうございました・・・」
「助かったっす・・・」
自分たちの目で見ても今の光景が信じられないイレンドとラウレル。
そして2人の疑問は
(な、なんで折れないんだ?あのブラシ・・・?)
「いやいや、君たちが無事でよかった。では俺は掃除に戻るのでこの辺で」
シュタッと手を上げ軽い敬礼をし、その笑顔からこぼれる白い歯を輝かせる。
またダッシュで戻っていくセイレンの背中をみて、2人は呟いた。
「な、なんだったんだ・・・?」

その後、浴場の脱衣所も掃除終えた後、厨房の磨きに入ったところで、アルマイアが現れた。
「そろそろ休憩いかがですか?お茶入れますよ?」
「む、かたじけない。ありがたくいただこう」
掃除用具を厨房の片隅に寄せ、椅子に座ってアルマイアの後姿を眺めている。
(・・・何で彼女は許してくれているんだ?)
真っ先にそんなことを思っていたが、じっとその後姿を見ていると・・・
(ノービス萌えな俺ではあるが、アルマイアは・・・かなり・・・イイな)
などと内心思っていることは、もちろんアルマイアも承知である。
そうでなければ暴発抑止作戦は成り立たない。
実際のところ、厳密には彼の理想よりアルマイアの体型は大人びているのだが、彼女の
性格や家事の光景はセイレンの心をジンワリと暖めてくれる。
「はい、できましたよ。お茶請けはクッキーでいいですか?」
「あ、ありがとう・・・ん?このクッキー・・・控えめな甘さで丁度いいな」
「ああ、よかった。このくらいかなーと見当つけてみたんですけど、うまくお口にあった
見たいですね」
「ああ、とてもおいしい・・・ってということは手作り?」
「あ。ええ、そうですよ。時々ですけど、私とトリスでお菓子焼いたりしてるんです」
「へぇ・・・トリスもねぇ・・・」

漠然とした好意がアルマイアに向けられるのを自覚したセイレンは、内心複雑であった。
(いかんいかん!俺はノービス萌え一筋なのだ!目移りしてたまるものか!)
職業を人くくりにして一筋も何もあったものじゃないのだが、それ以前にセニアが
すっかりセイレンから忘れられてるのがあまりに哀れでもある。
ついでにたまたま厨房の前を通ったセニアがいたのだが、そのまま通り過ぎてお菓子も
焼けない、お茶も入れられないので彼女は自己嫌悪に落ち込んだとか。

研究所閉鎖時間になり、様子を見に来た3階ご一行はエプロンセイレンを見て大爆笑したとか。
アルマイアに絶対服従のセイレンを見て、3階ご一行は複雑な表情を浮かべたとか。
アルマイアの料理の手伝いをして、ちょっと上達した腕前を披露したらセシルがひたすら
落ち込んだとか。
ちなみにエレメスは朝のうちに笑いすぎて腹筋を痛め、今もトリスに看病されているとか。

今日も研究所はにぎやかであった。
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