ウィィィン・・・
研究所の閉鎖時間だ。
すでに研究員はいなく、企業からも干渉がなくなっているが、朝夕自動開閉設定
されているらしい。

「セニア、エレメスさん、おつかれさま」
研究所閉鎖後、最終巡回としてセニアとエレメスが残った侵入者がいないか毎日
見回りをしているのだ。
「うむ。おつかれさまでござるよ。皆怪我はないでござるか?」
「大丈夫だよお兄ちゃん」
トリスをはじめ、皆大丈夫といわんばかりに頷く。
しかし、体力に劣り、人の力を超えた魔法という奇跡を起こすラウレルとイレンドの
疲労は毎日激しい。
「食事作るから、先にお風呂入ってきなよ」
二人の額に手を当て、具合を確かめてからアルマイアは告げた。

「それでは拙者は3階に戻るでござるよ、また明日よろしくでござる」
「あ、ちょっと待ってくださいエレメスさん」
なんでござるか、と振り向き、アルマイアの言葉を待つエレメス。
「もし、よろしければたまには2階でお食事なさってはどうでしょう?腕によりを
かけますよ?」

「拙者は何をしてるのでござろう・・・」
かぽーんと何故か音がする大浴場。
呆然としつつもラウレル・イレンド・カヴァクと一緒に大浴場にいたりする。
「まあまあ、いいじゃないっすか。ハワードさんに追いまわされるよりも」
「そうですよ、アルマのお料理はとても美味しいんですよ?」
「3階は質より量だろうしねぇ・・・」
ぐうの音も出ない、とはこのことだろうか。
いや腹はぐうと鳴っているのだが。

「時に君たち、うちの女性陣をどうみるでござるか?」
体を洗ったあと、湯船につかりつつ世間話がてらに聞いてみる。
特に他意はなかったのだが。
「そうっすね・・・セニアとトリスがブラコンなのでアルマくらいしか・・・」
兄の前で酷い言い草である。エレメスは湯船に顔を打ち付けそうになったがなんとか
持ちこたえる。
「あ、でも3階ならカトリさんっていいんじゃないですかね?え・・・?」
素直な感想もラウレルの妙な殺気でちょっと引いてしまうイレンド。
「ラウレル、突っかかるなよ?実際まともに語れる女性なんてアルマとカトリさん
だけじゃないか」
流石に実の姉を上げる気にはならなかったと見えるカヴァク。
マーガレッタに対する評が無かったのはエレメスに対する優しさだろうか、それとも
イレンドに対する哀れみだろうか。

「ふぃ〜いい湯でござったよ」
脱衣所で4人いっせいに牛乳(フルーツ牛乳やコーヒー牛乳も)を一気飲み。
この時腰に左手は外せない。
「ところでこの牛乳はいったい・・・?」
エレメスが疑問に思うのも無理は無い。ここは街の銭湯ではないのだ。
飲み終わってから聞くな、という説もあるが。
「ああ、アルマっすよ、あいつ、俺らの風呂上りにおいていってくれるみたいっす」
「露店につかう牛乳を利用したものらしいですよ」
「珍しくあいつにしては金取らないんだよな」

「今あがったでござる」
「あ、今できたところですよ〜」
エレメスご一行が風呂から上がってきたときには、すでに美味しそうな匂いで食堂は
満たされていた。
軽くシャワーを浴びたのか、女3人も着替えていたりする。
セニアは薄い水色のワンピースで椅子に腰掛けている。どうやら手伝わせて貰わなかった
らしい。ちょっと顔が引きつっていたりする。
トリスはアルマイアの手伝いをしていたので、フードつきトレーナーとジーンズに
エプロンといった動きやすい服装。
アルマイアは薄紅のワンピースで、調理するときの印として、頭に広げたバンダナを
巻いて、エプロンをつけている。
トリスとアルマイアの若奥様な雰囲気に、セニアは羨ましそうに見ているが、辛酸を
舐めたトリスとアルマイアは厨房にたたせることは無かったのだった。

「・・・いいものでござるなぁ」
思わず口に出してしまった呟きに、反応する男3人。
「エレメスさんにはマーガレッタがいるじゃないっすか・・・難しいけど」
「標的変更ですか?アルマとトリスのどっちがお好みです?」
「セシルは蚊帳の外かよ・・・」
3人の微妙な突っ込みに精神的に3歩ほど後ずさる。
「ってイレンド殿、トリスは妹であって・・・」
墓穴を掘っているのに気づいていないエレメスであった。

「これはうまい!うまいでござるよ!」
風呂で評されたように、3階の料理は質より量である。
暗殺者としての訓練を受けてきたエレメスにとって、量は正直さほど重要ではなかった。
質もそこまでこだわったこともない。しかし。
「ここまで美味しい料理は初めてでござるよ、アルマ殿」
「あ、ありがとうございます、エレメスさん」
流石に尊敬に値する人に絶賛されると顔が紅潮してくる。
エレメスは感動していた。何しろ3階で一番料理ができるのが彼自身だったのだから、
これは一種のカルチャーショックといっていい。
「お兄ちゃん、まだまだあるからどんどん食べてね♪」
ちょっぴりアルマイアに対抗心が出たのか、積極的に出るトリス。
「ああ、うん、うまいでござるよトリス」
可愛い妹におかわりを頼んで、自然と頬が綻んでしまう。

食事も進み、ひと段落ついたあたりで、アルマイアがエレメスに向き直る。
「いつもありがとうございます、エレメスさん」
「ん?なんでござるか?急に改まって」
アルマイアは語った。
3階のほかの人は2階の住人との差は技量の差、とだけ考えているかもしれないが、
それだけではなく、心身ともに成長しきってない2階住人にとって、スタミナに不安が
あるということ。
2階だけの住人では力だけなら侵入者を排除できても、それを継続することができない
であろうこと。
妹を見守るという名目だが、エレメスがこの階でどれだけ皆を守り、そのおかげで
なんとか足りないスタミナでも平和を維持できるということ。
「おかげで私たち、元気でいられます。本当にありがとうございます!」
とぺこりと頭を下げるアルマイア。それに一瞬遅れて他の5人もエレメスに頭を下げる。
「い、いや照れるでござるよ・・・そ、そんな大層なものではござらんて」
「時々、またこちらでお食事してくださいね?精一杯もてなしますから」

満面の笑顔で帰路につくエレメスの前に、ハワードが3階の廊下で壁に寄りかかって
待っていた。
「ハワード殿・・・」
「どうだ、エレメス?うちの妹はいい女だろ?惚れるなよ?」
「そうでござるな・・・いい妹さんをお持ちでござるな、ハワード殿」
にかり、とハワードは白い歯を見せて
「さあ聞かせてくれ、うちの妹の話を」
「ああ・・・今日は・・・」
今日の出来事を廊下を歩きながら話すエレメスであった。


アルマ分投下第三弾。
でもちょっと変わった趣向です。
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