「ここからかしらね・・・?」
恐らくは、と彼女の護衛についたパラディンが答える。
ここは生体研究所2階。そして目の前に見えるのは3階へ続くと思われる階段である。
「行きましょうか」
「ええ」
女性のハイプリーストの声に男性のパラディンが応える。

ここが・・・生体研究所3階・・・?
異様な空気が彼女たちを圧迫し続ける。
このままいたらその雰囲気だけで殺されるかのようだ。

「そこまでですわ、侵入者のお二人さん」
歩いていくと前方に真紅の法衣を纏ったハイプリーストが杖を持って立っていた。
「ここから先は通行止めですわよ?このまま去るのであれば危害は加えません。
しかし、進むのであれば軽い火傷ではすみませんわ」
悠然と微笑むその姿は死を運ぶもののはずが、やけに神々しい。

・・・だが。

「ああ・・・まさか・・・そんな・・・」
「しっかりして下さい!貴女が倒れたらここまで来た意味が!」
突然泣き崩れる相手のハイプリーストの女性と、それを立ち上がらせようとする
男性のパラディンに、生体研究所のハイプリースト、マーガレッタ=ソリンは
何もできずに困惑していた。
(何・・・?戦いに来たわけではないの?研究資料を奪いにきたわけでも?)
「ソリン・・・」
「え・・・?」
何故この女性は自分の名前を知っているのだろうか?
何故そんなにイトオシイ目で自分を見ているのだろうか?
「ハイプリースト、マーガレッタ=ソリン・・・何故別れた時から変わらぬままの
姿でいるのですか・・・?」

頭を同僚のホワイトスミスのハンマーで打たれたような感覚が走り抜ける。
「・・・お姉様?ライナース姉様でいらっしゃいますか?」
呆然としながら無意識に出た言葉。それはなんと懐かしい名前だったのだろう。
「ああ・・・ソリン!覚えてくれていたのですね!早く帰りましょう!神官長様も
身を案じていらっしゃいますよ?」
「あ・・・あ・・・」
蘇る記憶。止めども無く溢れる涙。震える身体。そうだ、かつて皆の心配を振り切り
リヒタルゼンに布教に来たのではなかったか!
・・・しかし今は・・・今の彼女は・・・

「ごめんなさい、姉様・・・わたくしはここを離れることができません・・・」
記憶の戻った彼女にとって、それは身を切られるよりも痛い返答であった。
幼いころから、ライナースがどれほど自分を愛し育ててくれたか思い出した。
時には姉、時には親友、時には母となって、お転婆な自分を守ってくれた。
帰りたい、でも今の自分は純粋な人間ではなくなってしまった。
辛い選択だが、それを告白しようとしたとき。

ヒュッ

風を切る音がして、ライナースは間一髪バックラーで飛来物を逸らすことに成功した。
「下がってマガレ!こいつらはあたしが仕留める!」
「待ってセシル!」
静止をかけられたセシルと呼ばれたスナイパーは、混乱したようにマーガレッタの方を
向き直った。
「その人たちを撃たないで・・・」
「ちょっと!どうしちゃったのよマガレ!」
「その人たちはね・・・」

「・・・その子ね?」
『は?』
突然あげられたわけのわからない言葉に、マーガレッタとセシルは素っ頓狂な声を
あげた。
「その子がいるからここを離れられないのね!?」
「え・・・何この人?」
突然の来客の激昂に慌てるセシル。
「あ、あの・・・お姉様?」
冷や汗をたらすマーガレッタ。今は自身の力が上回ってる自覚はあるが、今の彼女は
敵に回せないと本能が警告を鳴らし続けている。
「そのスナイパーの子・・・ソリンの好みだものね?」
「う」
「ちょっとマガレ・・・あんた・・・」
「その子と離れたくないからここに残るって言うんでしょう!?」
「い、いやー・・・当たらずも遠からず、かなぁ?」
あまりの剣幕に、つい幼少時の口調に戻ってしまうマーガレッタ。

「あなた・・・いい加減その趣味何とかしなさいよ・・・あなたがそんなんじゃ、
あなたに惚れてたプロンテラのあの鍛冶師さんが可哀想じゃない」
どこからとも無く出した青いハンカチで涙を拭く振りをするライナース。
「え・・・いや・・・あの人、まだわたくしのことを待ってくれてるんですか?」
ちなみにセシルは完全に臨戦態勢を解いて、マーガレッタに冷たい視線を浴びせている。

「でもあなたの気持ちもわかるわ・・・その子、可愛がり甲斐がありそうだものね?」

彼女は今、何を言ったのだろうとセシルは混乱していた。
どうもマーガレッタと目の前のハイプリーストは旧知の仲らしいが、マーガレッタだけでは
なく、目の前のハイプリーストもマーガレッタと同じ目で自分を見ているような気がする。
まさに蛇ににらまれた蛙。身動きとれずに冷や汗だけがひたすら流れていくのを感じる。

「ソリン、あなたをこの地に留まらせる理由を確かめるために、ちょっとその子をお借り
するわね?」
「あら、お姉様、独り占めはずるいですわ。ご一緒しません?」
「いーやーだー!助けてー!セイレーン!エレメース!ハワードォー!カトリー!」
ずるずると一室に引きずられていくセシルを、実は物陰から4人は見ていたのだが、
マーガレッタに逆らうことの意味を知っていた彼らは、その場で敬礼するのみであった。

「えーと・・・某の立場は・・・?」
ぽつんと置き去りにされたパラディン氏は、生体3の面々に酒を勧められて浴びるように
飲んだとのこと。


今回はアルマ分お休み
折角知己がいるのだから出してみようとしたら、オチはこんな風になってしまいますた。
一応プロット立てた段階では悲劇にしようとしたんですが(苦笑)
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