それはいつもと同じ日常の一部分。

「なぁ、なんでお前男の格好してるわけ?」

 今日もまた研究所に忍び込んできた冒険者を排除しつつ、暫しの休息をとお互いに壁にもたれながら
座り込んでいる時のことだった。

「ん?別にいいじゃん、個人の趣味ってやつ?」

 そうサバサバと、どうでもいいじゃんとでも言いたげに答えたのはアーチャーのカヴァク。
 しかし電脳系でネット中毒ででかおっぱい大好き星人…という、ある意味どこにでもいそうなオタクな友人、
と思っていたマジシャンのラウレルの内心は少々複雑だった。

「いや、でも……ふっつーは性別そのまんまの服を配給されるだろ…」

 そう、この薄暗い研究所の中での数少ない同性の友人……と思っていたカヴァクが実は女だと判明したのはつい数日前。
 たまたまカヴァクの部屋を訪れたラウレルは「入っていいか?」「いいよー」の応答に何の疑問も抱かず部屋に入り
……全裸で「今日はあっちぃなー」とのたまっているカヴァクに出迎えられ、慌てて逃げ出したのだった。
(……といっても知らなかったのは俺だけだったみたいだけどな……)
 他の2階メンツに聞いてみたが何を今更、と頭に?マークまで浮かべている始末。
 ……友人としては、馬鹿話も出来るし馬も合うしとても良い間柄を築けていた。
 だからこそこの事実にラウレルは頭を悩ませていた。
 というか、頭の中を占めるのは
(……あーもう!扉のほうに向けてM字開脚でベッドの上座ってんじゃねぇよ!!丸見えだったじゃねぇか!!!!)
 という青春期特有の悶々とした思いだった。

「…なんだよ、俺に女アチャの服着ろって?へーミニスカが好みか、意外だな」

 そんな心の葛藤なぞ知るよしもない親友は女アチャの服はここがエロイだとか(自主規制)をさせてやりたいとか
いつものように過激なエロトークをかましている。
 今までならラウレルもその話にノっていたし、お互い暴走して気付けば数時間経っていたなんてこともあるほどだ。
 今まで、なら。

「………も、もういいだろその話は…。それよか女がそんな話すんなよ…」

 そう言うなりラウレルはそっぽを向いて親友を見ないようにする。
 その顔は仄かに赤く、とはいえこの薄暗い場所では分かりにくい程度だ。
 しかし隣の人物を意識しているのは誰が見てもあきらかで、それに気付かないほどこの異性は鈍くはなかった。

「…ふーん。お前結構純だったんだなぁ、セニア達にはそんな反応しねぇってのに」
「だ……だって、それは…」

 別にここに女が他にいないというわけではない、セニアやトリス達が女だというのは見目明らかだ。
 しかし最初から女として認識していた相手と、最初は男だと思っていたが女だと分かった相手、
とではいろいろ違うものがある。
 言葉につまってしまった友人の姿にニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたカヴァクは、
こちらを見ようともしない友人の背後からぎゅっと抱きついてみた。

「Σ???!!!!!!!」
「女だから〜とかいうのは差別発言だと思うけどー?いまどき女の子らしくとかはやんねぇっての」

 流石にこれにはラウレルも慌てた。
 男同士、これくらいのおふざけならいつでもしていたが今は状況が違う。

(ちょ!ちょ!!!!!!!!
あーでも確かにこうしてみると胸……ある、かも………ぜんっぜん気付かなかったけど…。
だって男アチャって胸あてあるし…。
って!それどころじゃなく!!)
「なななな何してんだっ!!!」
「ん〜?気が早いけど純朴坊やにサービスフォーユー」

 クックと笑いを押し殺しきれてないまま笑うカヴァクに、いつもならブチギレてSSをかますラウレルも
今は口をパクパクするだけだった。

「あっはっは、お前面白いなー。そんなキャラだっけ?w」

 楽しそうに、わざと胸を押し付けるように抱きついてくるカヴァクにラウレルの顔の温度は頂点に達しようとしていた。

(こ……こいつ俺で遊んでやがるっ!!ここはビシっと言ってやらねぇと俺の立場が…!)
「おいカヴァク!!!」
「ん?」
「お前に一言物申す!」
「なーに?」

 こういうときは相手の目を見てビシっと言えばいいんだ、ビシっと!!!
 くるり。
 じー。
 ………早速己の行動を後悔したラウレルだった。
 目の前には(衣服越しではあるが)胸。
 少し上には艶やかに光る唇、大きな黒目の中に真っ赤な髪と真っ赤な顔をした自分が映っていて。
 ラウレル、とその小さな唇が音を紡いで。
 青春期特有の「何でもエロく見えるんじゃーフィルター」にかかったラウレルはパクパクと
口を動かすだけで結局何も言えなかった。
 そんな親友に、カヴァクはくすりと笑みを零すとそのまま顔を近付けて………



 ちゅ。


「…………!!!!くぁwせdrftgyふじこlp;@:?!!!」
「幸運のキス……なんつってー」

 あっはっはと自分の言ったギャグにか行動にか大笑いするカヴァクと対照的に
口付けられた箇所を手で覆って更に顔を赤くするラウレル。
 その状態が何秒か、何分か、ラウレルにとっては永遠にも等しいと思えるぐらいの時間が経った。
 ひとしきり笑い終えると、流石にそろそろ見回りに戻らないと女達に半殺しにされるかなと
カヴァクは弓を持ち立ち上がろうとする。
 が。

「…ラウレル?」

 先程まで何の反応もしてなかったマジシャンが、自分の腕を掴んできた。
 怪訝そうな目で見下ろしていたが、ぼそりと何かを呟いているのに気がついた。
 どうした坊や?とからかい気味に顔を近付けてみると、更に強く腕を引き寄せられ、
ラウレルの整った顔立ちが間近に映った。



 しばしの間の後、ラウレルは自分からしてきたにも関わらず顔を真っ赤にさせ、引き止めておいたくせに
一人で立ち上がった彼は指をずびしと突きつけてきた。

「……す……スペルブレイカーだってのこの馬鹿!!転職したら絶対取ってやるんだから…
よ、予行演習だからな!!!!」

 そうとだけ言い放つとそのまま背を向けて走り出してしまった。
 一人残されたカヴァクはその流れについていけず呆然としていたが、すぐに気を取り戻すと
ラウレルに触れられた箇所にそっと指を這わせた。

「……なかなかやるじゃん坊や」

 女だなんてバレたら前のような関係は築けまいと思っていたが、これはこれで。
 くすくすと妖艶な笑みを零しながら、カヴァクは親友が忘れていった杖を持ち上げ彼の跡を追うように歩き始めた。
 酷く楽しそうに、嬉しそうに。



 …その後、「まぁ坊やもああ言ってたことだし女物着るか」とジプシーとなり
余計露出度をあげた親友の姿に頭を悩ませる教授が一人。

「予行演習なんだろー?ほれさっさと実践にうつせよー(ニヤニヤ」
「……う……うわあああああぁぁぁん!!!」



〜おまけ〜

覗き見してたエレメス兄妹。
「…見るでござる、あれが悪女でござるよ」
「ほんとだー……私もああならなきゃね!」
「いや、トリスはそのままでいいでござるよwwwあんなのになられたら拙者の体がもたないでござるwwww」
「えー。私頑張るよ?」
「(何を頑張る気でござるかwwwwwww)気持ちだけで十分でござるよwwwwww」



すいませんっした(土下座
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