アルマイアは機嫌がよかった。
普段から機嫌の悪いことなんてそうあるものじゃないが、今朝の朝食はわれながら
いい出来だったのだ。
いつも同じように作ってるつもりでも、時々なぜか普段より際立って美味しく
仕上がるときがある、つまり今の状態だ。

「・・・美味しい。アルマ、美味しいよこれ!」
トリスが素直に感嘆してくれる。
他のみんなも同意したのか、うんうんと頷き、口が止まらない。

朝食後、ラウレルに皿洗いを任せ(地味に皿洗い好きらしい)、部屋に向かって
歩いていると
「アルマ!ちょっといい?」
「ん?どうしたのセニア?そんなに慌てて」
アルマイアは乱れたセニアの髪を整えつつ、話を聞いてみる。
「え、えーとその・・・」
「なによ・・・気になるわね」
「りょ、料理教えてくれないかなーなんて・・・」

直後、アルマイアは凍ってしまった。リカバリーは届かない。

「え、どどどどどうしたのまた急に?」
焦る自分を落ち着かせつつ、やさしく問いかけるアルマイア。
「え・・・いや・・・今日の朝食美味しかったから・・・是非お兄様にも、と」
アルマイアはちょっと困ってしまった。
彼女自身は特に変わった工夫をしていない。
たまたま偶然いつもよりとてつもなく美味しく仕上がってしまっただけなのだ。
「へぇ〜・・・お兄様にねぇ・・・?」
それでもつい、からかいたくなるのが人情というものであった。
「も、もぉ〜、冷やかさないでよぉ〜」
「いい加減告白したら〜?体中にリボン巻きつけて『お兄様、私を食べてっ』って」
「え・・・いや告白は・・・その・・・」
からかわれているのに、告白の単語にだけ反応して萎縮してしまうセニアは非常に
可愛らしい。からかい甲斐もあるというものだ。
「リボンかぁ・・・」
とぼそぼそ呟くセニアを見て、今朝のは無理でも料理教えようかなと考えたた
アルマイアだったが、その前に問題点があった。

「前に料理手伝ってもらったときのことなんだけどさ・・・?」
ビクッとセニアの体が震える。
「あは・・・あははは・・・」
そう、刃物を扱う剣士にも関わらず、非常にセニアは不器用なのだ。
基本的に剣術というのは、まず腕力をはじめとする筋力を重視して鍛えればいい。
そして反応速度を鍛えて、それでどうにもならないときに技術が生きてくる。
勿論、基礎的な技術は前提だが、高度な技術のことだ。
セニアはまだ基礎の段階であった。
それでも類まれな基礎能力に助けられて、剣士として不足ない力量といえた。
しかしそれは基礎能力だけで、技術はこれからだったのだ。

「アルマイアのお料理教室〜!!」
「なんで僕まで・・・」
とりあえずやけっぱちにコーナー名をあげるアルマイアに、イレンドが愚痴る。
「当然、セニアが指切ったり火傷したときのヒール役」
「あ、僕も必修なのかと思っちゃったよ」
「じゃわたしは?」
トリスが自身を指して質問してくる。
「・・・毒味・解毒要員」
「あたし帰る!」
脱兎の勢いで逃げ帰ろうとするトリスの襟首を、異様な反応速度でアルマイアが
掴んでしまう。
「う・・・うう・・・お嫁にいけない・・・」
「どの道近親相姦じゃ結婚できないでしょうが」
「酷っ!?」
トリスに向けた漫才になぜかセニアもこれ以上なく落ち込んでいる。
いや理由は誰でもわかっているのだが。

「ふむ、包丁さばきはそこまで酷くはないみたいね」
野菜の皮むきの時にはちょっと親指を切ったみたいだが、まな板の上での包丁
さばきはぎこちないながらも、初心者にしてはそこそこだった。
本当はもっと綺麗に切って欲しかったりもするのだが(材料がもったいないので)、
厨房の外から某LKの視線が鬱陶しいので、あまり強くも言えないのだ。
本当ならば、妹に今まで刃物の何を教えてたんだ、と彼に問いかけたかったが、
命が惜しいのでやめた。

アルマイアの計画だと、比較的作りやすく、かつ見た目が料理してるスープを
作るつもりだった。
これなら焦がすはずもないのだから、と。

アルマイアはずっとセニアの手元を見張っていた。
何するかわからなかったというのもあるが、初心者に指導するものの義務と
理解していたからだ。
(・・・あれ?)
奇妙なものを見た気がした。
アルマイアは目の錯覚かと思い、目をごしごし擦る。
「って!ちょっと!ちょっとセニアストップ!」
え?といった感じで包丁を止めて振り向くセニア。
「あ・・・ああ〜」
包丁捌きと野菜の切られ方だけ見てて、気づくのが遅れたが、まな板が削れていた。
「ご、ごめんなさい・・・」

この時点でもう一度逃げようとしたトリスは賢いといっていい。
しかし運があまりにも悪かった。
「どこへ行くのかな?トリス君?」
引きつった笑顔で脅迫してくるセイレン=ウィンザー。
「え?えええと・・・ト、トイレですっ」
「今戦力がここに偏ってる研究所は危険だ、俺がトイレまで護衛しよう」
「え!ええええええ!?」
「このド変態がぁぁぁぁ!!」
セイレンの姿が消えたようにトリスには思えた。
一瞬送れて左側に盛大な衝突音。
「あー、こいつ連れて行くから、ごめんねトリス」
「は、はぁ・・・」
弓の一撃で変態兄貴を吹っ飛ばしたセシルがすまなそうに謝る。。
しかし結局逃げる機を逃したのは、彼女にとってどうしようもないことであった。

「で、できた!」
「・・・おめでとう、おつかれさま、私帰る」
「え、試食してってよ〜」
「なんで調理途中に味見しろって言ってるのに一度もしないのよ!怖いわ!」
「だって、最初の一口は、教えてもらったお礼にアルマに食べてもらいたくて」
「お礼はいいから、こっちの命を守って!お願いだから!調味料アレンジしすぎ!」
「ひどーい・・・まあ、それはともかく、はい、あーん」
はたしてセイレンがこの場に残っていたとしたら、それでも羨ましいとアルマを
責めるのだろうか?
そんな疑問が浮かんだが、アルマの意識は数秒後に闇に落ちていった。

追記
アルマイアが意識を失う直前に見たものは、次の毒味役として覚悟を決めた
顔面蒼白のトリスと、やはり犠牲の羊にされるであろう、神に十字の祈りを
捧げるイレンドであった。


勢いで書いてしまった。
駄文失礼しました。
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