張り詰める空気。視線を合わせるだけでも火花が飛び散るような戦い。
 彼ら六名は、そんな状態でにらみ合っていた。
 互いに容赦などしない。そう、己の手札によって勝利を奪い取るのだ。

 場に出されたカードは、ジョーカーを除けば最強である"2"のカード
 もう手持ちが少なくなっているためか、セシルが勝負に出たらしい。

(だがセシル殿、甘いでござる……ッ!!)

 不敵な笑みを浮かべ、エレメスは切り札を切った。
 読み違えたとばかりに表情をゆがめたハワードとセシルが舌打ちする。
 他に残されたカードは五枚。うち四枚で革命を起こし、最後の一枚で勝者となるのだ。
 前回は『厄上がり』などという失態を晒してしまったが、今回は問題ない。最後に残されたのは何の変哲もない"4"のカードだ。
 残された手札が少ない今、革命返しを放ってくる猛者はいまい。
 常日ごろから辛酸を舐めさせられる面子を相手に、これほど華麗な振る舞いが出来ることに、エレメスはささやかな幸せを感じずにはいられなかった。

「それでは、流すでござるよ」

 だが、現実は甘くない。

「あら、お待ちになってくださいな」

 ピシリ、と思い描いた未来のビジョンに亀裂が入る。
 ニコリ、と屈託なく笑うのだ。勝負事には絶対に向かない性格であるはずの聖職者が。
 ゾクリ、と背筋を這うのだ。明るい未来へと侵食し始める、予知にも似た絶望の予感が。

(スペードの、"3"……ッ!!)

 あらゆるカードよりも優れた性能を持ち合わせた、切り札と言えども、必ずしも万能ではない。
 スペードの"3"だけは、その無敵カードを打ち破る力を秘めているのだ。

「では、あがらせていただきますわ」

 エレガントな口調とは裏腹に、悪戯っ子の笑みを浮かべたマーガレッタは、八流しを駆使してそのままあがってしまった。

「ふむ。これで俺も上がりだな」

 スリーカードを連続で満足げに叩きつけて、セイレンもゲームから除外される。

「悪く思うなよ。俺もこいつで上がりだ!!」

 スペードの絵柄が描かれた連番のカードが場に躍り出る。なんと、五枚のシークエンス。
 正に勝負師に相応しい革命を起こし、最後に"5"を場に投げてハワードがあがった。
 残された三人に戦慄が走る。

(しかしハワード殿、感謝するでござる。革命が起こってしまえばコチラのもの……ッ!!)

 このときほど、あのアッー!!な彼に感謝したことはなかった。
 だがしかし、エレメスは無限に広がる敗北の可能性を見逃している。
 場に出されたのは、杖を持ったカボチャ紳士の絵がプリントされたカード。

「ぬ、ジャックリターンでござるか……!!
 致し方ない、この場はパスでござる」

 ジャックのカードが出されると、場の強さが一時的に革命状態となり、ひっくり返るのである。
 つまり、ハワードが決めた革命の効果はこのジャックが場にいる限り打ち消されてしまうのだ。
 エレメスはジャックより強いカードを持たない。勝敗は、彼の隣にいるカトリの手札に委ねられた。

「……はい」

 彼女は、見事にクイーンであがった。
 エレメスの頭に絶望の二文字が踊る。残されたセシルの手札は、一枚。

「はい。ござるの負け」

 セシルが嫌味ったらしくハートのエースを叩きつけ、エレメスの敗北が決定した。

「う、うぅ……あんまりでござる」

 がっくりと肩を落としていると、なんだか辺りの様子がおかしい。
 皆、どす黒いオーラが全身からにじみ出ている。

「エレメス、覚悟してもらおうか」
「うふふ、今日はどうしましょうか」
「クックックッ、さて、どんな罰ゲームにしようかしらね」
「……今夜はエレメス鍋」
「さぁて、敗北者にはたっぷりとお仕置きしてやらなきゃな」

 若干二名、あまりにも穏やかでない台詞が混ざっている。

「ちょっ、皆落ち着くでござるッ!!」

 果たしてエレメスの運命やいかに。
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