シュバルツバルド共和国 企業都市リヒタルゼン
 レゲンシュルム研究所についての資料

 かつて、この研究所はゼニット・ゼルテルリヒタルが建設したゼニット・ゼルテルリヒタル研究所と呼ばれていた。
 レッケンベル社の記録では、A.W.500に建造され、その約60年後にレッケンベル社という企業として研究を開始したのだと言う。
 しかし、残されている研究記録書の全てが旧ルーニック暦で書かれているために、正確な年号は不明である。
 研究記録書は多く残されているものの、旧時代の言語で書かれているために解読は困難を極めている。

 以下、既に解読された研究書を照らし合わせた研究所の実体

・残虐非道な人体実験

 精密な人体の構造図があり、機械の配線をその中に組み込んだ図もあったことから、
 人体解剖・人体改造は日常的に行われていたものと思われる。
 また、プロンテラ聖教から異端扱いされた者を使用しているとの記述記述もあり、
教会上層部と研究所が何らかのつながりを持っていたと見て間違いないだろう。
(参照:生体工学研究書 No.0132 『異端と妖瞳』より)

・きわめて古い時代

 研究記録書の年号や日付を見ると、旧ルーニック暦一三二○ 〜 一四八五頃までのものが大多数であった。
 現在は旧ルーニック暦が廃止されて久しいが、実際に旧ルーニック暦が使用されていたのはは千年以上前の時代に遡ると言われている。

 ちなみに、現在使われている戦後暦(A.W.)は、旧ルーニック暦から三千を引いたものと言われており、
 そうなるとレ社のA.W.500説とは全くかみ合わないことになる。

・調査団

 ルーンミッドガルズ王国の書庫には、研究所に対して八名の少数精鋭からなる調査団を派遣したとする記録が残されているが、
 研究所側には六名の特殊な実験体を入手したとの記録が残されている。
(参照:生体工学研究書 No.0388 『人造人間 其の二』より)

 二名を除いて研究所に捕らえられたものと推定。王国と研究所がつながっていたかは不明。
 王国側の資料に調査団の名簿が残されていたが、かすれてしまって読めない部分が多い。

 以下、当時の調査団の名簿

 Sey*e* = Wi***or
 *re**s = G**le
 H**ard = A**-E****
 Mar****tha = S**in
 K*th**ne = Key**n
 Ce*** = *am*n
 Ze*** = E*b*t
 Ne*** = *c***

・謎の病原体

 研究所が放棄される直接的な原因の一つとなったのが、謎の病原体の出現である。
 急激な発熱・発汗などモロクの光熱病に近い症状が確認されている。

 エルメスプレートに生息する小さな虫が媒介となって感染したものであるとの記録が残されており、厳重な警戒が必要。
(参照:生体工学研究書 No.2157 『病原体とエルメスモスキート』より)




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(この男はまた厄介な仕事を持ってきやがる)

 ギルドマスターから手渡された書類を見て、黒い法衣に身を包んだ金髪のプリーストは顔をしかめた。
 二枚目の依頼概要を見ると、クライアントはシュバルツバルド共和国議会となっている。
 報奨金は前金八十M、成功報酬で更に八十Mの合計百六十M。

「要するにだ。これだけ払っても俺達以外に請けてがいない仕事なんだな?」
「あはは、正解。仕方ないよ。これも宿命ってヤツさ」

 ダークブルーの髪を首元で一本に結わえ、暗色のコートに身を包んだ、サングラスの男が苦笑しながら答える。
 見た目こそ高位の暗殺者だが、物腰は柔らかく、とても殺しを生業とする若者には見えなかった。

「今回はゲストを二人お呼びする予定で、僕はそっちの連絡に奔走しなくちゃならないんだ。
 悪いけど、セルマには仕事内容を伝えておいてくれないかな。あと、アルヴァからワトソン君を借りてきてほしいな」
「は? ワトソンを引っ張ってくるのか? 珍しいこともあるもんだな」

 ギルドマスターはいつもの柔和な笑顔を崩さずに「まあね」とだけ言って去っていった。



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       『友よ安らかに』

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「よ、相変わらず堕落街道まっしぐらじゃねぇか」

 ここは、国境都市アルデバランに本部を構えるギルド『サザンクロス』の本部である。
 地楽委――地上楽園建設委員会――とやらがデザインした奇妙奇天烈な建物の中に、各々の部屋と居間、そして仕事部屋が用意されている。
 そして、金髪のプリーストがやってきたのは居間。何でもアマツの文化を取り入れたらしく畳と丸ちゃぶ台が置かれている。

 そんな東の香りが漂う居間にいたのは、二人の少女。片方はちゃぶ台にもたれかかって夢の世界へ旅立ち、
 もう片方は畳に寝そべって醤油せんべいをボリボリかじっている。
 危険で高報酬が望めるギルドではあるものの、普段の仕事量が少ないため、メンバーは怠惰な生活を送りがちなのである。
 勿論、『世界各地を回って料理を極めるぞ!』とか『新しい魔術を編み出して真理を得るのです!』などと言い出す
 トンチキな連中もいないわけではないが、そういうのは少数派だった。

「んー? 生臭坊主が何の用ー? もしかして、かわいい女の子二人を拉致監禁した挙句にあーんなことやこーんなことしちゃうつもり?
 あれでしょ。メイド服とかセーラー服とか着せてぐふふげへへなド変態でしょ? あーやだやだ」
「それはお前の願望か。あのマスターに言やぁ案外すぐ叶うかもな。
 でだ。久々に仕事だぞロリ娘」

 説明がめんどくさいので勝手に読め、とでも言わんばかりに、依頼書と資料を少女のほうへ投げやる。
 眠っていないほうの少女は、茶色い剣士のコートに身を包んでいたものの、見た目は十歳と言っても差し支えないほどの幼さだった。
 蒼く長い髪が、小さな身長の半分くらいまで伸びている。
 小さな手で白い紙を取り、けだるそうな目で文字を追う。

「うっはー、久々にデカい仕事だね。で、今回のメンバーは?」
「マスター、俺、お前、ワトソン、あとゲスト二名……らしい」
「へー、あのワトソン君を。珍しいね」

 彼女が立ち上がって伸びをしても、プリーストの身長に満たないほどの高さまでしか腕が上がってこない。
 そんなミニマムな彼女が手に取った剣は、東洋のものと思われる曲刀だった。
 光を受けて妖しく輝く黒い鞘を剣帯に佩き、彼女はプリーストと共に部屋を出た。




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