「うおおおおおおりゃあああああああ!」
「だあああああああっ!」
金属と金属がぶつかり合う音が狭い通路内で反響し、反射的にセニアは耳を塞いでいていた。
目の前で起こっているこれが単なる手合わせであると分かっているのにも関わらず目の前の二人が本気で殺し合いを行っているのではないか、と傍から見ていると不覚にもそう思ってしまう。
「せいっ、せいっ、せいっ」
高速の三連撃。
あの鋼鉄の塊とも言える巨大な斧をハワードはまるで木切れの様に軽々と振り回す。
只でさえ太い腕が盛り上がり、一目見ただけでも尋常でない筋力がそこに宿っていることをまざまざと見せ付けられる。
受ければガードだけでなく武器防具までをも破壊するその一撃を、けれどもセイレンはあっさりと受け流しそのまま次の一撃へと繋ごうとする。
が、しかしハワードにとってもそんな事は重々承知。
お互いの実力なんて下手をすれば本人が知っている以上に理解しているのかもしれないお互いなのだからその程度の事で驚く筈が無い。
「はははっ、これはどうだ!」
ブン、と背後に背負っていた鞄から何かをセイレンに向かって投擲する。
それを見たセイレンはチッと軽く舌打ちをするとバックステップで後ろへと飛ぶ。
「うおおおおおおおおおおっ!」
途端、ハワードが前に向かって踏み込む。投擲された物の速度をはるかに上回る踏み込みの速度で未だ空中に居るセイレンの体を斧で弾き飛ばす。
「ぐ、はっ……」
反射的に剣で受けるがそれはあくまでも反射。
空中では力を受け流す事も出来なければ体勢を立て直すことも出来ない。
まるでそこらに転がっているゴミを投げ捨てたかのような速度で吹き飛んでいく兄の姿をセニアは声も上げられずに眼で追っていた。
ガシャン、ガシャン、ガシャンと冗談の様に鎧をまとったセイレンの体が地面を何度も跳ねる。
だがしかしそれでもハワードは追撃をやめない。
セニアであれば即死をしてしまうかもしれない程の攻撃を与えながらも移動を開始するハワードの後姿を慌てて追いかける。
「ははははっ、やってくれたじゃないか」
「そうこなくちゃ面白くねえな!」
ハワードが居るであろう位置から金属と金属がぶつかり合う軽い音が響く。
恐らくは兄が短刀を投擲したのであろうとセニアは予想したが、あれだけの攻撃を受けたにも関わらず即反撃を開始する兄に改めて尊敬の念が浮かぶ。
「行くぞ!」
「わざわざ断るなって!」
再び金属と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。今度は重い音。剣と斧がぶつかり合い、身を護る防具を傷つける音が反響する。
「せい、やあっ!」
兜割りから足狙いの攻撃。
稼動範囲の広い剣ならではの攻撃をハワードは斧を立てることによって防ぐ。
円を描くように自身の目の前で武器を回転させ、流れるように再びセイレンを防具ごと叩き壊そうと振り下ろす。
エレメスとは違った意味の一撃必殺。
その攻撃は受け止められず、そして耐えられない。
外そうとも外そうとも全力攻撃。そしてその内の一発でも直撃すればそれで終わり。
その重圧をセイレンは当然自覚して居るはずだが、一歩も後ろには引こうとはしない。
「ははは、どうしたああっ!」
「まだまだだ!」
手数で圧倒しようとするセイレンをハワードが重い一撃で妨害しようとする。
騎士としての完全体に近いセイレンの攻撃は単調だ。だがしかし、だからと言って与し易いという訳では無い。
一撃一撃を寸分違わぬ精度で撃ち続けるその姿は正に物語の中にある騎士。正々堂々と相手の攻撃を受けて立ち、そして一歩も自ら引くことはない。
力で劣っているのであれば技で、速さで敵を打ち倒す。例え負けそうであっても姑息な技は一切使わない。それが信念であり騎士としての根幹。
ドゴン、という大きな音と共にハワードの体が一瞬空へと浮かび上がる。
ボウリング・バッシュ。対集団戦にも対個人戦にも使える汎用性が高い技ではあるが、だからと言って弱いわけでは決して無い。
装備を入れれば百いや百五十キロを超えるであろうハワードの体をあっさりと弾き飛ばす程の威力。
「ちぃっ!」
ハワードは闇雲に斧を振り回すが当然当たらない。
再びハワードの体が吹き飛ぶ。
溜めが必要であるのが欠点といえば欠点ではあるが、相手が体勢を崩している状態であれば何の問題も無い。
三度ハワードの体が吹き飛んだ。そして、その先にあるのは壁。
ドゴンという盛大な音と共にハワードの体が壁にめりこみ、ギシギシと鎧が音を立てる。
手から斧を離さないのはプライドだろうか。壁からずり落ちた体を斧で支えながら無理やりに体を引き起こす。
「まだ、まだああああっ!」
自らに突撃してくるハワードの姿にセイレンは無言で答える。
剣を正眼に構え、相手の姿の一挙一動をしっかりと見据える。
大きく振りかぶったその一撃を受け流しそのまま剣を滑らせ、ハワードの硬直した胴体に横殴りの一撃を叩き込んだ。
「ぐ、はっ……」
ボキボキと骨が折れる嫌な音がセニアの耳に飛び込んでくる。
慌てて駆け寄ろうとするその姿をセイレンは左腕を横に出して止める。
「く、そっ……」
「降参するか?」
「仕方が、無い、か……。セニアちゃんに、これ以上、こんな姿を、見せるわけにも、行かないしな」
そう言うと最後まで起こしていた上半身をどさりと地面に横たえた。
「そうか。じゃあマーガレッタを呼んでくるからそこでじっとしてろ。ああ、セニア。分かってるとは思うが下手に動かすなよ?」
「は、はい。分かっております兄上」
セイレンが去って行ったあと取りあえずハワードの横に移動してはみたものの何を喋っていいのか分からずにセニアが黙っているとポンとその頭の上に手が置かれた。
「少しは、参考に、なったか?」
「は、はい。えっと、いいえ……。レベルが高すぎてもうどう反応していいものやら」
「その内、出来るように、なるさ。あいつの妹、なんだしな……」
ゴホゴホッと咳き込んで血を吐き出すその姿に慌てるがセニアは何もする事が出来ない。
せめて何か出来ないかと辺りを見回すが何も見当たらなかった。
どうせお互い怪我なんてしないだろうと楽観していた自分がセニアは悔しかった。
戦いなのだ。例えそれが模擬戦であったとしても誰かが傷つくかもしれないのだ。
いつも自分の相手をしてくれるのは兄。そして自分は兄の足元にも及ばない。だからお互いに怪我をしないのだ。相手が手加減をしているのだから。
そんなことを考えながらセニアはやっぱり自分は色々な意味でまだまだだなぁと思うのだった。











〜〜〜〜〜〜〜〜 おまけ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「おまたせ〜」
トテトテと可愛らしくマーガレットが走ってくる。髪が少し乱れているところをみるともしかしたら仮眠でもしていたのかもしれない。
「あらあら、ずいぶんと手ひどくやられた物じゃない。ねえ、セイレン。セニアちゃんの前だからって必要以上に力入れたでしょう?」
「い、いや。そんな事は……」
「嘘ばっかり。これはどうみてもや・り・す・ぎでしょ。セニアちゃんもそう思うわよね?」
「え、ええと。私ですか。取りあえずその前にハワードさんにヒールを……」
「あらあらそうだったわね。すっかり忘れてたわ。ヒール」
「ひでぇなマーガレット。そもそも」
「ねえ、セニアちゃん。また抱きしめてもいい?」
「って無視かよ!」
「え、また……ですか?」
「だってセニアちゃん抱きしめるの好きなんだもの。ダメかしら?」
「いや、だから無視するなって……ん?」
激昂しようとするハワードの肩をポン、とたたきセイレンが一言。
「諦めろ」
「諦められるか!」
「ちょ、姫wwwwだから拙者を抱きしめるでござるwwwww」
「ってどこから沸いてきてるんだよお前は!」
「相変わらず神出鬼没だな。そういやセシルとカトリーヌはどうした?」
「今セシル殿が料理中でござるが……作る量=食べる量で全く増えてないでござるwwwww」
「じゃあ頑張れエレメス。お前だけが頼りだ」
「そうだな。今は性欲よりも食欲。取りあえず飯食ってからだな」
「ちょwwwwwそれを聞いたら作る気が全くなくなったでござるwwwwww」
「ねえねえセニアちゃ〜ん、抱きしめさせてよぅ」
「こ、困りますよマーガレッタさん!」
「取りあえず飯だ飯。早くしないと俺がMVPになるぞ?」
「待つでござるwwwwwどっちにしてもそれは地獄という事でござるかwwwwww」
「………まあ、なんていうか」
そこで息を切り、誰にも聞こえないように小さく

「平和だなぁ」
ぽつり、とセイレンが呟いた。

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