生体研究所3階の中ほどにある食堂兼会議室。そこにハイウィザードの青年はいた。
杖は取り上げられ、椅子に座らされ、その後ろには、エレメスと言われていた男が、
右側には華美な鎧に身を包んだ、ロードナイトの男が、
左側には青年とは対照的な、よく鍛えられた体を持つホワイトスミスの男が立っている。
そして青年から2メートル程離れた場所に、セシルと呼ばれていた女性が立ち、ハイプリーストの衣装に身を包んだ清楚そうな女性、
それと、カトリーヌが座っていた。
その光景はまるで、犯罪者の尋問。事実、話の内容も尋問に違いはなかった。
「・・・なるほど、ねえ」
青年の前にいる、ハイプリーストの女性、マーガレッタが大きく息を吐いた。
「いままで、腕試しや名声のためにここに来る冒険者は沢山いたけれど・・・・まさか・・・ねえ」
そこでマーガレッタはまた大きく息を吐く。そして青年の目を見る。
「まさか、ここにいる人間に、告白しに来る者がいるなんて、ねえ」
その口調は憐憫や憤怒などではなく、ただただ呆れているようだった。
それに対して青年は、顔を真っ赤にして、視線から逃れるようにうつむくしかできなかった。
あれからまっすぐここに連れて来られ、洗いざらい喋らされたのだ。ここに来た目的も全て。それで赤くならないはずがない。
じっと青年の見つめていたマーガレッタは、視線を横に向けた。カトリーヌの方へ。
「それで?カトリはこの方にお返事はしたのかしら?」
いきなり投げかけられた問いにカトリーヌは体をびくっと震わせた。
「・・・・・・ま、だ・・・・・」
「あらあら」
そのままカトリーヌの様子を見つめていたマーガレッタは口元に手をやり、何かを思案していたようだったが、思いついたように手を叩いた。
「それなら、この方をここに置いて、カトリの返事を待ってもらう、なんてどうかしら?ねえ、セイレン?」
その提案に、ロードナイトの男、セイレンは驚いた様子だった。
「なに!?こんな素性も知れん男をここに置くのか!?」
その言葉にホワイトスミスの男、ハワードも同意した。
「そうだぜマガレ。こいつ、今は大人しくしてるが、いつ、なにをやらかすかわからんぜ?危ないと思うんだが・・・」
「そうよ!こんな奴、さっさと追い返しちゃいましょうよ!」
マーガレッタの横、カトリーヌとは逆側に立っていたセシルも抗議の声をあげた。
それに対し、マーガレッタは首を横に振った。
「私が見た限りではその点は大丈夫だと思うわ。
・・・この方の想いは本物のようだし、追い返してもまたすぐやってくるわ。そうでしょう?」
いきなりされた問いに驚いた様子だったが、青年は首を縦に振った。
「・・・はい。一応、返事がもらえるまでは足を運ぶ予定でしたので・・・」
「ふふふ。やっぱりね。それだったら、毎回警報を鳴らされて警戒するよりは、私たちも気が楽じゃないかしら?」
「うむ・・・・・まあ・・・そうだな」
「姫の言う事なら拙者はいつでも賛成でござるよ」
マーガレッタの論にセイレンも頷く。エレメスは言葉の通りなのか、一も二もなく同意した。
「まあ、いざとなりゃ、俺達で片付ければいいだけだしな。俺は構わんぜ。」
次いでハワードも同意する。その様子に頷いていたマーガレッタはカトリーヌに顔を向けた。
「カトリはどう?これは貴女が中心の問題だから、あなたが嫌なら、なかったことにするけど・・・?」
マーガレッタの問いに、しかしカトリーヌは首を横に振った。
「・・・・・私は、別に・・・・・・・構わ・・・ない」
「そう。・・・それじゃあ残りは・・・」
青年以外の視線が一人に集中する。一気に注目の的になった女性、セシルは思い切りたじろぎ、怒鳴った。
「あーもー!分かったわよ!賛成するわよ!すればいいんでしょ!?いたければいればいいじゃない!
でもあんた、少しでもおかしな真似したらハリネズミにしてやるんだからねっ!」
「うふふ。決まりね。でも、ここにいる以上、同志として扱うから、ここでのルールは守ってもらうわ。
あと、それ以外にも一つ条件を出させてもらうわね。
私たちが侵入者と戦っている時は貴方は部屋から出ないで欲しいの。
今は大丈夫でも、その時になって変な気を起こされても困るしね。もし反逆したら、
同志でも、いえ同志だからこそ。全力で貴方を排除させていただきます。」
その瞬間、柔らかな空気を纏っていたマーガレッタが変わった。いや、マーガレッタ自体変わっていない。
彼女の纏う空気が変わった。
それはまるで、極寒の地を満たす冷気のようだった。
彼女もここで生き、日々侵入者と戦っている猛者だ。それを感じる威圧感だった。
そんな威圧を受け、青年は全身に鳥肌が立つのを抑えられなかった。しかし、それに勝る感情を身の内に感じ、力強く言葉を発した。
「はい。約束します。」
感じた感情は歓喜。この人達と、カトリーヌと同志になれる。そのことに対するこのうえない喜びだった。
青年の言葉を聞き、マーガレッタは纏っていた冷気をしまい、もとの柔らかな雰囲気に戻った。
「良い返事です。それじゃあ早速、部屋に案内しないとね。」
椅子から立ち上がり、青年の前に来たマーガレッタは「あら」と手を打った。
「そういえば自己紹介がまだだったわねぇ。私はマーガレッタ。マガレと呼んでくださって結構ですわ。
この怒りっぽいのがセシルで、あの子は、知ってると思うけどカトリーヌね。
・・・それで、あなたの右側のロードナイトの彼がセイレン。左側の彼はハワードよ。それで、貴方の名前はなんというのかしら?」
「ちょwww姫wwwwww拙者の紹介がまだでござるwwww」
マーガレッタの紹介から外されて後ろの男が叫んだ。それを聞いたマーガレッタは、さも今気が付いたかのように、あら?と手を打った。
「あらあら。ごめんなさいね。あなたの後ろにいるのがエレメスよ。彼、ストーキングが趣味だから気をつけてくださいね」
「その紹介はあんまりでござる・・・・」
しょんぼりとしたエレメスを今度こそ無視し、マーガレッタは青年に聞いた。
「それで、貴方はなんというお名前なのかしら?」
「はい。僕の名前は・・・」
青年は夢想する。これから起こるであろう楽しい日々を。
青年は想像できないであろう、辛く悲しい結末を。
「リース・・・リース=シールです」
これは、神の悪戯で出会った二人の物語。
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